meet again   作:海砂

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料理

 ゴンが途中でいなくなるというハプニングを除いて、オレたち(キルア含む)は無事二次試験会場へとたどり着いた。ヒソカがレオリオを担いで現れたときは驚いたけど、ゴンやクラピカもあとから到着した。全員そろって一次予選通過できたんだな。良かった。

 ところで、さっきから何か変な音がする。二次試験がどうとか書かれているらしい建物の中からだ。ぐごごごごごーとかぎるるるるーとかがるるるるーとか。ミケみたいなでっかい猛獣でもいるんだろか。アレと闘うのはちょっとヤダな。念能力ナシだと即行で食い殺されそうだ。

 ミケといえば、ゴンはレオリオの匂いを嗅いでここまでたどり着いたそうだ。犬だ。警察犬だ! 麻薬とかも見分けられそうだな。いや、嗅ぎ分けるのか。

 

 正午。建物の扉がゆっくりと開く。中にいたのはミケでもなければ怪獣でもなく、大男と美人。よかった、人間相手ならまだ何とか……。

 

「二次試験は料理よ!!」

 

 父さん、母さん、オレ、おにぎりを三角形に握ることすら出来ません。どうすればいいんでしょうか。

 ウイングとパームはなんか余裕そうだ。そっか、試験の内容全部知ってるんだろうな、きっと。

 

 最初の試験は豚の丸焼き。よかった、それならオレでも作れそう。

 

「シュート、二人で豚取りに行くぞ」

 

「あれ、パームは?」

 

「俺らで三人分ゲットして作る。あいつには、全員が豚に集中している隙に、二つ目の料理の方を任せるからな」

 

 やっぱり試験の内容知ってるんだ。前もって教えてくれてもいいのに。それに、ゴンやキルアたちにも教えてあげればもっと楽にクリア……

 頭はたかれた。原作には出来るだけ介入しないようにと釘を刺された。知らねーよそんなの、オレらただの友達だもん。

 ウイングが、だからお前さんには先の内容教えないんだよとかブツブツ言っている。

 

「あいつらは自力でクリアできるから放っておいても大丈夫だ。それよりも先に、まずは自分の事を考えろ。ヒソカと闘った時に嫌というほど思い知っただろう?」

 

 そうだった。オレが勝手にルールを破って飛び出せばそれは即、死につながる。あの時は、死ぬのはオレだけですんだかもしれないけど、今は仲間全員が危険に晒される可能性もある。出来る限り忠告には従おう。占いにも言われたしな、助言は聞いとけ、って。

 

 森に生息する豚は一種類、ツノみたいな頑丈な鼻を向けて突進してくるグレイトスタンプという種類だという事と、弱点が額だという事。それだけわかっていれば、能力を使わずともオレたちなら余裕で捕まえられる。

……で、オレが三匹捕まえてこいって言われたわけですが何故に? ウイングは火を熾しとくとか言ってたけどなーんかずるくね?

 とりあえず、突進してくる豚をジャンプして避け、そのまま足で額を蹴る。そして忘れずに絞め殺す。前に、くじら島の小屋に置いてた鳥が、寝てる時に復活して大騒ぎになったもんな。きっちり絞めとかないと。

 

 ウイングのところへいくと、既にいい感じにキャンプファイヤーが完成していた。調理はウイングに任せてとっとと次を狩りに行く。

 あっという間に二匹を狩ってまとめて持っていくと、ウイングはもう二つ、太い枝を組んだ見事なキャンプファイヤーを完成させていた。すげぇ。

 

「センコーやってた頃、毎回生徒にやらされてたからな。林間学校やら合同キャンプやらの時」

 

 先生、そこは自慢するとこじゃないと思います。ヘタレです。

 ノドまで出かかった言葉を飲み込んで、豚を焼くのを手伝う。丸焼きだから、丸焼き。……や、つまり、捌いたり味付けたり、細かいコトしなくてもいいってことで、オレにはぴったりだ。多分、もう片方の美人ねーちゃんが出す問題に比べれば、はるかに料理らしくない料理なんだと思う。だからパームを置いてきたんだな、きっと。

 

 ウイングが一頭、オレが二頭、担いで最初の倉庫みたいな建物に戻る。他の受験者達も、ほぼ同時に担いで走っている。……すげー、予備知識ナシでこれだけとは。もしかしたら念能力、ないとヤバい時が来るかもしれない。

 一次試験は無事終了。一頭あきらかに生焼けのヤツがあったけど気にせずに食べてくれた。よ、良かった。

 

 そして二次試験のお題は『ニギリズシ』……寿司?

 

 そんなん女のパームでも普通出来ないんじゃないかと思ったら、すでにきっちり三人前用意してくれていた。

 

「私達ツレなんで、三人分まとめてになりますけどよろしいですか?」

 

「おっ、早いねー。いいよ、ちゃんとニギリスシになってれば。さ、出して」

 

 パームが蓋を開ける。中には、……なんかちっさい白い魚が何匹か乗った寿司が6コ。……何寿司だ、これは。

 

「煮白魚の握り寿司です。調味にはみりんと醤油、隠し味に天然塩を使っています。そのままでお試しになって、後はお好みで醤油を、添えてあるガリで塗ってからお召し上がりください。そのまま醤油につけると、ネタが崩れてしまうと思われますので」

 

「へぇぇ~、きっちり知ってるじゃない。スシとしては平凡とはいえ、ネタも選んでくるとは感心感心。つかあの川からよく見つけてきたわね、白魚。……ガス台はここに用意してないはずだけど?」

 

「先ほどの試験で使用した火を利用しました。軽く煮ただけなので、時間自体はそれほど掛かりません。ボウルがありましたので、失礼ながらそれを鍋代わりに使わせていただきました」

 

 メンチさんが箸をテーブルに置き、細い指で一つ目をつまみ、口の中に放り込む。うわ、一口で食べたよこの人。

 

「うーん、個人的にはもう少し味が濃い方が好きだけど……ガリと醤油っていう解決策も提示してあるし、いいわ、合格!」

 

 すごい、一撃合格! まさかパームにそんな才能があるとは夢にも思わなかった。口より先に手が出る、ただの乱暴なヤツだと思ってた!

 けど実は、受験生達が豚を捕まえにいった反対方向で、こっそりグルメテーブルかけを出して『川魚の握り寿司』と注文したんだそうだ。最初はズルイと思った。けど、自分で食べて味を判断して、なおかつ様々なツッコミにも耐えられるよう、原材料・使用調味料・調理法を念入りにチェックしたんだそうだ。自分の舌だけで。しかもここには同じ調味料でも数種類用意してあったんだとか(精製塩と天然塩、米酢とりんご酢とワインビネガーとか)

……うん、それならあんまりズルくない。オレには真似できないや。軍艦とかに、ガリを刷毛代わりにして醤油を塗るのは寿司の基本なんだってさ。初めて知った。

 父さん、母さん、もしもう一度会えたら、今度は回らないお寿司屋さんにも連れてってください……。

 

 速攻でクリアしたオレたちは、のんびりと試験が終わるのを待っていた。パームは他の受験生が来るまでの間メンチさんと、上がりは知ってても出花を知ってるヤツは少ないとか、ナレもクセはあるけどハマるとか、さっぱり訳のわからない話をしていた。ウイングもついていけてないところを見ると、原作で出てきたことではないんだと思う。

 

 こっそりニギリズシの特徴をゴン達に教えに行こうと思ったら、なんかハゲの人が先に作り方をバラしてしまった。なので結局ウイングと一緒にぼけーっと待つ。試験終了に間に合わなかった受験生が持ってきた、ブハラさん用の丸焼きをちょっぴりご馳走になったりもした。……今までオレが食べたどんな豚よりもうまい!

 

「強暴だから捕まえるの面倒だけど、そのまま焼くには世界一おいしい豚なんだよー。ハムとかだとまた別の種類の豚でいいのがいるんだけどねー」

 

 ただの大食いの人かと思ってたけど、さすが美食ハンター。最低限の事は考えた上での試験内容だったんだな。それにしてもおいしい。オレでも一頭くらいならペロリと食べられそうだ。けどウイングに腹八分目で止められた。このまま順調に行けば、もう一つおいしいものを食べられるらしい。……あれ? オレたち、ここに何しにきたんだっけ。 シュートの愉快なグルメ旅?


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