meet again   作:海砂

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方針

 馬鹿シュートのせいで、ヒソカに存在がばれてしまった。しかもどうもシュートに興味を抱いているようだあの変態。気のせいか試合終了の時、こっちに向かって投げキッスしてたような。いやいや、気のせいだ。絶対見間違いだ。思い出すだけでキモい。つか妊娠する。見なかったことにしておこう。

 

 ひとまず怪我をしたシュートを放っておくこともできないので、私達は天空闘技場を後にして、一般の病院へと移った。

 完全看護だが付き添い宿泊もOKの病院なので、彼の治療費以外の宿代は不要。最初の小屋に比べれば布団も用意してくれるらしいし、遥かに楽だ。

 シュートもこの世界の凶悪さはある程度理解したようなので、強化系寄りの方法ではあるけれど怪我の回復方法(まあ、単に『絶』を常時展開させるだけなんだけど)、それに、順番が逆になったけど『点』を教えた。それからは大人しくその二つに集中しているようだ。

 私は、毎日何試合も組まされる戦闘に必死で日付を確認するのを怠っていた。本当に迂闊だったと思う。シュートだけを責められない。もしきちんと計算していれば、彼らがここへ来る時期も予想できたのに!

 悔しくて、怒りに任せて壁にぶつけようとした手をウイングに止められた。

 

「お前さんだけじゃない、俺の責任でもある」

 

 どうやら同じような事を考えていたようだ。シュートは絶状態のまま眠りについている。起こさぬようそっと、私達は病室を出た。

 

「どうする? 今後」

 

 缶ジュースの蓋を開ける。プシュっと心地よい音がして、炭酸の香りが少しだけ私の心の内の靄を晴らしてくれた。

 

「そうだな……競売までまだ期間がある。金に関しては問題ないだろうが……オークションまで、できるだけ使いたくはないな。かといって、現状のままタイムベルトで9・1に飛ぶのも危険だ。買ってGIの中に入るにせよ、ツェズゲラに審査されるにせよ、まだ俺達は実力が足りないと思う。目の前でヒソカを見て、力不足を再認識した」

 

 私とほぼ同じ感想をウイングは淡々と述べて、お茶をすする。GIを買うのはあくまで通過点、真の目的はそのクリアにある。あと、ヨークシンで旅団とかち合う危険性もあるし。……まぁ、そっちはウイングの能力でうまく回避できるかもしれないけど。

 

「とりあえず、考えが二つほどあるんだけど」

 

「聞かせろ」

 

「まず一つ、ウイングさんと連絡を取って鍛えてもらう。こっちは個人的にはやめておきたい。あまり無茶な方法をとらないウイングさんの下で出来る事はたかが知れてる気がするし、ウイングさんよりも出来ればビスケさんに教わりたいけど……まず無理だと思う。もう一つは、タイムベルトで少し過去に戻って、ハンター試験を受ける」

 

「……試験はできればキルアが取得したときに一緒に取りたかったんだがな。恩返し、ソレだろ」

 

 キルアが一人で合格した年の試験。確かにその可能性は高いし楽な方法でもあるだろう、でも。

 

「今の私達は(ライセンス)よりも強さを手に入れなきゃいけない。そのためには最初の試験がうってつけだと思う。実戦も兼ねてるし、念があれば命にまでは関わらないだろうし……ね」

 

 それに、今から未来に行ってハンター証を手に入れたとしても、それからまた過去に戻ったらその(ライセンス)は使えない。……本来存在しないはずのものだから。

 

 どうせなら前の試験で取得しておけば、ヨークシンまで三人合わせてもほとんどお金を使わずに過ごせるだろう。一石二鳥だ。

 

 その試験自体も、イルミとヒソカにさえ目をつけられなければ、まあ間違いなく合格できるだろうと思う。最悪、一人でも取れれば充分だし。

 

「確かに一理ある。よし、それじゃあシュートが退院次第、焼肉定食を食いに行くか」

 

「ステーキ定食。……一応、シュートの意見も聞かなくていいの?」

 

 全て飲み干して、残った缶をゴミ箱に投げる。カロンといい音がして見事にあるべき場所に収まった。……別に能力とか使ってないよ? これでもバスケやってた時期もあるんだから。ミニバスケだけど。スラムダンクの影響で。私の身長じゃダンクも片手レイアップもできないからすぐにやめたけど。今なら出来るかもしれないなぁ。安西先生、バスケがしたいです……。

 

 この世界にもあるのかな、バスケ。あった気がするな、GIのレイザーんとこで。  

 

「大丈夫だ。アイツは今回のヒソカとの一戦でかなり自覚を持っている。反対なんかしないさ」

 

 ウイングも私の真似をして空き缶を投げる。的を外した缶がコロコロと転がった。拾いに行って、改めて捨てる。

 

……相変わらず、うだつの上がらないやつだ。カッコ悪www

 

「じゃ、シュートが元気になるまでは私らものんびりさせてもらいますか」

 

「同感」

 

 連れ立って病室へと戻る。付き添いが二人という事で、お金が余計にかかったけど個室を用意してもらった。シュートのベッドとは別に、私達用の簡易ベッドが二つ。スプリングは天空闘技場の個室の方が格段に良かったけど、別に問題はない。

 

 私達は、つかの間の休息を存分に享受しよう。病院特有の青いほどの白に囲まれた、ほんのわずかな平和。薬臭いのだけが難点だけど。

 

 ウイングが親指に鎖を具現化する。『癒す親指の鎖』(ホーリーチェーン)だろう。それをシュートの胸に当てる。……ちっさいな、十字架。でもないよりはマシかな。

 

 ベッドに転がり見知らぬ天井を見上げながら、ふと、天空闘技場での事を思い出した。

 

 ああ、そういえば私達も、ゴン達みたいに変な二つ名をつけられたなあ。

 

『暴走機関車シュート』に『サプライズパームマジック』に『(ある意味)鉄壁のウイング』。

 

 思い出してくくっと笑う。ヒソカ戦以外では念を全く使っていなかったシュートは、とにかく相手を体当たりで吹っ飛ばしていってたし、私はゴルゴンの首を使ったウイングとの一戦以来、サプライズガールと呼ばれるようになった。……手品にはパームマジックという種類のものもあるのだと、ロビーでの待機時に知らない人が教えてくれた。未だにどんなものがそれに当てはまるのかは知らないけど。

 

 鉄壁はマジ笑える。というのも、ウイングはほとんどの対戦で、相手にビビって頭抱えてた。それに敵が攻撃を仕掛けてきて、そして跳ね返されて自滅していく……そんな戦い方ばかりだったからだ。まあ、勝てればいいんだけど……それにしても情けなさ過ぎる。

 

 結構面白かったな、天空闘技場。また、機会があれば行ってみたい。今度は、200階よりも上に。

 

 そんな事を思いながら、私は心地よい感覚のまま睡魔に身をゆだねた。


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