meet again   作:海砂

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慢心

 ウイング・パームの指令の元、190階前後を200階まで上がらない程度にうろうろしていた。

 三人の合計貯金額はすでに(あれから毎日コツコツとフエールミラーで増やした分も含めて)300億を突破している。無傷なときは(ほとんどがそうだが)一日に何試合か組まされる事も多く、割と早く目標を達成したオレらは、それでもギリギリまで稼いでおこうと、この方法をずっと続けていた。

 

 ここに来てからどのくらい経った頃だろうか、オレはロビーで名前が呼ばれるのを待つ。すっかりこの生活にも慣れてしまった。

 

 そして、オレの名前が呼ばれた。

 闘技場に向かおうとすると、何処からともなく現れたパームに襟首を引っつかまれた。危うく死ぬところだった。何故かデジャブ。

 

「最初に言ったでしょ! 速攻でウイング探してバックレるわよ! 今頃向こうも私達探してるよ!」

 

 パームは対戦を放棄して逃げろと言う。ウイングも確か、それにほぼ同意していた。

 嫌だ! もっと戦ってみたい! 力を試したい! 相手が強いのならば余計に、念能力者ならさらに倍率アップだ!!

 

 最終手段、通帳(オレが最後に残高確認をしにいってそのまま持っていた)をチラつかせて「駄目ならこれ全部野球グッズに充ててやる! つーかドーム球場ぶっ建ててやる!」と脅した。

 

 パームは青いを通り越した白い顔で「絶対念能力出すな!」だの「とっととやられろ」だの「速攻で土下座して降参しろ」だの言ってくる。そういえば最初に聞いた覚えがあるな、対戦者の名前。よく覚えてないけどオラワクワクしてきたぞ!

 ところで仮にも仲間に向かって「いろんな意味でヤられて死ね!」はないと思うんだ、パーム……。いろんなってどういう意味だろ?

 

 案内された場所へ到着すると、すでに彼はそこに居た。髪を逆立てて顔にペイントを施した、変な格好の道化師。うん、ピエロって言葉がピッタリな兄さん。

 

「……やれやれ、面倒だなぁ♠ ボクはさっさと200階より上に行きたいのに弱い奴らばかりで、本当嫌になるよ♣」

 

 コイツ、わざとオレに聞こえるように言ったのか。その言葉にカチンときた。オレは弱っちくなんてない! パームの助言は、カッとなったオレの頭から綺麗に消え去っていた。

 

「おや、念をきちんと使えるようになったのかい♦ 少しは楽しめそうだ……♥」

 

 観客席から二人が何か叫んでいるけどキニシナイ、というかアーアーキコエナーイ。今日はいつにもまして観客の入りが多いせいで、本当に声が全然届かない。どうやら目の前のこの男は、以前にもここで上の方のフロアまで上った事があり結構な有名人らしい。オッズは20対1.5で相手の圧倒的有利。これにも少しムカついた。

 纏と凝で全身を覆い目を強化する。絶対に、負けてなんかやらないからな!

 

「それでは3分3ラウンド、ポイント&KO制、ヒソカ選手対シュート選手……始め!」

 

オレの能力は先手必勝、速攻!

 

後方に飛びながらオーラの塊を手のひらに出し、思い切り投げた。

 

『暴投王』(アラカキ)!!」

 

 見事に、そしてオレにとっては運のよい事に、それはヒソカの後頭部にヒットした。一般人なら死んでるだろうし、いくら念能力者でも結構なダメージを食らっているはずだ。……はずだった。

 

「?! く、クリーンヒット!」

 

「……痛いなァ♥」

 

 無傷? 馬鹿な! オレは続けざまに2球、『暴投王』(アラカキ)を投げた。全力で、だ。それぞれ彼の右肘と右膝に激突し、倒れる。さすがにこれは効くはずだ。人間は関節を鍛えられない。オレにとってのラッキーピッチが三連続で続く。

 

「クリティカルヒット&ダウン!」

 

 気付かない間に、オレは軽く右手の拳を握っていた。今度こそ勝ったと思ったのだ。だが、その拳は天高く突き出されることなく終わる。

 

「それが、キミの能力? 他には無いのかい?」

 

 悠然と、ヒソカは立ち上がった。その表情には余裕すら見える。……二人の言葉を思い出した。彼らは異口同音にこう言った。

 

「奴はバケモノだ」と。

 

『暴投王』(アラカキ)を使い果たしたオレは、試合開始前に数箇所に投げておいたオーラの一つを目指し、『盗塁王』(ムネリン)を発動する。目的地は彼の右側、オレから見て左側。おそらくは多くの人間と同じであろう彼の右少し後方……死角。

 

 発動したその能力は、わずかに動かされた彼の手によって遮られる。ルートを正確に読んだ上での、『盗塁王』(ムネリン)の軌道上に置かれた手。オレの、胸に、激突。

 

 オレは弾き飛ばされて吹っ飛んだ。制約のせいもありダメージは膨れ上がる。だめだ、起き上がれない……。

 

「クリティカルヒット&ダウン!」

 

「落ちているオーラはなんに使うのかと思ってたけど、こういうことか♦ ダメだよ、ちゃんと隠しておかなくちゃ♥」

 

 近付いてくる。オレの慢心が招いた結果だ。隠すらも怠っていた。オレが強くなったんじゃない、今までの奴らが弱すぎただけなんだ……ああ、たぶん、殺されるかな。冷静に、そんな事を考えていた。

 

「まだあるんだろう? キミの、能力♦ それに、あとの二人の能力も知りたいなぁ♥」

 

「残念ながら、ルール上、ここでは使えない……今はどうひっくりゲホッ、返っても見せられないよ、ゴメン」

 

 二人は変態だとか言っていたけど、オレは別にコイツにそういった嫌悪感は感じない。ただ、圧倒的な、力。

 オレがまだ手に入れることが出来ない、或いは一生手に入れられないかもしれない、力。

 単純に、本当に、凄いと思った。

 

「……♥ それは是非見てみたいね♦」

 

 ヒソカに数秒遅れ、審判がオレのところにやってくる。まだ戦うか、闘えるかと問われた……答えは、NOだ。

 現時点では絶対にコイツに敵わない。世界の広さと、オレの視野の狭さを嫌というほど思い知らされた。

 

「勝者、ヒソカ選手!」

 

 高らかに宣言が下される。オレを、殺すつもりじゃなかったのかな……アイツ。

 

「また会おう♦」

 

 目の前がブラックアウトしてゆく中、そう言われたような気がした。

 

 

 意識が戻った時、オレは病院にいた。そして、意識が戻った途端にウイングとパームにぶん殴られて、もっかい気絶した。ひでぇ。でも何も言い返せない。だって、全面的に悪いのはオレだから。

 確かにアイツはバケモノだった。けど、オレは自分の実力を知ることが出来たから、後悔はしていない。

 怪我は、肋骨を数本折っただけですんだ。ヒソカがあの時、念能力は纏のみで、攻撃するつもりで腕を出したわけじゃなかったからだろう。つまり、これはほぼオレの制約だけの結果。その制約のレベルを窺い知ることもできた。今まで試した事は無かったからな。

 

 ウイングが一番最近オレを占った時に『優位から劣位へ、けれどそれが貴方の糧となる』という一文があった。これはきっと、あのヒソカとの試合の事を指していたんだろう。

 ウイングは、どうせなら奇術師とかピエロとか変態とか言ってくれりゃはっきりわかってもっと早くバックレたのにと悔しそうだ。パームはもう、何も言わない。呆れているんだろう、そうだろうな……オレは馬鹿だから。

 

  ぞくり。

 

  悪寒が走る。

 

  マ タ 見 限 ラ レ ル ?

 

 無意識に震えていたオレの頭をパームが軽く小突いた。

 

「これでわかったでしょ? 少しは私らの言う事ちゃんと聞いてもらわないとね」

 

 ああ。この二人は、きっと何があってもオレを見捨てたりはしない。

 

「……ありがとう」

 

 お礼の言葉は聞こえないように。オレは滲んだ涙をこっそりとぬぐった。


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