meet again   作:海砂

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珍客

 さっきまでしかめっ面をしていたウイングに、人気のない場所へ呼び出された。予感は、している。絶対怒られる。

 

「馬鹿かお前は! あんな下の方の階で、観衆の面前でモロバレな念能力を使いやがって! 変なのに目をつけられたらどうするんだヒソカとかヒソカとか旅団とか!」

 

「だって本気で戦ってみたかったし……ウイングだって私に気合入った手刀食らわせたじゃん。ついカッとなってやった。今は反省している」

 

「反省のかけらも見当たらん!」

 

 だって反省してないもん。確かに最初のクリーンヒットの時に透明マントだけは具現化しておいたけど、使う余裕なんてなかった。私だって出来るだけ発はナシでやりたかったんだ。

……でも、ウイングが先に能力を使った。多分キルアのように、私の足が接触した瞬間に電気を発生させたんだと思う。冬場にドアノブ触ったときと同じ感覚がした。そこを突っ込むと多少しどろもどろになりながらも「俺の能力は底は浅いが幅広いからいいの! お前のはダメ!」とか逆ギレされた。

 

 手刀を食らった直後にポケットを具現化して、ゴルゴンの首を取り出し透明マントで隠した。幸い取り出す瞬間は見られなかったものの、ファンファーレは審判にバレてしまった。さぞかし悩んだ事だろう、あの場に不似合いなあんなファンファーレ聞かされて。マイクに音を拾われなくて良かった。さすがにあれが聞こえてたらその場でウイングにばれてただろうし。

 それと、試してみたかったというのもある。私の出した『独自の意思を持つ道具』が与えた石化も攻撃と認識され、私も石化してしまうのか、それとも無事にすむのか。幸い後者だった。こんなのウイング以外を相手に確かめるわけにもいかない。そう言ったら試合中にする必要はないと一刀両断。だから、ついカッとなっちゃったんだってばー。

 

 ひとしきり説教かましてくれたのち、私は解放された。説教の間にシュートは無事勝利をおさめ、私と共に100階へと上る事が決定している。

 

「……まぁ、ゴルゴンの首は便利な道具だな。具現した元のゴルゴンを消しても石化が継続するというのがいい。万が一原作のゴルゴンみたいに脱走してもその瞬間に消えるしな。ただ、念能力者相手の実戦の時は躊躇せずに一瞬で石化させろ。ウボォーギンの例もあるし、一部を石化させたところで反撃を食らう可能性もある」

 

 わかってるって、そんな事。全身石化させてばっくれるんでしょ? 壊したら多分私も壊れるし、逃げることにしか使えない。全く持って難儀な能力だなぁ。自分で作っておいてなんだけど。

 

 そして今日の試合は全て終了し、私とシュートには個室が与えられた。ウイングはシュートの部屋に泊まるという。……一応、私がオンナだからという事で。

 

 コンコン……

 

 部屋でくつろぎながら雑誌を読んでいた私の元へ、誰かが訪ねてきた。といっても私の知人なんてたかが知れているので、十中八九、ウイングかシュートだろう。

 だが、私の予想は見事に裏切られた。……いや、ある意味当たっていたというべきか?

 

「初めまして、パームくん。私はウイングといいます。今日君が戦った相手と同じ名前ですが関係はありません」

 

 中の人が来ちゃったよー! 本物の、原作のウイングさんだ。何で今この闘技場にこの人がいるんだ!?

 

「あ、初めまして、パームです」

 

 一応、お辞儀して言葉を返す。

 

「……ふむ、見た目は本当に普通の女の子ですね。かなり体も鍛えてあるようですが」

 

 何しにきたんだろう、この人。わざわざ私のところへ。

 立ち話もなんなので部屋に入ってもらい、お茶など出しながら観察する。……やっぱシャツと寝癖は変わってないんだな。慌てて「お構いなく」とか言いながら立ち上がりかけて膝をテーブルにしたたかぶつけている。ああ、なんか、リアルウイングさんだなぁ、とか思った。突然の訪問に緊張していた心が少し緩む。

 

「それで、私に何の御用でしょうか」

 

「ええ、二つ、お尋ねしたい事があって」

 

 前置きをした上で、ウイングさんは言葉を続けた。

 

「まずひとつ。君の試合を録画で拝見しました。君は何処であの力を手に入れたのですか? その力の意味は知っていますか?」

 

「修行で、です。意味は知っています、念については半ば独学ですが勉強しました」

 

 まさか能力者に無理やり精孔こじ開けさせたなんて言えない、バレてるような気もするけど。修行だけでこの年で念を覚えてるなんて多分普通ありえないだろうしな。

 ウイングさんは大きく息を吐く。

 

「……すばらしい能力でした。どういった原理なのかまではわかりませんが。私の弟子にも非常に才能のある子がいますが、まさか彼と同じくらいの年齢で四大行を修め且つ発まで完成されているなんて……本当に先が恐ろしいくらいです」

 

 ナニ? 私を褒めにきたの? そんだけ?

 

「ありがとうございます」

 

 丁寧に頭を下げる。褒められて悪い気はしないし、仮にも師範代のウイングさんが私の力を、能力を認めてくれたのだ。嬉しくないわけがない。

 

「もう一つ……こちらが本題です。試合終了後の様子から見て、君と、ウイングくん……私と同じ名前の対戦者、あの子は知人ですね?」

 

「ええ、一応仲間です。今日、私と一緒に100階に上がったシュートという名の子と、三人」

 

 すこしウイングさんは考え込むような素振りを見せる。全く意図がわからない私には、その、ほんのわずかな時間が永遠くれェ長げェ! いやそれは言い過ぎだけど。

 

「彼……ウイングくんを紹介してもらえませんか? 少し気になることがありまして」

 

 お茶を一息で飲み干して、私はウイングさんと共に部屋を出た。無論行く先はシュートの部屋。ウイングさんとの接触が、今後の私達に不利に働くとはどうしても思えなかったからだ。

 

 同じフロアにあるが三つほど部屋が離れている彼らの部屋のドアをノックし、シュートがそれに応じてドアを開けてくれた。そして、私の後ろについてきた人を見て首をかしげ、ウイングを呼ぶ。横になっているベッドの上から視線を上げた彼の表情は、そのまま凍りついた。

 

「初めまして、ウイングくん、シュートくん。私は……ああ、いえ、私も、ウイングと申します」

 

 シュートは驚いてウイングさんとウイングと私の顔を何度も交互に見る。彼がウイングのモデルだということがシュートにもわかったんだろう。ウイングは未だ微動だにしない。

 

「紹介してって言われたから、連れてきた。……部屋に、入ってもいい?」

 

 それぞれにテンパっていた彼ら二人の時間が動き出す。シュートは慌てて私達を中に招き入れ、ウイングは……あ、まだ固まってる。

 椅子が足りないので、ウイングとシュートはベッドに腰掛け、私とウイングさんが椅子に座らせてもらった。……あああああ、名前が同じってことでこんなに頭の中ややこしくなるとは思わなかった。安易に名前付けるんじゃなかったな。

 

 それにしてもウイングさんの『気になること』って、一体なんなのだろうか。私もさっきから気になって仕方がない。


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