meet again   作:海砂

17 / 117
石化

 まさかこんな事になるとは思ってもみなかったけど、可能性としてあったのは間違いない。

 トーナメントではないから絶対とはいえないが、でも実際に、パームとウイングがぶつかった。もちろん、オレが二人とあたる可能性だってあるだろう。

 でも、正直この二人の戦いは、見ものだ。

 筋力的にはややパームが劣っているものの、四大行だけを使用すれば(武器の類は持ち込み禁止なので、具現化のパームは能力を使えない)パームの方が圧倒的に勝る。でも、ウイングはオレの知らない能力を他にも知っているかもしれない。

 

 賭けの倍率は、10.15対2で圧倒的にウイング優勢。やっぱり女の子だからかな。

 そしてオレたちのような子供同士の対戦、しかも(黙って立ってれば)美少女が出るとあって、観客席はものすごい勢いでヒートアップしている。歓声でほかの音が聞き取れないくらいだ。

 

 パームは面白がっているけど、ウイングは真っ青だ。念のためにさっき「もし速攻で負けを認めたり全力を出さなかったりしたら、オレの『『暴投王』(アラカキ)を全力投球で10球ほど受けてもらいますねっ」と釘を刺したら、ドナドナを歌いながら(聞こえないけど纏っている雰囲気がなんかそんな感じで)とぼとぼとリングに歩いていった。あーやっぱり戦わずに負ける気満々だったんだな、ウイング。

 

「シュート、60階のロビーで待ち合わせねー」

 

 審判のマイクに向かってそう言って朗らかにリングへ上るパームとはマジで対照的だ。自分の力を試すために、全力を出すと言っていた。……ゴメンなウイング、だってオレも見たいんだもん二人の対決。

 

「それでは3分3ラウンド、ポイント&KO制、ウイング選手対パーム選手……始め!」

 

 合図と同時にウイングは全速力で(多分足にもオーラを割り振ってる)パームへ近付き、速攻で硬で固めた手刀をパームの鳩尾にヒットさせる。そうだ、ウイングは俺らの中で一番、絶と流に長けていた。この程度の攻防力移動は朝飯前だろう。パームは凝や堅をする間もなく吹っ飛ばされる。

 

「クリーンヒット&ダウン!」

 

 ウイングが先制点を取った。えーっと、クリーンヒットとダウンで2点先制……かな? あれ? 3点か?

 

 悩んでいるうちに電光掲示板のウイングに2という数字が点灯した。よし、クリティカルが2点でクリーンが1点……と。今度こそ覚えたぞ。何度も間違えたけど。

 

「さすがね」

 

 ゆるりとパームが起き上がる。声はオレの想像。だってうるさくて全然聞こえない。

 最低限の纏だけは試合前からやっていたんだろう。パームもオレと一緒で流があまり得意ではない。

 体に付いた土埃を払う彼女と、それを見つめる彼。瞬時、足に全オーラを集中させたパームがウイングへと突撃し勢いのままミドルキックを連打する。けれどウイングは凝でそれぞれを軽く左手だけで受け流す。

 互いの攻撃のたびに会場から歓声が上がり、俺の鼓動も跳ね上がる。……こんなに凄いのか、念能力者同士の闘い。

 身震いがする。能力を一切使っていない状態でこれなら、きっと何でもありの200階以上のバトルはこんなものより遥かに凄まじいものに違いない。……なんだろう、強打者とあたった時の様な、この高揚感。一瞬たりとも二人から目が離せない。

 

 ふいに、蹴りを入れ続けていたはずのパームがびくんと跳ね上がった。何だ? 能力を使ったのか?

 その隙にウイングが軽く、ほとんどオーラを纏っていない右手刀を、同じくほとんどオーラを纏っていないパームの首筋に叩き込んだ! そしてひらりと闘技場の端へと足を運び距離をとった。

 

「クリティカルヒット&ダウン!!」

 

 これでえーと、ウイングのポイントが5ポイント……だよな? 確認のために電光掲示板を見る。うん、5。

 

 審判が倒れているパームに近寄り意識・続行の意思を確認する。何故か審判が不思議そうな顔をしているがきっと気のせいだろう。

 

「やめておけ、パーム。同じことを繰り返すだけだ。仲間同士でダメージを与え合うのは得策じゃない」

 

 勿論これも想像だけど、多分そんな感じのことを言っているように見える。不便だな、周りがうるさいと。

 

 パームは立ち上がったが、先ほどの手刀がかなり効いているらしく少しふらついている。

 

「100階に先に行って待っている。万が一お前がそこに今日中に間に合わなかったとしても、手続きをすれば一緒に個室を利用する事もできると確認した。……40階からやり直せ」

 

 軽くボクシングのようなステップを踏みながらパームへと徐々に近付いていくウイングに対し、彼女はふん……と、鼻で笑ったような気がした。刹那、今度はウイングの動きが止まる……え、いや、石になってる!?

 

「……サプライズ」

 

 会場内がざわめく。ウイングの下半身は、完全に石と化していた。審判も困惑しているのか、ポイントを与える事もできず状況を見守っている。

 

「同じ台詞を返すね、ウイング。降参しなければ、全身を石に変える。そうすれば戦えないよね、どう考えても」

 

 ふらつきが無くなり、パームは不思議な体勢をとっている。右手で左手を庇うような……いや、それにしては位置が少しずれている気がする。

 

「さあ、どうするウイング。残りの時間は少ないよ」

 

 じわりじわりと石化がウイングの上半身を侵食する。首の所まで石化が進んだ時点で、ウイングは試合続行不能と審判に告げた。

 

「勝者、パーム!」

 

 審判による勝者宣言が為され、闘技場はものすごい歓声の渦に包まれた。オレのいる位置から実況の声は聞こえないが、きっと物凄い事になっているだろう。何せ、敵を石に変えたんだから。

 

 パームとオレと、二人がかりでウイングを運び出す。看護役とか何とか言って、闘技場への入場は許可してもらった(試合が終わってからだけど)そしてしばらくすると、ウイングは元通り普通の体へと戻った。

 これは……一体、どんなトリックなんだ?

 オレの試合ももうすぐなので、落ち着いたら二人に尋ねてみよう。この、短かったけれど不可思議で壮大な闘いの原理を。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。