meet again 作:海砂
試していない事がある。
試してみたい事がある。
……下手をすれば、時空の狭間にでも飛ばされるかもしれない。
けれど、これができるかできないかでは大違いなのだ。
そして、多分それは、年長者である俺の務め。シュートにそんな危険なマネをさせるわけにはいかない。
「パーム、ちょっとタイムベルトを出してくれ」
ファンファーレとともに出したタイムベルトを、彼女の手に触れたままでオレに装着してもらう。
ベルトのメモリを一分後に設定する。そして……スイッチを入れる。
パームの手を離れたベルトは消えて、俺は無事に一分後の世界に到着する事ができた。
「結局何だったんスか? 今の」
「タイムベルトを使った時点でパームの体から離れるだろう? それでも俺ら、パーム以外の人間がタイムベルトを使えるかどうかを確かめておきたかったんだ」
パームはなるほどと頷き、シュートはまだよくわからないといった感じで首をかしげている。
「つまり、未来あるいは過去に飛ぶ前にベルトが消えてしまうんじゃないかと危惧していたんだ。飛べないだけならまだいい。うっかり異空間にでも迷い込んだら一大事だからな」
「誓約より先にアイテムを決めてたから、そこまで考えが至らなかった……ごめんウイング、命がけで試してくれたんだよね、私の能力」
「気にすんな。これで方向性が決まった」
同じ道具は一日一回という制限があるので多少のズレはあるだろうが、とにかくこれで俺達は全員が過去にも未来にも行けることがわかった。これは、非常に重要な事実だ。
「これから、どうするの? キルアの後をつけてハンター試験を受けるのかと思ってたけど」
「いや。天空闘技場へ行く」
パームは驚いて、シュートは首をかしげる。……なんか定番になってきたなこの状態。
「俺らの筋力・肉体的な修行はほぼ終わったといっていい出来だと思う。だから今度は闘技場に行って、グリードアイランドを手に入れるための金を稼ぎつつ、実戦の練習をつむ。ハンター試験はその後だ」
「でも、多分現状でも私らハンター試験通ると思うよ?」
ここ、ククルーマウンテンにいる間、俺は週に一回全員の占いをやってきた。
俺の占いは毎回毎回『立場をわきまえよ』だの『主に逆らうな』だの、基本的にはどう考えても使用人ですありがとうございました的な内容ばかりだったが、全員に一度は出た共通の占い結果がある。
子猫に餌を与えよう
子猫は恩を返すだろう
この、一節。
パームはナイフを貸し、シュートは共に遊び、俺はひたすら徹底的にゴマをすりまくった(だってそう占いに書いてあったんだからしゃーない。ぶっちゃけキルアにはちょっぴりウザがられた。俺が本気で凹んだのはここだけの秘密)
そして子猫は恩を返す……それはきっと、今回じゃない。その、次の試験。……楽観的な俺の予想だけどな。
「今ならテスト受けに行っててヒソカが闘技場にいないだろうが。俺は絶対に何があろうと一生アイツとだけは関わりたくはないぞ」
どう考えてもお目にかかりたくないキャラNo.1だ。アレにやられるくらいならメルエムとかネフェルピトーに撫でられる方がまだましだ、俺の精神衛生上。そしてショボいオーラな俺はともかくこいつらは絶対目をつけられる、それだけのオーラをすでに身につけている上に、俺の目が確かならまだまだ伸びる。
「ヒソカってそんなにヤバい奴なの?」
「あーもうヤバいなんてもんじゃない。お前さんらペロリと喰われるよ、いろんな意味で」
パームが青くなった。何か色々想像したらしい。おお、見事なチキン肌。まぁ、知ってりゃ普通はそういう反応だろうな……。
「ということで、だ。ひとまずは天空闘技場の200階未満で金を荒稼ぎして、余裕があれば、その上での念の戦いも経験しておきたい。ヒソカあるいはゴン・キルアが会場に現れたらソッコーでバックレる。目標金額は三人合計で300億、できれば1000億ジェニー。異論はないな?」
シュートがそんなに稼げる自信が無いと言ったが黙らせた。問題は無い、190階前後で適当に上にあがらない程度に負けておけば、相当の額が手に入るだろうし、三人いればなんとかそれくらいの金額はいけるだろ、多分。グリードアイランドは三人まとめて一台手に入れられればいいわけだしな。
「OK。私は異論ナシ」
「……オレはよくわかんないけど、二人がそうすべきだって言うなら、そうした方がいいと思う」
よし、じゃあパームにどこでもドアを……って言う前に出して扉開いてナチュラルに手招きしてやがる。早ッ!
さようならククルーマウンテン、こんにちは天空闘技場。
今の俺らなら、少なくとも200階未満でリアルに負けるようなことはないだろう。ないといいな。……ないよね?
そして門をくぐり、登録用紙に必要事項を記入する。……ここで初めてわかった新事実。パームは普通にハンター文字を読めるそうだ。本人曰く、ひらがなと一緒だから簡単だよー、とかいってたがありゃどう見ても暗号だ。というわけで俺とシュートは教えてもらいながら何とか記入を終えた。もちろん格闘技経験は全員10年ですが何か問題でも?
そしてファーストステージ。
冷静に考えると25年と2年弱生きてきて『人』と戦うのは初めてだ。二人はどうだか知らんが、少なくとも俺は暴力とは縁遠い世界に生きてきた。うまく世間の流れに乗りつつコバンザメのように他人の意見に流されるがまま、ごくたまーに全力でバックレながら生きてきた。……そんな俺が、うまく戦えるんだろうか。しかも何か目の前のおっちゃん、気合入れたときのゼブロさんよりええガタイしてはるんですけど……。
「ぐああああああぁああああぁあ!!」
なんか咆えてますよ。あれ、ヒトですか? 汎用ヒト型決戦兵器人造人間とかじゃないですよねぇ? 拘束具とかつけなくて大丈夫なんですか? 活動限界超えてますよね! 絶対暴走してるよ逃げたいよやばいよーおがーぢゃーん!
……開始の合図と同時に、無意識に頭を抱えた。なんかぶつかった、と思ったらむこうさんが体当たりかましてきて勝手に吹っ飛んだ……みたいだ、と、思う。ごめん、目つぶってたから自分でもよくわからん。
「勝者、ウイング!」
あれー。何もしてないのに勝っちゃったよ。……もしかして俺、強くなってる? ヘタレじゃないかも! うん、常識的な(念とか除いた)世界では俺ってば最強かもしんない!
そしてシュート、パーム共に軽々と初戦を突破、三人そろっていきなり50階に飛ばされたので、缶コーヒーと缶コッコーラと缶ウケアリエス(なんなんだこの名前は……)で乾杯した後、のんびりとエレベーターで50階ロビーへと向かった。
うん、これなら200階以下は余裕だね!
……そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。
「ウイング選手・パーム選手、55階C闘技場までお越しください!」
――俺は、これでもそこそこ腕は立つ。修羅場もいくつかぬけてきた。そういうものにだけ働く勘がある。その勘が言ってる。
俺 は
こ こ で
死 ぬ 。
パームの笑顔が見えた。ああ、死神が笑いながら手招きしているんですが僕どうすればいいんでしょうか神様。