meet again   作:海砂

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出立

 それから二年弱が過ぎた。

 私達はそれぞれに体を鍛え上げ、私は1の門、ウイングは2の門、シュートは3の門を念無しで開けられるようになっていた。そして多分それが私達の、肉体的な限界値。そこにたどり着くまでには一年かからなかったけど、それ以上強くなる事はなかった。まあ、念を使えばそのバランスはあっという間に崩れるんだろうけど。

 

 時にキルアやシュートと一緒に命がけの鬼ごっこをしてみたり、ウイングをおちょくってみたり、ミケとひなたぼっこを楽しんだりと、日々はそれほど苦もなく過ぎ去っていった。

 

 そして唐突に、その日は訪れる。

 

「……パーム……」

 

 私はその時、部屋で堅に集中していて、扉の開く音に気付かなかった。あるいは、彼が音や気配を消していたのかもしれない。

 消え入りそうな声をかろうじて聞き取った私は扉の方を向く。そこには、私が貸したナイフを手にした血まみれのキルアが空ろな目をしたまま立っていた。

 

「……どうしたの、キルア?」

 

 おそらく今日が、原作の『あの日』 彼の限界がついに訪れたのだろう。

 

「ごめん、誓い、守れなかった……おふくろと兄貴にコレ見つかって、……使った」

 

 ナイフを私に差し出す。受け取って鞘から抜くと、それもまた血に染まっていた。

 パチンとナイフを鞘に戻し、キルアの目を見つめる。彼は目を合わせようとはしない。

 

「キルア」

 

 返事はない。彼は拳を握り締めて、それでもなお視線が絡む事はない。

 

「キルア、キミは誓いを破っていない」

 

 驚いたキルアは顔を上げた。ようやく、目と目が合う。

 

「今日は、キミが出て行く日。だから、これを私に返しに来た。ただそれだけ。私は使うなとは言ってない。そして、返しにくると決めた後に、母親とお兄さんにバレた。それは予定調和。どこにも問題はない。確かに返してもらったよ、キルア」

 

 キルアは一瞬だけ泣きそうな顔をして、けれどすぐに普段の表情に戻る。

 

「私達も潮時かな。多分、近々ここを出ると思う。今度は『外』でいつか会おう、キルア、私の大切な友達」

 

 ウイング達とそれとなく話し合っていた。ここでやれる事はもう限界に近いから、そろそろ次のステップに移ろうと。ただ、きっかけがなく今までここにいたけれど、きっとこの出来事がきっかけになる。原作に沿った、物語の始まり。

 

 友達と呼ばれたキルアは、少しだけクスリと笑い、そして何も言わずに出て行った。

 

 さあ、ウイングが仕事から帰ってきたら出発しようか。

 ああ。その前に『何処へ向かうか』を話し合わなければ。それと、ウイングを雇ってくれた執事室(最初は知らなかったが、門番の雇用を決定するのは執事室の長、つまりゴトーさんらしい)に挨拶をして、ゼブロさんとシークアントさんにもお礼を言って。

 

 そして私達は、改めて帰還への一歩を踏み出そうとしている。


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