meet again 作:海砂
目覚めると、布団が血まみれだった。体中が痛い。特に重点的に頭が痛い。
鏡を見て思い出した。そうだ昨晩オレはパームにリンチくらったんだった。
よく覚えてないけど『名前と生年月日と血液型と住所と電話番号とあて先をここに明記しなさい!』とか言ってた気がする。……なんか懸賞にでも応募したのかな。それにしてもこれはひどい虐待だ。しかるべきところに訴えたい。
幸い、オレの貴重な右腕はアザ程度で済んでいた。これ壊されてたら本気でやりかえしてたなオレ。
ちょっとしんどいもののとりあえず普通に起き上がって歩けたので居間に向かう。
居間ではウイングが床に正座してシークアントに説教食らっていた。なぜかどちらも半泣きになっている。
怨念のこもった目でパームにナイフを借りに行く。昨日壊した的の代わりを作らなきゃいけないから。
キルアが帰ってくるまでは、今までどおり的当てしようと思う。パームは快くナイフを貸してくれたが昨晩の事に関してはしらばっくれた。この恨み、いつかはらさでオクベキカ。
表に出て、適当な大きさの木を見つけ、ガリガリと的を書き込んでいく。
ちなみにダーツの的みたいなんじゃなくて、9マスの四角い的だ。
それを刻んでいる途中でキルアが帰ってきた。
「待たせたな。ほらよ、お前用のグローブ」
左手でそれを受け取る。久しぶりの革の匂いがなんだか懐かしい。大事にしなきゃな、友達のくれたグローブ。
「……なにやってんだ?」
「コントロールの練習用に的作ってんだよ」
とりあえず的を作り終えるまではキルアに待っててもらうことにした。オレの手元をじっと見ていたキルアは、どうやらナイフの方に興味があるようだ。
「それさ、ちょっと見せてよ」
鞘に戻して、キルアに渡す。出したりしまったり角度を変えて眺めたり……。
「……すげー、いいナイフだな。これ、ちょっと貸してくれよ」
「あ、それはオレのじゃないから貸せないよ、ゴメン」
キルアは少し残念そうな顔をして、オレにナイフを返しながら言った。
「じゃあさ、持ち主って、お前の言ってた使用人になったツレ?」
「いや、もう一人別のヤツがいて、そいつの買ったナイフなんだ」
「ふーん……なぁ、そいつ紹介してくれよ」
断る理由もないので、オレはキルアとともに家へと戻った。
居間に入ると、ぐったりしたウイングが何か紙とペンを握り締めてぶっ倒れてる。
「ウイング? だいじょうぶ?」
「あ、あー、頭痛いだけだ……って、き、キキキ、キルア……様!?」
は? なんでウイングが様付けで呼んでるんだ? ……あ、そっか。ウイングは使用人だからか。
「アンタがシュートのツレの使用人?」
慌ててウイングが起き上がる。
「はい、ウイングと申しますキルア様」
キルアはオレと出会ったときのようにウイングをジロジロ見て、同じ言葉を口にした。
「オレと友達になってよ」
「申し訳ございませんキルア様。私は使用人で、あなたは雇い主ですから」
ウイングはひたすら頭を下げている。……やっぱ、オレも友達になったらまずかったかな……。
「別にオレが雇ったわけじゃないのになー……まいっか。シュート、もう一人のツレんとこ連れてけよ」
キルアを連れてパームの部屋へと向かう。ノックをすると『どーぞー』と気楽な返事が返ってきた。
「パーム、キルアが会いたいって言うから連れてきた」
一瞬顔をこわばらせたように見えたパームは、すぐに笑顔を見せた。
「初めまして、私はパーム。あなたのことはシュートから聞いてるよ」
「ふーん。じゃあ、オレが何て言うか当ててみてよ」
……同じ言葉なんだろうな、きっと。
「『オレと友達になってよ』……でしょ」
パームとキルアがにやりと笑みを交わす。……なぜか怖いぞ、この空気。
「……正解。アンタは友達になってくれんの?」
「いいよ。ただ、私はここに体を鍛えに来たんだから、あんまり遊んでる余裕はないと思うけど」
なんか怖い。パームが怖い。一瞬オレを見た目に殺意がこもってた。……もしかして、キルア連れてきたのマジでやばかったのかな?
「あのさ、さっきシュートに見せてもらったんだけど、あのナイフ、ベンズナイフだろ?」
キルアの言葉でその存在を思い出したオレは、ナイフをパームに返す。ちらりとそれを見て、パームも答える。
「当たり。見る目あるねキルア」
「初版で絶版になったけど、ベンニー=ドロン本人が書いたシリアルごとのデザイン画集が出てるんだよ。288種類、全部。シリアルがどこに入ってるかは知らないけど、そのナイフ、No.13だろ? 形が珍しいから覚えてたんだ」
パームが口笛を吹いた。当たっているらしい。オレにはさっぱりわからない。
「形だけ真似たニセモノかもしれないよ。どうして本物だと思う?」
「親父がシュミで集めてるからさ、その辺のナイフとの違いくらいはオレにだってわかる」
パームがまたにやりと笑って、机から細いペンを取り出してナイフを解体した。……そんな簡単に解体できるものなんだ。
「はい、ここにシリアルが入ってるんだよ。これはJAPPONっていう国独特の製法で作られた『カタナ』をモチーフにしたナイフ。切れ味は保証付き」
キルアがまじまじとそれを見ている。好奇心でうずうずしている感じだ。
「パーム。これさ、オレに貸してよ」
「何で?」
「珍しいから。構造とか知りたいんだ。仕事とかには使わないって約束する」
しばらくパームは考え込んで、あっさりとOKを出した。
「ただし条件がある。私達がここを出て行くときかキミがここを出て行くとき……仕事じゃなくてね。その時は私にコレを返すこと。それと、私達という友達ができた事とそのナイフのことは、他の誰にも漏らさないこと。もちろん、家族にも」
突然、パームが自分の親指の皮を食いちぎった! な、なんで……
「誓える? キルア・ゾルディック」
パームは笑顔で親指を差し出す。キルアも、にっ、と笑って、同じように食いちぎり、親指同士を合わせた。
「誓う。ゾルディックの名に懸けて」
そうしてパームは、簡単な構造を教えるからといってキルアをオレから奪っていった。
キルアの方も、オレとのキャッチボールの約束なんかすっかり忘れて完全にナイフの方に興味がいってしまっている。
いーよ。今日は一人で的当てするから。別にさびしくなんかないし!
ムカつきながらついつい本気で投げた球は、またもや的を吹っ飛ばしてどこかへ行ってしまった。
……あーあ、貴重なボールを一個なくしちゃった。ちくしょー、キルアにたかってやる!