meet again 作:海砂
……沈黙が、痛い。
トラブルの元凶は、疲れたと言って焦げた野菜炒めを高速で食べ終えると、さっさと寝てしまった。
軽く殺意を覚える。けどパームが本当に殺そうとしたので止めておいた。
そして、焦げ野菜を前にして、俺たちは今後の事を話し合っていた。っつか二人して難しい顔して黙り込んでいる。
「……ドラえもんの道具にさ、記憶を消すやつとかあったっけ?」
ぽつりとパームがたずねてきた。お前さんが覚えてないのに俺が覚えてるわけないだろjk。それにお前さん自身がストーリーを覚えてなきゃ具現化できないんだろうが。
あれかタイムベルトでちょっと未来の俺らを見に行ってもらうか? いや、それだと死亡EDが確定してたら回避できなさそうで怖い。
唯一の救いは、今この敷地内にイルミがいない事だけだ。ミルキは気にしないだろうし、シルバもちょっと怖いけどまあ大丈夫……だといいな。キキョウとカルトも怖いが屋敷に近付かなきゃまぁ大丈夫だろう。カエルみたいなジジーとキルアのいっこ下の兄弟、俺の予想が当たってれば名前はアルカ(兄弟の名前がシリトリ&三文字&中央がルになってると最近気付いた)、そいつらの性格はよくわからん。ゼノじーさんに相談しに行ってみるか? NO! 恐ろしくて行けるかよチキンなこの俺が。ダメ、絶対!
回避できる未来……あーあの娘、ネオンの占いの能力があれば危機回避できるんだがマフィアに会いに行くのも怖いぞ。
こうさ、手にペン持ってくるくるって……。
ん?
へ?
はぁ?
「おいパーム、ちょっとこいつを見てくれ……どう思う?」
「すごく……小さいです」
えーと、俺の右手の甲に変なんがくっついてます。野球の球よりちっちゃいです。そして、なんか見覚えありますコレ。
「……
「とりあえずペンくれ。あと、お前さんの生年月日と血液型と名前……多分『パーム』で大丈夫だろうから、それ紙に書け」
言われたとおりにパームが紙とペンを手渡す。俺の右手は勝手に動き出した。……速度はかなり遅い。小さい体で頑張って動かしてる不気味な天使が気持ち悪い。
そして、自動筆記はひとつの四行詩を書き終えた時点で消えた。
「……四つじゃないの?」
「知らん。小さいと能力もショボいんだろ。とりあえず読んでみろ」
パームがざっと紙を黙視し、黙って俺に手渡す。それには、こう書かれていた。
白銀の子猫に餌を与えよう
懐いた子猫は犬を伴い貴方に恩を返しにくる
銀色の虎に決して近付いてはならない
黒髪の死神が貴方をずっと呼んでいるから
「ちょっとシュート叩き起こしてあいつにも書かせろ」
黙ってパームは言われたとおりに動く。何かすごい音が聞こえたが気にしない。あいつにはいい薬になるだろ。
そしてパームが血糊の付いた紙を持ってきた。……生きてるかな、シュート……。
ふいに子猫が現れて珠玉の友となるだろう
一度離した手は二度と繋がることがない
穿たれた針穴の隙間から零れ落ちるように
陽炎となって消えてゆくだろう
「……多分、今日を含めて一週間分の占い、だろう」
シュートの『珠玉の友』が現れたのは今日だからな。珠玉=ボールを通じた仲とも、とれないこともない。こじつけか。
「ちっちゃいから一週間分しか予言できないのかなあ」
「わからん。だがとりあえず、お前さんは絶対に本邸には近付くな」
おそらく、白銀の子猫がキルア、犬は……ミケか、もしかしたらゴン。銀色の虎はシルバ、黒髪の死神は間違いなくイルミだろうな。あ、カーチャンの方かもしれん。
「穿たれた針穴ってのは、多分イルミの能力のことと掛けてるよね……キルアの頭に埋まってる……アレのせいだって」
「多分な。だからって針の存在を教える事はできない。これ以上原作と乖離すると先の予測が立てられなくなる」
俺たちにとって、原作を知っているという事は大きなアドバンテージだ。極力主役格に影響を与えたくはない。……まぁゴンとは仲良くなったけど念とか先のことはほとんど話してないしな。キルアとも同様に接してればいいってことか?
「餌……ってのは、シュートのことかな?」
「……ま、そうだろう。あーもう、解読がめんどくせーな」
っていうか俺の念能力ってまさかこれ? ネオンとまったく同じでしかも1/4の能力? ……そんなアホな……。
絶望に打ちひしがれている俺にパームが追い討ちをかける。
「微妙に不便な上にショボいね、ウイングの能力……」
はい、立ち直れないほどダメージ受けました。俺オワタ。泣くぞコラ。
「あのさ、クラピカの
いきなりパームがわけのわからないことを言い出した。そりゃ原作であんだけ派手にやらかしてたから覚えてる。一時期ぶっちぎりで主役格だったなクラピカ。
「想像してみて……自分の中指から、鎖が出てくるように」
意味不明だ。出るわきゃねー。何考えてんだ。……とりあえずシュートの二の舞は避けたいので言われたとおりにやってみた。
……は?
何で出てくんのさ鎖。しかもなんかちょっと細くね?
「それで私を縛ってみてよ」
自分の思い通りに動かせたので、パームに鎖を巻きつける。なんかヤバいプレイみたいだ。いやいやそんなんじゃない、何だもうわけわからん。脳みその許容量はとっくにリミットオーバーだ針が振り切れてる。あれでもコレ旅団専用の能力じゃなかったっけ? でも俺生きてるな。
パームは纏の状態を解いて、鎖を引きちぎろうとしたが、とりあえずびくともしない。そして、練の状態でもう一度試してみると、今度はあっさりとぶち切れた。……ショボっ!
「ウイングの能力……多分だけど、見て知っている能力を自分のオーラの範囲内で再現できる……んじゃ、ないかな」
「マジか! それ俺チョー便利じゃね?」
チキンでヘタレな俺にも徐々に希望の光が見えてきたぞ!
「で、多分誓約は外れるみたい。本当は占う時に本人か写真がいるんだけど、それがなくてもウイングはシュートのことを占えたから。だからクラピカの能力で試してもらったんだけど、それで確実みたいね」
おまっ気軽に俺の命賭けて試しやがったのか!
だがまあいい。今日の俺様はすこぶる機嫌がいい! さっそく他の能力も試してみよう。
……浅はかでした。すいません調子乗ってました。
ためしにコルトピの能力を使ってコピーしたら、円の役割は果たさない上に一時間で消えた。パクノダのを真似してみたらパームに『バーカバーカバカウイング』とか言われた。思っていることしか読めないらしいうえに
「……や、そんなに落ち込まなくてもほら、修行すればオーラ増えるし役に立つ能力もあるかも知んないし!」
俺オーラ増えないしこんなショボくて役に立つ能力なんてせいぜいビミョーな占いくらいだし俺マジでとことんヘタレでしたね能力さえも。
「と、とりあえず、キルアと仲良くしとけって感じの占いがどっちにも出てたから、引き続きここで筋トレさせてもらおうよ、ね? 肉体強化すれば、強化系の能力ならもちっと強くなると思うし」
パームの慰めに余計凹む。俺足手まといじゃね? もういっそ自分でカギでドア開けてミケに食い殺されようかな……鬱だ死のう……。
「もう……ほっといてくれ……」
その日、俺はシークアントが隠し持っていたウイスキーをボトルのままガブ呑みした。翌朝仕事帰りのシークアントに二日酔いの状態でめっちゃ怒られて、吐いた。
能力名
・原作で読んで覚えているor彼の目で実際に見た念能力を、系統を問わずに真似することができる。
・真似できる範囲は彼のオーラ上限内に限られる。足りない場合、威力などが格段に落ちる。
・威力が落ちる場合、その内容(破壊力・精度・耐久性など)は選ぶことができない。
・能力を使用する際、能力の属性を知り、理解していなければならない。
・各能力に課せられた制約と誓約は全てなくなる。
・発動するだけで彼のオーラ量を明らかに超える能力は真似できない。