meet again   作:海砂

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猟犬

 ウイングは、自分が仕事をすると言い、正門には近付くなと言った。

 ゴネた。ひたすらゴネた。だって、ミケたんに会いたいんだもん。動物大好きですが何か?

 徹底的にゴネまくった後、オーラを纏わせた湯呑みで殴ろうとしたら、快く許可してくれた。

 ただし、ウイングが門の外にいる時&彼からの合図があったらすぐに家に戻る事。この二つが条件だった。ウイングは私たちに人が死ぬのを見せたくないらしい。そりゃ、私だって見たくない。

 

 そして、今日も家を抜け出してミケに会いに行く。まだ扉を自力で開ける事はできないので、念を使って。

 名前を呼んだら、すぐに出てきてくれた。ああん、可愛い♪

 どうして原作でゴンがコミュニケーションとろうとしなかったのか不思議でならない。

 戦うのはマジでゴメンだけど。

 

「ミケー、ブラッシングしてあげるからちょっと座ってー」

 

 言われたとおりに腰を下ろして、私がのぼりやすいように頭を下げてくれる。正直かなりデカいので、よじ登るのも一苦労だ。

 ブラッシングといっても、そもそもブラシがないので手ぐし。それでも、耳の後ろや鼻の頭は気持ちいいのか、おとなしくされるがままになっている。

 

 ちなみに、この子にとっては主の命令が絶対なので、命令の邪魔だけはしないように心がけている。すなわち、ウイングからの合図(=侵入者)がきたらすぐに飛び降りて、邪魔にならないように逃げる。

 それ以外では、感情がないとか原作で言われてたけど決してそんな事はない。きっちりと訓練されて感情を抑える事ができるだけで、人の言葉も理解するとても賢い子だ。

 

 ちなみに、ミケの食事は一回分で牛2頭らしい。それプラス、侵入者。

 ヒト食べてたら太ってブサイクになっちゃうよ? と私が言った次の日、ウイングから聞いた話だけど、いつもは綺麗に骨だけで出てくる死体が頭だけ食いちぎられた状態で出てきたらしい。その日一日限りだったらしいけど。おいしいのかな、ヒト。

 

 ちょうどオデコのあたりをガシガシしていると、門の外からホイッスルの音が聞こえた。これがウイングの合図だ。私は急いでミケの頭から飛び降りる。

 

「じゃあミケ、また明日ねー」

 

 声だけをかけて、振り返らずにダッシュする。ミケの仕事の邪魔をしたら、私まで食い殺される可能性もあるし、人を食い殺すときのミケを見たくないっていうのもある。私の中のミケは、恐ろしい外見だけど普段は優しい獣だから。俗に言うツンデレってやつだ。ツンが行き過ぎて、最初はモロに警戒されてたけど、最近じゃ呼ばなくても出てきて自分から頭を下げて『べ、別にアンタがのぼりやすいようにしてやってるわけじゃないんだからねッ!』って感じだ。ああん、可愛い。コンを紹介してもらった時も思ったけど、この世界の獣って賢い子が多いなぁ。

 

 小屋に戻り、そっと扉を開ける。夜番のシークアントさんは今が睡眠時間だから、お邪魔するのもどうかと思う。もっとも彼曰く『危険を察知したとき以外はどんな場所でもぐっすりと休めるのがプロハンターってもんだ』らしいが。私たちもそこまで鍛えなきゃ試験に合格できないのかなぁ。

 

 まぁ、前の世界では枕が変わると眠れなかった私が、今ではどこでも寝れる様になったし。我ながら、人間の適応能力ってすごいものがあると思う。ちょっと練習したら私たちもそういう風になれるのかもしれない。……原作でビスケが二人にやってた特訓、やってみようかなあ。頭の上に石固定して寝るヤツ。

 ひとまず寝る時間ではないので、私はスリッパを使って筋トレを開始。50キロ着たまま腕立て伏せ100回ができるようになったので、今度は背中にスリッパを乗せて腕立て伏せ。腕立て伏せは豊胸効果もあるらしいけど10歳の平らなムネにゃ関係ないわさ。……タイムふろしきかぶって元の年齢に戻ろうかとも思ったけど、成長期の方が訓練の効果が出やすいからとウイングに止められた。

 

 スリッパ片方で100回、両方乗せて100回、それから腹筋背筋あたりを適当に鍛え終えたところでウイングが帰ってきて、交代でゼブロさんが出て行った。

 

「あー、今日はしんどかったー」

 

「お疲れさまー。今日は何かおもろいの来た?」

 

「あー、プロハンターが来たからハンターライセンスパクっといた。これ売って金にしようぜ」

 

 なんというか、セコい。フエルミラーで出したお金も銀行に預けてあるだけで1000万ジェニー位にはなってるのに。

 

「セコくて悪かったな」

 

 あ、声に出てた。ごめんごめん。全然悪いと思ってないけど。

 

「グリードアイランドをバッテラから強奪するのに金はいくらあっても足りないだろが。あー、やっぱ給料ちょっとでいいからくれって言っとくべきだったな」

 

 私たちの知識では、ヨークシンの競売に参加するかツェズゲラの審査に合格しない限り、GIに入るすべを持たない。可能性を増やすためには、確かにお金は必要だ。……旅団みたいに奪うって手もあるけど。

 

「あーあと、今日は珍しく、イルミとキルアが別々に出てった。結構時間ずれてたから、多分別の仕事やるんじゃねーかな。つか、あいつらも出入りするのにあの門使うのな。俺、隠れるのにマジ必死だったよ。うっかり目でもつけられたらやべーなんてもんじゃないし」

 

「それで今日しんどかったんだね。いつもはしんどいとか言わないし」

 

「ま、な。テキトーに殴られてカギ渡しゃいいだけだから楽っちゃ楽な仕事だ」

 

 最初は親切にもぶん殴って退散していただいてたらしいけど、最近は面倒になったのかミケにまかせっきりらしい。……だからミケが太るんだってばー。

 

「雑魚相手にしてる暇があったら体鍛えときたいしな」

 

 ウイングはもう、100キロの服を着ている。そんでもって、仕事の時は枕持ってってバーベル代わりにしてるらしい。ちなみに枕は50キロ。布団は上下、各100キロ。この世界に慣れちゃったのか、そんな数字が変だとも思わなくなった今日この頃。元の世界に戻ったら、重量挙げの世界チャンピオンくらいにはなれそうだ。

 

 マッチョな17歳の自分を想像して鬱になったところで、シュートも帰ってきた。

 

「おう、お帰り。遅かったな。今日も野球の練習か?」

 

 声をかけながらウイングはフライパンで夕食の炒め物をしている。フライパンは100キロ。菜箸は一本5キロ。あーもうホント面白いよこの家。

 

「うん。ボール投げるときに『周』を試してみたら、森吹っ飛ばして崖にめり込んでた」

 

「崖……って、こっから50キロくらい離れてない!? バカじゃないのあんた!」

 

「えー、そんなに距離なかったと思うけどなー。っていうか、それより聞いてよ! オレさ、こっちでの野球友達ができたんだ!」

 

 友達。うん、いい言葉だね。友達100人作るのは実にいいことだ。……でも、ここはゾルディック家の敷地内だから人はあんまりいないはずなんだけど、カナリアちゃんとでも仲良くなったのかな? 意外にゴトーさんだったりして。

 

「友達かー。誰だ? ソイツ」

 

「キルアって言ってた」

 

 私とウイングの時が凍りついた。これはあれかスタンドか? DIO様がどこかに隠れてるのか?

 

……なんてあほな事考えてる場合じゃない。なんちゅーことやらかしてくれてんだこの野球バカ!

 

 ウイングの炒め物が焦げる匂いがした。


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