meet again 作:海砂
斎藤さんの前に正座させられています。
刀は仕舞われてるんですが、一瞬で俺を一刀両断できる人です。
なんてったって悪・即・斬の人ですから。
俺、悪じゃないんですけど。聞いてもらえませんか? デスヨネー。
「藤田先生、この人はオレの学問の師で、悪い人ではないです」
「その学問の師とやらが、何故俺の事を知っている」
シュートは斎藤さんの傍らに控えて立っている。
出した茶は多分冷めてしまっただろうな……いいお茶なのに。
「俺は未来から来ました。史学を学んだので歴史を知っています。……賊軍となった幕府軍に含まれる新選組は悪としてずっと描かれていましたが、子母澤寛という偉大な作家によって義に準じた集団として再評価されました。そして司馬遼太郎などによって次々に新選組を題材とした物語や芝居が描かれ、その詳細が文学や歴史として百五十年後にも受け継がれています」
……黙ったまま聞かれるのもそれはそれで怖いものがあるけど、俺は言葉を続ける。
「播磨国に産まれた山口一さん……あなたのことも、詳細に後世に受け継がれています。維新後、松平容保公を仲人として時尾さんとご結婚されてその際に名を藤田五郎に改めたことも斗南藩士となったことも、数年前に東京で警視庁に入ったことも」
あっ眉毛が一瞬ピクって動いた。奥さんの事つついたら面白いかな、殺されるな、やめとこう。
「信じてもらえるかはわかりませんが、俺はこの時点における過去、そして未来を知っています。これがあなたが斎藤一さんだと知っている理由の一つです。そして僭越ながら、俺は三番隊組長のファンでした」
これは嘘じゃないよ。じゃなきゃさすがに歴史の先生だからってここまで詳細に調べないし知らないよ。
まあ、あくまでも創作を基準とした三番隊組長ファンなんだけどもね。るろ剣含む。
「新選組は……組の汚名は濯がれたんだな」
「はい。俺自身は新政府軍と幕軍、大枠ではどちらが正義とも悪とも思わないんですが、なんなら新選組は正義の味方だと勘違いしてる人が多いんじゃないかってくらいには」
目を閉じたまま微動だにしない斎藤さん。
黙って聞いているシュート。
さて、俺の知ってることは話した。どう出る?
「言うことはそれだけか」
えっ? はい。未来から来たってことと、斎藤さんのこと知ってるってことは話しましたよね?
「貴様がここに居ることの説明がないようだが。何故神谷道場に……緋村のそばに居る」
「それは話したくないなあ。偶然拾われて土下座して頼み込んで置かせてもらってるだなんて恥ずかしくて言えないっすわ」
「ウイング、心の声がだだ洩れてる」
しまったああああああああああ!(本日三回目)
「未来を知る人間が緋村の傍に居る……緋村はそのことを知っているのか」
多分無意識だと思うんだけど斎藤さんの手が刀の
るろ剣の斎藤さんは居合の人ではないにせよ、素養はあるだろうし小説によっては居合の達人だったりするし、恐怖以外の何物でもないですがな。
「緋村さんには未来を知っていることは話しましたが固く口止めされています。よってあの人は未来を知りません。ここに住んでる人たちも喧嘩屋の人もです」
「高木、貴様はどうなんだ」
「ウイング……成瀬先生とともに、未来から来ました。家や金を持っていなかったのはその為です。この時代のことは……勉強不足なので、ほとんど知りません」
デスヨネー。まぁシュートは歴史の授業は睡眠タイムだったからな。なんも知らんだろう。
「高木の言う『すくわっと』や『自重とれ』など、確かに俺も知らんが理にかなった筋肉の鍛え方を知っていたことからも、その辺りは見て取れる。貴様らの言っていることは嘘ではないのだろう」
第一関門、信じてもらうことはクリア。次は俺が危険人物だと思われない(あるいは有用な人物だと思わせる)にはどうしたらいいかしら。
「無意味に未来のことを言いふらすシュミは俺にはありません。必要があれば言います。聞かれれば答えます」
その手を刀から離してくれませんかねぇ……コワイヨ。
「昨年の西郷翁の反乱はこの国を揺るがす事件だったと言っていいだろう。同等あるいはそれ以上の事件が近々に起きることは?」
「ん-……それ以上ってなると……これ言っていいのか微妙なんですけど、志々雄真実」
あっ斎藤さんが刀から手を離してくれました。
「一週間……今から一週間の間に、それ以上とは言いませんが時代を変える大きな出来事が起こります。……俺が言えるのはそこまでです。それに志々雄が絡んでいます」
それ以上言っちゃったら逆に俺が志々雄一派ナンジャネーノって怪しまれそうな予感がヒシヒシとするからね。余計なことは言わないに限る。
「……なるほど役立つ間諜以上の情報源になりそうだ。高木はこちらで引き続き預からせてもらう。抜刀斎との
おk! 壬生の狼に味方認定されました! 俺よくやった! これで百人力! 百人乗っても大丈夫!
「特にないです。しいて言うなら争いに巻き込まないでほしい……そのくらいです」
あっ笑われた。フッて笑われた。
「だとしたら抜刀斎の傍から離れることだな。奴は良きにせよ悪しにせよ騒乱を引き込む……まずは、これから」
あっ知ってますやり合うんですよね俺は逃げさせてもらいます。裏でお茶入れときますんで出ていく前にでも飲んでいってください。
「シュート……高木はそれでいいのか?」
「オレは藤田先生に付いて行きます。成瀬先生、会えてうれしかったです」
その言葉は嘘じゃないようだ。高木からしたらまるで知らない世界にぼっちで放り込まれた状態だっただろうからな。
最初に拾ってくれた斎藤さんに付いて行くのも、俺に会えてうれしかったっていうのも、間違いなく本音だろう。
「ん、斎藤……藤田さんに付いて行くならそのうちまた会うこともあるかもな。それまで死ぬなよ」
「先生もね」
そうなのよねえ。このご時世、ムキムキの高木より俺の方が先に逝っちゃいそうなのよねえ。
何とかしてこの世界で幸せになって嫁さんもらってハッピーライフハッピーホームを築きあげなきゃだわ。