meet again   作:海砂

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予想外でござる!

 台所に戻ってきた。これで少しは考える時間が出来た。

 お茶を淹れる。時間が出来ても考えはまとまらない。

 何故シュートが斎藤さんのそばにいる?

 アイツは斎藤さんのことを『先生』と呼んでいた。

 おそらくは俺と同時期にこちらに跳ばされたんだろう。

 俺は原作知識を持っている。

 アイツは? 答えはおそらくノーだ。

 あの野球馬鹿がるろうに剣心なんか読んでるはずがない(巨人の星やドカベンならあり得る)

 原作知識がないままに、斎藤さんに近づいた? あるいは逆。

 シュートの全身の筋肉はアスリートのそれだ。

 常人とはいいがたいそれに斎藤さんが目を付けた可能性はなくもない。

 おっとこれ以上茶を出すと苦くなる。

 俺は湯呑二つにそれぞれ茶を注いだ。

 

 おk、諦めて行くしかない。詳しいことはシュート本人に聞けばいい。

 斎藤さんのことは知らない。見てない。関わりたくない。

 関わらなければそっとしておいてもらえるといいな、無理かな、ダメかな。

 

「はいよ、茶ぁふたつ、お持ちしましたぁ!」

 

 変わらず正座をしている斎藤さんと、その横に控え立っているシュート。

 ほれほれ茶だ飲め飲めーい。なんならぶぶ漬けもお出ししてもよろしくってよ!

 

「どうかこれ以上はお気遣いなく。私はただこちらの都合で緋村抜刀斎さんを待たせていただいているだけですから。高木君、きみもいただきなさい」

 

「はい、先生」

 

 よし、シュートに事のあらましを聞いてみるとしよう。

 

「シュート、お前は斎藤さんと知り合いなのか?」

 

 にらまれたあああああああああああああああしまった今は藤田五郎さんだったああああああああ!!

 ダブルパンチでやらかしたあああああ!!!

 

 

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 藤田先生に鍛えられて一週間目。

 地獄の日々だった。

 剣術なんて微塵の素養もないオレだけど、それなりの素質はあると言ってもらえた。

 その上で、こう言われた。

 

『きみは刀よりも鈍器の方が向いているようだ』

 

 それは暗に剣術には向いていないと言われたに等しい。

 実際そうなんだろうと思う。自分の(マンガ含む)格闘経験と言えば素手かバットだ。

 

 このたった一週でオレは何度も死にかけたし、何度か本当に死んだと思った。

 それでも死ななかった。

 藤田先生が言うには、どうやらオレは持って生まれた最も優れた才能として、とにかくしぶとくて頑丈らしい。

 スタミナおばけ、よく前の世界でもそう呼ばれた。9回裏でも衰えない速球。整ったコントロール。

……現実世界じゃあれだったけどさ。

 刀剣の争いになったら武器破壊を狙えと、先生は頑丈な棍棒をプレゼントしてくれた。

 バットの形に似ているけどすごく粗削りな、まさに棍棒。

 ちなみに銃が相手だったらすぐに逃げるように、だそうだ。そりゃそうだ。

 

 そして今日。

 藤田先生は緋村抜刀斎と渋海の手下の一人である赤末をぶつけるために、手紙で緋村を呼び出した。

 先生の仕事は緋村の力量を見計ること。赤末では相手にならないと、先生は言っていた。

 見届ける必要もない、接触したのを確認した時点で神谷道場へと来るように。

 やがて緋村は赤末を倒し道場へ戻るだろうと、そう言った。

 その後おそらくは先生と緋村の一騎打ちになる。オレはそれを見届ける。

 少しでも取り込んで、己の糧へと昇華する。

 今はただ学ぶこと、それがオレの生き残るただ一つの道、そう思って。

 

「ウイング!」「シュート!!」

 

 まさか、ウイングがそこにいるなんて思っても見なかったけど。




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