meet again 作:海砂
神谷道場に帰ってからさらに小一時間問い詰められた。何しろ未来を知ってるなんて言ったもんだからさあ大変。
『オレの役者はもちろんイケメンだろうな!?』だの『神谷活心流に今後弟子は入るのか』だの、まあまあどうでもいいことばかり聞かれはしたものの、おおむね剣心が止めてくれた。
「先のことを知ることが良いことであるとは限らぬでござろう」
うむうむさすが剣心、俺の思っていることをそのままちゃんと言う前に伝えてくれたでござるよ。正直ろくなことないからねえ。知らぬが仏でござるよナムナム。てかたぶん剣心はどちらかというと過去のことを話されたくないんだろうなぁ、どうしても知られてしまう場合は仕方ないにせよ、俺みたいなのにあっけらかんと地獄の激動京都編をサクッと話されたら立場がない。居心地も悪い。知られたくないに決まってる。
剣心と目が合った。ニカッと笑っておいた。困ったように笑い返された。まぁそういう扱いにもなりますよねえ。言いませんよ、よっぽどのことがない限り。
ところでここは明治ですよね忘れてた。ガスコンロも掃除機もレンジもないですよ。料理も掃除もああ大変。現代人はもっとその文明の利器どもに感謝し崇め奉って然るべきだと俺は思うね。はい、ちょっと前までの俺自身に向けて言ってます。
せめて、せめて炊飯器だけでもあればいいものを、まずはなにより薪を割るところからカコーンと! 今の俺に必要なのは何よりも体力! 俺も神谷活心流に入るべきだろうか。しかしそうすると弥彦レベルには剣心たちの物語に巻き込まれそうな予感がヒシヒシと。
もうお世話になって数日になるけど喧嘩屋の人に紹介されたり喧嘩屋の人が襲撃されたりああ巻き込まれたくない巻き込まれたくない。
でも食わせてもらってる以上少しは役に立たないとね。雑巾で道場を磨くくらいなら俺にだってできますよ腰にくるけど痛いけど!
「成瀬さん、それがすんだらお豆腐買ってきてください、二丁!」
なるせさん、そう呼ばれるのもなれなくてくすぐったむずがゆい。前の世界では成瀬先生、その前の世界ではウイング、その前の世界では成瀬君だの拓坊だの、そういえば俺、成瀬さんって呼ばれた経験ほとんどないな。イマドキの小学生は男女問わず全員さん付けだって聞いたけどあれホント? マジか……時代は変わるもんじゃのう、俺ついていけない。
いや今の時代は明治11年! せごどんは去年西南戦争でお亡くなりになられているようなそんな時代!
明治維新とは言うものの、国はまだまだ混乱期。だからこそ今後も剣心の出番があったりもするんだけどね。
あの世界が俺の世界の過去とほぼほぼイコールであるならば、今はまだ起きてない(確認した)大久保利通の暗殺とか、あと実は東京証券取引所が開設するのがこの年だったりするのでうっかりインサイダーどころの騒ぎじゃないがバレずに株で大儲けじゃー! 無理か、元手がない。
あっお豆腐買いに行かなくちゃ。薫さん薫さん、他に買ってくるものない? あったらついでに買ってくるけどお味噌二樽とかは無理だからね持てないからね?
そういや大久保卿の暗殺は剣心の世界でだとあれだよね志々雄の部下がやるんだったよね、名前なんだっけ沖田総司がモデルの子、宗次郎。多分だけどこれ忠告しといても無理っぽいし、ていうか暗殺に関してはすでに死ぬほど警戒してるだろうし、触らぬ神に祟りなし。剣心にだけは後で軽くにおわせておこうかな。
そのあとどうなるんだっけ。ていうかその前になんかあったような。
「ただいま戻りやしたー!」
結局買ってくるのはお豆腐だけだったのですぐに帰宅し、考え事中断。
「おかえりなさい、お客様がいらしてるからお茶をお出ししといてもらえる?」
お茶を入れます。しっかり蒸らします。美味しいお茶は香りだけでも心を潤すね。
そしてお客様にお茶を出しに行った俺にペコリと頭を下げるオールバックの剣客警官さん……なんかあると思ってたのコレダッターーーーーーーーーーーーーーーー!