meet again   作:海砂

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所有権の持ち主

 やっておかないかんことがあるとです。

 

 それをやらないと、……いや、やらなくても別に問題はないんだけど、主に竜崎の頭の中が困ったことになると思うので、わかりやすく整理するとです。

 

 

 

「竜崎、デスノート貸してくれ」

 

「何に使うのですか?」

 

「ナイショ。見てりゃわかる。あと葉鳥の奥さんの部屋に入るぞ。聞いててもいいから会話許可しろ。それから俺が『所有権を放棄した』っつったらマイクで俺に葉鳥嫁に持たせたデスノートを取り上げるように指示してくれ」

 

 ものすごい百面相の後に、竜崎は許可してくれました。あー、どうせ後で説明させられるんだろうなぁ、面倒だなぁ……。

 

 で、嫁さんの横に俺は今立っているとです。嫁さんが最後に名前書いてから明日で13日目。やらなくても問題はないとですが一応後々のためにやっとくとです。

 

 

 

「初めまして。名前は名乗らなくてすみません。奥さん、デスノートのルールはご存知ですよね?」

 

 軽く頷かれた。ああこれはもうなんかすべてを諦めた、って感じだな。まぁ普通はそうなるか。火口も原作で捕まった時そんな感じだったもんなぁ。

 

 

 

「あなたを13日ルールから救うためにきました。今からあなたにデスノートの所有権を渡します。その後で、また俺に所有権を返してください。ここにいる……ああ、見えないでしょうけど死神がここにいますので、床にノートを落とした後に彼女に向かって『所有権を放棄する』という旨を伝えていただければ問題ありません。一度でも書いたことのある人間が13日ルールから逃れる方法は二つ。一旦所有権を持ってそれを放棄しすべてを忘れるか、あるいは再び名前を書いて殺すか、です。ご理解いただけましたか?」

 

 頷くのをしっかり確認してから、後ろ手に縛られた彼女の手にノートを握らせる。

 

 

 

「レム、所有権を放棄する」

 

……あれ? 俺は確か犯罪者とっつかまえる手伝いをしに竜崎についてきたんだよな……? で、この目の前の人が犯人……だったよな。何で俺こんなところにいるんだ?

 

「所有権を放棄します」

 

『ウイングさん、彼女の足元のノートを拾ってください』

 

 ノート? ああこれか。……拾ったらすべて記憶を取り戻した。OK問題はない。

 

 

 

「じゃあすみません、意味わからないと思いますがもうしばらくガマンしててくださいね」

 

 そう言って部屋を後にする。何か喚かれたけど気にしない。何とか竜崎だまくらかして自由に出来るようがんばるから我慢してね。あ、だまくらかすって『騙す』て言う意味の方言です。出来るのかとか言うな。出来なくてもやらねばならん時が男にはあるとですよ! 今がそうじゃないと良いんだけど……。

 

 

 

「今の行為の意味はなんだったんですか? 説明してもらえますよねウイングさん」

 

 竜崎が納得してくれるまで延々と説明する羽目になったとです……。お前さんの頭脳ならとっくに気付いてるだろうがよ、葉鳥が言った「所有権を放棄する」って言葉とその後のアイツの様子から見てよぅ。

 

「つまり……ノートには『所有権』なるものがあって、それを失ったらノートに関する記憶はすべて消える、と……」

 

「そ。所有権持ってない人間でもノート使うことは可能だけどね」

 

 三十分ほど説明させられました。わからんことはわからん、知らんことは知らん! で通しました。わかってることも一部知らん振りしました。余計なことは言わないに限るとです。

 

 

 

「ということは今、所有権はウイングさんにあるんですね?」

 

「ああ。だから傍にレムもいるだろ? で、13日ルールを破らずに彼女を殺さないためには、この方法しかなかったということ……お前さんなら理解してくれるな? もう一度使わせるわけにもいかんし」

 

 竜崎ならもう一度死刑宣告受けた罪人で試してみようとか言い出しかねんが……横に白夜神もいるのでそれは大丈夫だろう。

 

「と、いうことは、夜神くんや弥が過去にデスノートを持ったけれど記憶を失っている可能性もある、ということになりますね……」

 

「ああ。でもそれじゃ立件できない。記憶をなくしたのか最初から知らないのか、俺達には区別のつけようがないからな」

 

「僕はこんなノートを持ったことはない」

 

 ほらね、綺麗さっぱり忘れちゃってる。だからね竜崎、どんなに疑わしくても真っ黒に近いグレーでも、クロと断定することは出来ないんだよ。

 

「ついでに言うなら葉鳥夫妻も今は記憶をすべて失っている。……やったことを一切覚えていなくて証拠もない以上、彼らを拘束しておくのもどうかと思うんだが」

 

「それについては問題ありません。ノートに残った文字を筆跡鑑定すればすむことです」

 

 あー、やっぱりなぁ……そうくると思ったよ。やっぱ俺の力じゃ夫妻を無罪にするまでは無理だったか。

 

 

 

「本人達は何で拘束されてるのかもわからないだろうし、意味のないことだと俺は思うけどな」

 

「……けれど、罪を犯したのは事実。ノートのことを公に出来ないとはいえ秘密裏に償いをさせることは必要でしょう、先生」

 

 夜神は未だに俺のことを先生って呼んでくれるのな。俺もう先生じゃないんだけど。竜崎は親指と人差し指でつまんだデスノートをじーっと見つめながら、椅子をくるくると回転させている。天才のやることはよくわからんとです。

 

 

 

「とりあえず、所有権については良くわかりました。ノート本体はひとまず私がお預かりしておきます。ところでウイングさん、帰らなくても良いのですか?」

 

 帰る? 家にか? お前さんがちゃんと家賃払ってくれてるんだろ。別に急ぎで帰る必要はないんだが。

 

 

 

「違います、ご自分の世界にです」

 

 自分の世界? ……ああ、帰れるものなら帰りたいよ、何も知らなかったあの頃に……。ホントもう、現実逃避なんてするもんじゃないな。つか帰れないだろ多分。俺この世界で生きていく気満々なんですけど。

 

 

 

「クロロさんがそろそろ連れて帰ると言ってましたよ。包丁研ぎながら」

 

 ナ、ナンダッテー!!(AA略)

 

 アイツの場合は連れて帰るじゃないだろ拉致だろ拉致! しかもなんだよ包丁とぎながらって怖ぇじゃねーか!! 事件もほぼ解決したことだし俺逃げるかマジで。今なら逃げても誰かに殺される心配はないはず! クロロからだけ逃げ切れば良し!!

 

 

「こちらはお前達がどこへ行こうがすぐに見つけ出すことの出来る能力者を連れている。無駄な足掻きはやめることだ」

 

 だ、そうです。シュートとパームを放っておけなくて探しにいったらクロロに見つかって問答無用でタイマン会議中です……クロロが包丁(しかも出刃)ちらつかせてますやめてください怖いです。

 

 

 

「まぁ、オレとしては別に殺してからでも一向に構わないが」

 

 駄目!! ゼッタイ駄目!! でもH×H世界へ戻るのも嫌!!

 

 

 

「まだ問題が解決してないのに帰るわけにはいかない!!」

 

「ほう? ほぼ解決したと言ったのはお前だが。葉鳥夫妻は捕まった。デスノートは回収できた。夜神と弥の記憶は封印したままで。どこがどう解決されてないのか説明してもらおうか」

 

 うう、こんなところでも説明義務発生……おかーちゃん、俺実家に帰りたい。

 

「あの、言いますから出刃包丁俺に向けないでください。カナちゃんのことです」

 

 兄貴の仇とりに来たっていうのに、デスノートのことも葉鳥夫妻のことも知らされずに、この竜崎ビル(仮称)の一室で葉鳥息子の面倒を見ている、彼女をあのまま放置しておくのはあまりにもかわいそうなんだよな。竜崎たちがまともに説明してあげると思えねーし。

 

 

 

「ああ、そういえば彼女もノートの所有者だったな」

 

 今さらっと爆弾発言しませんでしたかクロロさん。何それ聞いてないヨどういうこと!? あ、前に死神がどうこう話してたあの時のことか詳しく聞かせろやコラ!

 

 

 

……

 

…………

 

 つまり、兄貴を殺したのは彼女自身で、今はその記憶を失ってるってコトか。何でまたそんなこと?

 

 

 

「オレが知るわけがないだろう」

 

『ちなみにオレも知らないぞ。アレはレムのノートだからな』

 

 リュークには聞いてないよ。……レム知ってる?

 

『……あの子は人を殺してしまって苦しんでいる兄を見ていられなかったんだろうさ。それでデスノートを使って兄を殺した。……ここからは私の想像だが、自分を裁いてほしいんじゃないかな、キラなり法律なりに。自分が記憶を失ったら兄の仇をとる為になんでもする……それこそ、捜査本部に乗り込むくらいのことはするとわかった上で、所有権を手放した……。そこにいればいずれデスノートの事が知れて、自分の罪も明らかになる。海砂とはまた違った意味で純粋すぎたから、罪の呵責に耐え切れなかったんだろう。あるいはただ単に持っていることに耐えられなくて記憶を失った可能性もあるがね』

 

 うーん……俺には良くわからないなぁ。苦しんでるなら助けようとするのが普通じゃないのか? 助けられないからって殺さないだろ普通。……ああ、普通じゃなかったのか。たぶん。普通の状態でいられるはずがないよなぁ、両親殺されて、残された唯一の家族である兄貴が狂って。……俺兄弟いないからマジでよくわからないけど。

 

 

 

「よし、んじゃカナちゃんとこいって記憶戻して真相を直接聞くか。クロロ、こないだ渡したデスノートの切れ端、アレ寄越せ。アレじゃないと記憶は戻らないからな」

 

「もう不要だと思ったので処分した」

 

 何ですと? おまっそんなことしたらまた竜崎にデスノート借りに行かなくちゃならなくてそんでまた俺に説明義務が発生するだろうがっ! もう嫌だぞあいつに説明すんのは!

 

「ならすべてを放り出して元の世界へ帰ればいい。俺は正直、この世界にも飽きてきたしな……」

 

 それはダメ! 俺の能力じゃもうあっちの世界でゼッタイこの先生きのこれない!

 

……待てよ。向こうの世界に戻ったらまた念が使えるようになるよね? そしたら俺また『現実逃避』使って帰ればいいだけじゃね? やっべ俺天才?

 

「OKわかった全部放棄する。お前さんの言うとおり木の実を食って帰ろう。だがその前に二人を呼んできて納得させないとな。三人を連れ帰るのが目的だろう?」

 

 正直カナちゃんはもうどうでもいい。記憶失ってるんだから余計なことを思い出させる必要もない。むしろ放っておいた方が彼女にとっては幸せだろう。

 

 

 

 そして俺は、シュートとパームを呼んだ。あー、一旦帰るのかぁ、H×H世界。もっかい焼肉定食は食ってもいいかもなぁ。


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