meet again   作:海砂

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就職

 ドアを抜けた場所は、ゾルディック家のまさに真ん前、試しの門の前。実際に見るとマンガ以上に迫力があるな。つかでけぇ! やべぇこんなん開けられるわきゃねぇ!

……と思ったら、シュートが開けようとしている。バカかお前さんは! 開くわけが……

 

ズズ……

 

 動いたよ!1の扉の片方だけだけど、念無しでちょっぴり動かしちゃったよ!

 シュート、恐ろしい子……!

 

「ちょっと! 何やってるんだい君達!」

 

 ほら守衛さん来ちゃったじゃないか! そりゃそうだよな。天下のゾルディック家に不法侵入ぶちかまそうとしたんだもんな。人が通れるほど扉、開かなかったけど。

 

「ごめんなさい、ゼブロさん。この子、こういう力試しが大好きで、ついやってしまったんです。許してください」

 

 パームが代わりに謝っている。そうか守衛さんの名前はゼブロさんか。すっかり忘れてたよ。

 シュートはゼーゼー言いながら悔しそうな顔で門を見上げている。いや、お前さん充分凄いってば。

 

「君たちみたいな普通の子供が開けられる門じゃないですよ。全く、なんて無茶なことをする子だ」

 

「あのー……俺を、ミケのエサ係かなんかとして雇っていただくことって、できますか?」

 

 はい、三者三様にギョっとした目で見られました。予想はしてたけどそんなに見つめられたら俺照れちゃう★

 じゃなくて。いや真面目に。

 

「給料はいりません。三人分の食事と、寝る所さえ準備していただければ充分です。働くのは俺一人ですけど」

 

「はぁ……突然やってきてそんなことを言い出す人は君が初めてですよ。でもねぇ……門も開けられないようじゃとてもここの仕事は……」

 

 ゼブロさんが言い終わる前に、俺は門の扉を、片方だけ開けた。……念で強化した上に全力で押して、片方だけなんだけど。しかもなんかシュートよりゼーゼー言ってるけど。手を離して挟まれる前に即行で逃げてその場に座り込んだ俺ヘタレ。

 

「こりゃ驚いた。片方だけとはいえ、ここの坊ちゃん方やカナリアちゃん以外でこれを開ける事ができる子供だなんて……」

 

「と、とりあえず、条件は満たせ、た、でしょう、か……」

 

 パームが横でニヤニヤしている。いやがらせか? 殺すか? ……あーあー、どうせ、お前さんなら念を使えばもっと楽に開けられるんだろうよ。

 

「うーん、あたしの一存じゃ決められないからねぇ……とりあえず、こちらへどうぞ」

 

 ゼブロさんが門の脇にある守衛室に案内してくれて、お茶まで淹れてくれた。いい人だ。

 

「ツアーで来た訳でもなさそうだし、そこの扉には目もくれずに門を開けようとするし……君達、一体どうしてまたこんなところで働こうと思ったんだい?」

 

「ちょっと事情があって、三人とも体を鍛えたいんです。少なくとも、ここの1の扉を余裕で開けられるくらいには。……で、これは企業ヒミツなんで言えないんですけど、ここの事、門の事、ミケの事、そして何よりあなた方が日々暮らしている使用人の家の事を知りまして、こうしてお願いに来た次第です」

 

 ここの湯呑みは普通の湯呑みだ。ああ、お茶がおいしい。疲れた体に染み渡る。

 

「うーん……君と話していると、なんだか子供と話してる気がしないねぇ」

 

 中の人は25歳ですから、なんていっても信じてもらえないので黙っておく。シュートがキョロキョロしている。うだつの上がらないやつだ。

 

「ちょっと待ってて下さいね。聞いてみますから」

 

 席を離れ、ゼブロさんはどこかに電話をかけている。まさかここ(門の外)から屋敷には繋がらないだろうから、多分執事室にだろう。

 

「ねえ、ウイング。何で私たち三人とも雇ってくれって言わないのよ」

 

「オレたちだって少しは役に立つはずだぜ」

 

「なぁに、こういう仕事は年長者に任せときゃいいのさ。お前さんたちには体を鍛える事だけに集中してほしいからな」

 

 勿論、嘘だ。……正直、『大人』として、思春期の子供らに……この世界にいる以上、無理な事はわかっていても、できるだけヴァーチャルな世界以外での『死』『殺人』を見せたくない、慣れさせたくない。それが、本当の理由。

 

 納得いかないといった顔でシュートがさらに口を開こうとした時、ゼブロさんが戻ってきた。

 

「OKがでましたよ。お給料は出ませんが、代わりに三人分の食事や宿は提供いたします。ご存知のようですが仕事の内容は、ミケの世話と後始末、それにこの周辺の掃除だとかそんな感じですね。しかし本当にお給料もらわなくていいんですかい?」

 

「はい、構いません。ご尽力くださってありがとうございます」

 

 ゼブロさんにむけて、頭を下げる。

 

「いやいや、あたしはただ上に聞いただけですから、何もしちゃいませんよ。どのくらいの期間ここにおられるのかは知りませんが、よろしくおねがいしますね」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 互いに笑顔で手を差し出し、握手をする。顔には出さないよ、出さないけど……痛ってぇ! やっべーギュってなったよミシってなったよメリって音したよ! ひどいよゼブロさん!

 

「ところで皆さんは観光ビザでお越しですか?」

 

「いえ、不法入国です。……ナイショにしといてくださいね」

 

 ニヤリと笑って、パームが人差し指を立てて唇に当てる。……やっぱ俺さ、お前さん変化系だと思うんだけど、そこんとこどうなのよ?

 

 なんてことはともかく、ゼブロさんに扉を開けてもらって、俺たちは使用人の家に案内された。途中でミケを見た。べ、別に怖くなんかないんだからねッ! 俺チビッ子だから、ほんのちょっと、ゼブロさんの影に隠れちゃっただけなんだからッ!

 

「シークアント! 交代の時間だよ!」

 

 家から出てきた胡散臭そうなおっちゃんにも、一応頭を下げる。……確か元プロハンターだ……ったはず。シークアントって名前なのか。駄目だ俺、ネフェルピトーとかネテロ爺さんとか、最近出てきたキャラの名前しか覚えてねーや。

 

「ん、客か? 珍しいな」

 

「いえ、今日から一緒にこちらで働かせていただくウイングと申します。よろしくお願いします」

 

 なんかさ、そろそろ慣れてきた。ヒトじゃないものを見るような眼差し。でも、この人の視線からは、何か怯えみたいなものを感じる。……ちっさい執事の女の子に子分ごとボッコボコにされたんだっけ? トラウマになるには充分だよな。そこで雇われるのもどうかと思うし雇う方もどうかと思うけど。

 

「いや、俺も割と最近入ったばっかりだからな、まあよろしくやろうぜ。あとの二人は何だい?」

 

「あ、俺のオンナとパシリでぐはぁ!」

 

 問答無用で同時に殴られた。すいませんごめんなさい調子に乗りすぎました。痛いです頭は勘弁してください。

 

「三人で体鍛えるためにここに来たんだそうだ」

 

「へぇー、正気か? ゾルディック家で修行とは、随分突飛なことを考えつく小僧だな」

 

 ぐりぐりと頭をなでられた。痛い痛い、俺が地面にめり込んじゃうよ! ここの人ら感覚おかしくなってるよ! でも、そのくらいにならないといけないんだろうな、俺らも。

 

 家の扉は俺の筋力でも、念無しで開ける事ができた。……ギリギリ片方だけ。俺ヘタレ。マジで鍛えないとな。

 念をうまく使ってスリッパでてくてくと歩くパームと、筋力のみで無理やりずりずりと歩くシュート。なんか「ふんぬらば!」とか言ってるけど気にしない。俺? 最初から履いてない。だ、だって足の指折れそうなんだもんよ! もうちょっと鍛えてからにするよ!

 んで、家の中で再びお茶を淹れてもらいつつ、互いに自己紹介をした。ちなみに最初にいただいたお茶の感覚で湯呑み持とうとして重さに耐え切れずプルプルしてひっくり返したのはナイショだ。また笑われた。やっぱり俺ヘタレ。

 

どこまでやれるか、どのくらいの期間でどのくらい強くなれるのか想像もつかないけど、やるしかない。やろう。やれるかな。やれるといいな。

 とりあえずゼブロさんに借りた上下50キロの服を着てみた今はちょっぴり後悔している。

 結局どこまでいっても俺ヘタレ。


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