Fateで斬る   作:二修羅和尚

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短いですがどうぞ


七十八話

 丸一日体を休めたおかげか、本調子を取り戻した俺である。

 まぁ、宝石も使って治癒魔術をかけていたし、十二の試練(ゴッドハンド)の効果もあるのだろう。

 

 そう、十二の試練(この宝具)

 

 あんまり意識して使うことがないから完全に頭から抜け落ちていたが、ギリシャ神話の大英雄たるヘラクレスの成した十二の偉業を宝具に昇華したこれは、十一個の命をストックするという破格のもの。

 

 一度受けた攻撃への耐性獲得、一定以下の攻撃の無力化、再生能力+蘇生能力、と破格の性能を誇る宝具。それをあの大英雄が使うのならばもう何それチートとしか言わざるを得ない。

 

 俺がもつこの宝具はその原作の劣化コピー。具体的にいえば、耐性獲得、再生蘇生能力、命のストックが得られるのだ。

 まあその代わりに、一定以下の攻撃の無効化に加えて、ストックの回復ができないようになっている。つまるところ使いきりのようなものだ。

 だがそれでも、その性能はやはり破格としか言いようがない。

 

 今回の筋肉痛もどうやら肉体に対するダメージだと判断されたようで、再生能力に加えて、耐性も獲得したようなのだ。

 

 これで前回のように筋肉痛で思うように動けない、という事態にはならないはずだ。

 

 

 …なんか、どんどん俺の存在が規格外になっているような気がするが、まぁ、喜ばしいことなので良しとしておこう。強くなることはいいことだ、うん。エスデスに対する切り札も増えるし。

 

 

 シュッ、という音を立てながら、鍛練用の槍を振り下ろす。

 天気も良く気分がいいため、今日は起きて早々に庭で朝稽古などをやっているのだが、こういう鍛練はチョウリ様の下でスピアとともにやった時以来だろうか。

 

 昨日執事の二人が頑張ったのであろう、きれいに整備されている庭。その庭の中央には鯉を飼う池があるのだが、朝日が反射して偉くまぶしい。

 普段から仕事であまりこういった景色を見ることはないのだが、たまにはゆっくりとここで食事するのもいいかもしれない。

 

 

 そんなことを考えながら、無心になって槍を振るう。

 

 「あれっ、セイじゃないの。鍛練?」

 

 背後からかけられた声にふと顔を上げると、そこにはなんとも珍しいものを見る目でこちらを見つめるスピアの姿があった。その手には、以前渡した俺製の槍。

 

 「おはよう、スピア。いつもの鍛練か?」

 「まぁそんなところ。ていうか、鍛練は欠かさないようにしてるからね。セイとは違って」

 「そりゃ、ストイックなことで」

 

 手にした槍を肩に担ぎ、やれやれと言った様子で返すが、本人には褒め言葉だったようで、ありがとっ、と答えてそのままいつもやっているのであろう鍛練へと入った。

 

 槍を構えると、眼を閉じて暫くの間瞑想状態に入ったスピア。

 その様子を見守っていると、次の瞬間には構えていた槍が突き出され、続けざまに薙ぎ払われる。そこから続けざまに、まるで踊るかのような動作で繰り出される技は、丁寧でありながら鋭い。

 

 「……ねぇ、あんまり見られるとやりにくいんだけど?」

 「いや、すまん。動きがきれいだったからな。俺の槍術も元はお前から習ったもんだし」

 

 

 スピアと二人で槍を振るいながら、昔のことを思い出す。

 俺が槍と刀を使っていることがばれたのがきっかけとはいえ、こうして技術面ではいろいろと教えられたものだ。

 

 身体能力はあるとはいえ、技術のなかった俺はついていくのに苦労したものだ。

 私兵団の人に、刀の扱いが分かる人がいたのも幸運だったっけか。

 

 あの当時は、主に月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)が主なメイン戦力。宝具というチート能力を使い、神に与えられた身体能力で乗り切るつもりであったが、たぶんそのままだったら俺はどこかで死んでいたんじゃなかろうか。

 

 古今東西、どのような作品でも、だいたいの力押しのキャラというのは後半あたりで負けてしまうのだ。

 

 主人公であるならば別なのかもしれないが。

 

 まぁ、そんな理由技術を習っておいて本当にやっておいてよかったと思う今日この頃である。多分、身体能力押しだったら、ナイトレイド相手でもやばかっただろうし、ましてエスデスなんぞ相手にもできないだろう。

 

 

 そこは自身の積み上げた努力だと胸を張りたい。

 

  

 

 大上段からの振り下ろしをキャンセルし、隣から突き出された槍をたたき落とす。

 

 「あっちゃ~、やっぱ通じないか」

 

 その犯人であるスピアはたたき落とされた槍をすかさず手元に引き寄せて構えなおした。

 

 「まぁ、久しぶりだったしな。やるとは思っていた」

 「考え事してるみたいだったし、いけるかなと思ったんだけど、やっぱり甘かったか」

 

 あはは、とごまかすように笑うスピアであったが、こちらもお返しとばかりに足元を狙って槍を薙ぐも、スピアは軽い身のこなしでこれをかわす。

 

 これはまだ俺がチョウリ様の元にいたころ、いつも通りスピアとともに鍛練をしようと思っていた時から始まったものだ。

 

 要は、スピアの不意打ちから始まる実戦形式である。

 俺に身体能力の差で完勝されたのがよほど悔しかったようで、その次の日から突如行われるようになった。

 

 ちなみに、心眼(偽)により、俺には通じないという。

 

 「さぁて、久しぶりの鍛練だ。いい汗はかかせてくれよ、スピア」

 「ムッ、望むところよ! 私だって成長してるんだからね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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