Fateで斬る   作:二修羅和尚

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とりあえず、今月はこれで最後。
またかければ、八月中に書こうと思います。


七十七話

「……っ、くそっ、たれが……!!」

 

 

無理をしてひどく酷く痛む体であるが、破魔の紅薔薇を支えにすることで何とか倒れることだけは阻止した。わかっていたことであるが、このスペックの解放はなかなかにきつい。

 

だが、そうではないのだ。

 

 

「ずらされた……!」

 

とっさの判断か、あるいは勝手に体が動いたのか。

本来なら、心臓に向かって穿たれたその槍は少女を一撃で即死させるものだったはずだ。それがずらされ、結果的に槍は右の胸に突き刺さったのだ。

 

仕留めたものと思ったが、そこは流石ナイトレイド、というべきか。

 

しかし、あれでは重症なのは間違いがない。戦線離脱させられれば、セリューと鉢合わせることもないだろう。ならば、最低限の目的は達成できたと考えるべきか。

 

 

「Fateの部隊は、念のために帝具が落ちてないか見てきてくれ。なければ、それでいい」

「はっ、かしこまりました」

 

すぐに返事を返したランサー隊とセイバー隊はそういって、下へと飛び降りた。

 

それを見届けた俺は、痛む体を押して下へと降りる。

一応、屋敷の方ではどうなってたのかを残ってたやつらに聞かなきゃならんからな。

 

 

「……にしても、体が痛ぇ…」

 

解放すればエスデスさえも越える戦闘力が手にはいるが、そうなれば反動はこの程度ではすまないだろう。

徐々にでも練習してならした方がいいだろう。

……練習場所、考えないとな。道場だと全壊しかねん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果報告となってしまうのだが、どうやらトラップの運用についてはほぼ完璧に近いものであったらしい。

最初に軽いトラップ群で相手を内側へ呼び込み、一定ラインを越えれば結界を発動。逃げられないように、今度は当たれば重症は免れないトラップを展開させる、といったものだった。

なお、トラップの発動タイミングは全てキャスター隊による手動操作。一般人ならまず不可能であるが、脳の強化に趣をおいた彼女らならなんとかなる。

 

 

で、だ。結界のところまではよかったのだ。

現にトラップのみでナイトレイドを追い詰めたし、ナイトレイドを相手にさせたバーサーカー隊も、アーチャー隊の援護があったとはいえうまく機能していた。

 

では何がいけなかったのか。

 

簡単だ。インクルシオが覚醒したのだ。

 

 

インクルシオが覚醒したのだ。

 

 

 

 

 

覚・醒したのだ

 

 

とりあえず、一言もの申したい。

お前、どこの主人公だよ!?!?

 

 

狂化したはずのバーサーカー隊の膂力を上回り、ほぼ一撃で戦線離脱を余儀なくされたバーサーカー隊。アーチャー隊も奮闘はしたものの、鎧の前には追尾する矢も関係なく、爆発する矢でさえ効果は薄かったそうだ。

 

で、破れないと自信を持って張った結界が力任せに破られた、と。

それで、仲間の方もどこからともなく飛んできたあのワイバーンみたいな危険種に乗って逃げた、と。

 

……ピンチに強くなる。ほんと主人公染みてるな。

 

 

もしかしたら、この世界はあのインクルシオの少年を中心としているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

で、だ。

 

はぁ、と心の中での一人言が終わったところで俺は目の前の光景にため息を吐いた。

 

そこにいたのは土下座する二人の執事服の青年が二人。

 

体の方は大分よくなったのだが、大事をとって今日は仕事を休んでいる。そのため、ゆっくり寝れるなと思って寝て起きたらこれだ。

 

「……だいたい言いたいことは分かるが、何で土下座?」

 

「申し訳ございません。我らが不甲斐ないばかりに、ナイトレイドを取り逃がしてしまいました」

「この体と力を主様にもらっておきながら、情けないことでございます。であれは、その償いをさせていただきたく」

 

顔を伏せたまま、丁寧な謝罪をする二人の青年。

 

信じられるか? こいつら、Fateのバーサーカー隊なんだぜ?

 

普段は屋敷で執事として働いている二人であるが、いざ戦闘となれば筋肉が膨張し、服は弾け飛び、理性を失った狂戦士として動き出す。

狂化こそが真骨頂である彼らは、常に狂化させておけないので普段はこうして屋敷の仕事を手伝わせているのだ。

尚、仕事ぶりは見事の一言。今では執事が本職と言っても誰も疑わないだろう。

 

あとはほら、執事がめちゃくちゃ強いって、なんかよくね?

 

 

「別に構わない。今回は色々と試した部分も多い。お前たちの運用についてもそうだったしな。こうしてナイトレイド相手に生き残ったんだ。それで十分だよ」

 

 

「しかし……」

 

「それで気が済まないのなら、庭の片付けでもやってこい。昨日ので大分荒れてるからな」

 

「っ、おまかせを!」

「身を粉にして働かせていただきます!」

 

嬉しそうに顔をあげて立ち上がった二人は、部屋を出る際に一度礼をして退出する。

 

……廊下を走る音が尋常じゃないのだが、まさか狂化使ってないだろうな?

 

「……で? いつになったら入ってくるんだ、セリュー」

 

「あ、あはは…バレてた?」

 

そういって入ってきたのは、いつもの緑の服を身に纏ったセリューだった。コロもぐだっとしてはいるが、腕に抱かれている。

 

「気配でな。こりゃ潜入とかは無理そうだ」

 

「むぅ、それはいいすぎだよ。私だって、やればできるよ?」

 

「はいはい。それで? 何か用か。悪いが、今の俺はあまり動きたくないんだ」

 

「……また無理したんだね」

 

そのまま俺の寝るベッドの側まで歩いてきたセリューは、ポフッ、と俺の足元付近に腰かける。

 

「ワフゥ」

 

そしてそのまま抱いていたコロを俺の上にのせた。コロもコロで、ぐでぇっとしたご様子。まるでどっかの卵だ。

 

「あんまり、無理しないでね」

「してねぇよ。それに、やらないといけないことだったからな」

 

はいはい、と俺の言葉を適当に流したセリューは、俺があまり動かないことをいいことに、俺の頭を撫で始める。

 

「……おい。俺、お前の上司。OK?」

「ちょっとなに言ってるかわかんないなぁー」

 

ニヤニヤと笑いながらも撫でるのを止めない部下。

チョップの一つでもお見舞いしてやりたいところだが、体が怠いのでやめておいてやろう。

 

……何気に頭を撫でられるのは前世以来かもしれないな

 

 

「フフッ、セイ君もこうしてみれば年下なんだね」

「……うっせ」

 

 

気恥ずかしい様子を表に出さないように、目を閉じて黙る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私のこと忘れてない!?」

 

このまま何事もなく時間が過ぎてセリューが帰ってくれればよかったのだが、そうは問屋が下ろさなかったようだ。

 

勢いよく部屋の扉が開かれたと思えば、勢いそのままに飛び込んできたのはスピアであった。

 

暫くキョロクにいたため、かなり久しぶりのような感覚だ。

 

「おう、久しぶりだな、スピア。悪いが、鍛練はなしだぞ?」

「そんな様子なのに流石に誘わないって。……それより、何でセリューちゃんがいるの?」

 

何故その笑顔に影が指しているのでしょうか

 

「私はセイ君が心配だから来ただけだよ」

「あ、ほんと。ありがとうね。ほら、セリューちゃんはイェーガーズの仕事もあるだろうし、後は私に任せてね」

「大丈夫だよ。全部ウェイブ君に押し付け……手伝ってもらってるから」

「それはウェイブ君大変だよ? 私も積もる話があるしね。セリューちゃんはキョロクでも一緒だったんだし」

 

 

「あの、仲良くできません?」

 

 

「「え? 仲はいいよ?」」

 

「あ、そっすか」

 

 

とりあえず、俺のいないところで話し合っていただきたいです。

 

 

そんな俺の心はよそに二人の会話は加速していく。

途中から『久々の出番』なんて言葉も聞こえたが俺はそんなメタいのは聞こえない。

 

 

庭から狂戦士の雄叫びが聞こえる。

庭掃除で狂化するなら、早く俺を助けにこい

 

 


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