「よく戻ったな、チェルシー」
「ええ。久しぶりね、ボス」
セイの自宅を出立し、革命軍の密偵にアジトを聞き出したチェルシーは、何とか仲間のもとへと帰還した。
もちろん、後をつけられてないかの確認は十分に行ってはいたが。
ガイアファンデーションがあれば、鳥にでもなって簡単に帰られるのに、というのは帰還途中でチェルシーの呟いた一言である。
「ごめんなさい。あんな口叩いて、任務失敗だなんて……」
「いや、あれは私の落ち度だ。もっとよく調べるべきだった。……まぁ、こうして無事に戻ってこれたんだ。よかった」
そう言って安堵の表情を浮かべるナジェンダ。が、その表情は一瞬。いつもの仕事モードに入る。
「それで? お前のことだ。何か掴めたか?」
「はぁ……あんまり期待しないでね。調べようとした矢先に捕まったんだから」
そう切り出して、チェルシーは話始める。
メイドとして働いていたときのこと、セイとの戦闘、そして地下牢でのこと。
ブラートとシェーレの話に入ったところで、ナジェンダが勢いよく椅子から立ち上がった。
「生きているのかっ!?」
「ええ。今も元気に牢生活よ。あそこ、貴族の家かと思うくらいには快適だから。……閉じ込められる以外は」
「……そうか、生きているのか……」
ブラート、シェーレ、と二人の名を呟くナジェンダ。
そもそもな話、あのキョロクでの戦いでセイとの戦闘に当たらせた二人は、帝具のみが帝国に回収されてその姿は行方不明。
噂ではセイに肉片一つ残らないように殺された、などというのもあったのだ。
「あ、それとこれ」
「ん? 手紙?」
「セイの奴に渡されたわ。まぁ、勧誘の話だから断っていいと思うけどね」
このまま捨てちゃう? と笑うチェルシーに、ナジェンダは苦笑が隠せなかった。
本来なら死んでいたはずのチェルシーがこうして元気なのもあの警備隊長のおかげなのだろう。
帝国の敵であるナイトレイドのメンバーを殺さずに捕らえ、かつ拷問どころか客のように扱うそのやり方に、ナジェンダは何とか此方側へ迎え入れられないか、と考える。
しかし、その考えは開いた手紙の内容、その最後の一文で吹き飛んだ。
「っ! チェルシー! 直ぐにメンバーを集めろ!」
「えっ、ど、どうしたのよボス。何か書いてあったの?」
この反応でチェルシーは知らされていなかったのだろうと考えたナジェンダ。
説明は後ですると伝え、急いでチェルシーを走らせた。
部屋に一人となったナジェンダは、どっかりと椅子に腰を下ろすと、手にもった手紙をくしゃりと握りつぶす。
「ずいぶんと嘗めたことを言ってくれるな……!」
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その後、ナジェンダの部屋へと集まったレオーネ、ラバック、マイン、チェルシー、アカメ、タツミの六名は、チェルシーの帰還、そしてブラートとシェーレがまだ生存していることを知って喜びの声をあげた。
「喜ぶのはまだ早い」
が、ナジェンダのその一言によって止めざるをえなかった。
「チェルシー。お前がこちらへと戻る条件は何だった?」
「分かってるわ。私達ナイトレイドの勧誘、でしょ?」
「はぁ? あの警備隊長、バカなの?」
呆れたような顔で、信じられないと溢すマイン。
だが、それはここにいる誰もが思うことだ。
絶対にのらないであろうこの誘いを伝えるためだけに、態々ナイトレイドの一人を返したのだ。
それも、五体満足で情報の規制もしていない。
端から見ればただのアホだ
「いやいや、これなんか絶対裏があるでしょ」
そんなマインの言葉を否定するのはラバックだ。
なんせ、ラバックはここにいる誰よりもセイのことを知っている。
あのセイがここまでしているのだ。裏がない訳がない
「ほぉ? ラバック、どうしてそう思う?」
「何でって言ってもなぁ……あいつ、裏で手を回してる割には力技っつーか何というか…。とにかく、わかりきったことをするやつじゃないと思うんですよね」
ラバックのその答えに、ナジェンダは黙り込む。
え、まさか当たりなの? という表情のラバック
「チェルシーが警備隊長から受け取った手紙の内容。その大半は我々ナイトレイドの勧誘だ。だが、問題は最後の一文だ」
『一週間後。ブラートとシェーレを処刑する』
その言葉を聞いた瞬間、その場の全員が息を飲んだ。
「ボス…」
「分かってる。お前の思う通り、これは我々を誘き寄せる罠だ」
アカメの言葉にそう返したナジェンダ。
明らかにこちらを誘い出すための罠。
だがそれでも、助けられるならば助けたい
「…俺は行くぜ、ボス」
「タツミ……」
「兄貴が生きてるんだ。絶対に殺させはしねぇ!」
腰に携えたインクルシオの剣の柄を握りしめ、強い決意に満ちた顔でそう言ったタツミ。
その姿に、他の面々も表情を引き締める。
例え罠だと分かっていても
それでも、仲間は必ず救う
そんな彼ら彼女らを見て、ナジェンダははぁっ、とため息をついた。
だが、嫌いではない
「各員、これより我々はブラートとシェーレ、二名の救出作戦にはいる。チェルシー、タツミ。あの家に入ったことがあるのはお前達だけだ。頼りにするぞ」