Fateで斬る   作:二修羅和尚

81 / 92
七十話

カツンカツンと、石造りの階段を降りていく。

 

一応、この先は家の重要機密であるため、知っている人間も少ない。

俺以外だと、食事などのやつらの身の回りの世話を担当するエア達くらいだろう。

 

少し永目の階段を終え、そのまままっすぐ突き進んでいく。

すると、通路の奥の目的の場所が見えてきた。

 

現在の住民は三名。それでもあの牢屋なら十分な広さになるはずだ。

 

挨拶する前にそろっと中の様子を伺ってみる。

 

 

「ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!」

 

上半身裸の大男ーーブラートがこちらに背を向けてスクワットをしていた。

 

「………」

 

「ハッハッ……ん? 誰かいんのか?」

 

何とも言えずに呆然としていると、ブラートがこちらの気配に気づいたのかそう言って振り向いた。

仕方なく、俺も姿を現す

 

「よう、久しぶりだな」

 

「お前……警備隊長か」

 

俺がきたことに驚いたのか、ブラートが少しばかり目を見開く。

 

「え、セイ来てるの?」

 

「あ、お久しぶりですね、セイ君」

 

「セイ君やめい」

 

ブラートの声に奥の方で本を読んでいた二人ーーチェルシーとシェーレがやってくる。

チェルシーは家への潜入以来、他二人はキョロクでの一件以来の再開だ。

様子を見るに、特に変わった様子はないようだ。まぁ食事も出してるし、環境も充実してるから問題ないとは思うが、閉じ込められてるってだけで精神的ストレスはあるからな。

 

「そこでの生活はどうだ?」

 

「閉じ込められてるって以外、捕虜の扱いとは思えないな」

 

ふぅっ、と用意してあったタオルで汗をぬぐいながらブラートが答える。

まぁでも、そればかりは仕方ない。それを何とかしちゃったらただの客人だからな。

 

わざとらしく肩を竦めた俺は、他の二人は? と女子二人組にも聞いてみる。

 

「私は前から変わってないよ。ていうか、ここ配慮よすぎでしょ」

 

「私も特には」

 

「そりゃよかった」

 

環境にかんしては特に問題ないようだったのでよしとする。

 

「ーーで? 普段顔を見せない警備隊長が、何のようだ?」

 

いつの間に服を着たのか、ブラートが格子越しに俺の真正面に立った。

こうしてみると、本当にでかい。まして、警戒するような雰囲気を纏うその姿に、流石百人斬りと思わざるを得ない。

 

「そう警戒するなっての。今回はお前らにいい話を持ってきてやったんだ」

 

「いい話?」

 

首をかしげたシェーレにおうさ、と返答する。

 

「つっても、勧誘だけどな」

 

「なんだ、いつものか」

 

はぁっ、とため息をつくチェルシーに、思わず笑ってしまう。

牢屋って状況じゃなければ、とても捕虜には見えないだろうな。

 

ちなみに、いつものってのはここに食事を運ぶエア達が勝手にやっていることだ。

まぁのれば儲けものって程度なので期待はしていないし、今回に関してもそうだ。

 

「そういう話なら話すまでもねぇぜ。断らせてもらう」

 

「結構いい条件出してると思ったんだけどな…」

 

「条件云々の話じゃねぇんだよ」

 

ここだここ、と己の胸を叩くブラート。

まぁその気持ちも分からなくはない。

 

「それでは、セイ君が革命軍に入るというのはどうでしょうか?」

 

「ねぇよ」

 

「いや、案外いい話かも知れねぇな……」

 

「話聞いてる? ねぇよ」

 

思わずこちらが呆れてしまう。

俺は大きな恩のあるチョウリ様の部下だ。あの人が革命軍に入るというならばそれも考えるが、既にチョウリ様は革命軍からの誘いを断っている。なら、俺が革命軍に入るという選択肢はない。

 

「まぁ勧誘については期待してねぇからいいんだ。本題は次だ」

 

俺は佇まいを直すと牢屋の出入り口に近づいた。

 

「……え?」

 

チェルシーから驚きの声が漏れる。

当たり前だ。なんせ、閉じ込めた俺が鍵を開けたのだからな。

 

「チェルシーだけ出ていいぞ」

 

「え……え?」

 

「……おい、どういうつもりだ?」

 

戸惑うチェルシーをよそに、疑うような視線を向けるブラート。その雰囲気に若干の殺気が混じっているのははたして、意図してのことなのだろうか。

 

「そう怒るなよ。チェルシーに頼みたいのは、ナイトレイドの他のメンバーにこの勧誘の話を伝えてほしいんだわ」

 

「マジで言ってんのか? 誰ものるわけねぇだろ」

 

まぁ普通に考えればそうだよな。

俺だってそうなったら儲けもん程度の考えだし

 

「まぁまぁ。でも、わかんねぇだろ? もしかしたらいるかもしれねぇし。試してみる価値はあるからな」

 

「……なら、俺がいく」

 

「ダメに決まってんだろ。アホか?」

 

俺がこの役目をチェルシーに頼む理由。

まぁ考えたら分かるだろうが、行かせた奴が戻ってくる可能性なんて皆無だ。実質、相手の戦力を増やすことになる。

なら一番戦力にならないやつを送ればいい。

ブラート、シェーレは帝具なしでも戦力にはなるだろう。

それにたいし、いくら暗殺に優れていようとも、チェルシーのそれは帝具ありきで成り立つものだ。帝具を取り上げてる以上、一般兵で十分対応可能だ。

 

「頼み事とは言ったが、これは強制だ。行かないという選択肢はないと思えよ?」

 

「チェルシー……」

 

「……分かったわ」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

無事引き受けてくれたチェルシーを伴って、俺は家の門まで送ってやる。

何日か分の食料やら何やらを詰めた荷物を持たせているため、飢えることはないだろう。

 

なにも言わずに家から去っていくチェルシーを見送った俺はそのまま自室へと向かった。

 

「あの、よろしかったんですか?」

 

「ん? 何がだ?」

 

自室へと向かう途中、側に寄ってきたエアがそう問いかけてきた。

 

「ナイトレイドが誘いに乗るとはおもえませんし、あんな相手の戦力を増やすようなことを…」

 

「ああ、別に構わないよ。そもそも、あの勧誘云々は目的に入ってはないからな」

 

ナイトレイドのリーダーであるナジェンダへ届けるようにとチェルシーに持たした手紙。

チェルシーには勧誘の話が書いてあると言ってあるが、それに付け加えてある文を付け加えた。

 

『一週間後。ブラートとシェーレを処刑する。見捨てるつもりならそれでいいがな』

 

「……挑発ですか?」

 

「当たり前だろ? 来るならそれでよし。来ないなら来ないでそれでいい。洗脳して戦闘人形にでもすればいいさ」

 

まぁできればやりたくない手ではあるが

 

「だが、公開処刑されるシェーレを態々助けるお人好しの連中だ。必ず来るだろうよ。そうやって、誘われ出てきたら狙いどころだ」

 

俺の目的はただは一つ。

 

あの銃の帝具使いのみだ。

 

「あの、相手は最強と呼ばれる暗殺者集団なんですが…」

 

「何、心配することなんてねぇよ。暗殺者(アサシン)は闇に紛れて不意をつくから脅威なんだ。陣地防衛特化の魔術師(キャスター)が万全の準備をして負けることなんかほぼねぇよ」

 

さて、歓迎の準備でも始めるかね

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。