Fateで斬る   作:二修羅和尚

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六十七話

「さて、あなたの相手は私、ということになりますね」

 

イゾウの刀を防ぎ、更には蹴り飛ばしたアルフレッドは、チャンプの相手をボルスに任せて自身はイゾウのもとへ。

丁度、起き上がる途中であったイゾウは数メートル先に立った男を見てニヤリと笑うと和服についた汚れを払いながら刀を構えた。

 

「なかなか、見事な技だ。江雪に与える食事としては申し分ないぞ」

 

おぉ、あやつの血が欲しいか…と刀身を撫でるイゾウ。その姿に、うわ何この人痛い、と内心で思いながらもアルフレッドはトンファーを構えた。

 

「参るっ!!」

 

先に動いたのはイゾウだった。

 

踏み出したその一歩で瞬く間に合間を詰めたイゾウは、流れるように刀を袈裟斬りに放つ。

が、アルフレッドもそれは見えており、刀の軌道上にトンファーを構えて受け流すと、おかえしとばかりにトンファーの尖った先端をイゾウの目に向けて突きだした。

 

両者ここまで、挨拶のようなものだ

 

が、そのあいさつが一般人には目で追えない速度で繰り広げられるのだ。

 

互いに譲らず高い金属音が辺りに何度も響き渡る。

手数で有利なアルフレッドに、リーチで有利なイゾウ。

 

刀の間合いを取ろうとするイゾウに対して、詰めようとするアルフレッド。

 

「それほどの剣の腕がありながら、やっていることはクズ当然。理解に苦しみますね」

 

刀をトンファーで受け止め、力の拮抗した押し合いになった際、アルフレッドは目の前のイゾウに話しかける。

 

「あなたならば、いずれ剣豪として名を馳せることだってできたはずですよ」

 

「くだらん! 拙者はただただ人を斬れればそれでいい。それが生き甲斐。今も斬りたくてしかたないのだ!!」

 

戦闘に入って少しばかり気が高揚しているのか、イゾウは興奮気味に言葉を返した。

返事を聞いたアルフレッドは、ダメだこの人と思いつつ、刀をかち上げ、回し蹴りを放つ。

 

「なんのっ!!」

 

しかし、それを恐るべき早さで刀を引き戻し、盾にすることで防ぐイゾウ。本人も当たる直前で蹴りの来る方向と逆に飛んでいたためダメージもほとんどない。

 

「……リーチが足りないか」

 

ぼそりと呟いたアルフレッドは、さて、どうするかと考える。

手数が上でも当たらなければ意味がない。ほぼ拳の届く距離と変わらないため、刀には不利だ。

 

「…では、伸ばすとしますか」

 

ジャラッ、と両手に構えたトンファーから音がして変化する。

イゾウもその変化に気づいたのか、一瞬だけ目を見開いてそれを見た。

 

 

アルフレッドの肘側の先端。その部分が外れ、鎖が飛び出した。

その端には重しもついている。

 

調子を確かめるようにブンブンとそれを回すアルフレッド。

 

 

某キャラのトンファーの機能を模してセイが作った機構だ。

 

「ふむ…久しぶりに使いましたが、まぁ大丈夫そうですね」

 

よかったよかったと笑うアルフレッドは、次の瞬間、腕を振るう。

振るわれたそれは流れに従うようにイゾウの刀に巻き付いた。

 

「っ……甘く見るなよ…!」

 

アルフレッドの意図を察したのか、イゾウは刀の柄を握りしめる。あと一瞬でもその行動が遅ければ刀を取り上げられただろう。

 

ギンッ、と鎖が緊張する。

 

がしかし、その直後だった。

今度はアルフレッドが間合いを詰め、空いたもう一方のトンファーで殴りかかる。

その途中、ガコンッという音と共に、トンファーのサイドから刃が飛び出した。

 

普通、トンファーの中に鎖を仕込み、更には、刃のからくりまで仕込めば、耐久性が著しく落ちるのだが、そこはセイの魔術で何とかした一品だ。

 

またもからくり…! と驚いたイゾウは何とか鎖で繋がれた刀を力づくで引き戻して刃を防ぐ。

 

そして、ガンッ!! という音が頭の中に響き、意識を飛ばすイゾウであった。

 

 

ふぅ、とアルフレッドは息をつく。

トンファーの刃を受け止める際、急な動きで頭が追い付かなかったのか。イゾウはもう一方の鎖と重しの存在を忘れていたように思える。

 

刃を受け止めた際、トンファーの勢いそのままに振るわれた鎖は、鎖とトンファーの接合部を支点とし、円の動きでイゾウを後ろから奇襲したのだった。もちろん、狙ってやったものである。

 

「他への加勢は……必要なさそうですね」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ハァッ! ハァッ! ハァッ!」

 

「クソッ、離せよクズが!!」

 

「ウァッ!?」

 

体の至るところに矢が突き刺さったシュラ。そして尋常ではないほどに顔を腫らすイエヤス。

 

自身を狙ううざったい弓兵を仕留めようとするシュラなのだが、イエヤスが邪魔をするせいで思うようにはいかないのだ。

抜けようとすればしがみついてでもシュラを止めようとするイエヤスは、その度に拷問じみた攻撃を食らっているのだ。

 

「もういい。先にテメェを殺す。殴殺なんか、スカッとしそうだなぁ!!」

 

その言葉に反応したのか、自動追尾の矢が飛んでくるのだが、シュラはイエヤスが落とした剣を拾うと飛んできた矢を切り払った。

 

「ははっ! 対処法みぃーっけ!」

 

剣を肩に担ぎ、さも愉快そうに笑うシュラ。

その憎たらしい顔がゴーグルの遠視で見えているだけにサヨの弓を握る手に力がこもる。

 

「…そうだな、手足切り落として達磨にするのもいいな!」

 

動けないイエヤスの背中を踏みつけながら笑うシュラ。

 

「そうか、お望みならそうしてやるぜ?」

 

「は?」

 

突如真後ろから響いた声に思わず間の抜けたような声を出したシュラは振り返った先にいた骸骨の仮面に一瞬で警戒を露にして距離を取った。

 

 

「おいおい、逃げんなよ」

 

距離をとるシュラに一瞬で追い付き、真正面の至近距離から顔を覗かせてくる男。

拳を放つが軽い身のこなしで往なされる。

 

「なんだてめぇら! 俺が大臣の息子としってやってんのか!?」

 

着地し、転がるようにしてもう一度距離をとるシュラはそう叫んだ。

 

「あ? 知ってるけどなにか? わかりきったこと聞くんじゃねぇよ」

 

「て、てめぇ……!!」

 

「ま、んなことよりだ」

 

トスッ、とシュラの背中に何かが突き刺さる。

なんだ、とシュラが振り替えれば、そこにいたのはまたも骸骨の仮面を被った女。

 

そして自身の背中には一本の針が突き刺さっていた

 

「て…んめ……なに、を…」

 

「安心しなさい。ただの即効性の毒だから」

「殺すなよ?」

「大丈夫よ。麻酔よ、麻酔」

 

飛びそうになる意識の中、シュラはそんな二人のことを睨み付ける。

こいつらも、絶対に殺してやる……!! と

 

だが、彼はもっと自分の心配をするべきだろう。

 

ざっ、と何者かが倒れるシュラの前に立った。

そして、勃っていた。何がとは言わない

 

シュラはその巨漢ともいえる男を見た。

 

「ウホッ、いい男」

 

や ら な い か

 

そんな言葉が耳元でささやかれた

 

ナニかを察したのだろう。シュラは動かない体を何とか動かそうとして、僅かながらに身じろぎができた。

が、

 

 

ガシッ!!

 

 

 

 

っと、

 

何者かがシュラの尻を掴んだ。

 

「知っているか? 犯していいのは、犯される覚悟のあるやつだけなんだぜ?」

 

恐怖で意識がイッたシュラであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「えっ?」

 

「なぁっ!?」

 

場所が変わって、こちらはチャンプとボルス。

巨漢の両者が睨み合う絵面はなかなか迫力があるものだった。

だがしかし、その両者は今起こった出来事に驚かずにはいられなかったのだ。

 

 

六つの球であるダイリーガー。その球全てが射ぬかれた(・・・・・)

 

突如飛来した矢が、投擲途中だった球も、チャンプの手にあった球も。

その全てを貫通(・・)させたのだ。

 

明らかに人間業じゃない

 

「ふむ……アーチャー達は上手くやったようだな」

 

「違いない。つーか、相手にするのはあのデブか?」

 

「他愛なし」

 

「っ!? ……なんだてめぇら……!」

 

目の前に現れた二人の男と、民家の屋根の上から見下ろす女。

男はそれぞれが剣と槍を持っており、女は黒いローブを着こんでフードを被っている。

他の特徴と言えば、全員が宝石のペンダントをつけていることぐらいだろうか。

 

「ボルスさん。あなたは下がって奥さんと娘さんのところへ行ってあげてください」

 

「は、はい…。あ、あの、あなた達は?」

 

人見知りなボルスは突然現れた人物に困惑しながらも、話しかけてきた剣の男に問いかけた。

 

「おっと、これは失礼を。…ですが、その前に仕事をさせてもらいます」

 

そう言って笑う男であるが、すぐにチャンプへ向き直ると、槍の男と共に武器を構えた。

 

「なめてんじゃねぇぞ!!」

 

怒りを露にして殴りかかってくるチャンプ。

が、そのチャンプを牽制するように矢が飛来する。

 

降り注いだ矢に思わず足を止めたことにより隙ができると、槍と剣の男はすぐに駆け出し、腕の、それも健のみを切り裂いた。

 

辺りにチャンプの汚い叫び声が響き渡る。

 

「他愛なし」

 

そして、いつの間にか近づいていたローブの女がチャンプの背中を懐から抜き取ったナイフで撫でるように切る。

 

瞬間、チャンプが白目を向き、うつ伏せで倒れた。

時折ビクンッビクンッと痙攣しているが、女はそれを汚物を見るような目でみていた。

 

 

「……と、まぁ我々のことでしたね」

 

チャンプからそっと目を反らした剣の男は、何もなかったようにボルスへと向き直った。

 

「セイ様直属の護衛部隊『Fate』。我が主の命により、助太刀に参りました」

 

 

 

 

 




部隊名についてはノーコメントで

というわけで、久しぶりの登場でしたね。

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