Fateで斬る   作:二修羅和尚

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六十五話

とりあえずは、事件があったという劇場へと足を向けた。

今頃副隊長達が捜査しているだろうが、何か手がかりがあるかもしれない。

ただ、俺が事に当たっている間に、ワイルドハントが何をしでかすかわかったもんじゃない。都民への被害をこれ以上広げるわけにはいかないのだ。

 

妄想幻像(サバーニーヤ)を最大数展開し、それぞれバラバラにワイルドハントを捜索させる。

みつけしだい、俺を含めた他の分体も向かうつもりだ。

現場を抑えて、警備隊総出で捕まえる。

 

そうすれば、あとはチョウリ様へ突きだし、オネストが動く前に皇帝へワイルドハントの所業を報告。あとは見あった裁きをチョウリ様が下してくれるだろう。

まぁもっとも、仮にオネストが邪魔して軽い刑、もしくは無罪放免になったのなら、こっそりと殺せばいい。

 

オネスト本人を暗殺してもいいのだが、一応あんなのでも大臣だ。オネストを殺したら、派閥の人間が暴走する危険がある。いつか殺すけど

 

が、しかしその息子となれば話は別だ。殺してもなんの害もない。心置きなく殺れるってもんだ。

 

 

そこまで考えていると、現場に着いた。

着いたのだか…

 

 

「……こりゃひでぇな」

 

劇場の外には大量の斬殺死体が転がっていた。

見てて気分が悪くなるが、仕事上、しかたない。

 

俺は死体の一つに近づき、しゃがみこむ。

 

雪の降る季節ということもあってか、すぐに死体が腐るという心配はない。

頭や体を一太刀ですっぱりと切断する腕にはある種の敬意を示したいが、やっていることがことだけに許されることではない。

 

刀……だろうか

 

分体が持ち帰った情報の中にあったイゾウとかいう侍。確か己の刀に血を与えることを望む人斬り。

恐らくは、こいつの仕業だな

 

「……隊長…」

 

「…イエヤスか。その様子だと、中も相当酷かったようだな」

 

「あれは……あれが、人のやることなんすか?」

 

顔を俯け、拳を握りしめるイエヤス。その手からは爪が食い込んだのか血が滴り落ちている。

 

「俺は、あれをやったのが人だとは……考えられないっすよ」

 

「…だろうな。だが、現実なんだ」

 

未だに顔をあげないイエヤスの手を取り、その手に治癒をかける。

 

「だから、やつらを同じ人だと考えるな。裁きは必ず下してやる」

 

月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を展開し、散らばった死体を一ヶ所に集める。

 

「本部へ。こちら、隊長のセイだ。すぐに焼却部隊を劇場へ呼んでくれ。死体処理に当たってもらう」

 

『了解。すぐに連絡しますね』

 

無線機で本部のサヨへ連絡を繋げ、焼却部隊を呼ぶように連絡を取る。元、ボルスさんの所属していたところだ。

 

連絡を切ってイエヤスに中を案内してもらう。

 

 

酷いものだった

 

まず目にはいったのは、舞台の上で殴打されたのか、頭を潰され、ぐちゃぐちゃになった死体。

辛うじて、女性、それも高齢の人だということはわかった。

他にも、裸に剥かれ、暴行を働かれた末に殺された女性や、子供。そしてどうやればこうなるのかと思わされる干からびた死体。

 

……いや、これは血を吸われたのか?

 

「……これについては、ドロテアっぽいな…」

 

さながら吸血鬼というやつなのか。あのときの思考に、俺の血が美味しそうやらなんやらあったしな。

 

「副隊長。すぐに情報規制を。帝都中が混乱しかねない。それと警備隊を連れて、しばらく家から出ないよう都民に呼び掛けろ」

 

「了解!」

 

「よし、いけ」

 

俺の前で敬礼し、すぐに劇場を出ていった。

 

「……さて」

 

まずは宮殿のチョウリ様に報告を済ませないとだ。

 

それが終われば、次はてめぇらだ、ワイルドハント。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「へぇ~、そんなやり方が…」

 

「ふふ、エアちゃんも今度やってみるといいわよ。うちの人もすっごく喜んでくれるから」

 

「ローグも! ローグも手伝ってるんだよ! パパも喜ぶの!」

 

「お、偉いなぁ~ローグは!」

 

「うん!」

 

様々な商店が立ち並ぶストリートでの買い物を済ませたエアとそれの護衛として付き添っているファルは、途中で出会ったボルスの妻、エリカとその娘のローグと共に帰路についていた。

家が近いため、たまにこうして出会うのだ。

ローグもよくセイの屋敷へ遊びに来てはエアやルナたちと遊んでいるため仲が良い。

 

ちなみに、今は料理の隠し味についての話だったりする。

 

「夫が無事に帰って来てくれたから、手の込んだものを作らなくちゃね」

 

「ですね。ボルスさんも喜びますよ」

 

「オレ達も早く帰って準備しなきゃだな」

 

和気藹々と、楽しく歩く四人。

だがしかし、そんな四人の元へ魔の手は刻々と伸びているのだった。

 

そして、ついにはその手が届く

 

 

「お? なかなかの美人揃いじゃねぇか」

 

「え?」

 

ガシッ、とすれ違い様に腕を捕まれたエリカはその人物を見る。

額から目にかけてのクロス状の傷に、浅黒い肌。

そしてその後ろに続くピエロのような大男に、侍。

 

大臣に呼ばれたドロテアに別行動のエンシン、コスミナと別れた三人がエア達四人と出会う形になってしまったのだ。

 

「あ、あの、離してくださいっ」

 

「はぁ? 何お前、俺に逆らうつもりか?」

 

掴んだ手に力を込めるシュラ。思わず悲鳴をあげてしまったエリカの声に、ローグが動く。

 

「マ、ママに乱暴しな…」

 

「こ、子供だぁぁ!!! 天使みてぇな子供だぁ!!」

 

「ヒッ!?」

 

しかし、その行動虚しくピエロの大男に妨げられる。

大男、チャンプは鼻息を荒くしながら、ローグに迫ろうとするがそこにわって入る人物がいた。

 

「あ、あのっ! 止めてください!」

 

「ああ!?」

 

エアだ。

チャンプの威圧に怯えながらも、懸命に立ちふさがったエア。

そしてエリカの方にもファルがつき、シュラの手を蹴飛ばして払った。

 

当然、その行動でシュラとチャンプが黙っているはずがない。

 

「へぇ…お前、なかなか楽しめそうじゃないか」

 

ファルの体に視線を這わせるシュラ。

そして、自らが天使と呼んだローグとの戯れを邪魔されたことに怒りを覚えるチャンプ。

 

「邪魔すんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

本気の拳をエアへ向けて繰り出したチャンプ。

しかしそれでも、エアは退かない。

後ろで怯え、背中にしがみつくローグを守らなければならないのだ。

 

そしてエアには、自身が信頼する主がいる

 

「守って! 『劣・熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』!!」

 

瞬間、エアの首にかかっていたペンダントが赤く輝くと、七つの花弁が咲き誇った。

 

エアの身に付けていたペンダントは、セイの屋敷への連絡機能を有する他、このような結界も発動が可能となっている。

特に、外への用事で出掛けることの多いエアのペンダントは特別仕様。

セイが記憶にある宝具を道具製作のスキルで再現したのだが、原作には到底及ばない。

本家ならこの花弁一枚一枚が城壁一つと同等の防御を有しているのだが、エアの発動させたこれは花弁一枚一枚がせいぜい分厚い盾一枚くらいの防御。

しかしながら、メイド一人が持つには十分すぎるものだ。というか、普通に戦闘にもつかえそうなものだ。

まぁ本人いわく、消費魔力が半端ないし、展開時間は短い。おまけに使えて一度が限度というものらしいが。

 

 

それでも、チャンプの拳から守るには十分すぎるものだった。

 

衝突し、花弁の一枚が砕け散り、二枚目にもヒビが入る。これだけで、チャンプのこの一撃がどれ程のものなのかを物語っていたが、しかし防いだのは事実。

 

「っ!? このっ……!!」

 

一瞬驚きはしたものの、すぐにその目を怒りに染め、もう一度拳を振りかぶる。

 

 

響く足音

 

揺れる巨体

 

すぐとなりで起きた異変に顔を向けたシュラと、それを興味深げに見届けるイゾウ。

 

そして思い切り勢いをつけられた拳が突き刺さった。

 

「プゲッ!?」

 

エアの盾にではない。

チャンプにだ。

 

殴り飛ばされたチャンプは、そのまま隣で事の成り行きを見ていたシュラへと飛んでいく。

幸い、すぐに反応できたシュラはファルから距離を取る形でチャンプの巨体を避けるのだった。

 

そして、全員の視線が先程チャンプのいた場所に向けられる

 

その出で立ちは、まさに拷問官。胸に三本の傷を刻んだマスクを被った大男は、突き出した拳を背中にまわし、己の帝具、ルビカンテを手に取った。

 

「……争い事は嫌いだけど、妻と娘に手を出す君たちを、私は許さない……!!」

 

元焼却部隊、現イェーガーズ所属の帝具使い、ボルス。

そして、その後ろから続くような形で姿を表した一人の青年。

青いローブに身を包み、金の長い長髪を後ろで一つにくくった男は、にこやかに、しかしながら冷たい目をシュラたちに向けていた。

 

「なるほど、ボルスさんが走っていたから何事かと思えば……どうやら、当たりだったわけですか」

 

「何だ? てめぇらは」

 

「……副隊長。こいつらが…」

 

「件のワイルドハント、ですね」

 

更に続けて姿を表したイエヤスは、ワイルドハントの名を聞いた瞬間、キッ、とシュラを睨み付ける

 

「おいおい、そんな睨まなくてもいいだろぉ? それともなんだ? 大臣の息子の俺に逆らうってか? あぁ?」

 

分かりやすい殺意を向けてくるイエヤスを挑発するように笑うシュラ。そしてそこで殴り飛ばされたチャンプが起き上がる。

 

「……ふむ、血が欲しいのか、江雪」

 

副隊長を含めた十数名の警備隊を見て刀を抜くイゾウ。

 

 

「ワイルドハント。どうやら、この帝都で好き勝手できると思っているようですが、そう簡単にはさせませんよ」

 

「へぇ? じゃあなんだ? 俺に逆らうってか?」

 

「言っておきますが、今の大臣は二人。あなたのやっていることを報告さえすれば、オネスト大臣が揉み消すまもなく皇帝の耳に入りますよ?」

 

「はっ、んじゃ問題にならないよう立ち回ればいいんだよ。手始めに、お前ら全員殺してやろうか?」

 

「……なるほど、愚者の子は愚者、というわけか」

 

シュラに聞こえないように呟いた副隊長はため息を吐きながら、しかし自身の気分を戦闘に切り替える。

 

「ワイルドハント。劇場での所業、決して許されるものではない」

 

懐から取り出したトンファーを構えた副隊長はその切っ先を突きつける。

 

「帝都警備隊副隊長、アルフレッド・バルトフェルドが貴様らに鉄槌を下す!」




ボルスさんの奥さんの名前はオリジナルです

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