Fateで斬る   作:二修羅和尚

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久々に三千越えたぜ


六十三・五話

「ハァ……全く、面倒なものですねぇ…」

 

そう呟いたオネストは皿に盛られた骨付き肉にかぶり付く。

悩んでいるのは他でもない、革命軍と西の異民族についてだ。

 

エスデス率いるイェーガーズによって、東のキョロクで活動する安寧道による反乱を防げたことは大きいのだが、それでも厄介なものは厄介だ。

最近では、そんな帝国の外の動きにつられて、帝国内部での暴動や反乱を抑えるのに手こずってもいる。

 

これではストレスでますます太ってしまうではないか、とオネストは土産のステーキを口に運ぶ。

 

こんなシーンをセイが見れば、元からデブだよ、と思わずにはいられないだろう。

 

「ギャハハハ! そんなに食うとまた太るぜ? 親父」

 

そんなオネストのテーブルを挟んだ向かい側。

脚をテーブルにかけ、ユラユラとイスで船をこぐ額にバツ印の傷が入った男が一人。

 

「土産が美味しいですからねぇ。しかし、かわいい子には旅をさせよ、と言いますから帝国の外に出しましたが……期待していた以上に頼もしくなったみたいですね、シュラ」

 

手は止めないながらも、チラリ、と視線だけを前にやるオネスト。

そう、シュラと呼ばれたこの男は紛れもなくこのオネストの息子なのである。

 

顔立ちはオネストに似ず、かなり整っており、体もよく鍛えられているのがわかる。

これが息子と知れば、セイも顎が外れんばかりに驚くに違いない。

 

そんなシュラは、会話にあった通り今まで帝国の外で旅を続けていたのだった。

 

「いろいろ見て回ってきたが、帝国はかなり文明が進んでたぜ。南方諸国なんか銃もなかったからな。あとは西の王国なんかは面白かったぜ。帝国にはない錬金術なんてもんがあったからな」

 

「やはり、文明で言えば帝国に次ぐのは王国ですかねぇ」

 

「だろうな。ただ、唯一の心残りは東方未開の地に行けなかったってことだな」

 

少し残念そうな表情を浮かべるシュラ。しかし、そんな顔も次の瞬間にはにやりとした笑みを浮かべていた。

 

「それと、宿題だった人材集めはちゃんとこなしてきたぜ?」

 

「……ほぉ?」

 

その言葉に、オネストは一度食事の手を止めるのだった。

 

 

 

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刀を扱うイゾウ、錬金術師ドロテア、魔女と呼ばれたコスミナ、元海賊のエンシン、シリアルキラーのチャンプ

 

以上五人の実力を死刑囚との実戦で示して見せたシュラは、共に観戦していたオネストに得意気な顔をして見せた。

 

「……で? 明らかに帝具を所持しているようですが?」

 

「帝国の外にまで散らばってたのを回収してきたんだよ。それくらい好きに使わせてくれ」

 

エンシンの剣、ドロテアの牙、コスミナのマイク

 

千年前に始皇帝が作らせたという四十八の超兵器。

中には現在の技術では再現不可能なものもあるそれらは一つでも強力な力を発揮する。

かくいうシュラも、そんな帝具を所持する一人だ。

 

「それに、あいつらの実力は世界でもトップクラスだ。親父の羅刹四鬼なんてめじゃねぇぜ」

 

「ほぉ、言うようになりましたねぇ」

 

「なんなら、親父に逆らう政務官。確かチョウリだったか? 殺してやってもいいぜ?」

 

「チョウリ殿は私と同じ大臣ですよ、シュラ。……それに、頼めるものなら頼みたいものですがねぇ…」

 

チョウリの名前が出たところで、オネストは顔を歪めた。

なんせ、エスデスへのチョウリ暗殺の依頼が失敗したことにより、チョウリが帝都へ到着。その数日後には皇帝に気に入られ、自身と同じ大臣となる。

元々、先代の頃に大臣であったため、戻った、というのが正しいのだが、この出来事がオネストにとっては痛いものだった。

 

その時からチョウリを中心に、良心派の政務官が結束し、今まで冤罪で自身に逆らう政務官を処刑することがほとんどできなくなったのだ。

 

それならば、と中心であるチョウリを狙うことにしたのだが、宮殿内での暗殺はブドー大将軍がいるため不可能であるし、帰り道を狙おうにもチョウリ付きの護衛集団が邪魔で不可能。おまけに住んでいる場所はあの警備隊長の自宅であるのだが、どこの貴族だと言わんばかりの屋敷で、密偵、暗殺者を送ろうにも、侵入した直後に全滅する。

 

つまるところ、チョウリを殺すことはほぼ不可能といってもいいのだ。

 

「今はあまり手を出さないほうがいいでしょう。藪をつつけば、蛇ではなく超級危険種が出てきそうですからねぇ」

 

「親父にしてはえらく弱気だな。らしくねぇ」

 

シュラの知るオネストは保身、権力のためならあらゆる手を使う男だ。

そんな男がそのなりを潜めていることにシュラは疑問を覚えた。

 

「慎重になっているだけですよ。それとシュラ。一つだけ忠告しておきましょう。帝都で勝手をするのは別に構いませんが、やりすぎは厳禁ですよ。警備隊がやっかいですから」

 

「警備隊っつーと、あの帝都警備隊か? 確かにオーガはそれなりの実力者だが、どっちかといえば親父側の人間だろ?」

 

「シュラが出ている間に隊長が変わったんですよ。当時の副団長が今は隊長になっているんですが、その男がチョウリ殿と深い繋がりがあるようです」

 

ハァ、とため息を溢すオネストは手元の皿のピザを口に入れる。

いつでもどこでも食べるのがこの男だ

 

「けどよぉ、警備隊の隊長ってだけだろ? あんな雑魚の集団の頭やってるだけの奴に俺が勝てねぇと思ってんのかよ? 親父」

 

「…その可能性のほうが高いでしょえねぇ」

 

想定していなかったその答えに、一瞬シュラの動きが固まった。

シュラの反応なぞ気にも止めず、食事を続けるオネストは続ける。

 

「もっとも、あなたがエスデス将軍を倒せるというなら別ですが。何せ彼、エスデス将軍と互角に戦った上、それでも本気じゃなかったようですから」

 

「なっ!? 本当か!?」

 

えぇ、もちろんですよ、と難しい顔で答えるオネスト。

実際のところ、本気じゃない、ではなく、まだまだ隠し玉がある、ということなのだが。

 

「おまけに罪をでっち上げようにもチョウリ殿が動いて面倒ですしねぇ」

 

「親父がそこまで言う相手なのかよ…」

 

「まぁ、気を付けろってことですね。最近では、原理のよくわからない道具も作ってますから」

 

原理のよくわからない道具、というのはもちろん警備隊で使われている魔導具のことだ。

マップや札、縄や通信機などの今の帝国の技術を持ってしても製作が困難なもの。

 

本人に技術提供を求めているのだが、説明されてもよく分からない言葉で翻弄される始末なのだ。

 

もっとも、帝国の技術者に魔術がうんやらかんやら言ってもわけわかめであるが。

スタイリッシュがいれば変わったのかもしれないが、その本人は今は空の上である。

……いや、やってきたことがことだから、地の下かな?

 

「とにかく、警備隊には気を付けるように。下手に尻尾を捕まれて、こちらが被害を被るのは勘弁ですからねぇ」

 

「あいよ。なるべく気を付けておくぜ」

 

そう言ったシュラの目は苛立ちを含んでいたのだった

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ふむ、ここから熱い男同士のドンツク祭りが始まるんだな。……濡れる」

 

「いや、違うだろ。どうみても憎悪の目だろありや」

 

そんな二人のやり取りを見ていたのは他でもない、セイの分体である二人だ。

 

ドロテアを追っていた分体とシュラを調べていた分体が同じ場所ではちあわせたため、こうして集まって情報交換を行っていた。

 

「しっかし、オリジンも面倒そうなのに目をつけられたな」

 

「だな。あの男相手だとオリジンは受けにまわりそうだ」

 

「てめぇのその口、今すぐもぐぞ?」

 

「まぁ、俺なら二人とも受けにするがな!」

 

「よし、もぐ」

 

瞬間ナイフを取り出して相方に襲いかかる口の悪い分体。

だが、ホ◯の分体もスペックは同じ。慌ててその手を抑えてギリギリのところで耐える

 

「待て待て待て! 俺は襲うのはOKだが、襲われるのは…………いいかもしれないな…」

 

「フン!!」

 

「あべしっ!?」

 

口の悪い分体の蹴りがもろに突き刺さった。

お前ら暗殺者(アサシン)だろ、と言いたくなるような光景だが、この二人のやり取りが行われているのは闘技場のてっぺんだ。元々の気配遮断のスキルも相まって気づかれることはないといってもいい。

 

「ったく、遊んでねぇでさっさとしろ。あのシュラってやつで何か分かったことはあるか?」

 

「いいケツをしていた」

 

「よし、殺す」

 

キメ顔でいってのける分体にすかさずナイフを投擲する分体。間一髪のところでホ◯が下がり、股関スレスレにナイフが突き刺さった。

 

「待て、ちゃんとやる。あの男、どうやらオネスト大臣の息子だそうだ。今の今まで帝国の外で旅をしてきたらしい」

 

佇まいを直し、ちゃんと話すようになった分体を見て、舌打ちをしつつも話を聞く口の悪い分体。

 

「そりゃオリジンも知らねぇわけだ。で? ドロテアたちについては何か言ってたか?」

 

「なんでも、シュラ自らがスカウトしてきたそうだ。お前もあいつらを調べているからわかっているかもしれんが、中には指名手配の奴やら、危険人物までいる。あのピエロのチャンプという男はシリアルキラーらしい」

 

「なるほどな。俺も調べてるところだが、大方そんなもんであってる。あのイゾウとかいうのは帝都なら好きに人が斬れると聞いて来たそうだ」

 

「オリジンが聞けば、キレそうな言葉だな。まぁもっとも、好きに男を掘れると聞けば、俺もついてイきそうだがな」

 

「やっぱお前死ねよ」

 

 

二人の監視はまだまだ続く

 

 


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