Fateで斬る   作:二修羅和尚

64 / 92
五十六話

「セリューちゃーん! 向こうの方に賊っぽい奴等見つけたんだけど、どうするー?」

 

建物の上からキョロクの街を見下ろしていた羅刹四鬼の唯一の生き残りであるスズカが声をかけた先にいたのは、ボリックの護衛として見張りをしていたセリューであった。

 

つい先日、話もあい、帝都で一緒に買い物をしようとまで約束していたメズが死んだことで表情の暗かったセリュー。

 

ピクリ、と肩が動いた。

 

「……追います」

 

いつものポニーテールではなく、結い上げて髪飾りで止めた髪。

セリューは、そんな髪飾りをそっと撫でた。

 

「……メズちゃん、敵、取ってくるよ」

 

 

 

 

 

 

 

「ん~敵は二人ってとこかな。それにしてもセリューちゃん、勝手に動いて大丈夫なの?」

 

「ええ。隊長には柔軟に動く許可をもらってますから」

 

「ふ~ん、じゃ、問題ないねっ!」

 

キョロクの街から外れたとある遺跡の前。

そこにナイトレイドと思われる二人がこちらに気づくことなく休憩していた。

セリューとスズカの二人はその位置が丸々分かる鳥居の上に陣取っていた。

 

「あれは……」

 

「? どしたの?」

 

そんな二人を見て、セリューは目を見開いた。

 

 

どちらも知っている顔だ

 

女の方は自分が殺られた敵である。が、それよりも驚いたのは少年の方、タツミ

 

「……そっか、君はそっちだったんだね」

 

「?」

 

「……いや、何でもないです。スズカさんはこの事を隊長に伝えてください」

 

「りょ~かいっ! で? セリューちゃんはどうするの?」

 

ビシッ! っとおどけた顔で敬礼するスズカの質問に、セリューは決まってます、と返す。

 

「隊長達が来るまでの足止めです」

 

嘘だ。

 

心にもないことを口に出しながら、セリューは腰に下げていた手甲を装着する。

丸みを帯びたフォルムは、どこか女性的な印象を抱かせるそれはセイがセリューへプレゼントした手甲である。

 

スピアの槍ほどではないが、装着すれば身体強化が自動でかかり、両腕に十発ずつ弾丸が内蔵されている。更に、防御用の結界も数回ではあるが使える代物だ。

 

「OK! んじゃ、私は先にいくね。よっと!」

 

飛び降りて先に帰ったスズカには目もくれず、セリューはつい先日のことを思い出していた。

 

こういう仕事だから、死ぬことは仕方ない。

 

それは間違いなく本心だ。

だが、本心であるが故に、メズの死を受け入れることは辛かった。

 

『このメズ様に任せなさいって!』

 

グッ、と手甲を付けた拳を握る

 

敵討ち。これは自身の我儘だ。

 

「……きっと、怒られちゃうんだろうな…」

 

「キュウ、キュッ」

 

足元でコロがセリューを心配そうに見上げる。

その視線に、セリューは大丈夫だよ、と笑い、その腕にコロを抱き抱えた。

 

 

……さぁ、心を決めよう

 

「コロ、行くよっ!!」

 

「キュウッ!!」

 

抱えていたコロを片手で掴み、肩の上まで持ち上げる。

まるでボールを投げるようなそのフォームから、セリューは底上げされた力で力の限りコロを眼下の二人に向けて投擲。リリースの瞬間、コロもセリューの手を蹴り出すことで更に、加速をつける。

 

コロを使った即席の砲撃である

 

 

「っ!? 敵襲!!」

 

「のわぁっ!?」

 

直撃寸前で巨大化し、その凶悪な牙の並んだ口を開くコロ。

だが、流石はナイトレイドといったところか。直撃する前に気付くと、直ぐ様回避行動をとった。

 

「……外したか。コロ! そのまま二人を追って!」

 

「ガウッ!!」

 

着弾地点からのそりと起き上がったコロは、直ぐに二人の後を追う。

どうやら、タツミはあのインクルシオが帝具のようで、女を肩に担いで逃走している。

 

セリューも鳥居から飛び降り、コロの後を追う。その際に、底上げされた身体能力に驚くことになるが、すぐに諦めた。

なんせ、作ったのはセイなのだから

 

「セイ君だから仕方ない、か…」

 

想い人の名を呟き、くすり、と笑うセリュー。

 

「帰ったら、ちゃんと叱られないとね」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「はっ? どういうことだ?」

 

「いや、俺が知ってる分けねぇだろ? まぁ、セリューがあの羅刹四鬼のラス一と出ていったのは確か何だが」

 

見張り役だったセリューがいなかったので、ウェイブに話を聞いてみたのだが、ウェイブ自身、建物の中から外を見たときに偶々見かけただけとのこと。

しっかしあの羅刹四鬼とセリューか……変な組み合わせだな。

 

「なんか、聞いてないのか?」

 

「だから、何も聞いてないって言ってるだろ」

 

「うわ使えね」

 

「辛辣すぎねぇかおい」

 

しかし、ウェイブが知らないとなると他に有力そうな情報は期待できそうにないな。

隊長やラン、ボルスさんにクロメはキョロクの街の見回りに出ているし、ボリックの部下なんぞそもそも使えない。

 

セリューと二人でボリックの周辺警備を担ってたウェイブだったから期待したんだが…

 

「……ハッ」

 

「おい待て。何で今鼻で笑いやがった」

 

「バイ」

 

「あ、こらセイ!」

 

呼び止めるウェイブを無視してその場を去る。

さて、セリューがスズカと二人で行動していた、という情報しか得られなかったのだが、まぁここから離れたと聞けただけでもよしとしよう。

 

ただ、一緒にいるのがあのスズカってのが心配だ。

 

「何も吹き込まれてなきゃいいんだが……」

 

 

……

 

 

…………

 

 

………………

 

……………………

 

 

「……だぁっ!! 心配になってきやがるコンチクショォー!」

 

たまらず妄想幻像(サバーニーヤ)を発動させる。

 

現れる八体の分体。俺はそいつらにセリューの捜索を依頼する。

 

それぞれバラバラに街を捜索。その後、街の外を捜索という形をとる。

 

「……頼んだ」

 

「おう、俺らに任せとけよオリジン」

 

「そういうのは私達(アサシン)の得意分野よ」

 

「そんなことよりこいつを見てくれ」

 

「「「すごく大きいです」」」

 

「お前ら…」

 

「……フッ」

 

 

……大丈夫かなこいつら

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。