Fateで斬る   作:二修羅和尚

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五十五話

それから、セリューとメズは大分仲良くなったようで、今では、メズが仕事の合間にセリューと喋りにやって来るといった関係が築かれていた。たまに小物の交換などしていたしな。

年の近い女の子どうしだから、気の合う部分もおおいのだろう。俺が近くにいると、ニヤニヤしたメズが顔を真っ赤にさせたセリューをからかっている場面がよく目撃できたが。

 

 

あいつらなにやってんだろうな、とは言わない。

俺もそこまで鈍いつもりではないため、セリューから向けられる好意については分かっている。

 

チラッ、と横目でメズにからかわれているセリューを見る。

 

そりゃ、俺だって男だ。セリューは可愛いし、そんなセリューに好意を向けられることは決して悪い気はしない。むしろ嬉しいまである。

しかしながら、俺がその好意を簡単に受け取っていいのだろうか、とも考えてしまうのだ。

 

 

俺は転生者であり、特異すぎる力がある。

 

 

 

要するに、普通ではないのだ。俺は。

 

「……はぁ…やめだやめだ」

 

どうにも変なことを考えてしまう。羅刹四鬼に任せて、緩んでしまっているのだろうか?

 

「ねぇねぇ、セイ君!」

 

すぐ近くでセリューの声がした。

振り替えると、妙に目を輝かせているセリューの姿。…あと、そんなセリューに引きずられているコロ

 

いや、いつも通り抱えてやれよ

 

「メズちゃんがこの近くに美味しいケーキ屋さんがあるっていってたんだ! 一緒に行こう!」

 

「な、あ、おいちょっと!」

 

言うや否や、俺の右手を掴んで引っ張るセリュー。美味しいケーキと聞いて楽しみなのか、その足取りはやけに軽い。

 

ふと、引きずられているコロと目があった。コロも気づいたのか、なんか俺とセリューを交互に見るとグッ、と親指を立ててくる。

 

「いらんことすな」

 

軽く爪先でコロを小突いておいた

 

「ん? セイ君、どうしたの?」

 

「何でもねぇよ。それより、セリュー。お前ロマリーではボルスさんが払ってたけど金は持ってきてんだろうな?」

 

「………あ」

 

「…………」

 

「……テヘッ☆」

 

無言でセリューの頭の頂点に軽いチョップを落とす。直した手甲を装着しているため、軽くとはいえ痛いだろう。

 

コンッ、という音が響くとセリューは涙目になって俺を睨む。ほんと、こいつが年上なのかと疑いたくなるな。

 

「ほら、ついてこい。お前の分くらいなら奢ってやるからよ」

 

「ほんと! セイ君、ありがとう!!」

 

「うおっ、ちょ、そんなことで抱きつくなよ!?」

 

満面の笑みではしゃぎ、最後には俺に向かってダイブしてきたセリューを慌てて受け止める。

その際、体全体で受け止めてしまった。

 

手甲をつけていると分からなかったが、こうして布越しになると、セリューが女であることを強く意識してしまう。

丸みを帯びた小さくて柔らかい体に、シャンプーのいい匂い。

女、というよりもまだ女の子って方があっているかもしれない。

 

「……っ!? あ、あのセイ君、こ、これはそのっ………!」

 

自分が何をしているのかに気付いたのだろう。ハッ、としたかと思うと今度は素早い動きで俺から距離を取ったセリューはあわあわしていた。

 

「あー…別にいいぞ。気にしてないっつーか、むしろ嬉しかったし………」

 

「……え?」

 

「っ!! な、なんでもねぇよ。ほら、そんなことより早く行こうぜ! 時間は有限だからな!」

 

「ね、ねぇねぇセイ君! い、今なんてっ!?」

 

「うるせぇよ猪娘(いのむすめ)!」

 

「なっ!? 猪娘(いのむすめ)はないでしょ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「………は? おいエスデス。今、何て言った?」

 

「羅刹四鬼がナイトレイドに殺られた。と、言っても、一名は行方不明なだけなんだがな」

 

「そ、その一名って誰ですか!?」

 

「スズカという女だ。イバラ、メズ、シュテンの三人は遺体が見つかっている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

エスデスから伝えられたのは羅刹四鬼の敗北。

恐らくは昨日の夜、ナイトレイドと交戦し、そして殺られたのだろうとのことだった。

 

メズが死んだ。その事実を知ったセリューは覚束無い足取りで自室に入っていった。

 

「セリュー」

 

「……セイ君?」

 

ドアをノックして呼び掛けると、中から元気のない声が響いた。

入室の許可をもらって入れば、セリューは備え付けられたベッドの隅で踞っていた。

 

「……メズちゃんが死んじゃった…」

 

「………ああ。そう…みたいだな……」

 

「……うん」

 

膝に押し付けていた顔を少しだけ上げて目だけを覗かせるセリュー。

よく見れば、その手には髪飾り…だろうか? それを手に持ちながら言う。

 

「これね、メズちゃんがくれたんだ。昔使ってたらしいんだけど、もう使わないからって」

 

「…そうか」

 

「それでね、私っていつもポニーテールだから、たまには違う髪型にしたらって。絶対、似合うからって…」

 

「…そうか」

 

「それ、で…ね、今度、帝…都に、いったらね゛……!!」

 

「…そうか」

 

「うっ……ぅぇっ…………!!!」

 

初めは嗚咽を漏らすだけのセリューだったが、ついには耐えきれなくなったのか声を押し殺すように泣いていた。

目からは涙が溢れ、その手にもった髪飾りを強く握りしめながら。

 

「わがって、る…! こういう仕事だって……! こういう世界だって……!! でも……! 辛いことは辛いよ……!!」

 

「……そうだな」

 

ポンポンッと手甲を外した手でセリューの頭を軽く撫でてやる

それに、辛いのは俺だってそうだ。少なくとも親しくしていた知人の死なのだ。

 

「一緒に、買い物行こうって………約束したのに…」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ありがとうね、とセリューにお礼を言われて、俺はセリューの部屋を出た。

少しだけ顔色が戻ったセリューに少し安心しつつも、やはり俺の不安は拭えなかった。

 

はたして、セリューは持ち直せるだろうか。

 

俺がもっと何か言えればよかったのだが、何と言ってやればいいのか全く思い浮かばなかった。

 

「……嫌になってくる」

 

自分のことが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セリューが帰って来た羅刹四鬼、スズカと共にナイトレイドを追った、と聞いたのはそれからしばらくした夜のことだった

 

 


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