それから、セリューとメズは大分仲良くなったようで、今では、メズが仕事の合間にセリューと喋りにやって来るといった関係が築かれていた。たまに小物の交換などしていたしな。
年の近い女の子どうしだから、気の合う部分もおおいのだろう。俺が近くにいると、ニヤニヤしたメズが顔を真っ赤にさせたセリューをからかっている場面がよく目撃できたが。
あいつらなにやってんだろうな、とは言わない。
俺もそこまで鈍いつもりではないため、セリューから向けられる好意については分かっている。
チラッ、と横目でメズにからかわれているセリューを見る。
そりゃ、俺だって男だ。セリューは可愛いし、そんなセリューに好意を向けられることは決して悪い気はしない。むしろ嬉しいまである。
しかしながら、俺がその好意を簡単に受け取っていいのだろうか、とも考えてしまうのだ。
俺は転生者であり、特異すぎる力がある。
要するに、普通ではないのだ。俺は。
「……はぁ…やめだやめだ」
どうにも変なことを考えてしまう。羅刹四鬼に任せて、緩んでしまっているのだろうか?
「ねぇねぇ、セイ君!」
すぐ近くでセリューの声がした。
振り替えると、妙に目を輝かせているセリューの姿。…あと、そんなセリューに引きずられているコロ
いや、いつも通り抱えてやれよ
「メズちゃんがこの近くに美味しいケーキ屋さんがあるっていってたんだ! 一緒に行こう!」
「な、あ、おいちょっと!」
言うや否や、俺の右手を掴んで引っ張るセリュー。美味しいケーキと聞いて楽しみなのか、その足取りはやけに軽い。
ふと、引きずられているコロと目があった。コロも気づいたのか、なんか俺とセリューを交互に見るとグッ、と親指を立ててくる。
「いらんことすな」
軽く爪先でコロを小突いておいた
「ん? セイ君、どうしたの?」
「何でもねぇよ。それより、セリュー。お前ロマリーではボルスさんが払ってたけど金は持ってきてんだろうな?」
「………あ」
「…………」
「……テヘッ☆」
無言でセリューの頭の頂点に軽いチョップを落とす。直した手甲を装着しているため、軽くとはいえ痛いだろう。
コンッ、という音が響くとセリューは涙目になって俺を睨む。ほんと、こいつが年上なのかと疑いたくなるな。
「ほら、ついてこい。お前の分くらいなら奢ってやるからよ」
「ほんと! セイ君、ありがとう!!」
「うおっ、ちょ、そんなことで抱きつくなよ!?」
満面の笑みではしゃぎ、最後には俺に向かってダイブしてきたセリューを慌てて受け止める。
その際、体全体で受け止めてしまった。
手甲をつけていると分からなかったが、こうして布越しになると、セリューが女であることを強く意識してしまう。
丸みを帯びた小さくて柔らかい体に、シャンプーのいい匂い。
女、というよりもまだ女の子って方があっているかもしれない。
「……っ!? あ、あのセイ君、こ、これはそのっ………!」
自分が何をしているのかに気付いたのだろう。ハッ、としたかと思うと今度は素早い動きで俺から距離を取ったセリューはあわあわしていた。
「あー…別にいいぞ。気にしてないっつーか、むしろ嬉しかったし………」
「……え?」
「っ!! な、なんでもねぇよ。ほら、そんなことより早く行こうぜ! 時間は有限だからな!」
「ね、ねぇねぇセイ君! い、今なんてっ!?」
「うるせぇよ
「なっ!?
ーーーーーーーーーーーーーーー
「………は? おいエスデス。今、何て言った?」
「羅刹四鬼がナイトレイドに殺られた。と、言っても、一名は行方不明なだけなんだがな」
「そ、その一名って誰ですか!?」
「スズカという女だ。イバラ、メズ、シュテンの三人は遺体が見つかっている」
「………」
エスデスから伝えられたのは羅刹四鬼の敗北。
恐らくは昨日の夜、ナイトレイドと交戦し、そして殺られたのだろうとのことだった。
メズが死んだ。その事実を知ったセリューは覚束無い足取りで自室に入っていった。
「セリュー」
「……セイ君?」
ドアをノックして呼び掛けると、中から元気のない声が響いた。
入室の許可をもらって入れば、セリューは備え付けられたベッドの隅で踞っていた。
「……メズちゃんが死んじゃった…」
「………ああ。そう…みたいだな……」
「……うん」
膝に押し付けていた顔を少しだけ上げて目だけを覗かせるセリュー。
よく見れば、その手には髪飾り…だろうか? それを手に持ちながら言う。
「これね、メズちゃんがくれたんだ。昔使ってたらしいんだけど、もう使わないからって」
「…そうか」
「それでね、私っていつもポニーテールだから、たまには違う髪型にしたらって。絶対、似合うからって…」
「…そうか」
「それ、で…ね、今度、帝…都に、いったらね゛……!!」
「…そうか」
「うっ……ぅぇっ…………!!!」
初めは嗚咽を漏らすだけのセリューだったが、ついには耐えきれなくなったのか声を押し殺すように泣いていた。
目からは涙が溢れ、その手にもった髪飾りを強く握りしめながら。
「わがって、る…! こういう仕事だって……! こういう世界だって……!! でも……! 辛いことは辛いよ……!!」
「……そうだな」
ポンポンッと手甲を外した手でセリューの頭を軽く撫でてやる
それに、辛いのは俺だってそうだ。少なくとも親しくしていた知人の死なのだ。
「一緒に、買い物行こうって………約束したのに…」
「……」
ありがとうね、とセリューにお礼を言われて、俺はセリューの部屋を出た。
少しだけ顔色が戻ったセリューに少し安心しつつも、やはり俺の不安は拭えなかった。
はたして、セリューは持ち直せるだろうか。
俺がもっと何か言えればよかったのだが、何と言ってやればいいのか全く思い浮かばなかった。
「……嫌になってくる」
自分のことが
セリューが帰って来た羅刹四鬼、スズカと共にナイトレイドを追った、と聞いたのはそれからしばらくした夜のことだった