Fateで斬る   作:二修羅和尚

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五十三話

「なんか、こういう服って着なれねぇな…」

 

「おお、ウェイブ。まさに猫に小判を体現したような格好だな」

 

「豚に真珠」

 

「なるほど、つまりウェイブは豚である、と」

 

「余計なお世話だよ! てか、いきなり人を豚呼ばわりか!?」

 

「うるさいぞ豚。鳴くならブヒィッ! にしろ」

 

「あ、あははは…」

 

「セ、セイ君。煽るの止めてね」

 

キョロクへと赴いた俺たちイェーガーズは早速今回の護衛対象である安寧道の教祖の腹心、ボリックの屋敷を訪れていた。

このボリックという男、あのオネストが安寧道へと送り込んでいたスパイであるらしく、間もなく現在の教祖を暗殺し、自身が教祖となることを目論んでいるそうだ。

 

「まぁお前達、今は束の間の休息のようなものだ。少しでも羽は伸ばせ」

 

「…腐っても鯛ってか」

 

姿を表したエスデスも場相応の格好は弁えていたのだろう。肩を出した丈の短いドレスを着ていらっしゃった。

 

性格はあれだが、見た目はかなりだもんなこいつ。

 

「それにしてもセリューさん遅いですね」

 

「ドレス着るのに手間取ってんのかね…クロメ、ちょっと見てきてやってくれねぇか?」

 

「ん、わかった」

 

待ってて、という言葉とともにカーテンの向こうへと姿を消したクロメ。

だが、それから少しも待つことなくクロメと、そしてセリューの声がカーテン越しに聞こえてきた。

 

「く、クロメちゃん……! 待ってってば…!」

 

「待たない」

 

「慈悲もないの!?」

 

待って心の準備が……!! というセリューを無視して、クロメがカーテンを開く。

クロメに手を引かれ、つんのめるような形でカーテンの向こうから飛び出してきたセリューの姿が目に入った。

 

グリーンを基調とし、胸回りで止める形のドレス。肩を出しているのだが、指先から肘の辺りまでを手袋で覆っているため、清楚な雰囲気を出している。

髪もいつものポニーテールではなく頭の上で綺麗に結われていた。

 

「……」

 

「あ、あのセイ君……ど、どうかな?」

 

「……あ、ああ、い、いつもの猪娘(いのむすめ)には見えんな!」

 

「……もう! セイ君なんて知らないっ!!」

 

プイッと子供っぽくそっぽを向いて離れていくセリュー。その様子を見ていると、不意にけつを蹴られた。

呆れたような目を向けてくるクロメに苦笑いしかできず、その後思わずため息をついてしまった 。

 

「照れ隠しですね」

 

「おいおい、照れ隠しかぁ?」

 

「……るせぇ」

 

イケメンフェイスで微笑んでくるランと、ニヤニヤ顔のウェイブに文句を吐き、とりあえず、ムカついたのでウェイブの鳩尾を軽く殴っておく。

 

「セイ君、女の子がああきたら誉めてあげないと」

 

「……ですね。気を付けます」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

いざボリックとご対面、ということで出てきたのだが、ほんとにお前宗教関係の人間なの?って言いたくなるような奴が現れた。

 

なんか、めちゃくちゃ女に節操がないイメージしか沸かないんだけど。現に、俺たち相手にしてる今でさえ複数の女を侍らせてやがる。

 

べ、別に悔しいとか思ってないから! 俺も帝都に戻ったらメイドさんがいるし!?

 

……と、まぁ呑気にこうやって話してはいるんだけど、なーんか天井から視線を感じるんだよねぇ

 

エスデスがボリックと話している間にこっそりと持ち込んでいた月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を展開し、天井裏を探らせる。

 

お……おお? 反応がごっつい薄いが、四人ほど確認できた。

ふむ……かなりの手練れであるが、このボリック直属の実力者かね?

 

「セイ君、どうしたの?」

 

先程の怒りはどこへやら、もうすでに機嫌を取り戻しているセリュー。

一応、ボルスさんに言われた通り後で誉めたのだが、それだけで治るものなのか

 

「気づいてねぇのか? 天井裏からこっちを見てる奴が四人いるぞ」

 

「え、えぇ……気づかなかったよ…」

 

小声でやり取りをしてやると、セリューはキョロキョロと天井を気にしだした。

その行動に疑問を持ったのか、ボルスさん、ラン、ウェイブの三人が上を見上げた。

クロメは見た感じ気づいてるっぽいな。

 

「では日が来るまで私の屋敷で寛いでいただきたい。我が屋敷にはいろいろと楽しめるものが多いですからな」

 

「そんなものには興味はない。……が、天井裏から覗いている奴等には興味がある。そうは思わないか? セイ」

 

「……なんでそこで俺に振ってくるのか知らんが、別にお前ほどの興味はねぇよ。誰かは知らんがあの四人、そうとうの手練れだろうけど」

 

「ほぉ? エスデス将軍のみならず、あなたもですか」

 

あとクロメもだがな

 

ボリックが指を鳴らすと、それを合図に上から飛び降りてきた四人の人影がボリックを囲むように現れる。

 

「こいつらが私が教団を牛耳るために大臣から借り受けた暴力の化身!」

 

 

ーー皇拳寺羅刹四鬼

 

 

なんか出た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イバラ、メズ、スズカ、シュテンと名乗った四人の男女はなんというか、強者なのだろうという感じは伝わってきた。

多分、あのなかで一番強いのはイバラってやつだろうか。

 

ただ、そのイバラであったとしても多分俺やエスデスなら軽く対処可能だろう。

 

あと、別の意味でメズは強い……!!(下心)

 

「エスデス将軍たちには私の護衛に回っていただきたい。そうすれば、この四人を攻撃に回せますからな」

 

「なっ……!?」

 

「構わない。では、しばらくの間、我々はこの屋敷と聖堂の警備でもしておくとしよう」

 

「おう、構わねぇ。楽に越したことはない」

 

ウェイブが何か言いたげであるが、それを無視して俺もエスデスに賛成する。

攻撃ってことはあれだろ? つまるところこんななれない地を駆け回らなきゃならねぇんだろ?嫌だよめんどくさい

それに、この後は分体から宝石を受け取ってクロメの治療もせなにゃならん。休んで出来るときに治療に入っとかないとだ。

 

行こうか、と身を翻して部屋を立ち去ろうとするエスデスに続くクロメやボルスさんたち。

俺もそれに続こうとして……止めた

 

「『沸き立て我が血潮』」

 

首から数センチのところに礼装を展開してやる。

その直後、ガンッ、という固い音が響いた。

 

「へぇ~やるじゃんかよぉ~」

 

動いたのはイバラ

ニヤニヤした笑みを崩さずにそう話しかけてくる。

 

どうでもいい……わけないが、半裸の男に間近で迫られるとか冗談じゃねぇ

 

殺すぞ、と言わんばかりの目で睨み付けてやると、イバラはヘラヘラしたまま下がった。

 

「俺に対する宣戦布告、と受け取ってもいいんだぞ?」

 

「いやいや、それは勘弁だぜ。まぁ、そう怒るなって。帝都で噂の男の実力などんなもんか知りたかっただけだからよ」

 

「……次やったら殺す」

 

「おぉ、惚れちまいそうだぜぇ……」

 

絶対やめろ!キモいから!!

 

 

 

 

 

 


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