Fateで斬る   作:二修羅和尚

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一応、過去編一回目は終了
今度やるときは警備隊入隊してからの話ですね


五十二・五話

「あれでも甘かったのか……!」

 

ガンッ、と義手である右腕を机へ叩きつける眼帯の女ーーナジェンダ。

そんな彼女の周りを取り囲んで見つめるナイトレイドのメンバーもどこか悔しそうな表情を見せている。

 

それもそのはず。なんせ、彼女たちはナイトレイドのほぼ総力を持ってセイへと挑み、そしてまんまと逃げられたのだから。

ただ尻尾を巻いてセイが逃げた、というのならまた話は違ったのだろうが、交戦し、そして圧倒的な力を見せつけられた上で逃げられた。

 

「ボス……」

 

「…ああ、すまん。少し、感情的になりすぎた…」

 

アカメの一言に一度を目を閉じて心を落ち着かせるナジェンダ。一度深呼吸をした彼女は、アカメにありがとうと礼を返しまた考える。

 

「しかし、奴のあれはいったいなんだったんだ…」

 

「見たところ、帝具…って訳じゃ無さそうだしね」

 

「そうね。あいつ、スペクテッド着けてたし」

 

レオーネとブラートの言葉に頷くマイン。

帝具とは普通一人に一つ。一つでも体力、精神力の磨耗が激しいそれを二つ使う、なんてことは逆に本体を壊しかねない……のだが…

 

「いやいやいや! あれが帝具じゃなかったら何なんだって話だぜ!?」

 

「タツミの言う通りだ。もしかしたら、私達が知らない帝具かもしれない」

 

「それにあのスペックデッド……?」

 

「スペクテッドよ、シェーレ」

 

「はい、それです。もしかしたら、使用者への負担が凄く少ないのかもしれませんし」

 

頭を悩ませる一同。セイの異常性はもともと理解しているつもりではあった。理解しているつもりではあったのだが……ここまでくるともはや人として考えない方がいいのかもしれない。

 

そんな中、そろっと手を挙げたのは恐らくこの中で一番セイのことを知っているであろうこの男。

 

「? どうした、ラバック」

 

「あ~、ナジェンダさん。あんまり参考にならないかもなんだけど……」

 

「なんだよラバ、勿体振って」

 

「いやぁ、ね? 内容が内容だけに突拍子もないというか…」

 

「構わない。もしかしたら、何か手がかりになるかもしれないからな。それに、この中で奴と一番関わりのあるのはお前だ」

 

話してみろ、と促されたことで、一同の視線がラバックの方へ向いた。

 

「いや、そもそもの話、あれを帝具って考えない方がいいと思うんだよ」

 

「違うのか?」

 

「多分な。俺が参考にしてるのが店で売ってるバトル系の漫画なんだが…」

 

「……あんたまさか、現実とフィクションまぜこぜになってないわよね?」

 

ジトッとしたマインの視線を受けて、違う違うと首を降るラバック。

 

「そんなこと言ったら、俺らの使う帝具だってフィクションみたいな存在だぜ?」

 

「……それもそうね。ごめん、続けて」

 

「で、だ。その中に道具もなんも使わずに炎とか出すキャラがいるわけよ。他にもどっからともなく生き物召喚したりだとか、水を操るようなキャラもな」

 

ここまで言えばわかるだろ? と言いたげなラバックの表情。そんな顔に若干イラつきながらもタツミは言う。

 

「じゃあなんだよ。あのセイってのはラバの読んだ漫画のキャラみたいなやつだってか?」

 

「簡単に言うとそう言うことだ」

 

「そんな話……」

 

「あるわけない、とは言い切れないんだよな…。実際の話、あいつが使うあの銀の触手みたいなの。あれって俺が知り合った当初から使ってたんだぜ?」

 

「……そういえばそうだった」

 

一度その目でザンクとセイの一戦を見ていたタツミ。

スペクテッドという帝具を持っていないはずのあのときもあの妙な攻撃はしていた。

 

「……ふむ、なるほど。確かにラバックの言う通りか…」

 

本人の言う通り、確かに突拍子もない発想である。が、完全に否定できないのもまた事実。

 

「なんにせよ、油断できないってことには代わりねぇな」

 

はぁっ、とため息を吐くブラート。

タツミの成長に期待し、十分に扱えるであろうという判断からインクルシオを与えていたブラートは、以前襲撃をかけてきたチームスタイリッシュの男が使用していたベルヴァーグを奪い取り、そのまま自身のものとして使っている。

 

「……まさか、ラバックの意見が役立つ日がくるなんてね……」

 

「はい。明日は槍が降るかもしれませんね」

 

「ちょっと、マインちゃんとシェーレちゃん? それはちょっと酷くない?」

 

その言葉で和やかな雰囲気になった一同。

しかし、ただ一人。そんな雰囲気に馴染めないものがいた。

 

ナジェンダである。

 

「ボス、どうしたのよ。浮かない顔して」

 

「……お前達、もうひとつ悪い知らせが届いている」

 

あまり場の空気を乱したくなかったナジェンダであるが、しかし、これは言わなければならないことだ。

ナジェンダの様子を見てすぐに真剣な表情に戻る一同。その中の一人であるタツミを見て、ナイトレイドとして成長しているなと感じたナジェンダであった。

 

「……チェルシーとの連絡が途絶えた」

 

『ッ!?』

 

「前回の報告の後から、街へ買い出しに出なくなったんだ。そのため、今どうなっているのか全く分からない状況だ」

 

「…捕まったの?」

 

「いや、買い出しに出なくなっただけなんだろ?」

 

「まだわからん。が、最悪を想定しておいた方がいい。今のところ、生死も不明だからな」

 

「…下手したら、私達の情報が漏れてるって可能性もあるのね」

 

「ああ。チェルシーは喋らんだろうが、あのスペクテッドは心が読める。万が一を考えて行動しなければならない」

 

「それじゃぁ、アジトも変える必要があるのか?」

 

「それじゃぁ、変えなければなりませんね…」

 

洞視の使えるスペクテッドの前には、いくら口を閉じたところでも考えただけで話しているようなものだ。

それに捕まっているのはあの摩訶不思議生物セイの屋敷だ。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 生きてる可能性もあるんだろ? なら、助けにいこうぜ!?」

 

すこしでも可能性があるのなら、とチェルシー救出を提案するタツミ。

しかし、その意見に積極的なものはいない。

 

「タツミ、気持ちは分かる。が、今はまだ奴の情報が少なすぎるんだ。無理に危険は起こせない」

 

「でもっ…!」

 

「それに、だ。帝都の密偵の情報なんだが…大臣がけしかけた密偵が侵入直後に全滅してるんだ。こちらも慎重にならざるを得ない」

 

「…タツミ」

 

「……悪い。感情的になりすぎた…」

 

 

 

悔しそうにしながらも感情を押さえるタツミ。

だが、本心は皆タツミと同じなのだ。助けられることなら助けたい。

 

が、しかし。自分達には大きな使命があるのだ。

 

 

その目的のため、彼らは安寧道の本部、キョロクへと向かうことになる。

 


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