Fateで斬る   作:二修羅和尚

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過去編2

「うっは♪ 大漁大漁」

 

あれから数日が経った帝都のとある宿。

帝都までの道で商人からお礼としてもらった金で宿を借りた俺は、今日一日の成果を前にして思わず頬を緩めてしまう。

 

「いやはや、貴族だから溜め込んでるとは思ったが……予想以上だったな。うんうん、セイ君大勝利だな」

 

寝静まった夜を狙って俺の礼装である月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)で鍵開けやら金庫の破壊やらは楽に済んだ。

仮にその様子を見ていた奴を俺が発見した場合は眠らせて記憶を曖昧にしてやればいいし、俺が見つけなくても俺だとバレる可能性は皆無だ。

 

己が栄光の為でなく(フォーサムワンズ・グロウリー)

 

第四次聖杯戦争においてバーサーカーとして召喚された円卓最強とも謳われた騎士、ランスロットの宝具。

バーサーカー故に、狂化によってその効果はステータスや姿の隠蔽などにとどまっていたが、本来この宝具は変身宝具として使うものだ。

 

俺はこの宝具を使い、姿形を俺とは全く別の人物に変え、更に念をいれてあのアサシンの骸骨仮面を装着してからお仕事している。

 

いやしかし、この宝具魔力の消費量も他に比べてかなり少ないから便利だなうん。

 

 

今頃、貴族どもは大慌てなんだろうが、まぁこれも報いだと思って諦めてくださいな。

 

 

「さて、それじゃ今日の獲物でも見てみますか」

 

妄想幻像(サバーニーヤ)の分体達が集めてきてくれた情報をまとめた羊皮紙を手にとってそれに目を通す。

情報収集は昼夜問わずに毎日やっているため、毎回内容は更新されている。なのでリストの名前が減った気がしない。てかむしろ増えてる。

 

つまり、そこまで闇が深いってことだ。

 

「チョウリ様、大丈夫かねこれ……」

 

あと数年したら帝都に戻って諸悪の根元であるオネストととことんやりあってやる! と意気込んでいたが、はたして上手くいくのか……

 

「……いや、上手くやらなきゃダメなんだよな」

 

ならば、このまま帝都に残って、影ながらチョウリ様をサポートする、なんてやり方もあるか

 

「……考えておくか」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

余談ではあるが、俺がリストの貴族から頂戴したものは帝都の中に置いておく訳にはいかないため、帝都の壁の外、つまり森のなかに隠してある。

量が量だから、隠蔽には少し苦労したがあれで問題はないはずだ。

辺りにトラップやら監視の使い魔やらを配置し、ある一定の範囲に入れば幻覚を見るようにもした。

あとは俺の戦力補強のため、金の一部を宝石に買えたりなど。

 

「っと、ここだここだ」

 

屋根から屋根への移動をやめて見下ろした先にあるのはとある貴族の屋敷。

情報によれば、この家の主は若い独り身の男だという。あと、見た目が優男だとか。あとイケメン。死ね

 

だが、この男、田舎から若い女の子を買ってはグルの貴族連中に売り付けているらしい。

そのグルの貴族も胸糞悪いクソ野郎どもとのこと。

 

まぁそんなやつらだ。金なくなって破産しても問題ないよねッ!

 

どんなけ溜め込んでんのかなぁ~っと手と手を擦り合わせながら難なく侵入。

警備の人間も少ないためザルである。屋敷だというのに使用人の影もない。

 

「まぁ、楽できるなら問題なし」

 

分体が既に屋敷内部を調査済みであるため、金目のものや金の入った金庫やらはすぐに見つかった。

持ってきた袋にサンタよろしく金目のものを詰め込んで、金庫を水銀礼装で切り裂き中身を同じく袋へと詰めていく。

俺が入れそうな袋が四つほどできたが、まぁ英霊スペックのこの体を使えば屁でもない。

 

「あとはさっさとずらかって……ん?」

 

荷物を担ぎ上げて別ルートで帰ろうとしていたときだった。

確か、大広間の方か? 明かりがつき、何やら騒がしい。宴会かなにかあるのだろうか。

 

「呑気なもんだねぇ……明日には破産してるってのに」

 

少しでも使う量を減らした方が長く生きられるよーとも思う。

そだ、次いでだしイケメンにガンドで呪いでもかけてやらう。

そだな……下痢でいいか♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グゥッ!? ぎぃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?」

 

 

絶句した。

部屋中に少女の悲鳴が響き渡る。

黒服の男に足を逆方向に折られた少女は涙で顔を濡らしながら悲鳴をあげた。

その傍らに呆然とする二人の少女達。

 

頭が真っ白になった。

 

何だこれは?

 

状況が上手く整理できず呼吸するのを忘れていた。

 

目を反らしたくなるようなその光景から目が離せなかった。

ただ、初めて見るこの帝都の闇から目が離せなかった。

 

ナンダコレハ?

 

視線を移せばそんな少女を見て笑う男達。

 

 

軽く見すぎていたのかもしれない。この帝都の闇というものを。

チョウリ様のもとにいたときから話には聞いていた。闇が深い。腐っている。もう戻れないところまできている。

 

ただ、俺は分かっていたつもりになっていただけだった。

平和な日本で暮らし、なんとなく学生生活を送っていただけの俺。

 

言うなれば、テレビで外国の戦場を見ているような感覚だった。

 

ナンダコレハ?

 

だが今なら分かる。遅すぎた、今なら。

これは……ダメだ。

破産ぐらいじゃ終わらない。それくらい闇が深すぎる。

 

転生というものを経験し、今の今まで受かれていた

 

俺は……

 

 

「『滾れ我が血潮』!! 『斬』!!」

 

壁ごと水銀礼装でぶった斬る

 

「っ!? 何だ貴ぶっ!?」

 

「うるさい黙れ喋るなクソ虫どもが」

 

何か喋った虫がいたが邪魔だったので礼装で排除。

振るわれた銀の触手が虫の体を真っ二つに。更に触手の範囲にいた黒服どもも同じ運命をたどった。

 

「な、何だお前は!?」

 

「何をしている! 早く始末しろ!!」

 

「黙れっていったんだけど?」

 

一瞬で距離を詰め、上等な服を着た二匹の虫の口のなかに宝石をねじ込む。

 

俺の動きに目を見開きいていたが無視してすぐに離れる

 

「『爆破』」

 

汚い花火が2つ咲いた。

 

「に、逃げるぞ! お、お前たちは足止めしろ!!」

 

一人の虫が背を向けて走り出す。

その周りにいた黒虫が剣やら銃やらを持ってこっちに向かってくる。

 

面倒臭い

 

「『斬』」

 

逃げる虫も向かってくる黒虫もまとめて凪ぎ払う。

どれくらい駆除しただろうか。

 

「おい貴様! それ以上動けばこの娘が……あっ?」

 

「死ね、クソ虫」

 

少女に銃を押し付けていた虫がいたが、拾ったナイフを投擲。

反応できなかった虫は脳幹深くにナイフを食い込ませて、そのまま間抜けな声をあげてバタリと倒れた。

 

「あ、あの」

 

妄想幻像(サバーニーヤ)

 

少女が何か呟いたが、今はその暇がない。

俺は分体を三体呼び出すと少女達の保護を命じる。

 

スペックは落ちるが、虫相手には十分だろう。

 

「こ、こんなことをして分かっているのか!? 私を殺せば、大臣が黙ってないぞ!?」

 

「あっそ。言いたいことはそれだけだな」

 

淡々と、ただ何も考えずに礼装を奮う。

それだけで、虫はゴミへと早変わりだ

 

「待ってくれ! そ、そうだ! 話し合おう! 僕がこんなことをやっているのは訳があって、仕方なくやっていることなんだ! ほら、これをみてくれ! この胸の模様は奴隷の証であって……」

 

「はぁ? 聞いてねぇし。死ねよ」

 

首を狙って触手が虫を貫いた。

 

辺りを見回してみたが、もう残っている虫はいないようだ。

 

「……その子達を連れて帰るぞ。一人、治療してやらねぇとだからな」

 

 

 

 

 

 

 

その日、一人の貴族の男の屋敷で多数の男達の死体が警備隊によって発見された。

なんでも、一人の帝具使いの生物型帝具が気づいたらしい。

 

だが、不幸なことに、この屋敷の男が行っていた非人道的行為はオネスト大臣によって闇に葬られることになる。

 

 

「むむむ……!! コロ! 悪は必ず滅ぼすよ!」

 

「キュッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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