Fateで斬る   作:二修羅和尚

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五十二話

「脳の一部に問題ありってとこだな。まぁ大したことはない」

 

「だってよ。よかったな、クロメ」

 

「むぅ……」

 

ロマリーの街にて合流を果たした俺たちは、その経緯をエスデスに報告。

話を聞いたエスデスはそうか、とどこか悔しそうにしながらも俺たちに休息をとるように指示してきた。

で、一応、心配だからとクロメの診断を俺が請け負った。

警備隊でも似たようなことをしていたため、もう慣れたものだ

 

診察中に吹っ飛ばされていたウェイブが帰って来たんだが、どうやら俺たち二人が心配だったようで姿を見たときにはどこかホッとした様子を見せたのだった。

なんだ、年上らしいこともできんじゃねぇか

 

「それで? 空の旅はどうだった? ウェイブ」

 

「うっ……すまねぇな。あんなけ言っといて情けねぇ」

 

「大丈夫だよ。そこまで期待してなかったから」

 

「だな」

 

「お前ら、慰めるとかねぇのか?」

 

はぁ、とため息をつくウェイブではあるが、強く言い返すことも出来ないようだ。

まぁ、俺ら二人を残して早々に離脱させられたのがかなりきてるのだろう。

 

すると、コンコンコンッと扉をノックする音が聞こえた。

 

ウェイブが立ち上がって扉を開けると、そこにいたのはボルスさんとセリューの二人。

何かの差し入れなのかボルスさんはその手に箱を持っていた。

 

「クロメちゃん、大丈夫?」

 

「ええ。暫く安静にすれば元通りですよ」

 

「よかった。セイ君もお疲れ様。そっちはかなり大変だったみたいだね」

 

「ほんと、そうですよ。一人全く使えませんでしたし」

 

「ほんっと、お前辛辣じゃねぇか!?」

 

事実だろうに

 

「あはは……とりあえずこれ。近くのケーキ屋さんで買ってきたから皆で食べよっか」

 

そう言って、手渡された箱はここロマリーの街でも有名な店のケーキの詰め合わせ。

どれも種類が違い、計七個。イェーガーズ全員分買ってきてくれたようだ。

 

「おお! こりゃぁいいな。ボルスさん、ありがとうございます」

 

「選んだのはセリューちゃんなんだけどね」

 

「ふっふ~ん! セイ君、誉めてもいいんだよ?」

 

「自分で金を出してから言え」

 

セリューの頭にチョップを決める。

アタッ!? という声とともに頭を抑えて涙目でこちらを睨むセリュー。

フハハハ! 全くもって怖くない! むしろ可愛いまである

 

 

「おぉ……すっげぇ旨そうだな……」

 

「ウェイブは役に立たなかったからなしね。代わりに私が貰う」

 

「食い意地張りすぎだろ……」

 

後ろで箱の中身を覗き込むウェイブとクロメ。クロメの方は寝ているベッドから身を乗り出しすぎて落ちそうになっているのだが、本人は全く気づいていないらしい。

 

そんな呑気な様子を見て一瞬呆れてしまうが、俺は席を立ってその箱を持ち上げる。

二人の視線がこちらに向いた。

 

「言っておくが、数日の間、クロメは甘いもの食べんの禁止な」

 

「……え゛?」

 

「お前、普通に動いてるけど一般人なら死んでても可笑しくないんだからな?」

 

「え、クロメちゃんそんなに重症だったの?」

 

絶望したような顔で固まっているクロメは放っておき!俺はセリューの言葉に頷いた。

 

「一応、手持ちの宝石とかで治癒はしたが、状態を見るに、かなりの時間首を絞められてたようでな。ほんと、よく生きてるなって思えるくらいだぞ」

 

「……宝石で治癒?」

 

ウェイブが何か言ったが無視します

 

「まぁそんなわけで、だ。少しの間我慢して貰うことになる」

 

「セイは……私に、死ね、と……?」

 

「いや、そこまでいってないから」

 

そのままパタリ、とベッドに倒れてしまったクロメ。大食い系美少女、ここに極めり、だな

こいつの食い意地には敬意を表したくなるぜ

 

「んじゃ、俺たちは場所変えてケーキでも食うか。あ、クロメ。食えないなら俺がもらっとくぜ」

 

「ウェイブ、夜道には気をつけて」

 

「怖ぇよ!?」

 

部屋を出ようとするウェイブに、ただただ無表情に告げるクロメ。

そんな二人の様子を苦笑いで見守るボルスさんとセリュー。……あ、いや、ボルスさんの顔わかんねぇや

 

「セイ君も、早くいこ!」

 

「あぁ、いや。俺は片付けとかあるから先に食っておいてくれ」

 

「そうなの? じゃ、先に行っとくね」

 

パタンッと扉が閉められ、全員の足音が遠ざかっていくのを確認した俺は、さて、とベッドに寝転がるクロメに向き直る。

 

「? どうしたの? セイ」

 

「……聞きたいことがある」

 

俺はその言葉とともに、懐からあるものを取りだし、それをベッドの縁に置いた。

 

「それは……」

 

「お前が寝てるときにちょっと味を見たかっただけなんだが……なんだこれは?」

 

クロメのお菓子と書かれたその袋の中に大量に詰められているクッキーのようなもの。

普段からポリポリと口にしているそれはそんなに旨いのか、と興味本意で口にした。

 

「体の限界を越える力が使える代わりに、副作用として体がボロボロになる強化薬。何か事情があるんだろうが、俺としてはあまり使用してほしくない代物だな」

 

これの副作用が判明した際、慌ててクロメの体を再検査したのだが、そりゃもう見事にボロボロだった。

まだ表だった変化はないものの、臓器などのからだの内部がアウト。

このままいけば、遠からず死に至る可能性が高い

 

だがクロメの表情は暗いままだ。

いったい、こいつにどんな過去があるのかは知らないが、その様子を見る限りかなり重いものなのだろう。

 

それにこの強化薬、依存性も強い。多分、摂取しなければ苦しんだりなどの症状が出るのだろう。

 

……帝国の闇、か

 

「ごめん、セイ。でもそれはちょっと難しいかな」

 

「……そうか」

 

俺の視線に気づいたのか、少しばかり明るい口調で困ったように笑うクロメ。

 

ここまでくると、いくら俺でも完治にもっていくのは不可能だ。

医療系の宝具が使えれば何とかなったのかもしれないが

 

「クロメ。今日から毎晩、俺の部屋に来い。残念ながら治すのは無理だが、症状を軽くするくらいはしてやる」

 

「……できるの?」

 

「なぁに、心配すんな。んじゃ、今日はゆっくり寝てろよ」

 

わかった、というクロメの言葉を聞いて、俺は部屋を出る。

とりあえずは、分体に家の宝石を運ばせて補充しないとだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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