Fateで斬る   作:二修羅和尚

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五十一話

「あーあ、デスタグールも殺られちゃったか……」

 

そう言って、少女ーークロメは体を左右に真っ二つにされたデスタグールの死体を見下ろした。

 

「んー、継ぎ接ぎはできないから、もう使えないかな」

 

チラリと視線を動かせば、そこにいるのはたった今デスタグールを真っ二つにした帝具人間とその使用者であろうナジェンダ元将軍。

そして、更にそこから視線をずらせば、骸人形であるヘンターとウォールを相手にするシェーレと帝具によって見た目が、獅子のようになったレオーネの姿。

こちらはもうすぐ決着がつきそうだ。ーーむろん、ヘンターたちが負ける、という意味でである。

 

やっぱり、帝具持ちのナイトレイド相手にはキツかったのかな?

 

そんなことを呑気に考えながら、クロメは袋に入ったお菓子をポリポリと口に運ぶ。

最近、おやつタイムの間隔が短くなったことを感じながらもその手が止まることはない。

 

「ブラートと銃の女がセイの方に行ったけど、大丈夫かな?」

 

ねぇナタラ、と気紛れに隣に佇んでいる骸人形に声をかけるが、死者が口を開く訳もないのですぐに視線を正面に戻す。

 

「……撤退した方がいいかもしれない」

 

カイザーフロッグにデスタグール、さらにロクゴウ、エイプマンにドーラが戦闘不能。ヘンターとウォールもそろそろダメだろう。

 

残ったナタラと二人で眼下の四人を相手にし、セイが来るまでの時間稼に入るという選択肢も取れるが、確実性が低いためその選択肢は却下。

 

ここは一度引いてエスデス隊長と合流するのが得策だろう。

 

「ナタラ、引くよ」

 

その言葉に、無言で従う青年の骸人形はクロメを横抱きにするとそのまま撤退を開始する。

一応、セイが生きている可能性を考えて暫くは森のなかで待機。

あのエスデス隊長と同格という話であるため、そう簡単には死にはしないだろうと信じてのことだ。

 

「ポリポリポリポリ」

 

まぁそれでも、お菓子は食べるクロメではあるが

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「おぉっふぅ……なんか、すぐ近くに居座っちゃったんですけど…」

 

そんなクロメの様子を少し遠い木の上から眺めるのはナイトレイドの一人、ラバックである。

彼はアカメたちのような直接戦闘には参加せずに、万が一にもエスデス達が加勢に来たとき動くようナジェンダに指示されていた、所謂隠し球。

 

そして、このナイトレイドの中で唯一ナイトレイドとして顔を晒したことがないメンバーでもある。

今後の活動とセイとの接触を考えてのことでもある。

 

「どうすっかなぁ……」

 

逃げる、隠れる、死んだふりが得意なこの男の気配はクロメに気付かれることがないようだ

 

出来れば危険は犯したくない。てかそもそも関わりたくない

 

「……しっかし、見れば見るほど似てるよな」

 

アカメちゃんの妹だとは聞いていたけど、こうしてみればほんとよく分かる。

だが、そんな少女が持つ帝具は、殺した死者を人形にしてしまうという恐ろしいものだ。

 

「殺されるのは勘弁だな。まだナジェンダさんに告ってもねぇのに」

 

大商人の四男として生まれた自分の初恋が未だに続くラバックは一瞬ナジェンダとのムフフなシーンを妄想する。

しかし、今現在の状況が状況であるため、すぐに頭を振って煩悩を振り払う。

 

「……けど、ここで殺っといたら、俺らにはプラス…てか、生かしたら色々とマイナスだな」

 

また意味不明な死体の人形を作ってやって来るかもしれないし、そうなればナイトレイドにとっては厄介極まりない。

 

幸い、標的であるし、あの見るからに強そうな護衛の奴もいない。

 

速攻で決めればいけるか?

 

腰の帝具、クローステールにソッと手を触れたラバック。

この木からだと、クローステールにとっては十分に射程内。

マインちゃんの狙撃を交わしたんだし、搦め手でも使わないとな

 

「っと、念のためにこれも付けとくか」

 

そう言って、懐から取り出したのは一つのマスク。

顔すべてを覆える大きさなのだが、表面には嫉妬を顕にするような顔の絵が描かれている。

帝都の店で見つけたマスクだ。何故か、寒い冬の特別な日に恋人のいない男には無料で貰えるマスクである。

 

あのときの店主の仲間を見つけたような目は忘れない。

 

 

まぁでも、顔を隠すという点なら、十分に仕事してくれるであろうそれを着け、ラバックは行動を開始する。

 

クロメに気づかれないように音をたてずソッと移動。お菓子を食べながら、思案顔のクロメはそれに気付かず、結果、ラバックはクロメの隣の隣の木に陣取った。

 

そして一気に帝具を使う

 

「っ!?」

 

糸が巻き付く直前に何かに気づいたのか、クロメはその身を屈めて回避行動に入る。

しかし、マインの時と違い、今回は糸。

真っ直ぐにしか進まないレーザーはそれで対処が可能だが、千変万化と言われ、器用なラバックが操る糸は軌道を変えてクロメの首と手足を拘束する。

 

「グッ……!! まだ伏兵が…!」

 

刀を抜くことが出来ないため骸人形が呼び出せない。

何とか拘束を解こうともがくが、糸はそう簡単には外せない。

強化人間であるクロメであっても、この糸をどうにかするのはかなり難しい。

 

「……はぁっ、何か、可愛い女の子を殺す機会が最近多いぜ…」

 

美少女美女は大好きなんだがなぁ、と考えつつも、ラバックはクロメを確実に殺るつもりだ。

かなりきつく巻き付けてあるため、このままもう分も経たぬうちに死んでくれるはずだ。

 

そう考えたときだった

 

「『斬』!!」

 

「!?」

 

銀の触手が糸を断ち切った。

 

相手を確認するまでもない。ラバックは糸が斬られたのとほぼ同時にその場から一目散に逃げ出す。

木に糸を巻き付け、まるでどこぞの蜘蛛男のように森を移動する。

 

幸いにも、そのあとを追いかけてくる影はなかったのだった

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「こいつら超面倒臭ぇ!!」

 

「だったら早く殺られてくれ!」

 

斧を振り下ろしてくるブラートの攻撃を何とか往なして反撃に破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)をその心臓へ突き立てようとするが、その直前に勘にしたがって後退。直後、元いた場所をレーザーが突き抜ける。

 

「あいつどんな勘してるのよ!!」

 

「マイン、落ち着けって」

 

一瞬視線をやれば、相変わらず高台からこちらを狙う桃髪ツインテールとその護衛のインクルシオの少年。

そしてその視線を切らした一瞬で懐近くまで詰めてきたアカメの一斬を槍の柄で受け止める。

が、このままだと的になるためすぐにアカメを突飛ばして距離をとる。

またも元の場所に光が走った。

 

「くそっ、じり貧だぞ」

 

軽く悪態を吐きながら再度槍を構える。

アカメの攻撃もブラートの一撃も気が抜けない。

喰らえば、確実に命が一つ持っていかれる。

 

一つ回復させんのにかなりの魔力をかなりの期間使用せにゃならんからできるだけ死にたくはないのだが……

 

「ゼアッ!!」

 

「シッ!」

 

破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)と村雨が交差する。

ブラートへの注意は怠らず、マインの射撃はスキルも使って避ける。

その瞬間に、俺は指を高台へ向けガンドを放った

 

「はぁっ!? 射撃!?」

 

「らぁっ!!」

 

しかし、護衛の少年に防がれる。

一番厄介なのはあのペアだな……

 

高台でギャーギャーやってる少女はさておいて、目の前の二人に視線を戻す。

が、その直後のことだった。

 

心眼(偽)(スキル)に反応!

 

「オラァッ!!」

 

「クソッ!!」

 

跳んできた金髪女の拳撃を回避し、続いて足元を狙った蹴りを跳んで回避。

しかし、そこでまた勘が働く。どうやらこの攻撃は俺を宙へ誘い出す罠だったようだ

 

「八尺瓊勾玉!!」

 

某野菜人の如く、体の回りに気的な何かを纏った角の男が超スピードで俺に向かって飛んでくる。

あ、いや、上半身裸とか結構ですので!

 

一瞬あの男との薔薇園なシーンが頭に浮かんだが、すぐに生理的嫌悪で引き戻される。

 

そしてそれは見事宝具の展開スピードの限界を越える!

 

風王鉄槌(ストライク・エア)!!」

 

破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)の刃は魔力を断ってしまうため、石突きの方から風を放出させる。

急にほぼ直角に方向転換した俺についてこれなかったのか、角の男はそのまま直進し、アカメ達の近くに着地する。

 

「あれで仕留めきれんとは、流石エスデスに並ぶ猛者だな」

 

俺をアカメ達と挟むような形でナジェンダ元将軍、シェーレが立つ。

初めに見たメンバー全員大集合、か

 

「俺一人に随分な歓迎じゃないか」

 

「それだけ警戒する必要があるからな」

 

肩を竦めておどけるような口調で話すナジェンダ元将軍。

魔力の枯渇状態で、これは流石にまずい。

で、こいつらがこっちに来た、ということはクロメは撤退したかもしくは殺られたか……

 

まぁでも、クロメは無理をしないだろうし、多分前者だな。

てことは、見失ったから俺の方に加勢しに来た、といったところか

 

……こりゃ、撤退が一番賢いな

 

「あー、撤退したいんだけど、ダメか?」

 

「無理な相談だな。こちらも総力戦。お前がどれ程の猛者であっても、生かして帰す気はないぞ」

 

ナイトレイドの全員がその言葉と共に身構えた。

 

「過剰戦力かもしれないがーー諦めろ」

 

強く言い切ったナジェンダ元将軍であった。

 

「過剰戦力……ねぇ…」

 

「ほぉ? 随分と余裕だな」

 

「まぁな。ぶっちゃけた話、これくらいなら対処は可能だし」

 

その言葉にナジェンダ元将軍の視線が鋭くなる。舐められているとでも思っているのだろうか。

 

「まぁまぁそう怒るな。むしろ、誇ってもいいぜ。なんせ、俺に真面目な撤退戦でこの対軍宝具を使わせるんだからな」

 

「…っ! いつのまにその本を出したんだ……」

 

槍を握るその逆の手に持った一冊の本

表紙はデスマスクと美少年を模した気味の悪いデザイン。

 

これそのものが魔力炉となっているため、俺の負担も少ない、なおかつ撤退に一番向いた宝具である。

 

「媒体は……俺の血でいいな」

 

躊躇いなく腕を槍で刺し、血を落とす。

その異様な光景に一瞬唖然とした表情を見せたナジェンダ元将軍。多分、他の面々も同じような感じだろう。

 

「っ何をするつもりか知らんが、奴を止めろ!」

 

「了解! 撃つわ!」

 

「もう遅せぇ!!」

 

ーー海魔召喚

 

突如現れた肉の壁をレーザーが貫くが、それが俺に届くことはなかった。

 

「なんだよ……あれ……」

 

少年の声がやけに響く

 

現れたそれはヒトデとタコが合わさったような海の悪魔たち

その見た目から嫌悪感を抱かせるそれらはエスデスの下僕であった三獣士以来の登場だ。

 

「うわぁ……キモい」

 

少年に同意するようにマインも言葉を漏らす。

まぁ、俺も同意見だ。安心しろ

 

「こっからは、俺じゃなく、こいつらが相手だ。そして!」

 

槍を消し、本だけの装備になった俺は落ちていた手甲を回収

 

「さらばっ!!」

 

「あ、待てっ!! くっ!!」

 

追いかけようにも、海魔達が邪魔で追いかけられないナジェンダ元将軍

他の面々も海魔相手に無双しているようだが、驚異的な再生能力を有するその雑魚どもに苦戦している様子。

可能性としてほとんど期待してないが、誰か一人でも食ってくれればもうけものだ。

 

ナイトレイドを無視して駆ける。

今回はこんな終わりかただが、今度はこうならないように注意しなければだ。

 

さて、クロメばどこだろうか

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「おいクロメ! しっかりしろ!」

 

「ぅ…ん……? セイ? ……! 敵は!?」

 

「すまん。取り逃がした。えらく逃げ足だけは速いやつでな」

 

クロメを発見したと思えば、両手足を糸で拘束され、更に首も同じく糸で絞められていた。

慌てて月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)で糸を断ち切ったはいいものの、酸欠で気絶状態だったクロメを骸人形なしに置いて敵を追うことができなかった。

 

ポーチに残っていた宝石を使って、治癒をかけて数分後やっとのことでクロメが意識を取り戻して今に至る。

 

「とにかく、早いとこエスデスたちと合流する必要がある。急いで移動するぞ」

 

「ん、分かった」

 

とりあえず、街へ戻ることとしよう

 

 

 

 


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