Fateで斬る   作:二修羅和尚

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四十九話

「さてと、だ。クロメ、この人数差だが、どうする?」

 

ナイトレイドへ向けていた視線を一瞬だけ隣のクロメの方へとやって声をかける。鞘に収めた八房の柄に手をかけたままのクロメは、相手側のある一人ーーアカメにその視線を向けていた。

 

どうやら、アカメの方もクロメへ視点を合わせているようだ。

 

アカメにクロメ。容姿も似ていることから、血縁者だとは思い当たるのだが……

 

「クロメ。殺れそうか?」

 

「うん」

 

返事と共に八房を抜いたクロメ。

 

帝具八房。その刀で殺した敵を、自身の骸人形とする帝具。

生前と変わらないスペックを誇る骸人形を最大八体思うがままに動かせるという。

 

 

刀を構えたクロメ。直後、クロメの背後の土の中から幾人もの手が、そして巨大な骨の手が現れる。

 

「昔と違って、死体ならなんでも使えるようになったんだよ。例えそれが、超級危険種のデスタグールであっても」

 

現れたのは全身が骨のみで構成された超級危険種、デスタグール。

両サイドを挟むテーブルマウンテンを越えるその化け物はクロメと骸人形の一人をその肩に乗せる。

 

…………いやいやいや。え? クロメさんえ?

 

あの、超級危険種使えるとか初耳なんですが?

 

これ、エスデス知ってたのかね? だからこっちの人数減らしたのかね?

 

「……ふぅ、よし」

 

be cool 落ち着くんだ。もうこのさいだ。諦めよう

 

気合いを入れるのに、一度大きく息を吐き出すと、俺はデスタグールの肩に登ったクロメの元へ向かった。

 

「あ、セイ。どうしたの?」

 

「いきなり超級危険種とか出したことは一度置いておくとしてだ。クロメ、お前はこのまま骸人形を率いてナイトレイドの相手を頼む。何人かは俺が引き受けるからよ」

 

「そっちに一人着けてもいいけど……」

 

ほら、と指を指した先にいたのは、スキンヘッドにサングラスのあなたどこの薬丸さんですか? と問いたくなるような男。

武器らしきものは所持していないが、その腕には透明な盾が装着されている。

 

……その技術が、いったいどこから来たのかは謎であるが

 

「ウォールって言うんだけど、元ボディーガードだから守るのは得意だと思うよ?」

 

「いや、いらん。いても俺にとっちゃ邪魔でしかないからな。それに、八房使ってる間は、お前も弱体化してるんだろ? なら、お前の方にまわしておけ」

 

「……ん、分かった」

 

「おし! じゃ、こっからは二手に別れて殺るぞ。油断するなよ」

 

「セイもね」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

クロメやその骸人形たちから距離をとった俺は少し離れた峡谷までやって来た。

そして、遅れて響いた着地音。みれば、そこにいたのはアカメ、そしてインクルシオを纏ったブラート。

……ブラートだよな?

 

えっと、なんか鎧の見た目が、いつぞやと違ってるように見えるんだが……なんか、一張羅からマントに変わった? あと背丈が縮んでるような気がしないでもない。

 

まぁ、そんなことはいいか。

こうして対峙するなら敵だ。それに変わりはない。

 

「で? 相手をしてくれるのは君ら二人ってことでいいんだな?」

 

「葬る」

 

「うん、言葉のキャッチボールをしようよ」

 

帝具村雨を構えるアカメに、形の変わった槍を構えるインクルシオ。

 

……スピードは、アカメが上。足運び、技量……もアカメが上。

実力的にはアカメの方が厄介だな。

 

「『沸き立て我が血潮』!!」

 

両腰に取り付けてある大瓶の蓋を取り外し、詠唱。それだけで中身の水銀がまるで意思を持ったように大瓶から飛び出し、銀の槍となってインクルシオの方に襲いかかる。

 

「うおっ!?」

 

声からして男性……いや、少年か?

驚いたように槍を振るって一撃目を防ぐが、しかし、それはもともと液体。

槍の形をとってはいるが、自在に変化するのだ。

 

槍に弾かれた水銀が形を大きく変えて軌道修正、再びインクルシオの少年に襲いかかる。

 

「くっ…! このっ!」

 

明らかに手間取っている様子からして、中身はブラートではないだろう。噂に聞く実力ならこの程度どうにでもするだろうし。

……てことは継承でもしたのかね? なんと無駄なことを

 

ギンッ! という甲高い金属音を響かせ、アカメの村雨を手甲で受け止める。

殺す気で仕掛けてくるアカメの腕は大したものだ。殺気のほうも半端ない。

 

こうして、両者を見比べてみても、インクルシオの実力不足は手に取るように分かる

 

「まぁいいか。俺が得してるだけだし」

 

「随分と余裕があるな!」

 

鋭さを増した斬撃が放たれるも、俺はそれを手甲で往なす。

嫌な予感として、攻撃してくる位置がどこかは心眼(偽)のスキル、そしてスペクテッドで分かるからな。焦りはしないさ

 

幾度も金属音が辺りに響き渡り、手甲と刀が打ち合わされる。

いつインクルシオの少年が抜け出してくるか分からないため、時おり目をやることを忘れないが、未だに礼装による自動攻撃の対処に追われる様子を見る限り暫くは大丈夫そうだ。

 

少年の方から視線を切り、アカメに戻す。

途中、俺が『洞視』を使っていると悟ったのか、心は読めないが、『未来視』は健在。そして心眼もある

 

「どらっ!!」

 

「くぅっ……!!」

 

右から振るわれた斬撃を右の手甲で受け止め、できた隙に宝石を消費し、風で威力を増した拳を叩き込む。

装着した籠手でガードするも、殴り飛ばされ、勢いそのままに岩へ叩きつけられる。

 

「っ!? アカメっ!!」

 

「そーら、よそ見は禁物だ!」

 

「ガッ!?」

 

アカメを殴り飛ばした直後に、進行方向を変え、一瞬アカメに気をとられていた少年の胸部へアカメと同じように拳を叩き込んだ。

 

直後、手元から響くピキッ、という金属音。

 

見ると、少しではあるが右の手甲の手首の部分に皹が入っていた。

 

「……なるほど。これの破壊が目的だったのね」

 

敢えて比較的装甲の薄い手首を狙ってたのか。なるほどなるほど。嫌な予感の正体はこれだったのか。

 

「……もっとも、そうなってもどうってことなかったんだけどな」

 

ぶっ飛ばされていた二人が己の武器を構えて俺と対峙する。

月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)は既に俺の隣で待機状態だ。

 

ふぅっ、と息を吐き、俺は皹が入った手甲を取り外す。一度整備しないとまた使えないな、これ。

 

取り外した手甲を腰の留め具に取り付けると、俺は同じく腰につけたポーチの中身を取り出した。

 

俺の十八番、宝石を使用した魔術である。

 

「さて、今度は第二ラウンドだぜ?」

 

二人の視線が一層鋭くなった気がした

 

 

 

 

 

 

 


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