Fateで斬る   作:二修羅和尚

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何故鬼ごっこ? という声が家なり多いようですが、純粋にやりたかっただけ、と答えておきます。




四十六話

制限時間は二時間。チェルシーが逃げ切る、または俺の殺害に成功すればチェルシーの勝ち。

 

既にチェルシーが逃げてから三分が経過。五分経ったら俺が出ることになっている。あと二分は待機だ。

 

「ま、俺が待つだけであって、俺以外は別だがな」

 

だが、チェルシーが出ていって早々に妄想幻像(サバーニーヤ)の分体八人が散らばって監視を行っている。庭なんて軽く雑木林だからな。隠れられたら面倒だ。

 

勝負は始まる前から終わっているのだよ。フハハハハ!

 

そして急きょこんな鬼ごっこなどという訳のわからないことをやりだしたのには訳がある。

決して、俺の頭がパッパラパーになった訳ではない。

 

「……さて、五分だ」

 

壁にかかった時計を見やって、時間を確認した俺は早々に庭への道を見張る分体に連絡をいれるが、まだ通った形跡はないとのこと。

 

ふむ、それじゃまだ家の中だな?

 

「それじゃ、使うか」

 

俺は両腰に取り付けてある大瓶の蓋を外す。すると、その中から生き物のように出てくるのは月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)

 

今回のこの催しは、転生してからなんやかんやで一度も使用したことがなかった自動索敵を使うためのものでもある。

 

ああ、いや。隠れている密偵なんかは何となく気配で分かるようになってるんだよ。ただ、室内でこっちから探すってことをしたことなかったから使ったことがねぇんだわ。

 

まぁ、今まで戦闘しか使ってこなかったが、熱、音、振動で獲物を探すこいつはなかなか便利なのだ。ある意味、どんな感じかの性能テストみたいなもの。……ぶっつけ本番だがな。ほんと、メイドさんたち使ってやっとけよって話だが。

 

さて、だ

 

「……なるほど。部屋に籠ってるのか?」

 

一階しかないが、代わりにものすごく土地の広いこの家には部屋の数もかなり多い。

が、あのアインツベルン城をほぼ一瞬で索敵完了したこの礼装にはそんな広さもほぼ無意味。

 

「場所は……東の部屋だな」

 

ちなみに、うちのメイドさんたちは離れの方に移動してもらっている。チョウリ様やスピアはまだ帰ってこないからいいとして、他のメンバーはチェルシーの人質なんかにされる可能性もなくはないためだ。

 

 

「さて、チェルシー。存分に逃げてくれよ?」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ほら、どうしたどうした! 走らないと捕まるぞ?」

 

「くっ……! ほんと、悪趣味な奴ねっ……!!」

 

逃げるチェルシーを後から追うのは俺ーーではなく、月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)の触手である。

 

あれから三十分経ってはいるが、すぐに捕まえるような無粋な真似はしない。

 

「っ! このっ!!」

 

触手に捕まりそうになる寸前、チェルシーが手に持った化粧道具を振るう。すると、ボンッ、と一瞬だけ彼女が煙に覆われ、次の瞬間にはいなくなってしまった。

 

「……なるほど、今度は猫か」

 

すぐそこの角を曲がっていく猫の姿を見てほう、と感心する。

もちろん、俺が遊んでいるという理由もあるのだが、未だに捕まらない一つの理由としてチェルシーの持つ帝具の能力も挙げられる。

 

見た限りでは何にでも変身できるという、戦闘では役に立たないが、利便性の高い帝具だ。

 

かくいう俺も、一度騙されたからな。

離れにいるはずのエアがいたから、声をかけて近づいたのだが、隙をついて首に針をもらいそうになった。

 

防いだわけだけど

 

「まぁ、喰らっても意味はないがな」

 

致命傷は受けるかもしれないが、回復するし。

頑健のスキルで毒もほぼ意味をなさないし。

 

「『自動索敵』」

 

猫のような小動物の反応を探す。

はてさて、いったいどれだけバリエーションがあるのやら

 

『おい、オリジン。聞こえるか?』

 

「お? 口の悪いの。お前か」

 

『その名称は止めろ。んで、報告だ。お前の言ってた女が庭へ出たぞ』

 

「ん、わかった。助かるよ」

 

なんのなんのと返してくる分体に通信機を通して礼を告げると、俺も庭へと向かう。

庭のとはいえ、雑木林だ。虫や小動物のまま隠れられたら厄介極まりない。

逃げ込むなら最善の選択肢と言ってもいいだろう。

 

それが普通の雑木林だったらの話だがな

 

 

庭の池のその向こう側にうっそうと茂る雑木林。

そこに足を踏み入れた俺は一度辺りをぐるっと見回した。

 

時おり小動物や昆虫達が姿を見せるが、なるほど、これじゃ普通は分からんわな。

 

「ただまぁ、わかってたことだけどな」

 

さて問おう。門から入る以外にこの家の中に入ることが出来ないのはもうすでにわかっていることだ。

では何故、その結界内の雑木林に小動物や虫がいるのか。

 

「こいつら、皆使い魔なんだよなぁ……。『余所者を追い出せ』」

 

魔力で雑木林全体に声が響くように指令を出す。すると、雑木林の生き物達が俺の命令を忠実に執行する。

 

色んな生き物の鳴き声が辺りに響き、雑木林が不気味にざわめきだす。すると、突如、斜め左前方の木から飛び出していく影の塊があった。

 

「ほうほう。小鳥に化けてたのね」

 

スペクテッドの『遠視』で見てみれば、一羽の首にリボンを巻いた小鳥が必死で集団の先頭を羽ばたいていた。

そしてその後を追う鳥や虫、更には鷹の姿も見える。

 

特に虫に追われるなんて、もはや恐怖しかないだろう。チェルシーが虫が平気というなら別だが。

 

「『こちらへ誘い込め』」

 

再び指令をだす。

 

小鳥となったチェルシーを追う集団の一部が別れ、チェルシーの行く先に展開。巧みに誘導していく。

 

だが、チェルシーの方も一筋縄ではいかないようだった。

 

一瞬だけ変身が解かれ、宙へ身を晒したチェルシーは、またすぐに化粧道具を振るって煙に包まれた。

 

「……なるほど、今度はエアマンタか」

 

現れたのは空飛ぶマンタ。その名もエアマンタ。……そのままじゃねぇか! というツッコミはお約束だ。

 

だが、その大きさは人十人くらいなら普通に乗れるほど巨大だ。

突然小鳥が化け物に変わったことで統制を失った使い魔の集団は、そのまま散り散りに雑木林へと散っていく。

なんせ、見た目は危険種だ。生物的な本能の部分が恐怖したのだろう。

 

追っ手がいなくなったためか、上空を悠々と遊泳するエアマンタ。

俺がそこまでいけないと高でもくくっているのだろうか

 

ちなみに、帝都にいきなり危険種が出たら大騒ぎになるから、出た瞬間に結界の効果で外から中が見えないようにしてある。俺って偉いね

 

「上等だ」

 

人は空を飛べない? 答えは否。人はちゃんと跳べるんだぜ?

 

地を駆け、池を飛び越え、加速。勢いそのままに跳び上がった俺は屋根へ着地。

腕の手甲(今まではめてたんだよほんとだよ?)の宝石を一つ消費し、屋根を蹴り出すと同時に風を逆噴射。

弾丸の如く、空のエアマンタ(チェルシー)へと肉薄する

 

「っ!? くっ!」

 

「うおっ!?」

 

両手を組んで上段からの振り落とし。

だが、突然でかい的がチェルシーへと変化したことで俺の攻撃は空を切った。

 

再び姿を変え、今度は隼に変身したチェルシーは飛べない俺を置いて逃げようとする。

ただ、そうはいかないのだ

 

「おらぁっ!!」

 

宝石を順々に消費し、無理矢理空中機動。叩きつけの体勢から風を使い、スペクテッドの『未来視』によって行動を先読み

 

かかと落としの体勢を取れば、隼となったチェルシーが通りかかった。

隼であるから、表情は分からないが、さぞや驚いていることだろう。

 

「どらぁっ!」

 

隼の胴体へクリーンヒット。

横のベクトルを突如下へと向けられた隼はバランスを失い、次いで気を失ったのか落下の途中で姿がチェルシーに戻る。

 

そしてちょうど下にあった池の中に着水。中から棒つき飴と化粧道具を撒き散らしたケースは沈み、気を失ったチェルシーが水面へと浮かぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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