Fateで斬る   作:二修羅和尚

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四十五話

道に沿って走るのは面倒臭い、と民家の屋根づたいを駆けて家へたどり着くと、すでに出迎えとしてルナが門のところに立っていた。

 

「……セイ様、おかえりなさい」

 

「おう、ただいま。珍しいな、エアはどうした?」

 

「……今はまだ掃除してると思う。それに…」

 

「?」

 

「……最近、出番なかったから…」

 

「……」

 

何故だろうか、目から汗が出てくる。

だがルナよ。それはメタってもんだぜ

 

「ま、まぁあれだ。これからもっと増えるんじゃないかと……」

 

「ほんと?」

 

そこまでいいかけて、ルナの顔がすぐ近くまで寄せられた。心なしか、目のハイライトが消えている気がする

 

おふっ、怖い、怖いよこの娘。俺、ヤンデレはノーサンキュウだかんね

 

「……そ、それよりもだ。ルナ、チェルシーのやつ見なかったか?」

 

「……チェルシーなら、今は休憩室だと思う」

 

「何か変わった様子とかなかったか?」

 

「? なかったと思うけど……」

 

俺のその言葉に、うーんと考え込む素振りを見せるルナ。だが思い当たらないのか、しっかりと首を横に振った。

それを見て、そうかと返した俺は、早速どうするかを考えながら門をくぐる。

その際、そう言えば、と振り替えって後からついてくるルナの頭を見た。

 

「さっきから気になってたんだが、何でウサギ耳?」

 

「……キャラづけ、自己主張の賜物」

 

そうですかい

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「お帰りなさいませ、セイ様」

 

「「「お帰りなさいませ」」」

 

「おう、エアか。ただいま。チェルシーどこにいるか知ってるか?」

 

ルナの言われた通り、休憩室へ赴いてみたが、そこにチェルシーの姿はなく、代わりにエアと他数人のメイドさんが休憩中だった。

俺の姿を見て挨拶してくるメイドさんに軽く手を振って応えつつ、先程と同じような質問をエアにした。

 

「チェルシーですか? 彼女なら先程休憩を終えましたので、買い物へ出しましたが……」

 

「あー、そうか。……ミスマッチが多いな…」

 

「……チェルシーがどうかしたのですか」

 

俺の雰囲気から、何かあったのかと口にするエア。

流石にこの内容はあまり広められるものではないため、エアのみを休憩室から連れ出して廊下を曲がったところで向き合った。

 

「エア。お前がこの家のメイド長だからと信じて言うぞ。……さっき、俺が出掛けている間に、俺が許可を出した奴以外が部屋の地下まで入ったようだ」

 

「!? ……今日のあの部屋担当はルナちゃ…ルナだったはずですが…」

 

「だが、ルナには許可を出してる。が、掃除の時には勝手に入らないように言いつけてあるからな。本人も入ってないっつってたし」

 

間違っても研究室への扉のドアノブを触れたりしたら、そこ御陀仏だからな。

 

先程家に入る前にスペクテッドも使って確認したため間違いはない。

なんせ、ルナは見た目こそ寡黙系美少女であるが、頭の中では色々と喋っている娘なのだ。はじめは信じられなかったが。

そして、その頭の中の思考で、ルナは嘘をつかない。いや、つけない、というのが正しいな。

 

「……それでチェルシーというわけですか」

 

「まだ決まった訳じゃないがな。ただ、現時点で一番怪しいのはあいつだ。……一応、覚悟はしておいてくれ」

 

「……はい、わかりました」

 

少し顔を俯かせたエアに、俺はそれ以上なにかを言えなかった。

チェルシーがここに来て、一番多く接していたのはエア、ルナ、ファルの三人だが、特にエアは一番親しかったといってもいい。

年も近く、そして仕事を教えるときは付きっきり。きっと二人で話す機会も多かったのだろう。会話なんてものは多ければ多いほど仲良くなっている証拠みたいなものだ。

 

「けどセイ様。もし、そうであったなら、セイ様がお決めになってください。私達はそれに従うまでですから」

 

「……ああ」

 

顔をあげたエアのその目にはもう迷いがない。しっかりとした表情で見つめてくるエアに俺はありがとうな、と返した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「……やはりビンゴか…」

 

スペクテッドの『遠視』を使ってチェルシーにピントを合わせれば見事にヒット。

 

一応、何かあったときのために、と宝石の通信機にはGPSのような役割を持つため、大体の居場所が掴めるようになっているのだが、チェルシーのやつ、それを警戒しているのか他人が気づかないような別の場所に置いていやがる。そのため、探すのに少々手間取った。

 

メイドさんが外へ出る際には、護衛と一緒に、というのが義務なのだが、どうやって欺いたのか……

 

まぁそんなことはいい。問題は俺が見たそれだ。

 

薄暗い路地裏。表の道でキョロキョロとチェルシーを探す護衛の男を差し置いて、チェルシーは風貌の怪しい男に接触。懐から何かを取り出すとそれを男に手渡した。

どうやら、俺が魔術の触媒としてよく使う宝石のようだ。

 

「なるほど、研究室には入れなかったのな」

 

まぁ触れた時点でアウトなんだ。生きているってことはそういうことなんだろう。

 

けど良かった。何せあれは俺の魔力が込められて入るが、それ以外はただの宝石ってだけだ。

魔力云々がわかる魔術師とかでなきゃ、なんも分からん。

つまるとこ、チェルシーが引いたのはハズレ。そしてそのハズレでアウトになったわけだ。

 

 

「さて、あとはチェルシーが戻ってくるだけだし……そうだな」

 

某眠りの探偵のように、犯人はあなただ! とするだけではあっけなさすぎるか。

 

……お、そうだ

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ご主人様~呼んだぁ?」

 

買い出しから帰って来たチェルシーに、用事を頼みたいから私室へ来てくれ、という伝言を伝えるようエアに頼んでおいた。

 

少ししてから扉を開ける音が聞こえたかと思えば、いつもと変わらない様子で話しかけてくるチェルシー。

 

「おう。エアから話は聞いてるか?」

 

「聞いてるよ。それで? 何すればいい?」

 

「それ嘘な。で? 地下へ下りてどうしたかったんだ?」

 

「……何のこと?」

 

この瞬間に、俺はスペクテッドの『洞視』を発動する。

おーおー、一瞬ではあったが、動揺したのが手に取るように分かる。

 

「とぼけても無駄だぜ。地下に下りたら俺が分かるようになってるんだよ。それに、お前が盗った宝石。渡したのちゃんと見てたんだよ」

 

コツコツ、と額のスペクテッドを指先で軽く叩きながらそういってやる。

しかし、それでも顔に動揺したのが表れないのは、流石としかいえないな。

 

おまけに、『洞視』を使っても、心の変化は最初の動揺のみ。今は至って冷静で、俺に情報を漏らすまいと別のことを考えているようだ。

 

「まさか、そんな方法で帝具の能力が破られると思わなかったよ。期間は短かったが、密偵として潜入できたのはお前が初めてだ。誇っていいぞ」

 

「……そりゃどうも。ついでに逃がすって選択肢が有れば嬉しいんだけどな」

 

「さて、どうすっかな」

 

もう諦めたのか、自身が密偵であると認めるような発言をするチェルシー。しかしながら依然としてその心のうちは読めない。

この分野に関してはかなりの仕事人と見ていいだろう

 

「どうせ革命軍。それにその腰に上手いこと隠してるそれ。帝具なんだろ? てことはナイトレイドなわけだ」

 

「さて、どうかしらね。ご想像にお任せするわ」

 

「おいおい、別に俺はナイトレイドそのものに関しては何にも思っちゃいないさ。むしろ、普段は感謝してるんだぜ? 俺らが手を出さなくても帝都のクズどもを殺ってくれるんだ。事後処理は面倒だがな」

 

「……あなた、何でその考えで革命軍にいないのよ」

 

「方法が短絡的過ぎるんだよ。革命なんぞしなくても帝国は内部から変えられる。あのオネストだって、証拠突き出してやれば即刻死刑なんだよ」

 

「ならなんでその兆しが見られないのよ。その通りなら、こんなことには……」

 

「現状じゃ異民族やら革命軍やらが問題なんだよ。今ならチョウリ様もいるからな。ただ、お前らの対応でそこに時間が取れないんだよ」

 

仮にナイトレイドが帝国のクズどもを狩るだけなら俺もそこまで気にしない。むしろ、陰ながら協力してやってもいいと考えている。

だが、元が革命軍であるなら別だ。革命軍であるならば敵である。そこは前々から変わらない。

 

「それで? 私をどうするわけ? 言っとくけど、殺されることになっても全力で抗わせてもらうわよ」

 

「まぁ待て。別に殺しはしねぇよ。敵だったとはいえ、身内だったわけだしな。チャンスをやろう」

 

「チャンス?」

 

「ああ。ルールは簡単。この家と庭を含めた範囲で追いかけっこだ。二時間逃げ切る、または俺の殺害に成功すればチェルシーの勝ち。ナイトレイドに返してやろう。負ければそれが叶わないけどな」

 

「……いいわ。どっちみち、それしかなさそうだしね」

 

「言っとくが、庭から外に出るのはおすすめしないぞ。やった場合、電撃で死ぬかもだから」

 

さて、じゃあ某鬼との追いかけっこの如く楽しみましょうや

 

 

 

 

 

 

 

 




なんかセイ、最後悪役みたいになったな……

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