Fateで斬る   作:二修羅和尚

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四十三話

「はぁっ? 新種だと?」

 

「ああ。近頃帝都の外で出てくるようになったそうだ。鉱夫から始まり、最近は民家に押し入って人を襲ったらしい」

 

「で、大臣にその新種の捕獲を頼まれた、と」

 

警備隊の仕事を済ませてイェーガーズ本部にやって来ると、ちょうど完全武装状態のエスデスと鉢合わせた。

一瞬、やるのかと思い、腰のポーチの宝石へ手を伸ばしそうになったが、どうやらそういうことではないらしく、その新種とやらの話を聞いたのだ。

 

エスデスの他にも、ボルスさんにウェイブ、クロメとセリューもこれから帝都の外に出るらしい。

 

「お前も来るか?」

 

「そうだな……んじゃ、そうさせてもらおう」

 

早くしろよ、帝都の出入り口を集合場所に指定したエスデスに軽い返事を返し、少ししてから帝都の門へ向かう。

どうやら俺が最後だったらしく、それを見たエスデスは無言で出発する。

 

「なぁ、セイ。隊長より遅いのはやめといた方がいいぞ?」

 

「ウェイブか。どうした? 急に」

 

道中、俺に並んだウェイブが、こっそりと耳打ちしてきた。

何でも、エスデスは遅刻した隊員を軽めの拷問にかけているのだとか。

タツミ君を見失った件で、エスデスにかけられた拷問がよほど堪えたのだろうか、思い出しては身を震わせていた。

 

「んなことにはならねぇから安心しろって」

 

「? なんでだ?」

 

「いってなかったか? 俺はイェーガーズに属してはいるが、完全にエスデスの指揮下にある訳じゃないんだぜ? ま、必要となればそうするときもあるがな」

 

「つまり隊長はお前を無理矢理拷問にかけるのは無理だと……」

 

「そういうことだ。ま、でも年下の心配ありがとよ」

 

「……え? お前俺より年下なのか?」

 

「今年で19だ」

 

嘘だろおい、やらそれで隊長なのか、とかブツブツとなにやら呟いていたウェイブであったが、俺はそれを無視して歩を進める。

 

すると、列の先頭にいたボルスさんが突然駆け出した。

その方を見てみれば、そこには荷馬車に乗った二人組と、そのさらに前方に森から出てきたのであろう人型の危険種。

危険種なんぞ、チョウリ様のところにいた一年ほどしかまともに相手をしていないため、それほど詳しいわけではないが、エスデスの見つけたぞ、という呟きからあれが新種で間違いないようだ。

 

集団で行動する危険種なのか、十近い数がいる。

 

ラリアットからのジャーマンスープレップスからの振り回しからのルビカンテというコンボを決めるボルスさんの姿を尻目に、俺、エスデス、クロメは逃げ出した三体ほどの新種を追って森へと入るのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「おや? セイ、一人ですか?」

 

「ん? ああ、ランか」

 

あれから数日。

ボルスさんの奥さんやローグちゃんがイェーガーズ本部に来たこと以外には大したことはなかった。

エスデスや他の隊員は帝都の外へ新種狩りに出ていって不在。

俺も行っても良かったのだが、そもそも俺は警備隊。帝都の内部を守るのが仕事だ、という建前により、イェーガーズ本部で寛いでます。

 

ほら、たまにはあるじゃん? こうダラッとしたいときってさ

 

「ランは新種狩りに行かなかったのか?」

 

「ええ。少し調べたいことがありますしね」

 

そう言って笑うラン、実にイケメンである。俺にも少し分けてほしいものだ。

 

「しかし、物騒な新種も出たもんだな」

 

「そうですね。先程も街でトンファーを構えた男が何か血眼になって探していましたし」

 

「ソ、ソウナンダー」

 

一瞬、脳裏に副隊長の姿が過ったが、気のせいだと信じたい。

 

「警備隊の人でしたけど」

 

「俺、オワタ」

 

「そんなことより……」

 

「待って、俺の精神的な生死をそんなこと呼ばわりしないで」

 

「……精神的な生死……洒落ですか?」

 

「おかしい。俺の中でランのイメージがバリバリ砕けてンだけど」

 

冗談ですよ、といって笑うランであったが、今度は俺の生死が冗談になってしまった。

 

「すみません。つい」

 

「つい、にしていい問題じゃねぇけどな」

 

「拗ねないで下さいよ。少し聞きたいことがありまして」

 

そう言って一度調理場に姿を消したランは少しして中身の入った湯飲みを二つ運んできた。

 

どうぞ、といって差し出されたそれを受け取り、一口。こっちに来てから贅沢にも舌が肥えてしまった俺であるが、それでもこの緑茶は美味しいと感じられた。

 

「……うまいな」

 

「それはどうも」

 

暫く無言の時間が続く。

 

「それで? 聞きたいことってなんだ?」

 

湯飲みの中身がなくなったところでそう切り出すと、ランは少し考えるようにしてから口を開いた。

 

「何故、セイは軍に入ったんですか?」

 

「軍って……まぁ大きいくくりでみればそうだが、警備隊はほとんど別もんの組織だぞ?」

 

「では何故警備隊に?」

 

いつもの微笑むような感じではない、真面目に聞いてくる様子に、少しばかり背筋が立たされた。

 

「何故ってなぁ……それが最善だったから、だな」

 

「最善、ですか?」

 

「ああ。知ってるか分からんが、俺はチョウリ様の部下みたいなもんでな。あの人の帝国を内部から変えるって目的の手伝いにちょうどいいだろ?」

 

「なるほど……では、隊長になったのも?」

 

「まぁな」

 

もちろん、それだけが理由というわけではないが。

 

「んじゃ、こっちからも質問だ。ランも何でここに? 戦闘より、文官の方が向いてると思うんだが」

 

「よく言われますよ」

 

まだ中身を飲み終えていない湯飲みを手に、肩を竦めて笑うラン。

 

「なんせ、少し前までは教師をしてましたから」

 

「へぇ! そりゃまた。帝都の学校か?」

 

「ジョヨウというところで、ですね」

 

「ジョヨウ……あー、待て。何か、副隊長から聞いたことがあるような…………確か、帝国で一番治安がいいとかなんとか?」

 

「…………そう、ですね」

 

「ん?」

 

何故か表情の暗いランに疑問を覚えつつ、そういや、治安がいいとこで教師やってるならここにくる意味がないということに思い至る。

 

「……なんかあったみたいだな」

 

そして、そこで語られたランの過去

 

留守の間に生徒である子供達が凶賊に殺され、帝国一の治安という評判を落とさないために事件を闇に葬った役人。

 

そして、そんな帝国を変えること、そして復讐を誓った一人の元教師の話であった。

 

「……よく革命軍に入らなかったな」

 

「武力に頼るのは愚かなことだと判断しただけですよ。でも……」

 

ずいぶんと前に中身を飲み干した湯飲みを見つめるランの目がスッと細められた。

 

「あいつはこの手で殺しますが」

 

ゾッとするほど冷たい声で言い切ったラン。そんなランに俺はそうか、としか言えなかった。

 

「……少し話し込み過ぎましたか。それでは僕は戻ります」

 

「おお。またな」

 

では、と言って部屋を出ていくラン。出たところで誰かが戻ってきたのか、軽く会釈していたが、誰だろうか。

 

「またサボりですか? 隊長」

 

「……サラバッ!!」

 

「しかし回り込みます」

 

「嘘でしょ!?」

 

逃げ出そうと扉と逆方向にある窓へ向かった俺だったが、いつの間にか逃走進路を阻まれていた。

 

「さ、隊長。仕事はまだまだありますから、ファイトですよ」

 

「ま、待ってくれ。この間めちゃくちゃやっただろう? と、当分はしなくていいんじゃないかな?」

 

「……隊長、こんな言葉を知ってますか?」

 

先の尖ったトンファーで俺を脅すように構えた副隊長はニッコリ笑ってこういった。

 

「それはそれ、これはこれ、ですよ」

 

「鬼だ!? ここに鬼がおるぅ!?」

 

鬼に金棒、副隊長にトンファー。

ついにはイェーガーズ本部にまで出張ってくる副隊長は、俺の襟をつかんで警備隊本部まで連行。

ならほど、俺に安息の時間を渡さぬと言うのか。

 

よろしい! ならば、戦争だ!!

 

 

「やりますか?」

 

「待って、この状態でトンファーで目潰ししようとするのやめてマジで」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

その翌日、エスデスが行方不明になったと連絡が入ったのだが、イェーガーズのメンバー全員が、あの隊長なら大丈夫だろうというのが共通認識だったことはいうまでもないことである。

 

 

 

 

 

 


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