Fateで斬る   作:二修羅和尚

44 / 92
四十話

「あ、あははは、こ、これはそのえーっとですねぇ……」

 

倒れた体を起こして立ち上がり、視線を三人から反らさないように気を付ける。

 

「べ、別に怪しいもんじゃないんですよ?」

 

「仮面をしているやつが怪しくない訳がないだろう」

 

弁明しようとしたら角の人にもっともなことを返された。

ヤバイ、死ぬ。頭の中がその言葉一色になりつつも、僕は懐に潜ませてあった宝石をこっそりと抜き取り、通信を繋げる。

分体のなかでも、最弱個体といってもいいであろう僕でも、アサシンはアサシンだ。これくらいの芸当はできる。

 

『どうした? 何かあったか?』

 

ちなみにこの宝石の無線機、隠密用としてオリジンが改良したため、向こうからの声が僕以外に聞こえることはない。

ただし、こちらからは話しかけなくちゃならないんだけど

 

『おーい? もしもーし?』

 

僕からの反応がないからか、再びオリジンからの通信がきた。

さて、どうやってこの状況を伝えようか……

僕ら分体の記憶は、本体の近くで宝具を解除しないと統合されない。

つまり、僕が死ねばここであったことも伝えることができないのだ。その任務だけでも果たさないと……

 

「ま、まぁそういうことは言わずに、ね? 別に争う気はないから見逃してほしいなぁ……なんて」

 

「葬る」

 

まさかの話を聞く前にですか

 

「うわぁっ!?」

 

今までおぶられていたために油断していたが、突如、アカメが刀を抜いて斬りかかってきた。

一斬必殺の村雨。絣でもすれば呪毒によって死に至る帝具。ブラートのインクルシオに並ぶナイトレイドを代表する帝具だ。

 

だが、こちらは腐ってもアサシン。分体になって弱体化しているが、それでも敏捷は高いのだ。

不意を付かれた形ではあったが、なんとか横に転がって村雨を往なす。

 

「危ないなぁ!? もう!! こっちはドクターの帝具を回収したいだけなのに!」

 

「つまりはお前、イェーガーズだな? なら遠慮はしねぇ!」

 

「うわマズッ!?」

 

なぜ僕のようなアサシンが生まれたのだろうか。オリジンのダメダメな部分のみで構成されてるんじゃないのかな僕。

 

なんて考えている暇もなく、今度は鎧に身を固めた男、ブラートが長大な槍を構えて突っ込んでくる。

もちろん、それに続く形であの角の人もだ。

 

「くっ! 応援来てっ!!」

 

『っ! 了解、待ってろ!』

 

オリジンも状況を察したのか、すぐに連絡を切った。今ごろ、他の分体にも連絡はいってるはずだ。なら、僕がやるべきことは一つ

 

「逃げるし……うわぁっ!?」

 

「チッ、身のこなしは軽いなおい」

 

寸のところで槍を避けると、そんな声が耳に届いた。

それだけしか取り柄ないからっ!!

 

「フンッ!!」

 

「葬る」

 

「のっ!? 激しいよっ!!」

 

角の人の武器による叩きつけを避けるも、その威力で足場が崩され、更にはその隙を狙ってアカメが抜刀。

 

唯一分体にも装備されていた両腰の短刀を二本抜き取って刃を防ぐ。

が、やはり弱体化した腕力では押しきられ、振るわれた刀とともに体も飛ばされた。

 

「くっ、そ!!」

 

無理矢理空中で軌道を変え、何とか木の幹に着地を果たす。短刀を一本戻して飛ぼうと前を見据えた。

 

 

鎧の人が目の前で槍を降り下ろしていた。

 

「っ!?!? がっ!?」

 

手にしていた短刀で何とか直撃を避ける。

がしかし、刀身に当てて上手く軌道を反らしたはずの槍の刃は勢いそのままに短刀ごと僕の左腕を斬り飛ばす。

 

 

痛い痛い痛い痛い!?!?

 

 

焼けるような痛みが全身を駆け抜けるが、本能なのか、それでも体は木を蹴って横に跳ぶ。

直後、追撃してきたアカメの一撃が僕が着地した木に入った。

 

左腕があった場所から止めどなく鮮血が流れていく。

腕を失ったことでバランスが悪くなったのか、重心がはっきりせず、足元がおぼつかない。

 

ますます逃げ延びることが難しくなった。

 

「……ほんと、嫌になってくる……」

 

 

けど、時間稼ぎしなきゃだ。最低あと二人集まれば逃げ切れるはずだから

 

それまでは

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

ナイトレイドのアジト近くの森。

 

そこにあるのは四人の人影

 

三人とはもちろんナイトレイドの主力メンバーであるアカメにブラート。そしてつい最近ナジェンダが使用できるようになったという生物型の帝具、スサノオ

 

そして、そんな三人と対峙するのは骸骨の仮面を着けた男。

だが、既に左腕を失い、体のあちこちにも大怪我を負っており、満身創痍。

唯一の救いは、アカメの村雨だけは防いでいるところか。

 

まだ戦闘が始まって数分程だが、決着はもうつきそうだった。

 

木を背もたれにしながら三人を見据える男は疲労で震える右手で短刀を握りしめる。

セイの宝具により、分体として分かれたこの男。その身体的スペックは元の本体の凡そ一割程。

それでも、ナイトレイドの最高戦力を相手にこの程度ですんでいるのは下手に攻勢に出ず、逃げに徹しているから。

 

「……しぶとい」

 

「だな。致命傷は上手いこと避けてやがる。技量だけは一級だ」

 

そんな彼をアカメ、ブラートの二人は誉める。

しかし、こうして話している暇はない。今こうしている間にも、どこからか敵が来るかもしれないのだ。

 

既にスタイリッシュを倒し、スタイリッシュが仲間にアジトの場所を伝えている可能性を考えてアジトを破棄、撤退しなければならない。

こうして分体である彼が来たからには、その可能性は高くなった。そのため、スタイリッシュによって散布された毒が抜けたであろう仲間は既に撤退を開始。残りはアカメ、ブラート、スサノオの三名のみ。

 

その三人も早いところ片付けて仲間に合流する必要があるが、スサノオという新戦力を晒したからには、どうしてでも分体である彼を倒したいのが本音。敵側に情報を与えてしまうのは得策ではない。

 

ちなみに、スタイリッシュが使用していた帝具は、戦闘中にスサノオが回収し、ナジェンダの元へと届けているため問題はない。

 

「アカメ。早く楽にしてやるぞ」

 

「……わかっている」

 

スサノオの言葉に頷き、刀を構えるアカメ。その様子を見て、分体の男は軽く苦笑を浮かべた。

 

オリジンや他の分体たちも全速力でこちらに向かっていることは既に分かっている。

分かれた個体ではあるが、根っこの部分は皆同じ。何となくではあるが存在は感じられるのだ。

 

だが、それぞれが相当遠くへ向かっていたのか、ここに到着するのはもうしばらくかかるだろう。自分の状態から考えてももうもたないのは明白だ。

 

だったら最後、少しでもオリジンの得になるように動くのが当然か。

アサシンなのに、姿をさらし、そして敗北する情けない自身がオリジンや他の分体に報いる方法。

 

「……ふぅ…」

 

浅く息を吐いてしっかりと短刀を握りしめる。

 

そして血が流れるのも躊躇わずに、一直線に駆けた。

 

決死の一撃のつもりで短刀を振るう。が、その一撃はあまりにも雑で、アカメにしてみればまるで斬ってくれと言っているようなものだった。

 

 

「葬る」

 

容易くその一撃を避けたアカメは、すれ違い様に抜刀。空いた胴に必殺の一撃を入れる。

 

傷口から村雨の呪毒が流れ込み、分体の男の心臓へ到達。直後、その命を刈り取った。

 

 

「……はっ」

 

死の直前、男はアカメの横顔を見ながら口角を僅かに上げた。

しかし、まるでしてやったりといったその表情を見るものは居なかった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

俺が分体から連絡を受け、駆けつけたときにはもう全てが終わっていた。

一番近い場所にいた分体が到着したころには終わっていたらしい。全くの逆方向へ進んでいた俺が間に合うはずはない。

 

俺は殺られた分体以外を全て俺の中に戻す。

 

宝具妄想幻像(サバーニーヤ)

自らの人格が体を持ち、個々でありながら群として活動可能な対人宝具

 

自らの魂の総量は変わらないため、別れれば別れるほどスペックは低下する。

 

俺の場合に当てはめると、オリジンである俺以外の分体は宝具を持たないし、持たせられない。

また、スキルもアサシンとして機能する気配遮断のみ。

それでナイトレイド相手に耐えろというのが難しい話だったか。

 

死んだ分体の側に立ち、その体を抱き抱える。すると、その死体はゆっくりと魔力の粒子となって消滅する。

 

姿を見てわかったが、この個体、どうやらあのビクビクしていた臆病な個体だったらしい。

 

失った左腕や傷から、よく耐えたと言いたくなる。

 

死んだことは決して誉められたことではない。事実、十分の一、俺の魂が消えたことで今までの九割ほどの力しか出ない。

がしかし、解決策はあるし、なにより根本的な命という部分では俺たちは繋がっているのだ。

 

「ったく、よく最後にそんな選択肢がとれたよな……」

 

体の呪刻から、死因は帝具村雨の呪毒とみて間違いないだろう。

 

一太刀でも浴びれば死に至るのは脅威()()()

 

が、その一撃は間違いなく、俺の命に刻み付けられ、そして耐性を得るに至る。

分体一人で十分な戦果だ。

 

「……帰るか」

 

既に帝具の回収されているスタイリッシュの死体を埋めてやり俺はそのままイェーガーズ本部へ帰還したのだった。

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。