「何? 家のメイドの募集かけたの?」
「はい。実は先日、屋敷の掃除担当のメイドが一人産休をとりまして……」
「あー、うん。それなら仕方ない、か」
翌日
今回はイェーガーズでそれほど大事な用はないため、警備隊の方へ赴こうとしていた俺なのだが、朝一番にエアからそんな報告を受けた。
何でも、うちの護衛担当の一人とメイドさんがヤっちまってできちゃったらしい。
……うん、まぁそれは別にいいんだよ? 男の方は責任とるって話だし、むしろ喜ばしい事だ。
二人の部屋だって用意しよう。
ただ、ね
「二人とも俺よりも年下って、これどうなの?」
「? 確かに、若いですけど、別に珍しいことではありませんよ?」
聞いた話だと二人ともまだ十五才だとのこと。確かどっかの汚職貴族を潰したときに雇ったと思うのだが、その時からかな?
そして驚いたことにこの年での結婚は珍しくない、と。
「……結婚、ね……」
ふと、自分に置き換えて考えてみる。
思えば、この世界に転生して一度も考えなかった話なのだが、そもそも俺が結婚するということがあまり想像できなかった、というのもある。
だが、改めて考えると厄介な話だな。
自身の資産についてはいうまでもなく、俺が死んだ場合の事を全く考えていなかった。いや、老衰って意味で。
それに魔術というこの世界の未知のとかもある。子供ができた場合、その子に魔術回路はあるのか、魔術は使えるのか、そして俺の魔術を継承させるべきなのか。
「セイ様?」
「あ、あぁ、悪い。考え事をな」
まぁその話はこの帝国の闇を払ってからだ。それまではおちおち死んでられん。家のこともある。
それに、だ。あのちょっと頭の悪い部下を放っておくわけにもいかんからな。
「それで? 募集には何人くらいかかったんだ?」
「それが……今回は一人だけだったんです」
「えらく少ないな」
こういっちゃなんだが、家のメイド、もしくは護衛の給金はそこらの一般的な仕事よりも高めに設定されているため、募集をかければ毎回かなりの人数が集まってくる。
まぁ、仕事の内容は少しばかり大変かもだが、全員の人権を約束しているため、俺が無理強いすることもない。
他の貴族だと、メイドなんかを奴隷のごとく扱う輩もいるみたいだが、そういうのは絶対しないし、いたら警備隊が動く。
あとは終身雇用なのでこちらからクビを言い渡すことはない。やめるとすれば自主的に、だ。
まぁもっとも、ここに仕えてくれている人たちはほとんどが俺に忠誠を誓ってくれた者達だ。募集かけて雇ったのはせいぜい数人ばかり。
それも大臣からのスパイという可能性を考えて厳密な調査を行った結果だ。
ちなみに、その時集まった内の八割くらいスパイだったのはビックリした
……しかし、今回は一人か。珍しいこともあるもんだ
「その一人はいつ頃来るんだ?」
「一応、今日の午後に」
午後って、あと一時間くらいか
「分かった。なら、俺も同席しよう」
果たして、どんな人がくるのか楽しみだが、大臣からのスパイは勘弁だな。
捕まえても、蜥蜴の尻尾切りのごとく捨てられるだろうから重要な情報も持ってないだろうし。
革命軍の可能性はないこともない、か。俺もイェーガーズ所属になってからは大分有名になってしまったから、暗殺対象であるのは間違いないだろう。
「……とりあえず、持っていくか」
最近ほとんど使っていなかった目の帝具を手に取ると、俺はそのまま自室に戻った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「どうも♪ 私、今回メイド希望で来たチェルシーっていいます♪」
なんだろう、この今時の女子高生ですってオーラを垂れ流す女の子は
時間になり、エアに教えてもらった部屋に入ると、そこにいたのはチュッパチャップスをくわえ、ヘッドフォンを着けた赤、というよりも橙に近い髪色をした女子だった。
年齢も同い年くらいか
「……なんか、今までにないタイプだな」
「そう……ですね」
少し驚いて俺もエアも唖然としてしまったが、すぐに気を取り直し、部屋に備え付けてあったソファーに座るように促した。
そして三者が腰を下ろすと必要書類を出したエアがいろいろとチェルシーに説明、もしくは質問を重ねていく。
対するチェルシーは、チュッパチャップスをなめながらではあるが、受け答えもしっかりしている。字も書けるようだが、どこかでメイド、あるいは役所仕事でもいていたのだろうか。
……てか、チュッパチャップスあったのね。俺今の今まで知らなかったよ。今度探してみよ。
なめるのもいいけど、バリバリっ噛むのもいいんだよなーとか下らないことを考える。
さて
それじゃ、不意打ちで調べてみましょうか
俺はチェルシーに悟られないようにこっそりとスペクテッドの『洞視』を発動させる。
『ふむふむ、雇用条件は悪くない、っていうよりもむしろいい! 給金なんて前のとこよりも高いじゃない! え、なに週に一度は休みがあるの? それでいいの? それでこんなにもらえるの? ヤバイヤバイヤバイこれは破格なんてもんじゃないわよ!? ふふふ、私の玉の輿人生は今日の今から始まっーー』
止めました
なんか……うん、こういう人もたまにはいるよね
まぁ大丈夫っぽいし、いいんじゃない? 思惑はさておき。
「ではセイ様、如何なさいますか?」
「……うん、まぁいいんじゃないかな?」
しばらくはエアを教育係につけようかな
ーーーーーーーーーーーーーーー
「ふぅ、なんとかなったわね……」
早速明日から住み込みで働くことが決まったチェルシーは、今日一日だけ借りている宿屋の一室に入ってすぐに座り込んでしまう。
「ボスがらあの帝具の話を聞いてたから良かったけど、そうでなかったら即アウトよねあれ。心を読む帝具なんて私の天敵じゃない……」
とはいうものの、そこは流石に潜入のプロ。
常時思考を、昔ある貴族に召し抱えられた当時に戻した
ことで難を逃れたチェルシー。
どうやらあの帝具、人の心の裏までは読めないとみていいだろう。
潜入の際、自身の帝具であるガイアファンデーションをしようしなかったのはセイ自身の能力が未知であったからだ。
もし仮に、ガイアファンデーションの変装を見破られるなんてことになれば、目も当てられないだろう。
とにかく、第一関門は突破だ。あの時の思考を読んだのか、呆れた顔をされたのは些か不本意であるが。
「でもここまで来れば、あとは私の得意分野。きっちりお仕事はこなさないとね」
もちろん、二重の意味でである。
ボスからの任務は、あのセイという人物の調査。
チェルシー自身は見たことないが、マインやシェーレ、などに聞いた話では宝石を爆発させたり、銀の触手のようなものを操ったりするらしい。
あとはリーダーとしての能力も優れ、近接でもアカメにひけをとらないんだとか
なんだ、その超人は
ちょっと大変そうだなぁ、とぼやいたチェルシーは、明日に向けて早めに寝床についた。
翌日、必要なことだという理由で、道場にてエアに稽古をつけられることになるチェルシーだが、それを知るのは明日になる。
念のため。
セイに仕える人たちは、皆自衛のための護身術を学んでいます。
まぁ、実力は各々で違いますが、一般人よりは少し上、というのが最低レベルですね