Fateで斬る   作:二修羅和尚

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三十六話

ギョガン湖周辺

 

広大な面積を誇る湖であるギョガン湖。豊富な水の恩恵を受けたこの地域は、豊かな自然が特徴的だ。

 

また、山に囲まれていることもあり、雨の日には腐葉土からの栄養分が湖に流れ込むため、湖の生物も多い。

バードウォッチングなんかするには最適だろう。

……まぁ、危険種と出くわしたらアウトだけど

 

さて、そんなギョガン湖の周辺には一つの寺がある。

 

が、その寺は今では凶悪な賊が集まる駆け込み寺となっているらしい。

 

 

さて、今回俺達イェーガーズはその寺に集まる賊の討伐が目的だ。

目的なんだが……

 

「エスデスのやつ、何でこっちに来ないんだ? あいつなら嬉々としてこっちに加わると思うんだが……」

 

「どうやら、タツミ君と一緒にいたいらしいですよ。あとは我々の様子見、といったところでしょうか」

 

俺の問いに答えてくれたランがチラリ、と視線を上に向けた。

それに従って目を向けると、そこには高い岩の上でタツミ君と並んで座るエスデスの姿。

スペクテッドの遠視を使って見てみれば、御丁寧に手まで重ねちゃっている。

 

……まぁ、嬉しそうなエスデスの一方で固まっているタツミ君、というのはなかなか面白い見せ物ではあるが。

 

「……くだらない」

 

「まぁまぁ。でも、恋をするのはいいことだよ」

 

ポツリと呟いたクロメ。

その言葉に反応したのか、ボルスさんがそう語る。

 

まぁ、この部隊で一番恋愛とかに詳しいだろう。その言葉には納得させるだけの力がある。

 

「キュ、キューキュッ」

 

「ちょ、コロ! からかわないでよ!」

 

俺のとなりを歩くセリューが含み笑いをしながら服を引っ張るコロの頭をポカポカ叩いていた。

 

……いや、何してんの?

 

「でもあれだな。賊相手ならこの中の一人で十分そうだな」

 

「ウェイブ。油断は禁物ですよ」

 

す、すまんとランに謝るウェイブ。ただ、その意見には激しく同意だ。

なんせ、帝具なんて超兵器を使用するのだ。その戦闘力は計り知れないものだろう。

 

「でも、ドクターの帝具は戦闘向きじゃないだろ? 護衛くらいはついた方がいいんじゃねぇか?」

 

「あら? 心配してくれるの? フフッ、ありがとね」

 

スタイリッシュのウィンクに、若干身を引いたウェイブ。そんなウェイブを他所に、スタイリッシュは大丈夫よ、と答えた。

 

「さぁ、皆、出てきてちょうだい!」

 

『ウィィィィィィィィ!!』

 

スタイリッシュの合図で、突如周囲から現れた仮面の…………変態じゃねぇか!?

 

な、なんだこの圧倒的なゲイ臭は……!!

 

白の不気味な仮面に黒の布面積の少ないセパレートのようなものに身を包んだそいつらは、奇妙なポーズを決めてスタイリッシュを取り囲んだ。

 

聞けばこいつらはスタイリッシュが持つ手先の精密性を数百倍にまで引き上げる帝具パーフェクターによって強化手術を行った者たちであるらしい。

 

将棋で言えば『歩』にあたるらしい。

……てことは金銀飛車角なんかもいるのかな。

 

 

将棋、あったんだ

 

 

「こんなにたくさん……気づかなかった……」

 

「ちなみに、死にかけててもちゃんと治してあげるわよ。仕込み武器のオプションつきでね♪」

 

「遠慮させてください」

 

冗談なのか、はたまた本気なのかよく分からないのだが、スタイリッシュならやりかねない。

その言葉に、ランは苦笑いでお断りしていた。

 

「私が怪我したらセイ君に任せるね」

 

「その前に怪我をしないようにしろ」

 

「そういや、セイも治療とかできるんだっけか」

 

「まぁな。これでも警備隊員の治療は無償で俺がやっている」

 

もちろん自費であるが、そもそも使用するのは俺の魔力であるため、元手はタダも同然。

それに俺の部下たちなんだ。隊長として、できることはしてやりたい。

 

勿論、隊員には不思議パワーと称して、暗示で乗り切るが

 

「それより、セイの方は大丈夫なんですか?」

 

「何がだ?」

 

「いえ、あなたの帝具もドクターと同じく戦闘向きでないはずですし……」

 

つまるところ、俺もドクターのように護衛が必要、と?

 

「でも隊長が俺らよりも強いって言ってたぞ?」

 

「ええ。ですが、戦闘向きの帝具を使わずに我々以上というのは少し信じられなくて……」

 

「あー、まぁ確かに。それは信じられんわな」

 

てか、エスデスそんな説明してたのかよ。言えよ、俺に。

 

「ま、それについては追い追い分かるだろうよ。どうせこれから付き合いが長くなるわけだし」

 

「だね! 皆直接見たら驚くよ!」

 

何故お前が偉そうなんだセリュー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、雑談をしている間に寺の前に到着したわけなんだが……

 

 

「なんだァ! てめェら!!」

 

見た目如何にも賊ですって顔をした門番がたっているのだが、俺達はそんな声を無視して堂々と歩く。

 

そんな門番の声に反応したのか、なんだなんだと寺の中から大勢の賊が外に出てきた。

 

「お前ら! この人数に勝てると思ってんのか?」

 

「お! えれぇ上玉もいるじゃねぇか!!」

 

「ヒャッハァ! 今夜はお楽しみだなぁ!」

 

「男の方は殺せ! 女は生かして捕まえろ!」

 

口々に好き勝手ほざくバカでも。

そんななかでも、俺達は目配せで誰が最初に行くかの相談を始める。

 

「なら、ここはこの俺」

 

「そして私の警備隊組にお任せあれ!」

 

俺一人でやろうとしたのだが、どうやらセリューも一緒に殲滅し(やり)たいとのこと。

 

仕方ないと俺は肩を竦めると、両腰に取り付けてある瓶の蓋を取った。

 

「ん? セイ、それは何だ?」

 

気になったのか、ウェイブが疑問の声をあげた。

 

「ああ、これね。俺の商売道具」

 

賊がやるのか? と警戒を顕にするなか、俺は何の躊躇いもなく、淡々と言葉を放った。

 

「『沸き立て、我が血潮』『斬』」

 

直後、門前に集まっていた賊の大半の体が銀の触手によって凪ぎ払われた。


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