Fateで斬る   作:二修羅和尚

38 / 92
三十五話

「おおおぉぉぉぉ!!!」

 

「うおっ!?」

 

合図の直後、イエヤスは真っ先にタツミの懐近くに潜り込み、袈裟斬りを放つ。

対するタツミは、一瞬反応が遅れるものの寸のところでそれから逃れる。

 

明らかに違う

 

イエヤスが修行して強くなっていることくらいは予想できていた。が、イエヤスは予想を遥かに越えて強くなっていた。

 

「くそっ!!」

 

「見えてるぜ!」

 

お返しとばかりに放つ一閃であったが、イエヤスは余裕をもって剣を割り込ませる。

同時に、剣を僅かに傾ければ、タツミの剣はその方向へと往なされ、勢いのついていた体の力はあらぬ方へと流れてしまう。

 

「どらっ!!」

 

「ごっ!?」

 

そんなタツミの土手っ腹にイエヤスは蹴りを打ち込んだ。

 

「どうだ? 強くなってんのはタツミ、お前だけじゃねぇんだぜ!」

 

「くっ……!」

 

一度バウンドしたさいに、軽い身のこなしで体勢を整えたタツミ。

そんなタツミを見て、イエヤスはやっぱりかぁ、と呟いた。

 

元より、これで決まる相手だとは思っていないのだが、割りと本気で叩き込んだ蹴りだったりもする。

まぁ、鳩尾を狙ったのにそれを僅かにでも反らしたタツミが上手かったのだろうが。

 

やっぱり、タツミは強い

 

故郷でも感じたことだが、タツミには才能がある。

村の元軍所属だったおじさんからの教えもすぐに身につけて成長していた。

対して自分は同じ事を覚えるのに時間を要した。

 

手合わせだって、勝てたことはほとんどない。

勝てたときは本当にたまたま。タツミの体調が悪かったりなど、理由は色々だ。

本人はそんな自分も強いと言うが、はたしてそれはどうなのか。

 

だから、軍へ行ってタツミに負けないくらい有名になってやろう。そう思った。

……結局は、軍の現状を知り、諦めたが。

 

けど、今。確実に優位に立てている! あのタツミにだ!

 

ギュッ、と剣の柄を握りしめ、脚に力を込める。

視線の先には立ち上がったタツミの姿。

 

「……顔つき変わったな……」

 

「まぁな」

 

いっそう鋭さを増したタツミの目に、イエヤスは一瞬身を竦めそうになるが、剣を構えることでそれを黙らせた。

タツミも構え

 

「ハァッ!!」

「っ!?」

 

剣を振りおろした。

 

速い

 

何とか攻撃を往なし、防御の姿勢をとったイエヤス。しかしタツミは、今までにないスピードで攻勢に入った。

 

速い!

 

 

故郷に居たときからスピードと技で攻めることを得意にしていたタツミ。対するイエヤスは防いで斬るといった堅実なスタイルだ。

 

「このっ……!!」

 

出鱈目に剣を振るうも、動き回るタツミにはそれが当たらない。

イエヤスも必死に守勢に入っているものの、時折隙を付かれては体に細かい傷を増やしていく。

 

だが、イエヤスは決してタツミに劣っているわけではない。なんせ、目は確かに、タツミを捉えているのだ。

 

普段からこれ以上に速い上司を相手にすることも多々ある。故に目は慣れている。が、肝心の体が追い付いてこない。

 

 

セイさんに体を鍛えろとは言われてたけど……くそっ! もっとやっとけばよかった!!

 

 

内心で後悔するが、今ここでそんなことをしても何にもならない。

とにかく、この現状を抜け出さなければ

 

「そこぉっ!!」

 

「うぉっ!?」

 

目でタツミの位置を把握したイエヤスは、タイミングを見計らって体を屈め、タツミの駆ける直線上に足を出す。

途端、それに引っかかるタツミ。

体勢を崩したタツミに追撃をかけようとしたイエヤスであったが、自身も体を屈めているため、真っ先に距離をとることを選んだ。

 

どうやら、タツミはあの高速移動のさいは頭が追い付いていないようだ。

 

小さくへへっ、と笑ったイエヤス。どうでもいいが、イエヤスに頭がどうのと言われるのはタツミにとっても心外だろうに。

 

 

「まだ立てるだろ? タツミ。さぁ続けようぜ。二人の戦いってやつをよぉ!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「『戦いってやつをよぉ!!』だってよwww」

 

「セイさん止めて!? これ以上俺の心の傷を抉ってこないで!!」

 

どうも、セイだ。

大会は突然のハプニングに見舞われて一時中止も危ぶまれたが、なんとか終わらせることができた。

尚、優勝者は肉屋のカルビって人だ。顔は牛そのものな変人だが、卸してくれる肉は絶品。家もお世話になっていたりする。

 

閑話休題

 

「そもそも、何で大会のこと知ってるんすか!? 警備だったでしょ!?」

 

「セリューに聞いた」

 

「セリューさぁぁぁぁぁぁぁん!?!?」

 

そんなイエヤスを見てニヤニヤしていると、本人はうわぁぁぁぁぁぁ!! と目元を押さえながら駆けていった。

……ちょっとからかいすぎたかな?

 

まぁ、そういうお年頃だし、発言自体は興がのってのことなんだろう。今は温か~い目で見守ってあげよう。

もちらん、口元の笑みは忘れずに

 

さて、そんなことよりも試合のことだ。

試合結果は惜しくもイエヤスの負けであったらしい。

どちらも負けず劣らずの勝負を見せてくれたとのことだが、イエヤスに勝つって相当な実力者だ。

 

見ていたというセリューに尋ねて見ると、なんと相手はサヨとイエヤスの幼馴染みだという噂のタツミ君であった。

 

ますます警備隊(うち)に欲しい。

鍛冶をやるくらいなら特別待遇で招きたいものなのだが、もうすでに違うところに招かれているらしい。

 

お気づきだと思うが、それがハプニング。

 

なんと、あのエスデスが勝利したタツミ君を拉致したらしい。

詳しいことは分からんが、思い当たるのが一つしかない。

 

以前、部隊結成の祝いの食事で、恋がしたいだのほざいていたが……まさか本気であるとは思っていなかった。

いや、だって……ねぇ? あのエスデスだぞ? 冗談だと思うでしょうに

 

そんな訳で俺はイェーガーズ本部に赴いた

 

 

「入るぞ」

 

向こうの是非を聞かずに扉を開ける。するとどうだろうか。そこには一人の少年を椅子に縛り付けるエスデスと、少年を取り囲むようにして見ているセリュー達。

 

「おお、漸くきたか」

 

「いや、きたかとか言う前に何してんの? お前」

 

もはやツッコむところしかない

 

「紹介しよう。私の恋人になるタツミだ」

 

「ン!? ン、ンゥゥゥゥゥゥ!?」

 

「嫌がってるぞ?」

 

「バカめ。どうみても嬉しそうだろ?」

 

どうやら、こいつの目は節穴らしい。

涙目になって全力で首を横に振るタツミ君。

 

エスデスの残念さに少々呆れながらも、俺はタツミ君に目をやった。

 

クロメよりも年上、俺よりも下ってくらいの年齢か。多分前世で言えば中学生くらいだろうか。

茶髪の髪でなかなかカッコいい容姿の少年だ。普通にモテそうだな。

 

と、そこまで観察してふと感じる既視感。

はて? 俺はこの少年を見たことがあるような……

 

「なぁ、もしかして、ザンクの件であったことあるか?」

 

「ン!」

 

首を縦に振って肯定の意を示す。

 

てことはあのときの少年がタツミ君たったのか。あの日は暗いし、状況が状況だしよく見てなかったからな。

となると、俺は以前からタツミ君に会っていたわけだ。

 

「とりあえず、恋人だというならそれをはずしてあげた方がいいんじゃないですか?」

 

「ん? ……確かに、それもそうか」

 

ランの言葉に従って猿轡と縄をタツミ君から外していくエスデス。

無事に?解放されたタツミ君は、苦しかったぁ……と大きく息を吸った。

 

「しっかし、この子がエスデスの恋人ねぇ……お前年下が好きなのか?」

 

「私が育てたいからな。それに、私が恋人にする条件はそれを含めてあと四つあるぞ?」

 

聞きたくないので聞きません

 

「お、俺はそんな気はないぞ!」

 

「安心しろ。すぐに染まる」

 

否定的なタツミ君だが、多分無駄だ。

エスデスは自らの力で征服しにかかる女だ。相手がなんと言おうと、全てを力でねじ伏せる。

 

……こんなの恋人とか死んでもごめんだな

 

両手を合わせてタツミ君の冥福を祈ろう(死んでません)

 

「この中で結婚している、もしくは恋人がいる者はいるか? 出来れば、恋人とどうすればいいのか聞きたいのだが」

 

スッ、とボルスさんが挙手。

今年で結婚六年目となるボルスさんの家庭は全国の夫婦に見せてやりたいほどに円満だ。

一名、驚愕を浮かべる奴がいるけど。

 

ボルスさんはやんやんとマスクで分かりにくい顔を両手で覆う。

 

「む? 意外だな。お前には恋人はいないのか?」

 

「おい。喧嘩売ってんなら買うぞ? お?」

 

「いやなに。てっきり私は付き合ってるものだと思ってな」

 

クッ、とエスデスの視線が俺の隣へずれる。

……? 俺、誰とも付き合ったことねぇんだけど?

 

「っぅぅ……」

 

隣でセリューが顔を真っ赤にしているが、何勝手に茹でちゃってるんだろうか。

 

「報告します!」

 

その時、扉を開けて帝国兵の一人が入ってきた。

 

内容はギョガン湖周辺の調査が終了したこと。そして、そのギョガン湖に住み着いた賊の討伐だ。

 

「丁度いい。一緒に行くぞタツミ。まぁ今回は我々の戦いを見学するくらいだろうがな」

 

「え、あいや俺は……」

 

「……諦めろ」

 

渋るタツミの肩に手をおいたウェイブ。エスデスの強引さは短い間で学んだようだ。

 

「それでは行くぞ。賊は一人残らず殲滅だ」

 

 

 

 

 




一応、エスデスの恋人候補の条件にはセイも当てはまっているっていうね

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。