あの提案から数日。帝都ではとあるイベントが開催されることになっていた。
帝都中の腕に自信のある者達による力と力のぶつかり合い。
闘争の好きなエスデスが思い付きそうなことだ。
当然ながら優勝者には賞金が与えられる。が、本当の目的は帝具使いの発見だ。筋の良さそうなのが入ればイェーガーズに入隊なんてことも考えられる。
……もっとも、帝具が使えるような奴がそんな簡単に見つかるとは思えないんだがな
まぁいい。それに関しては期待せずに見つかればラッキー程度に思っておこう。
話を戻すがこの大会、帝都中から武の心得があるものが数多く出場する。
形式はトーナメント。何人くらい出るかはわからないが、それなりの数は集まるだろう。
そして、以前の俺とエスデスとの死合いと同様に、観客もかなりの数が集まるはずだ。
以前やり過ぎたため、普段よりも警備は厳重になるだろう。
もちろん、その警備を担うのは俺達警備隊だ。俺もこの日は試合観戦できず、警備に回ることになっている。
「というわけで、だ。イエヤス。お前出てみないか?」
「いや、いきなり部屋に来て言われてもわかんねぇっすけど……」
「カクカクシカジカ」
「いや、わからないって」
……むぅ、どうやらイエヤスにこの手のネタは通じないようだ。
「ったく、存在がネタみたいなのに何でわかんねぇかなぁ……」
「何で罵倒されたんすか俺!?」
納得いかないとばかりに騒ぐイエヤスを無視して、俺はイエヤスの部屋にあったベッドの上に腰を下ろした。
「まぁ落ち着けって。ハゲるぞ? そのヘアバンドの下みたいに」
「別にハゲてませんよ!? ファッションですから!」
ほら! とヘアバンドを取り外してみせるイエヤス。俺はそれにわかったわかったと少し謝りながら話を続ける。
「まぁなんだ。今度開催される武芸大会。お前も出ないかって話だ」
「あぁ、あれか。いや、警備隊の仕事があるんだぜ?」
「安心しろ。今回は俺も警備に回る。お前の分くらいは受け持ってやれるさ。それに、毎日俺とかファル相手だと、自分がどれくらい強いかわかんねぇだろ?」
「まぁそれは確かに……」
実際、こいつはよくやっていると思う。
警備隊での仕事もちゃんとこなしているし、鍛練だって休んでいるのを見たことがない。
剣の腕ももともと高かったが、今はいっそう磨きがかかってる。家の警備や護衛を任せている連中ともほぼ互角だ。
おまけに体術は俺が指導し、今では警備隊でもセリューにや副隊長に次ぐ実力者だ。
ん? 副隊長強いのかって? あいつ、トンファー持たせたらコロ+セリュー相手でも耐えられるぞ?
ただ、イエヤスが普段から相手にしているのは帝都の中でも上位に位置する実力者だ。
ファルだって今じゃ警備隊員以上、副隊長未満って感じだしな
そんなわけで、ここらでイエヤスにはどれくら自分が強くなっているのかを認識してもらおうって訳だ。
イエヤス本人の自信にも繋がるだろう。まぁ、自信つけたあとで俺がボコって高くなった鼻を折るつもりだがな。
「できれば、サヨの奴も出してやりたいんだが、あいつは弓を使う後衛だからな。今回のには向いてねぇんだ」
「出れるなら出たいけど……いいんすかね?」
「構わん。隊長の俺が認める。まぁ、非番の隊員が駆り出される原因は俺にもあるしな。明日は全力でやるさ」
副隊長にはすでに話を通してるしな。
言ったら、また勝手に……と文句を言われたが、俺がその分まで頑張ることで許しが出た。
「んじゃ、話はそんなけだ。あと、イエヤス」
「あ、はい、なんすか?」
「……自信、持っていけよ。お前は立派な弟子なんだからな」
「……はい!!」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「ウオオォォォォォォォォォ!?!? 忙しすぎるゥゥゥゥゥゥゥゥ!?!?」
「口動かすよりも仕事してください」
「書く書類が多すぎるだろぉが!?」
現在、山のように積まれた書類と格闘中。
あのあと、本部へととんぼ返りした俺は有無を言わさないとばかりに副隊長に首根っこを捕まれ、執務室に放り投げられた。
そして視界にはいる書類の山、山、山
「武芸大会の開催に伴って、各所への呼び掛けや帝都の貴族への連絡などで大量に増えました。また、結構大がかりな行事なので、異民族や革命軍の密偵が入り込む可能性もありますからね」
「にしても多いよ! 何? 腱鞘炎にする気か!?」
「以前のあなたと将軍との試合のときは私一人でやりましたが?」
「…………マジで?」
「マジですがなにか?」
「…………」
なにも言えなくなりました☆
「よし、君は執務長に任命しよう。しっかりと、頑張りたまえ」
「逃がすと思いますか?」
では、と言って部屋を出ようとすれば副隊長に回り込まれました。
「だいたい、人手が欲しいのに無理を言ってイエヤス隊員を抜いたのはあなたでしょうに。責任をとる根性くらいは見せてください」
「むぅ……」
「セリュー元隊員の真似をしてもキモいだけですよ」
「君そんな毒舌キャラだったっけ!?」
そんな俺の声もはいはい、と受け流す副隊長は慈悲という言葉を生まれるときに忘れてきたんじゃないか思えるほど淡々と言った。
「とりあえず、これ終わるまで帰らせませんよ」
「俺、男には興味な「殺すぞ」マジのトーンやめてっ!?」
とりあえず、今日中には帰れそうにないなこりゃ