「いやぁ、エスデス将軍。結果はどうであれ、今回はお疲れ様ですな」
「なんだ? 大臣。嫌味でも言いに来たのか?」
宮殿のとある一室。
部屋にはいった大臣、オネストは肉にかぶり付きながら目の前の女性、エスデスに一礼。
対するエスデスはその様子を見てフンッ、と鼻をならした。
「いえいえ、そんなつもりはありませんよ」
「どうだかな。それで? 何か用か?」
窓の外に目をやりながらそう聞けば、オネストはそうそうと言って懐にしまっていた資料に目をやった。
「エスデス将軍の頼んでいた帝具所有者による特殊警察。あと二日もすれば地方にいた者も帝都に到着するので、部隊の結成は三日後の予定ですぞ」
「そうか 」
一言だけ短く答えたエスデス
「まぁそのことは今は構いませぬ。……しかし、また厄介な者がいたもんですな」
また体重が増えてしまいます、と大口で肉にかぶり付くオネストは険しい顔でそれを咀嚼する。
厄介、というのは勿論セイのことである。
エスデスとブドーという帝国の切り札。そのうちの一人であるエスデスと互角のものが現れたのだ。
そんな奴が政敵であるチョウリの味方。
いくらエスデスと利害の一致で協力していようとも、これにはオネストも頭を悩ませた。
あれの他に、ブドーもチョウリ側につく。同じ実力のものが二対一で不利なのは明白であった。
「何故あれほどのものが今の今まで埋もれていたのかは疑問ですが、面倒以外の何でもない」
おまけに、エスデスとセイの戦闘を見ていた陛下がセイのことをかなり気に入っていた。
聞いていた話ではあれが使うのは、スペクテッドという目の帝具。明らかにスペクテッドの能力ではないだろ! と言いたくなるようなものもあった。
が、まだ幼いからか、そんなセイを見て、目を輝かせていた陛下は、しきりにあれはなんだ、とチョウリに問いかけていた。
最も、聞かれていたチョウリは困ったようにのらりくらりと曖昧に答えていたが。
セイのやつ今度締める、というチョウリの小さな呟きは誰にも届かなかったのはここだけの話。
「まぁそう悩むな大臣。そんなことでは、不健康なその肥満が更に酷くなるぞ?」
「私はいたって健康です。で? それはどういうことですかな?」
「簡単な話だ。恐らく、奴はまだ何か隠しているだろうに。……勘であるがな」
「エスデス将軍とやりあっておいて、まだ何かあると? ……近いうちに密偵にでも調べさせましょうかな」
「あくまで勘だ。だが、存外にも、私のそれはよく当たる。一応、油断はするなよ」
その言葉にため息を吐きながらも頷いたオネストは、少し疲れたので戻ります、と項垂れながら部屋を出ていった。
部屋に一人残ったエスデスはそちらには目を向けずに顔は外を向いたまま。
しかし、その表情には笑みが浮かんでいた。
「ふむ、嬉しいものだな。革命軍にナイトレイド。そちらが片付けば、ブドーとあのセイという男か。暫くの間は退屈せずにすみそうだな」
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ナイトレイドアジト
帝国で開催されるというエスデスとセイの試合。
その試合で、エスデスの調査を任されていた二人が帰還した。
帝国に忍ばせている革命軍の密偵の情報では、エスデスが率いる密偵使いによる部隊が結成されるという話だ。
間違いなく、
「それでは、レオーネ。報告を頼む」
「……ボス、ちょっと厄介なことになったよ」
「どういうことだ? まさか、エスデスの力が予想以上だったのか?」
帝国最強と言われるエスデス。その力が予想以上であったならばそれは確かに厄介だ。
だが、いくら個人の力が強くとも、分離し、単騎であるところを狙えば十分に勝機はある。
しかし、ナジェンダの言葉に、レオーネを首を振った。
「違うよ。厄介なのはエスデスじゃない。あの警備隊長のほうだ。あいつはエスデスとほぼ互角の実力者だったよ」
「ちょ、ちょっと、それ本当なの?」
「マインちゃん。実際見てきたから本当だぜ」
はぁ~、と長いため息を吐くラバックを見て、それが事実なんだと理解するナイトレイド一行。
一方、最近ナイトレイドに加わった新人、タツミはそんな周りの様子に少々戸惑いを見せていた。
本来なら、タツミもラバック達と共に試合観戦に行く予定だったのだが、ブラートとのフェイクマウンテンでの修行のため、参加していなかったのだ。
「な、なぁ。そのエスデスって奴はそんなに強いのか?」
「あー、そうだった。タツミはエスデスについては何も知らないんだっけ」
しょうがないとばかりにラバックがエスデスの過去話を語り聞かせる。
異民族に対し、容赦など皆無。慈悲もなく蹂躙したその過去を
「しかし、今回のことでそれが知れたのは大きな収穫だ。情報もなしに当たるよりはよっぽどいい」
「けど、エスデス同様に面倒だなそりゃ。レオーネの話じゃ、うちで一番速いアカメでも追い付けるかわかんねぇんだろ?」
「兄貴のいう通りだ。しかもセイのやつ、接近戦以外にも器用にこなしやがる。援護も得意だからな」
「……優秀すぎる万能型ね」
「だが、生きているということは奴にも心臓はある。村雨で斬れば、私たちの勝ちだ」
少しばかり重くなっていた空気が、アカメのその一言で軽くなる。
そんな様子を見ていたナジェンダは、タバコを吸いながらフッ、と小さく笑った。
「とにかく、敵が増えようが、我々の目的に代わりはない。ラバックとレオーネは引き続き帝都での情報収集を。他のものもいつかくる戦いに備えてくれ。以上!」