Fateで斬る   作:二修羅和尚

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ごめんなさいっ!
なんか、変な言い回しをして勘違いさせてしまいました。
セイが持っている槍の宝具はゲイ・ジャルグのみになります。
ほら、ゲイ・ボルグなんか、すぐ勝負決まっちゃいますし……


二十九話

「変わった芸だな。どこからともなく武器を出してくるとは……帝具の力ではないのだろう?」

 

「答える必要なんざ、皆無だな」

 

赤い長槍、破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)を構え、真っ直ぐ敵を見据えるセイ。

ローブを脱ぎ去り、必要最低限の軽装を身に付けたその姿は、先程の魔術師としての姿よりも戦士のそれに近い。

 

「まあいい。見たところ、先程よりも楽しめそうだからな」

 

「そりゃあどうも。それじゃ、武装解除の間、待ってくれてた礼だ」

 

槍を右肩に担ぎ、不敵に笑ったセイは、次の時には……

 

「蹴り飛ばしてやんよ」

 

「グァッ!?」

 

エスデスの真後ろへと移動し、防御もなにもしていなかった横っ腹へと回し蹴りを打ち込んだ。

 

セイが構えていなかったことにより少し油断したエスデスの瞬きのその瞬間を狙った攻撃だった。

 

自ら制限をかけているとはいえ、セイの身体能力は英霊のそれと同等。

更に詳しく言えば、俊敏は原作ランサー組とほぼ同じなスピード特化。

 

今回はその制限を緩めたのだ

 

……ただ恐ろしいのは、エスデスがその速度にも対応してしまうことなのだが。

 

 

地に両手をつけ、バク転のように回って体勢を立て直したエスデスは、同時に氷槍を射出する。

数えようかと思ったセイであったが、自身を360度きれいに包囲する夥しい数のそれをみてすぐにやめた。

 

「どこの英雄王だよ……」

 

金ぴかの宝具を彷彿とさせるその光景に嫌気がさすも、セイは魔術で筋力、視覚、触覚、聴覚を強化していく。

 

「さぁ、この程度でへばってくれるなよ?」

 

「そっちもなぁっ!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「あ、セイが槍出した」

 

「出したというか……あの、あれいったいどこから出したんすか?」

 

なんとか試合開始前までに警備隊から解放された四人は、今度は馬鹿馬鹿しい女同士の争いを始めず真剣な面持ちで眼下の光景を見ていた。

 

イエヤス、サヨの二人からしてみれば初めて見る己の隊長の戦う姿。

ただ、感想を言おうとしても、凄すぎてよくわからなかったとしか言えないだろう。

あのエスデスという人が、帝国最強なんて呼ばれているのは先程セリューやスピアから聞いて知った。

そんな人と互角以上に渡り合う隊長はいったい何だ、と疑問に思うサヨ。

多分、イエヤスは目を輝かせてスゲー! しか言わない

 

 

「あんまり考えても無駄だと思うよ? サヨちゃん」

 

「へ?」

 

思考に気をとられたため、突然呼ばれたことに間抜けな声を出してしまったサヨは、少し恥ずかしそうにスピアの方を向いた。

そこには、いいもの聞いた、とばかりに笑っているスピアの姿。サヨは更に気恥ずかしくなる。

 

「セイが常識はずれなことについては、考えるだけ時間の無駄だよ。実際、分かったところで意味不明だしね。セイだから、って考えるのが一番だよ」

 

「……そうですか」

 

約一年ほど、北の辺境でセイとともに過ごしていたスピアはもうなれた様子。

まぁスピア自身、未だに魔術などの存在が信じられないくらいなのだが、セイ手製の槍をみれば信じざるを得ないのだ。

もっとも、諦めた、というのが正しい解釈ではあるが。

 

「そんなことよりも、説明してくれるんだよね? 私、セイ君が槍を使ってるとこなんて見たことないよ?」

 

「そう? 私のとこに居たときはしょっちゅう使ってたけど」

 

「あれ、スピアさん? 俺の疑問は無視なんすか?」

 

 

「あー、でもよく考えたら当たり前かもね。セイって警備隊なんでしょ? なら、使う機会がないのは当然かな」

 

「? 当然?」

 

「今まで、槍を使うような相手がいなかったってこと」

 

「あの、俺は……」

 

イエヤスを無視して、話を進めていく二人。話しかけても無視されるため、最後には諦めるイエヤス。

そんな哀れなイエヤスを見て、サヨは一人心の中で答えてあげた。

 

セイさんだから、と。

 

 

 

「相手がいなかったって……セイ君、首斬りザンクとか、ナイトレイドも相手にしてたよ?」

 

「あー、ダメダメ。その程度じゃ、セイは槍なんて使わないよ。セイが槍を使うのは、よっぽどの時だよ」

 

セイに槍を使わせたいなら……とスピアは少し考えるようにして昔のことを考えた。

まだセイがチョウリのもとにいたときの実例を出してあげよう。

 

「超級危険種くらいは連れてこないとね。前に、一人で倒してたし」

 

「「「へ?」」」

 

残りの三人が同時に間抜けな声を出した瞬間だった。

 

いいもの聞いた、と一人にやけるスピアは視線を再び眼下に向けるのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ハッハァ!! 速さが足りてねぇぞ! エスデスさんよぉ!!」

 

「面白いっ! なら次はこれだっ!!」

 

形成された氷槍がエスデスを中心として全方位に放たれる。

動きを阻害するローブを脱いだことで、防御の低下したセイは、それでも当たらなければどうということはない! とばかりに時には迎撃し、時には避けて攻撃を往なしていく。

 

対するエスデスも高速で動き回るセイを捉えきれないため、その分、攻撃が粗くなっている。

変則機動で接近するセイの攻撃を防ぐのは困難なようで、時折、細かい傷を増やしていた。

 

「素晴らしいぞ! よもや、私と張り合える者がブドーの他にもいようとはな!! 本当に、警備隊にいるのが勿体ないくらいだ!」

 

「張り合う? ハッ! 俺に攻撃を当てられん奴がいう言葉じゃねぇな!」

 

足元から飛び出してきた氷柱を槍で破壊し、エスデスへと迫るセイ。

このスタイルをとってからは、一撃離脱の戦法へと切り替えていた。

 

槍に関しては、スピアという免許皆伝のものから技術を盗み、そこから自身が扱いやすいように最適化してきた。

独学の物干し竿と比べても練度は上であり、手甲よりも殺傷性は高い。

 

普段からセイが手甲を着けているのは、帝都内での犯人相手に槍はやり過ぎるからであり、多少手加減の効き、師がいたため手甲を選んだからだ。

それに、手甲を用いるスタイルは魔術の発動も容易。近中遠どの距離にも対応可能な万能型。

一方で、槍を用いるスタイルは完全な近接特化。

だが、セイの身体能力と技術を合わせれば、並みの兵士なら束になっても勝てない程だ。

事実、セイは昔超級危険種も倒している。

 

 

そして、極めつけには破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)である。

宝具殺しとも言われるこの槍の宝具は、刃が触れた範囲、触れた間だけ魔力を遮断する。

が、この世界に今現在、魔術なんぞが存在するのかは怪しいところである。

失われた古代の技術がどうかはわからないが。

 

ただ、そんな能力が意味をなさないとしても、破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)は一級品の武器である。現存する武器ではセイが使えば長くはもたないが、宝具であるこれはよくセイの手に馴染み、壊れる心配なんぞない。

 

 

「そらっ! まだまだ速くなるぞっ!!」

 

「やってみせろ!!」

 

両者のボルテージが徐々に上がるとともに、攻撃も勢いが増していく。

それはつまるところ、威力、範囲も考慮することがなくなり結果……

 

「退避! 退避ぃぃ!!! 警備隊は一般人の避難を最優先だっ!!」

 

「あの二人、周りに観客がいるの絶対忘れてるぞ!!」

 

「なにやってんすか隊長ぉぉぉぉぉぉ!?!?」

 

 

エスデスとセイの攻撃の余波が周りの観客席にまで及び始めるのだった。

警備についていた帝都警備隊の隊員が急いで観客を避難させる。

が、空き席がないほどに詰めかけていた観客の避難速度はかなり遅い。

このままでは確実に怪我をする者がでてくる。

 

そんなことを微塵も考えない二人は余程の戦闘狂であろう。

 

そして、そんな事態を見逃すわけにはいかんと、一人の男が立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラァッ!!」

 

「甘いっ!!」

 

突き出した穂先が氷壁に阻まれる。

徐々に目をならしてきたエスデスの防御はセイの一撃を受け止め、ついには反撃のタイミングまでつかみ出した。

だが、まだまともに攻撃を喰らった訳ではないセイ。

こちらも縦横無尽に駆け回り、エスデスの氷槍を避けていく。

……まぁ、それが会場破壊の主な原因なのだが

 

「どうした? 自慢のスピードが衰えているぞ?」

 

「言ってろボケが……」

 

そして、エスデスの攻撃がセイに追い付き出したのは、セイの体力の消費のしすぎ、ということもある。

英霊スペックとはいえ、エスデスの攻撃は耐久の低いセイにはかなりのダメージになりうる。

そのため、攻撃に当たらないように動いていたのだが、無駄に動きすぎたということもある。

 

ただ、それはセイだけではなく、エスデスも能力の使いすぎで疲労しているのだが

 

「ふむ、なら、これで決めてやろうではないか」

 

ーーーハーゲルシュプルング

 

頭上に現れた巨大氷塊。

セイは上等だ、と向かい打つべく槍を構えた。

 

直後、巨大氷塊が稲妻に破壊されることになる

 

 

「お前たち、少しは周りの被害を考えろ」

 

驚きで動けなかった二人の前に現れたのは腕に帝具らしき手甲をはめた一人の巨漢。

 

大将軍ブドー

 

エスデスと並ぶ帝国の切り札とされている男だ。

 

「これ以上被害を出すのなら、この俺が相手になるぞ?」

 

威圧感MAXのその姿に、エスデスはやれやれといった様子で、セイは気まずそうな様子で苦笑い。

 

「……流石に、この状態で相手をするつもりはないさ」

 

「俺もだ。なんか、すいません」

 

こうして、二人の勝負は、ブドーの介入によりお預けとなるのだった

 

 

 

 

 




すいません! 元々、こうするつもりだったんです!


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