Fateで斬る   作:二修羅和尚

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お久しぶりです!
大学受験やら入学式やらで立て込んでました。
次回がいつになるか、分かりませんが、よろしくお願いいたします


二十八話

金属と金属のぶつかり合う音が計三度、闘技場内に響き渡った。

 

サーベルと手甲がお互いの急所を狙って振るわれたが、両者とも焦った表情も見せずに簡単に対処してみせる。

むしろ、この程度で、といった様子だ。

 

ならば、と最後の一合で距離を取ったエスデスは自身の帝具を使用。二十を優に越える氷槍がセイに向けて射出される。

 

それでも余裕の態度を見せるセイは、焦らずに右手で腰のポーチの中のものを掴むと、徐にそれを前方にばらまいた。

 

「『爆破』」

 

瞬間、ばらまかれた計五個の宝石が光を放ち、そして爆音と共に破壊される。

その余波で、迫っていた氷槍の弾幕に隙間ができると、常人では考えられない身体能力をもってその隙間からエスデスへと迫る。

 

「フッ」

 

そんなセイを見て、整った顔を嬉しそうに綻ばせるエスデスは、こちらもサーベルを構えて迎撃体勢に入る。

が、向かってくるセイとエスデスのその間に、一つ小さな光る石が空から落ちてきた。

 

「『閃光』」

 

セイが呟くと同時に眩い光が放たれた。

直前にセイの思惑を悟ったエスデスであったが、一瞬の差でその閃光を視覚でとらえてしまう。

そこを好機とばかりに最短距離で突貫したセイであったが、行動を阻むようにして氷壁が地面から飛び出すように形成された。

邪魔だとばかりに、手甲に取り付けられた宝石を三つ消費して氷壁を殴打。突貫の勢いと、魔術で強化された攻撃は破壊までには至らなかったが、壁に大きく皹を入れ、あとは体当たりで突破した。

 

そして、目の前に迫るサーベルによる刺突。

 

セイが飛び出してくる場所を予想し、絶妙なタイミングで仕掛けることに成功したエスデス。

間一髪で体を反らしたセイであったが、予想しきれなかった出来事に対応が遅れ、結果、刃が腕を掠めていった。

 

「ほう、あれを避けるか」

 

「……視力戻るのが早いんだよ」

 

面白いと言って不敵な笑みを見せるエスデスに、悔しそうな表情のセイ。

 

一瞬、掠めた腕に視線をやる。

 

自身の作った礼装はかなりの自信作だ。そう易々と攻撃は通さない。

 

「……なるほど、ただの服ではないようだな」

 

「自慢の一品なもんで、なっ!」

 

駆け出すと同時に腕の宝石を二つ消費し、風の力で爆発的に速度を増したセイ。

一直線に駆けるセイに向けて、氷槍を飛ばすエスデスであったが、正面の氷槍のみを手甲による殴打で砕いていくセイにその攻撃が無駄だと判断したエスデスはサーベルを振るって迎え撃つ。

 

剣と手甲の激しいぶつかり合いが何度も何度も繰り広げられる。

サーベルはリーチが、手甲は手数が勝っておりお互いがその強みを生かして獲物を振るう。

攻めきれない両者。ただ、その均衡を最初に破ったのはセイの方だった。

 

「『沸き立て我が血潮』!!」

 

「っ!? グッ……ッ!?」

 

セイがエスデスのサーベルを弾いた瞬間、セイの両腰に取り付けてあった大瓶から銀色の触手の様なものが槍のように襲いかかる。

腹部めがけて放たれたそれに見事に反応し、攻撃箇所に氷壁を張ったエスデスであったが、打ち合う間に、こっそりと手甲の宝石を一つ消費して強化された月霊髄液(ヴォーメルン・ハイドラグラム)は氷壁の破壊まではいかないものの、衝撃を与えエスデスをぶっ飛ばした。

 

「……なかなか面白い技を持っているじゃないか」

 

「ハッ、ザマァ。素直に降参でもしてみたらどうだ?」

 

大瓶から水銀が出て、直径一メートルを軽く越える銀色のスライムが形成される。

自動攻撃、自動防御、更には、今は役に立たないが自動索敵を行える優秀な礼装である。

 

「ほざくなよ。私に一撃入れた程度でいい気になっているようじゃ、底が知れるぞ?」

 

「……その言葉、負けたらどんな顔で言ってくれるのか、楽しみにしておくぞ」

 

カチャ、と手甲を構えてエスデスを見据えるセイ。

 

「なら、今度はこれだ」

 

ーーーハーゲルシュプルング

 

その瞬間、闘技場上空に巨大な氷塊が出現。

十メートルを越えるそれはセイを圧死させるつもりなのか、セイに向かって飛来する。

 

開場のどこかで、誰かが叫んだ。

 

 

ーーーセイ君、頑張れっ!!

 

 

悲鳴やら驚愕やらの声が響き渡る闘技場で、その声はだけはしっかりと耳にとらえたセイ。

 

「部下がみてんだ。凄いとこ見せてやらねぇとなぁ!!」

 

ーーー宝具解放

 

手元に突如出現した長刀。

長さ一・五メートルを超えるそれをどこからともなく出してきたことに興味を持ったエスデスであったが、その興味は、また別のことに移った。

 

先程まで、セイの足元にいた銀色の塊が、セイの体を伝って刀の刀身に取りついていたのだ。

 

全ての水銀を刀身に纏わせたセイは手甲の宝石とポーチ、ローブに入れていた宝石の殆どを使用し、身体強化と礼装の強化に魔力を回した。

 

ーーー秘剣

 

半身になり、刀の峰を地面と平行にして構えたセイ。

そして次の瞬間、刀身に纏わせた水銀が伸長し、刀身の長さが三十メートルを超える化け刀へと変貌した。

 

「燕返しっ!!」

 

殆どの宝石を使用した一回限りの大技。

 

未だに空中にあった巨大氷塊は三方向から同時にきた斬撃に耐えられず、大きく罅を入れ、次には小さな氷片となって闘技場に降り注いだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「なぁ、ラバ。お前の友人って、あんなに強かったのか?」

 

「……」

 

闘技場内の観戦席。その最上段で話す二人の男女。

一人はこの帝都内で貸本屋を営むラバック。もう一人は金髪巨乳なマッサージ師であるレオーネだ。

だがそれは表の顔。この二人は立派な反帝国派の暗殺組織、ナイトレイドの暗殺者であり、帝具使いである。

 

「ラバ?」

 

「あ、ごめん姐さん。何か言った?」

 

「あのセイってのあんなに強かったのか?」

 

情報で、セイが三獣士を一人で倒したことは知っている。

だからこそ、今までよりもセイを脅威と認識し、警戒するようになったのだ。

だがまさか、あの帝国最強とされるエスデスと互角以上に戦えるとは夢にも思っていなかったのだ。

エスデスと並ぶのはブドー大将軍のみ。

今回の試合の観戦は、エスデスの戦力調査が目的だった。

三獣士を相手にしたセイなら、そう簡単にやられたりせず、より詳しい戦力分析が可能だと思っていたのだが……

 

 

「いや、俺も知らなかったよ」

 

レオーネの疑問にラバックは首を横に振った。

 

「警備隊では一番強いってのは分かってたんだけど、直接戦闘してるのを見るのは初めてなんだ。でもまさかこんなことになるとは……」

 

真剣な様子で敵であり、友人でもある男を見据えるラバック。

こりゃボスに速いこと伝えないと、とレオーネは思った。

とにかく、あれはヤバイ。

革命軍からすれば、エスデス、ブドーに続いて、似たような敵がもう一人いる可能性。

 

それが確信に変わったのはセイがエスデスの巨大氷塊を燕返し(なんちゃってライザー◯ード版)で破壊した瞬間だった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「あれを避けもせずに破壊するか。ますます興味深いな」

 

「そりゃどうもだな。だが俺はテメェに興味ねぇから。……ハッ! フラれてやんの」

 

「それだけ口が回るんだ。まだまだ楽しめそうだ」

 

既に物干し竿は元の長さに戻り、水銀の礼装は足元に待機している。

彼我の間は五メートル程。彼らにとってはほぼ一瞬で詰められる距離だ。

 

「ハァッ!!」

 

先に仕掛けたのはセイ。

物干し竿を両手で構えて斬りかかる。

 

その名の通り、物干し竿のように長いその刀は距離を詰められると不利になる。

一般的な剣よりも長く、槍よりも短い距離。エスデスがサーベルであるため、仕掛けられるのは不利だと考えての行動だった。

 

手甲に代わり、今度は刀がサーベルとの打ち合いを繰り広げる。

 

「ふむ、どうやらまだ少し武器を上手く扱えてないのか?」

 

鍔迫り合いの状態になった際、エスデスがそんなことをセイに問う。

その言葉に、セイはうるさい、と一言だけ返した。

 

事実、この物干し竿に至っては、破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)や手甲に比べて練度は若干ながら低い。

槍はチョウリ様のところにスピアという槍使いがいたし、手甲に関しては不快ながらもオーガという教えてもらえる奴もいた。

だが、こと刀に関してはそういった人がいなかった。つまりは独学。粗が目立つのは当然だ。

秘剣燕返しが成り立つのは、それが一つの宝具として確立されているからである。

 

といっても、そういった粗が分かるのはエスデス並みの実力者のみなのだが

 

 

だが、残念なことに、その相手がエスデスなのだ。

初めは互角に打ち合うが、手数というアドバンテージを失い、更には、有利なリーチも隙をみて詰められ、徐々にではあるが形勢はエスデスに傾いていた。

 

「ならこれで……!!」

 

宝具として確立された必殺の絶技。

ザンクの命を奪い、シェーレの四肢を三つ斬り飛ばした三閃がエスデスに迫る。

 

 

「それはさっき見せてもらったぞ」

 

一撃目の袈裟斬りをサーベルで防ぎ、続く上段、横からの二閃は氷壁で阻む。

溜めを作らずに放った燕返しは、その刃をエスデスに届かせることが出来なかった。

 

「なっ……ガッ!?」

 

まさか防がれるとは思いもしなかったセイは、驚きで動けなかった隙を狙われ、腹部に蹴りを喰らった。

おまけにインパクトの瞬間足に氷を纏った一撃はセイが思った以上の衝撃をその身に通す。

 

吹っ飛ばされながらも空中でなんとか体勢を立て直したセイは、この(アマ)……と悪態をついた。

 

宝石は殆どを消費し、手甲に限っては残っていない。物干し竿は通用しない。

なら、残る手段は一つ

 

セイは手に持った物干し竿を消した

 

「……? 貴様、何をしている」

 

続けてローブ、手甲、ポーチ、更には、頭のスペクテッドをも取り外すとそれを一纏めにして開場の隅へと置いた。

 

「何って? んなもん……」

 

ドンッ、とセイが足を降り下ろせば、すさまじい威力によって土煙が辺りに立ち上ぼり、セイの姿が見えなくなった。

が、土煙は中心にいた者が槍を振ったことですぐに晴れる。

 

「続きをやるに決まってんだろ!!」

 

飛び出してきたセイの手には、赤い長槍が握られていた

 

 

 

 


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