Fateで斬る   作:二修羅和尚

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三話

「……なるほど。事情は粗方理解した。そういうことなら、暫くはここに滞在するといい」

 

「いいんですか? 俺としては嬉しいことなんですが……」

 

扉の向こうで俺たちを待っていたのは、初老の男性。

チョウリと名乗ったこの男性がスピアの父親で間違いないようだった。

 

俺は対面に用意されたソファーに腰を下ろし、スピアにした説明をもう一度行ったところ、そのような返答があったのだった。

 

「なに、構わんさ。別に悪人というわけでもない。初めはどうなんだと疑ったがね? 話を聞けば大体分かる」

 

「…そういうものですかね?」

 

「これでも、元大臣だ。それくらいはできて当然じゃよ」

 

「……では、お言葉に甘えて。少しの間お世話になるセイといいます」

 

「チョウリじゃ。こっちは娘のスピア」

 

「改めて、よろしくね」

 

チョウリ様とは一度目の、スピアとは二度目の自己紹介。

 

俺はそんな二人に頭を下げ、少しの間ここで世話になることに決まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日から、物語には小さな、しかし、それでいて大きい歯車が加わることになる。

もはや、正史は辿れない。

この変化が、はたして吉と出るか凶とでるか。

 

 

さぁ、物語を始めよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いったい誰が予想できただろうか。

 

いや、誰もできなかったに違いない。なんせ、語り部である俺でさえ全く想像していなかったのだから。

 

 

一年

 

この数字が何なのか、分かる人はすぐにわかるはずだ。

そう、この数字、結局俺がチョウリ様の元に滞在した期間である。

 

 

もう一度言うぞ?

 

 

滞在した期間である

 

 

OH まさか、ここまで引き延ばすことになるとは思わなかったぜ……

 

理由としては色々あるんだが、一番の要因はやはり、何と言ってもスピアだろう。

これが、俺に惚れ込んで、「行かないで」とか上目遣いで言われたからとかいう理由ならどれほど嬉しかったことか。

うん、もちろん違うよ?

いや、ある意味行かないで的な意味もあるんだと思う。思うのだが…

 

「あ、セイ! 丁度探してたのよ」

 

そんなことを一人で考えていると、タイミングよくスピアが現れた。

 

「……また?」

 

「当たり前でしょ、今日も付き合ってね」

 

もちろん、デート的な意味ではない。

 

槍の稽古に付き合って

 

そういう意味である。

 

あれは、確か俺が世話になり始めて一週間くらいだっただろうか?

偶然にもその日、俺はスピアの手伝いということで危険種(以前俺がモンスターと呼んでいた)の狩りに出かけたのだ。

スピアと部下数名、そして俺という構成だったのだが、不幸にも俺はスピアや部下の人達とはぐれてしまったのだ。

何とか帰ろうとして森の中を移動するのだが、見つけたのはスピア達ではなく、なんかよく分からない鳥みたいなやつらの群れだった。…いや、俺が発見されたというべきか?

 

鳥、といっても、やはり危険種であるらしく、その大きさは俺よりも一回りほどでかかった。あと、嘴のくせに、歯が生えているという謎生物。元々、危険種とかいうの自体が謎生物なんだけども。

 

閑話休題

 

まぁ、そんな奴らが10匹くらい襲いかかってきたわけだ。

当然、俺もこれに応戦。月霊髄液(ヴォーメルン・ハイドラグラム)だけだと殲滅力に問題があるため、我が愛刀である物干し竿を使用。ついでに調子乗って破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)を使っていたんだか……

 

うん、見つかっちゃいました

 

何やら、戦闘音を聞きつけたスピアが丁度最後の一匹を殺ったところを目撃。

 

そして、尋問される俺

 

内容については、槍をどこから出したかとか、どうやって特級危険種を狩ったのかということだ。

ちなみに、こいつらが上から二番目に位置する特級危険種、エビルバードであると知った時はちょっと驚いた。

 

手応えなさすぎて

 

自身の肉体的スペックの凄さを感じていた俺だったのだが、スピアの尋問は終わるわけではなく、結局、色々と吐くことに。

 

安心してください。転生云々は話してないから。

 

ただ、スピアには、魔術について教えることになってしまったことは少々悔やまれる。いや、槍をどこから出した云々は全部魔術って説明すれば良くなったから楽にはなったかな?

 

 

で、だ。話はここから

 

「セイ! 手合わせお願い!」

 

この一言が全ての元凶である、

彼女、なかなかのバトルジャンキーであった。

まぁ、暇さえあれば槍を振り回しているような女の子であったが。

 

しかし、この時の俺といえば、まあ一度くらいならという軽いノリだったのだ。

そして、当然ながら肉体的スペックのこともあり俺が勝利。しかしだ。

まさか

まさかそれが1年も続くことになろうとは予想もないもしていなかったがな!

 

かなりの負けず嫌いなのか、何度も再戦を仕掛けてくる彼女。部下の人達やチョウリ様は頑張れよ〜みたいな感じで助けてくれない。

おまけに、手を抜いてもなぜかばれる。そして怒られる。何故だ。

 

戦う時、俺は格闘か、月霊髄液か、刀か槍のどれかでやるようにとの指示を受ける。

スピア曰く、一辺倒ではつまらないと。

まぁ、そのおかげと言っていいのか、そのどれもをかなりのレベルで使いこなせるようになったのは嬉しい誤算ではあったが。

 

 

だが、そんな生活も今日で終わり。

 

流石にこれ以上、お世話になりっぱなしはまずい。

もともと、それほど長くいるつもりはなかったのだ。それが延びに延びて1年。

 

そして、こっちが本音。

早いとこ帝都に行って原作に絡みたい。

 

もちろん、帝都が舞台であると決まったわけではないが、なんか、如何にもな歴史を持ってるこの帝国は、少なくとも関わりはありそうなのだ。

 

帝具と言われる48の超兵器。

千年前、帝国の始皇帝が莫大な資金と、優秀な職人達に作らせたものらしい。

 

これ、絶対関係あるよね?

 

いつ原作が始まるのか、あるいは、もう始まっているのかもわからないが、早いに越したことはない。

 

そんなわけで、俺は帝都に向かう決意をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

「本当に行くつもりか?」

 

「はい。今まで、お世話になりました」

 

見送りにはチョウリ様やスピア、それに仲良くなった部下の方々も来てくれた。

チョウリ様は帝都にいくことをあまり快く思っていないようだったが、それでも俺が決めたことならと言ってくれた。

問題はスピアである。

 

それはもうごねにごねた。

一応この人、俺よりも一つ二つ年上なのだが、まるで子供のようにごねたのだ。

曰く、セイじゃないと満足できない(もちろん、手合わせ的な意味で)と。

 

かなり頑張って説得し、最後には渋々許してくれたのだが、いつ再発しても敵わないため、急ぐことにしたい。

 

「もし、チョウリ様が帝都に来るのなら、その時は手紙を下さい。護衛しますから」

 

「それは助かる。君ほどの実力者なら安心だ」

 

「スピアも、また会った時は手合わせでもしてやるからさ」

 

「…約束だよ?」

 

その言葉に、ああ、と頷いた俺は、部下の人達にも挨拶を済ましていく。

時折、一緒に訓練したり話したりしていた人達だ。

 

 

「それでは、みなさん。また、いつか会いましょう!」

 

最後に手を振った俺は地図を片手に、帝都に向かうのだった

 

 

 

 

 

 

 




ここからいきなり時間を飛ばします。
とああか、次回から原作の時間軸に飛ばしますから!

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