今回は戦闘に入った直後までとなります。
「セイ君! 応援するから頑張ってね!」
「キュウッ!」
「セイさん! 勝ってくださいよ!」
「あの、が、頑張って下さい」
「おう。任せろ」
翌日
約束の時間になり、闘技場を訪れてみると、セリューとコロ、イエヤスにサヨが会場前で俺を出迎えてくれた。
話してはいなかったが、まぁこれだけ話題になってりゃ知ってて当然だわな。
周りを見ればセリュー達の他にも大勢の帝都市民が闘技場内に消えていく。
入り口付近で賭け事何かもやってて大盛況だ。
時おり、俺の方を見て何かを話している人達もいる
「でもビックリしたよ! まさかセイ君があの噂の将軍と試合するなんて」
「まぁな。ついでに言うが、この試合の結果がどうであれ、俺もお前が異動する部隊に入ることになっている」
「え!? 何それ聞いてないよ!」
「え!? それじゃセイさんも警備隊辞めちゃうんですか!?」
「いや、辞めねぇよ。入るっつっても警備隊と兼任だし、緊急の任務以外なら警備隊優先だ。安心しろ」
そう言うと、イエヤスは驚かせないでくださいよ、とため息をついた。
その後ろで、サヨも安堵の表情を浮かべていた。
「まぁそんなことよりだ。そろそろ入っとかないとだし、俺は先に行ってくる。お前らも観戦するんだろ?」
「あ、うん。スピアとも待ち合わせてるから来たら入るよ」
「スピアもか?」
あれ、二人って仲良かったっけ? 何か、この間の宴の時は雰囲気が怪しかったような気がしたんだが……
まぁいいか。仲が良いならそれでよし。
俺はじゃあな、と一言だけ残して先に会場入りを果たすのだった。
「あれ? スピアさん、その槍どうしたんすか?」
セイが会場入りをした後、人混みの中無事に合流した四人は予定通りに観覧席に並んで座る。
その際に、スピアが背負うケースに入った槍が何時もと違うことに気づいたイエヤスがその事を問う。
「お? 気づいた? 実はねぇ、昨日セイがプレゼントしてくれたんだぁ~」
ほれ、とケースの中に入っていた槍の一部を見せびらかすスピア。もちろん、その対象はこの場にいるただ一人に向けてである。
「むむむむむむ……!」
「せ、セリューさん、落ち着いてください…」
プクゥッ、と頬を膨らませてスピアを睨むセリューに、そんなセリューを隣で宥めるサヨ。その足元では呆れたとばかりにコロが項垂れている。
「へぇ! 俺も前に貰ったんだぜ! なんかスッゲー斬れる剣!」
これこれ、と腰に帯刀した剣を見せるイエヤス。
もちろん、この場で抜くことはない。そんなことをやれば、非番の日であるにも関わらず同僚達のお世話になる。
「ほうほう、イエヤスでさえも貰えてるのに……ねぇ?」
「セリューさん! 落ち着いてください!」
「サヨ離して! そいつ殴れない!!」
ウガァー! とサヨに羽交い締めされて止められているセリューに、スピアは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
そんな笑みがセリューを更に加速させるため、サヨはもう必死だ。
「そもそも! 私だってもらう約束してるから!」
「あらあら、忘れられてるんだね~。可愛そうに」
「*#%♀¢#¥だ#%◆$◎¥!?!?」
「セリューさん落ち着いて!! スピアさんも悪化させないで下さい!!」
もはや人語を発していないセリューを余裕の笑みで見つめるスピア。
もう一人では止められないため、サヨはイエヤスにも手伝わせる。
「セリューさん、そんなことで怒らな……へぶっ!?」
「イエヤスーーーーー!!!」
「フシュー……! フシュー……!」
一瞬フリーになった右腕がイエヤスの顔面にクリーンヒット。
手甲は着けてはいなかったが、普段セイと訓練しているため素手でもかなりの威力を誇る。
結果、イエヤスが死んだ(死んでないよ! この人でなし!)
原因であるスピアはそんな
「プッ、無様ね」
「
「ああ……もう、私知らない…」
「キュウ。キュウキュ」
目を虚ろにして空を見上げるサヨ。
そんなサヨの肩に手を置いて慰めるコロはもしかしたらこの中で一番大人なのかもしれない
「なーんか、あっこの席騒がしいな……」
催しだから席は満席でむしろ騒がしいのは当たり前なのだが……際立って騒がしい、というよりも煩いところがある。
……あ、今警備隊の奴らに連れてかれた
知っている顔だったような気がするがたぶん違う。ウン、オレシラナイ
試合の舞台となる場所の入り口から、セリュー達がどこに座ってるか確認しようかと思っていたのだが……うん、見つからないな!
魔術で視力を強化しても、スペクテッド使っても見つからないならしかたないな!
……願わくば試合前に戻ってこれるように祈っておこう
気を取り直して今度は闘技場の席でも屋根がついている場所を見る。
ここからでも分かるハゲあた……ゲフンゲフン。輝かしい頭は恐らくチョウリ様なのだろう。
そのとなりに豪華な椅子に座る子供に、丁度チョウリ様とはその子供を挟んで反対側に座る太った男。よく見れば肉食ってる。
てことは、あれがオネスト大臣か? 初めて見たけど、あれはヤバイな。革命しなくてもそのうち病気で死ぬと思うんだが。
となると……あの子供が皇帝陛下か。本当にショタだな。
話には聞いてたけど、本当にショタだ。
ショタジジっていう可能性は……ないか。
あっても困るけど
「さて、エスデスが勝手に決めた試合だったが……皇帝まで出てきてるってことはかなり重要視されてるのな」
まぁ来ても来てなくても関係はなかったけど
昨日はしっかり休んだから魔力の方は充分。宝石の方も潤沢に用意してきた。
今日に限っては腰のポーチに加え、自作のローブの各所にも宝石を入れている。
腰の両サイドには何時ものように水銀。今回は少し量を多目にしてきた。
あとは何時もの手甲と、最近俺のものになったスペクテッド。
何時もより多少重いが、問題はないだろう。危なくなったらパージすればいい。
宝具の方も使おうとすれば何時でも使える。が、
そして今まで使ったこと……いや、発動しなかった宝具があるが……これは対策は考えているから問題はない。はずだ。
そう思いたい
『それでは、両名の入場です! 皆様、盛大な拍手を!!』
色々と考えている間にもう時間が来たらしい。
今回の試合の実況であろう人物の声がマイクを通して闘技場内に響く。
準備は出来た。
最後にスペクテッドの遠視で席を見れば少し疲れている四人の姿が見えた。どうやら間に合ったらしい。
俺は舞台へ続く入場口から姿を晒す。同じタイミングでエスデスも出てきた。
こちらを見て嬉しそうに笑っているのがよく分かる。
多分、俺も笑っているのだろう。
あぁ、てめぇの気持ちはよく分かる。
どうやら、俺には
「待っていたぞ。さぁ、殺ろうか」
「上等。叩きのめす」
『さぁ! では、試合開始!!』
実況のその声とともに溢れんばかりの歓声が会場内に轟いた。
そして同時に、俺の手甲と奴のサーベルがぶつかり合う音も舞台に響いたのだった。