Fateで斬る   作:二修羅和尚

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二十五話

「あぁ……仕事が怠い……」

 

「しかし隊長。有休中の分がありますので」

 

「分かってる。分かってるが……はぁ…怠い…」

 

話は飛んで翌日

 

昨日はチョウリ様やスピアに兵士の皆さん、そして人数は多い方がいいだろう、とボルスさんとこの御家族も招待して盛大に祝いをさせてもらった。

 

久々の大人数ということで、うちの厨房は年にまれに見る大忙しで、三人娘はもちろんのこと、俺やサヨ、イエヤスにも手伝ってもらった。

途中、ボルスさんの奥さんに加わってもらったのは申し訳なかったが、いつも娘さんのローグちゃんと遊んでくれているお礼がしたい、ということで押しきられた。

 

セリューも手伝おうとしてくれたのだが、そこは全力で遠慮させてもらった。あれが出てきては、宴が最後の晩餐になりかねん。

 

で、あとは俺の秘蔵の酒なんかも出してきて、ボルスさん、俺、チョウリ様の三人で飲み明かした。

 

ボルスさんはチョウリ様と打ち解けていたみたいだが、この時はただ単に俺の知り合いとしか思っていなかったらしく、後にお偉いさんだと知ったボルスさんは卒倒しかけてた。

急いで警備隊(うち)の医務室に運んだのは言うまでもない。

 

あとは、なーんかセリューとスピアの雰囲気が可笑しかったんだよなぁ…

なんだろう、自己紹介してどちらもニコニコして握手してたのだが、目が笑ってないというかなんというか……握ってる手からも音してたし……

 

んで、出ていって暫くして戻ってきたら何でも無かったように食べてたし。

 

あと、何故かうちの道場が半壊状態だったのかは謎である。

 

ちなみに、チョウリ様達がうちの敷地内に住むことになりました。

俺が勧めたのだが、チョウリ様はその役職の関係上、オネスト派による暗殺なんかも考えられる。そうなると、住む場所も考えなくてはならない。

 

だが、うちなら敷地も広いし、結界も張って工房化しているため、安全性ならこの帝都一を名乗ってもいいと思っている。

この提案に

はチョウリ様も乗ってくれたので、昨日から空き部屋に別れて住んでもらっている

 

だが、そんな話は別にいいのだ。

実はここに来て、新しい問題……って言ったら言い過ぎなんだが、警備隊として考えると少し頭のいたい問題が出てきたのだ。

 

「しかし、驚きましたね。まさか、セリュー隊員が異動になるとは…」

 

「あぁ、それな。俺も昨日聞いたけどビックリしたぜ」

 

そう、副隊長(いつもこの呼び名なので名前を知らない)の言った通り、この度、セリューが上からの命令で異動となったのだ。

 

何でも帝具使いのみで構成された特殊部隊を作るのに召集されたのだとか。

 

ただ、この場合、警備隊からの出世と同じだ。

個人としては色々と誉めて一緒に喜んでやりたかったのだが、警備隊として考えると戦力の流出に他ならない。

しかも、その特殊部隊の隊長があのエスデスときた。完全にオネスト派の奴じゃねぇかよ

 

昨日その話をされたときにそう言うと、セリューは困ったように苦笑いを浮かべていた。

 

「隊長は声がかからなかったんですか?」

 

「いや、普通はかからねぇだろ。隊長引き抜くとかアホのすることだろ」

 

「ですね」

 

ただ、そう考えるとセリューを副隊長にでもするべきだったか? そのくらいの地位なら簡単には動かせないんだが……

いや、そもそもセリューには務まらんか。

 

「まぁそれは今はいいです。早いとこ片付けてしまいましょう」

 

「だな。でも書類仕事ってのは怠すぎる」

 

「その愚痴、もう十回以上は聞いてますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は? 俺に客?」

 

『はい。会わせてほしいって言ってるんですがどうします?』

 

仕事が片付き、副隊長もいなくなったため、一人で紅茶を飲んでいた昼下がり。

一階にいるサヨから無線機で連絡が入った。

 

この無線機は警備隊で使っているものと同じなのだが、本部での使用時のみ俺のいる執務室へと繋がるようになっている。

 

「それで? 名前は名乗ったよな、そいつ」

 

『あ、はい。エスデスって人なんですが……セイさんのお知り合いの方ですか?』

 

「…………ほぉ」

 

なんと、今噂の最強の将軍さんか。

ここに何のようかは知らないが、まぁ恐らくは、セリューの異動に関しての挨拶かなにかなのだろう。

 

ふむ、そう言うことなら此方もそれなりの対応と挨拶をさせてもらわなければな。

 

「構わない。通してやれ」

 

『はっ。了解しました』

 

プツッ、と通信が切れたのを確認して俺はいそいそと準備を始める。

 

エスデスがここに来るまでにかかる時間はだいたい三分といったところか。余裕だな

 

額にスペクテッドを装着し、愛用の手甲を両腕にはめる。

あとは、タイミング合わせて殺るだけだ。

 

コンコン、と執務室の扉がノックされる。

 

コッソリと嵌め込まれている宝石を使って腕に風を纏わせた俺は悟られないようにどうぞ、と入室を促した。

 

「失礼する」

 

そして入ってきたのは脚まである蒼髪の女。

白を基調とした軍服で胸元が大きく開いており、少々目に優しくない。

ただ、その雰囲気はいつか考えた通り女王という言葉がピッタリと似合いそうだった。

 

が、そこまで考えていた俺は既に女の目の前。

扉が開くと同時に前進させていた体は瞬く間にその距離を詰め、一撃の準備に入った。

 

突然のことで驚愕の表情を浮かべた女であったが、俺を認識した次の瞬間、その顔は面白いとばかりに歓喜となった。

 

俺のスペクテッドの『未来視』では、女は動かなかった。

 

宝石を二つ消費して発生させた風によりブーストのかかった拳は、常人では捉えられない速度で女の腹部に迫る。

気を使って腹にしてやるんだ。感謝しろ

 

ゴウッ、と風を伴った正拳突き。

 

獲った、と思った次の瞬間だった。

 

腹部への拳が、氷の壁に阻まれた。

 

「っ!?」

 

バキッ、金属と氷とがぶつかり合う音が執務室に響き渡った。

俺の拳は氷を半壊させるに止まり、女の腹部に届くことなく不発に終わる。

 

瞬時にバックステップで距離をとった

 

「ほぉ……予想通りなかなかいい攻撃だが……随分な歓迎ではないか。なぁ? 警備隊長」

 

「そりゃどうもだ。それと、歓迎のしかたについては、お前にとやかく言われたくはねぇよ」

 

クソッ、手加減せずに宝石十個使うべきだったか。

恐らく、あれがこいつの帝具なのだろう。

 

無から氷を生成する帝具か……使い方によったらかなり強い帝具だな。

ベルヴァーグとか目じゃねぇ

 

「攻撃をしかけた、というのは敵対する意思があると捉えても構わないんだぞ?」

 

「ハッ! ほざけ。あの三人組けしかけてチョウリ様を殺そうとした奴が言う台詞じゃねぇよ」

 

「……なるほど、五視の力を持つ帝具スペクテッド。リヴァ達を殺ったのは貴様で間違いないようだ」

 

「……随分とあっさり白状したな」

 

「隠しても仕方ないからな。その帝具、心を読めるのだろう? なら私は無駄なことはせん」

 

そう言うと女、エスデス将軍は座らせてもらうぞ、と執務室にあったソファにどっかりと座りこんだ。

足を組む様子はその容姿も相まってやけに似合っている。

 

「攻撃を受けてよく平気なもんだ」

 

「なぁに。あれくらいなら問題はない。それに私も少しばかり楽しめたからな」

 

そうですか

 

俺としてももう追撃をかけるつもりはない。

元々、先程の一発で済ませるつもりでいたのだ。ダメだったからといって足掻くほど愚かでもない。

 

取り合えず、訪れた客に何も出さないのは不味いため、俺は紅茶を二杯作り始める。

……前に背後に迫っていた氷塊を裏拳で砕いた。

 

「ふむ、なかなかいい腕をしているみたいだ。ますます警備隊というのがもったいなく思えてくる」

 

「……こっちが先に不意討ち仕掛けた以上、文句は言わないでやる」

 

「それはありがたい」

 

フッ、と皮肉を口にするエスデス将軍。ほんと、様になってるなおい

 

二杯分の紅茶を入れ、ソファとともに設置されていたテーブルにカップを置くと、俺はエスデス将軍の対面のソファに座り込んだ。

 

早速将軍が紅茶を口につける。

 

「……腕がいいな」

 

「そりゃどうも」

 

俺も紅茶を口にしながら、結構上手く入れれたな、と自画自賛する。

茶菓子なんかがあれば良かったのだが、生憎うちには置いてない。今度持ってくるか。

 

「それで? 噂の最強将軍がうちに何のようだ? セリューならもう異動になっているぞ」

 

「セリュー……あぁ、資料の中にいたな。帝具ヘカトンケイルの使い手のことか」

 

その言い方に少し疑問を覚えた。

セリューが目的じゃないのか? なら、こいつ何しに来たんだ?

 

「警備隊といえ貴様は隊長だ。なら、私のことも今度新たに作る部隊についても知っているだろう?」

 

「帝具使いによる特殊部隊だったな。まぁどうせナイトレイドに対抗するための部隊だろうがな。うちの貴重な戦力を持っていかれたのが腹ただしいが」

 

「ならそれなりの地位を与えておくべきだったな。だいたい、帝具使いが平の隊員というのも可笑しいのだが」

 

ごもっともで

 

「で? 話が逸れたがうちに何か?」

 

「あぁ。簡単な話だ。貴様も帝具使いだろう? その部下と一緒にその特殊部隊に加入する気はないか?」

 

まさかの勧誘でした

 

「無理だな。俺は警備隊の隊長だ。そう簡単に責務はほっぽりだせねぇ。それに、お前はオネスト大臣派だろ。下る気はない」

 

「ふむ……やはり難しいか」

 

まど温かい紅茶に再度口をつける将軍。

 

「まぁそんなことは分かりきっていたがな」

 

「だったら最初から来るんじゃねぇよ」

 

「まぁ待て。話は最後まできくものだ。貴様も立場があるのは分かっている。そこでだ、兼任という形でうちに所属するのはどうだ?」

 

「兼任? 警備隊とか?」

 

「あぁ。もちろん、緊急を要する任務以外は警備隊を優先させても構わない。それに、私が隊長だからと言って、貴様が警備隊として動いている時には命令するつもりはない。どうだ?」

 

そう問いかけてくる将軍。

話だけ聞けば破格の条件といっても言い。所属しても警備隊としての権威はそのまま、というのもこたらに大分有利だ。

だが、これだけの条件だ。なにか裏があるに違いない。

 

美味しい話には裏がある、とはよく言ったものだ

 

「ただし、この場合、一つ条件がある」

 

ほらきた

 

「……聞こう」

 

「私と戦え」

 

その言葉に視線を向けると、将軍はさも愉快、とばかりに笑っていた。

綺麗な笑みだ。それも、ゾッとする程に綺麗な。

狂喜、といったところか

 

「貴様が一人でうちの三獣士(ペット)を下したと聞いている。話を聞いたときから興味がわいてな」

 

ただ純粋に闘争を求めるその姿。

狂っている、としか言いようがない

 

そして、ここにも一人

 

「……ハッ、上等だ。吠え面かかせてやる」

 

ほんと、俺は何時から戦闘狂(バーサーカー)になったのかね

 

「フッ、抜かせ。リヴァ達の分を含めて借りは返させてもらおうか」

 

「こっちもてめぇに一発叩き込まねぇと気が済まねぇんだよ。チョウリ様達を狙った分、きっちり上司のお前に返してやるよ」

 

暫しの無言。お互いの視線が交錯するなかで、お互いが笑みを浮かべた。

もちろん、そこにあるのは相手を公的に潰せるという狂喜だけだが。

 

「ルールについては当日に説明があるだろう。場所は闘技場。明日の昼からだ。いいな?」

 

「首洗って待ってろ」

 

「その威勢のよさ、いつまで続くかが楽しみだ。それと、これはここに置いておこう。ではな」

 

そういってエスデス将軍は執務室を出ていった。

そして、エスデス将軍が残していった一枚の紙。

 

 

『闘技場にて注目の一戦!!

 

帝国最強の将軍エスデスvs今噂の帝都警備隊隊長セイ!

 

はてして、勝つのはどちらか。帝都市民よ、この戦いを見逃すな!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁっ!?」

 

 

 

 

 

 




というわけで、エスデスとの邂逅回でした

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