Fateで斬る   作:二修羅和尚

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二十三話

ポーチから宝石を数個ばかり取りだし、相手の出方を伺う。

 

「経験値……ねぇ。とても賊が言う台詞じゃねぇと思うんだが?」

 

「かもな。だが、俺は最強になりたいんだよ。そのためには強い奴を倒すのが一番いい。まぁ、こんなやり方なのが残念だが、命令なら仕方ねぇ」

 

「ダイダラ、喋りすぎだ」

 

俺を見て嬉しそうに斧を構える大男を真ん中に立っていたリーダーっぽい男が制した。

 

「我々は主の命を遂行するのみ。余計な手間をかけるな」

 

「相変わらず、リヴァって堅いなぁ~」

 

そしてそんな男の隣でお気楽に笑う少年。一瞬女子かと思ったが、やっぱり少年だったようだ。

 

それから、一つ。俺も内心で叫んでいた

 

 

 

 

うおぉぉぉぉぉぉ!!! 中田○治voiceキタコレェェェェェェ!!!

 

 

 

 

ゴメン、多分状況的には凄く真面目にしなきゃならんと思うんだけど、あの独特の声を前にして抑えられなかったんだ。

 

いやぁしかし、あの人ってことはこの人重要な御方なのかね?

 

 

 

 

まぁいい。大体のことは分かった。

 

つまりは、『こいつらの主であるエスデスってやつの命令で良識派の文官を暗殺して回っている』わけだ。

で、チョウリ様もそのターゲットであると。

 

いやほんと、スペクテッド便利だわ。

能力教えなかったらこうも簡単に情報が転がり込んでくる。

極秘事項のバーゲンセールや~

 

 

相手の表情を見るだけで心を読むことができる『洞視』の力。

その能力を使い、相手の話を誘導、情報漏洩の黄金パターン

 

 

「答えろ。貴様ら、賊じゃないだろ。いったい誰の差し金だ」

 

「悪いが、答えるわけにはいかんのだよ、仰せつかったのは、元大臣であるチョウリ様の暗殺のみだ」

 

エスデスですね分かります

 

 

内心でプギャーしつつも、キリッとした表情は崩さない。

 

「セイ、気を付けろ! 其奴は帝国の将校だ!」

 

対峙していると、後ろからチョウリ様の声が飛んできた。

将校……てことはこの人将軍か? でもなんで将軍が将軍の下についてんだ?

 

「……ということらしいが? そこんところはどうなんだ、帝具使い」

 

「ほぉ……見たところ、君もそうらしいが。まぁいい。我が主の命令は絶対だ。ダイダラ、任せたぞ」

 

「分かってらぁ!」

 

男が合図したとたん、君の悪い笑顔で斧を構えて突っ込んでくる大男。

 

ってぇ! ちょ、何あいつ目が真っ白なんだけど!? あれで見えてんの!?

 

 

距離が近くなったことでよく見える相手の顔に驚きながらも、スペクテッドの能力を使って回避。

 

振り下ろされた巨大な斧はそのまま俺の真横を通りすぎ、足元の地面を破壊する。

 

問題は、その規模だった

 

「うおっ!?」

 

地面から土や石が散弾のように飛んでくる。

多少の土と石が俺を襲うが、俺が着込んでいる服は物理防御を上げる魔術をかけてある。このくらいなら全く痛くない。

 

次は横凪ぎか

 

「らぁっ!!」

 

「よっと」

 

まぁでも、それだけだ。脅威ではない。

余裕を持って地面すれすれに身を屈めると、敵の斧が頭上を凄まじい勢いで通過していく。

 

 

一瞬驚いたように目を見開いた大男だったが、俺はそれを無視し、斧が通過すると同時にその顔面に拳を叩き込む。

 

同時に片方に握りしめていた宝石を懐に忍ばせてやり、手甲の宝石を消費して風を起こし大男を上空へぶっ飛ばした。

 

この際、男が重すぎたため、予想以上に宝石を消費してしまったがな。

 

 

「『爆破』」

 

そして頭上で響き渡る爆発音。

 

「チッ、汚ぇ花火だ」

 

ちょっとリアルで言ってみたかったんだ。悪く思わないでおくれ。

 

流石に宝石数個じゃ威力が足りなかったようで、大男が肉片となるほどではなかった。

が、それでも爆発の力ってのはスゴい。

 

上空で発生した煙の中から大男が姿を現したのだが、元々黒かった服が更に黒くなったり破れたり、あげく金髪も黒く煤けていた。よく見れば上着を着ていない。

 

ダンッ、と大男が着地を決めた。

 

「なんだ、生きてたのか」

 

「……てめぇ、いったい何しやがった…」

 

ふむ、爆発の直前に宝石を仕込んだ服ごと脱いだのか。

 

頭のなかで俺について必死に考えている様子がよくわかる。

 

まぁ、こいつら魔術の存在とか知らないだろうし、知ってもどうこうできるもんでもない。

 

スピア達は下がってチョウリ様の守りを固めて貰っている。

あとは、戦況は有利ではあるが、全体的に状況は悪い。

 

俺は守りきれば勝ちだが、相手はチョウリ様さえ殺せればそれでいい。

多分、目撃者である俺たちの抹殺は二の次だ。

 

そして、この間に解析終了。

解析と言っても、俺はただあの中田○治voiceの考えを読んでいただけだが。

 

どうやら色々とどうするかを考えていたみたいだが、そのなかで相手の帝具の使い方やら能力やらも大体分かった。

 

ほんと、スペクテッド便利だわ

 

この大男が振るう帝具、ベルヴァーグ。

分裂させて投げれば追尾するのか。これ、チョウリ様狙われたら終わりじゃねぇか!

幸い、今はまだ連結しているようだが、もし分離させたなら、全力で仕留めにかかる。

 

そして、あの少年の帝具がスクリーム。

 

よく見れば笛っぽいのを持っているが、あれがそうなのだろう。

音色を聴かせることで、相手の精神に干渉する帝具のようだ。

ふむ、大男を強化するか俺を弱体化するかの二択なのね。

 

で、あの中田○治voiceだ。

ブラックマリンとかいう奴らしいが、見たところ其らしき帝具は見当たらない。

か、こいつの効果が少々不味い。

 

液体の操作だと? 月霊髄液(ヴォーメルン・ハイドラグラム)の天敵じゃねぇか!

 

何やら奥の手で血も使えるようだが、そこらへんも気を付けなきゃだな。

 

「くそっ! ちょこまかと…!!」

 

「んな大振り当たるわけねぇよ」

 

確かに威力はすごい。手甲で防いだらそれごと持っていかれるのは間違いない。

が、スペクテッドに心眼(偽)もある俺からしたら、この攻撃に当たる方が可笑しいくらいだ。

 

「ニャウ! リヴァ! お前らも手伝え!」

 

「あれ? いいのダイダラ? 経験値独り占め出来ないよ?」

 

「ニャウ、ふざけている場合ではない。ダイダラが苦戦する相手だ。なかなかやるぞ」

 

とかなんとか考えていると、他二人も参戦してきた。

少年は笛を手に、中田○治voiceは剣を手にしている。

剣が帝具なのか?

 

「セイ!」

 

「大丈夫だ! それより、スピア達はチョウリ様を連れて村の方に向かえ!」

 

早くッ! と後方に叫べば、渋々といった様子で兵士の人達とチョウリ様を連れて下がるスピア。

 

「君は一人で私たちを相手にできると思っているのかね?」

 

スピアの姿が小さくなったころ、中田○治voiceかそんなことを聞いてきた。

果たして、スピアが遠ざかるまで待っていたのは余裕だからなのか。

まぁ帝具持ち三人がかりで一人の相手なんだ。そりゃ余裕だよな。

 

思考を読めば、俺を殺した後でチョウリ様を殺ればいいとおもっているようだった。

 

「まぁ、普通に考えれば無理だわな。端からみたら、俺を残して行け的な死亡フラグに見えなくもない」

 

「……ふむ。何を言っているかは分からないが、主のためだ。死んでくれ」

 

「あ、そのことなんだけどな」

 

ごく自然に、さも何事もないように腕を振るう。

 

たったそれだけ。それだけで…

 

 

「あ?」

 

 

グシャァッ、と

 

斧を肩に担いでいた大男の上半身が切り落とされた

 

 

「なっ……!?」

 

「あんたら間違ってる。死ぬのはてめぇらだ糞野郎共」

 

突然、断末魔をあげることなく絶命した大男を見て言葉を失う二人。

たが、リーダーの方は流石というべきか、そこからの行動は早かった

 

「ニャウ! 一度下がれ! スクリームで援護だ!」

 

「! 分かった、任せて!」

 

剣を片手に攻めかかってくる男に、後方へ下がって笛を吹き始める少年。

 

精神干渉ねぇ……

 

まぁまぁの音色だなと思いつつ、迫り来る剣を手甲で弾く。

あの斧なら兎も角、こんな普通の剣など怖くもなんともない。

イエヤスにやった剣の方が凄いわ

 

「まぉ流石将軍ってことか。剣の腕はかなりのもんだ」

 

「!? 貴様、効いてないのか!?」

 

袈裟斬りを手甲で受け流し、お返しにと拳を繰り出すも、ギリギリのところで回避される。

まぁ、半減してたらこんなもんなのかね。

 

「別に俺は耐性がついてるわけじゃねぇんだわ。それと、血刀殺とか使わせる気ねぇからな」

 

「その帝具、心を読めるのか……! ニャウ! もういいい! 二人がかりで仕留めるぞ!」

 

「あ、いい忘れてたんだけど」

 

バタッ、と俺たちが争うその先で、何かが倒れた。

 

「おう、オリジンさんよ。こっちはもう仕留めたぜ」

 

首のとれた少年だった何かと、その傍らでナイフの血を振り払う骸骨の仮面を着けた男。

 

「お疲れさん」

 

「そうでもねぇや。そっちに集中してたから簡単に後ろが取れてな。楽すぎてビックリだわ。じゃ、俺は失礼するぜ」

 

「な、な、な……!?!?」

 

言葉が出ない中田○ーー面倒だからリヴァでいいか。

そんなリヴァのことを無視して、骸骨の仮面の男は煙のように消え去った。

 

「……うし、力も戻ったな。まあそんなわけでだ。もうあんたで最後なんだわ」

 

妄想幻像(サバーニーヤ)を解除し、呆然とするリヴァに話しかける。

あまりのことに呆然とするリヴァであったが、すぐに気をとりなおすとこちらに向き直った。

 

「なるほど、もうひとつの実体を作り出す。それがその帝具の奥の手、というわけか」

 

「え、違うけど?」

 

「……だが、主の命令は絶対だ。最後まで抗わしてもらおう!」

 

片手の白い手袋を脱ぐと、そこにあったのは竜の装飾が施された銀の指輪。

なるほど、それが帝具なのね。

 

「確かに私の血を使うのが血刀殺だ。しかし、私のでなくとも血を扱うことはできる。このようにな!」

 

倒れた死体から血が吹き出したかと思えば、それはリヴァの周りに渦のように取り囲む。

 

「ふんっ!」

 

そして、注射器で何かを自身の体に打ち込んだリヴァ。

どうやら、猛毒を仕込んだようで、今度は腕を切り、そこから溢れた自身の血も渦のなかに加えた。

 

「さぁ、これで準備は終わりだ。水があれば良かったが、贅沢は言えんからな」

 

「なるほど。その血がちょっとでもかすれば俺が毒に犯される、と」

 

「そういうことだ。相討ち覚悟で挑ましてもらおう!」

 

 

 

これ、俺には毒って殆ど意味ないって言ったらどうするんだろうか?

まぁ、頑健Aで対処できるかは分からんし、何より、あんな他人の血が触れるとかちょっと考えただけでも遠慮したい。

 

 

それに、だ。

 

 

今この状況。

ここにいるのはリヴァと俺の二人のみ。

広さは十分あるし、人目もない。スピアたちも下がらせたしな。

よって、こいつが生き残らない限り、情報漏洩はありえない。

 

なら、あの宝具使うか。使う機会なかったからちょうどいい

 

「む? それはなんだ?」

 

突如、俺の手に現れた本を見て、いったいどこから出してきたのかといった視線を向けるリヴァ。

 

表紙には美少年とデスマスク。そして何よりも人の皮で作られたおぞましい本の宝具。

 

対軍宝具螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)

 

第四次聖杯戦争で、偶然にも殺人鬼によって召喚されたキャスター。真名、ジル・ド・レェ。

 

かの有名なジャンヌ・ダルクとともに戦った元帥だったが、ジャンヌの処刑によって狂った男。

 

そんな男が持つこの本は深海の魔物を従わせ、召喚する

 

 

「なっ!?」

 

平原だったこの場所を、埋め尽くすほどの海魔の群れ。

自分でやっててなんだけど、見た目これキモいわ

 

「相討ち覚悟、なんて言ってたけど、俺は最初に言っといたぜ。『死ぬのはてめぇらだ』ってな」

 

左手が使えなかったとはいえ、セイバーさえ圧倒した物量だ。

死にかけのリヴァが乗りきれるはずがない。

 

 

「さぁ、ワンサイドゲームの始まりだ。海魔(てめぇら)ーー」

 

 

 

そして俺は指示を出す

 

 

 

「ーー蹂躙せよ!」

 

 

 

 

 

 




というわけで、三獣士編は終わりですね。
さて、こんな感じになっちゃったわけで、龍船のイベントがなくなっちゃいました。
書いてる途中で、「あれ? これ、タツミのインクルシオどないしよ?」という考えに思い至ったのですが、まぁいいよね!みたいな。

ちなみに、タツミ君にはインクルシオを使ってもらうつもりです。
ブラートは……まぁ一応考えてますのでご安心を。納得できるかは分からんけど

それでは次回!

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