Fateで斬る   作:二修羅和尚

20 / 92
今までで一番長くなりました……



二十話

宝具『風王結界(インビジブル・エア)』によって姿を隠した物干し竿を構え、前方で此方を警戒する二人の女を見据えた。

 

一人は帝都の指名手配書にも顔が載っているので知っている。

ナイトレイドのシェーレ

もう一人は知らないが、状況的に仲間のナイトレイドと見ていいだろう。

手に持っている銃。あれも帝具なのだろう。だとすれば、以前ナイトレイドを追った際に飛んできたビームは彼女のものだったのか。

 

鋏の帝具と銃の帝具。遠近に隙のないペアなのだろう。その実力も高いことはこの場でも伺い知ることができる。事実、先程の一発で眼鏡の女、シェーレは仕留めたつもりでいたのだが、簡単には終わらせてくれなかった。

 

二対一。状況はこちらが不利。しかも相手はナイトレイドの帝具使い。

 

 

だからどうした

 

 

物干し竿の柄を握り締める。

 

後悔は色々ある。

 

セリューを帝具使いだからと一人で行動させたこと。

もっと早くに連絡を入れたら良かったこと。

楽観視せず全力で現場に向かえばよかったこと。

 

そうすれば……少なくとも、両手を失うという重症は避けられたかもしれない。

おまけに、セリューが一つの過ちーー人体改造によって仕込んだ銃まで使わせてしまった。

 

コロにはセリューを本部に運ぶように言ってある。サヨにも事の次第を説明し、医務室で応急措置を施すようにいってある。

本来なら、直ぐにでも俺が連れていって治癒魔術をかけるべきなのかもしれない。

実際、俺だってそうしたかった。

 

でも…

 

『役に立てなくてごめんね』なんて

 

そんなこと今言うことじゃねぇだろうが

まずは謝れよ猪娘(いのむすめ)

 

駆けつけるとそういって力なく笑うセリューの姿を思い出す。

 

 

この機会を逃せば、次のチャンスは何時になるか分からない。

それに、セリューが両腕を犠牲にしてまで作ったチャンスだ。絶対無駄にはしない

 

あいつがやったことは無駄じゃなかった、寧ろよくやったと言ってやらないとだ。

そんで、何時ものように説教して、そのあとは何時ものように

 

 

やることは決まっている

 

 

「……部下が作ったチャンスだ。逃がしはしない。半殺しにしてでも捕まえる」

 

「! シェーレ! 来るわよ!」

 

「分かっています! マイン、援護を!」

 

俺が駆け出したと同時に帝具を構えたシェーレが相方の前へ出る。

相方の方も一度後ろに距離を取り、銃口を俺に向けた。

 

「ぶった斬る!」

 

「やらせません!!」

 

風王結界(インビジブル・エア)で刀身を覆った物干し竿を振るうと、俺の手の動きに合わせるようにして帝具を振るうシェーレ。

相手が何を持っているか全く見えていない状況でよく動いたものだ。

 

「っ! やはり武器を……!!」

 

どうやら俺が武器を持っているかどうかは予測だったようだ。

これで俺が持っていたのがデスサイスとかなら、こうやって打ち合う前に致命傷を負わせられたんだが。

 

「『沸き立て我が血潮』」

 

思考の途中で横から放たれたエネルギー弾を水銀の壁で防ぐ。

 

「素直に撃たれなさいよっ…!!」

 

「生憎だが、俺にそんな性癖はないっ」

 

もう一人が悔しそうに愚痴るなか、シェーレが距離を取ろうと後方へ下がる。

が、此方は距離を取らせる積もりはない。後を追うようにして至近距離での打ち合いに持っていく。

 

あの鋏の帝具は、確かに強力だ。

万物両断と称されるだけあって、その攻撃力は俺でも警戒すべきもの。

だが、その攻撃力が発揮されるのは鋏本来の使い方をしたときのみ。

あの大型の鋏でなら、それは大きな隙となる。

暇は与えないのが一番だ。

 

「シッ!!」

 

足を狙った一閃を鋏が受け止める。

もう何度目にかなる打ち合いは更に熾烈を極めていく。

 

「このっ…!!」

 

そして、先程からシェーレの援護を続ける銃の帝具を持った少女。

エネルギー弾は全て月霊髄液(ヴォーメルン・ハイドラグラム)の自動防御によって防いでいるが正直鬱陶しい。

別に防御を破れないなら無視でも構わないのだが、油断していると足元を掬われかねないのが帝具だ。どんな奥の手を持っているかもわからない。

 

一瞬だけ月霊髄液(ヴォーメルン・ハイドラグラム)にシェーレの相手を任せると素早く腰のポーチから幾つかの宝石を取りだし、少女に投げつける。

 

「はっ?」

 

突然のことに驚く二人。うち一人は、急にこちらに意識を向けたと思ったら飛んできたのが宝石。それも戦闘中だ。俺が逆の立場でも分からない。

 

一瞬、少女から困惑の声が上がる。だが、その一瞬が命取りだ。

 

「『爆破』」

 

俺の言葉と同時に、宙を舞う宝石が光を放つ。

次いで爆音

 

殺さない程度の威力にしたが、直撃したはずだ。

これでやり易くなる

 

「っ、マインっ!! くっ…!」

 

「余所見してんじゃねぇよ!」

 

任せていた月霊髄液と代わり、再びシェーレとの攻勢に入る。

あちらも気持ちは同じかもしれんが、俺だって早く終らせたい。

が、俺が必殺の絶技を出すには、シェーレ同様に一度構えを取らなければならない。

 

だが、焦りは油断や隙を生む。かの剣豪も時間的猶予がないため勝負を急ぎ、そしてその隙をつかれた。

 

普通なら、スキルの効果もあって見切れない絶技である燕返しに隙ができたのだ。

 

 

刀身を隠しているため、本来は突きが効果的なのだが、物干し竿は長さ一五〇㎝を越える長刀。この距離では使えない。

 

……まぁ、俺は致命傷覚悟で出来ないこともないが、俺の異常性が露見することは避けたい。どこで誰が見ているか分からないしな。

 

 

そこまで考えていると、視界の端で何かが動いた。

攻撃の合間に視線を移せば、そこには先程、俺が爆撃を仕掛けた少女。

 

すごいな。まだ立てるのか

 

ただ、全身ピンクな服装は所々が焼けており、少々痛ましくなっているし、体の傷も致命傷とまではいかないが傷ついているのは事実。

それでも戦意が衰えている様子がないのは、流石ナイトレイドと言うべきだろう。

 

何かをブツブツ口にしながら銃を構える様子を尻目にシェーレとの打ち合いを続ける。

あれは礼装で防げるが、まだ続くとなると厄介になってくる。

再度爆撃で沈めるようか。それとも早々にこいつとのせめぎあいを怪我覚悟で終わらせるか。

 

そんな俺の考えは杞憂に終わった。それも悪い方向に

 

何度もそれが水銀によって阻まれている様子を見て、楽観視していたのか、それとも心のどこかで慢心していたのか。

 

 

そんな俺の心の隙を付いたエネルギー弾は容易く俺の礼装をぶち抜いてきた

 

 

「なっ!?」

 

火力が上がっている!?

 

水銀の壁を貫いてきたエネルギー弾には流石に驚きを隠せなかった。

それでも、俺の体は優秀なのか、反応し、回避行動をとる。

 

油断していたため、無傷とまではいかなかったが、それでもあれをかすり傷に止められたのは良かった。

が、これで終わるわけではない。

回避行動をとったために、体勢を崩した俺に凶刃が迫る。

いつの間に両刃を開いていたのか、シェーレの目は人を殺すそれだ。

これは不味い

 

「『風王鉄槌(ストライク・エア)』!!」

 

「なっ…!?」

 

刀を覆い隠していた風を瞬間的に一方向へ放ち、なんとかその場を離脱。これでシェーレに距離を取られることになるが、それはもうこの際仕方ないことだと割りきることにしよう。

 

それに予想以上に時間を食っている。

 

「あれで仕留められないって…… 何なのよあいつ…」

 

「それにあの動き……風を操る帝具ですか……?」

 

「文献には載ってないやつね……」

 

何やら合流して話し込んでいる様子

帝具やらなんやらと聞こえてくるが、最初に帝具を使わないといったんだが。

 

まぁ、宝具なんてこの世界にないし、使えばそう誤解されることは分かっている。

 

「厄介な……」

 

だが、不利になったのは変わりない。

多分、あちらもそれは分かっている。このまま決めに来るか…はたまた、長期戦に持ち込んで確実性をとるか。

 

『セイさん! もうまもなく増援が到着します! 状況はどうですか?』

 

「サヨか。すこしばかり手こずっている。それより、セリューの容態を教えてくれ」

 

『セリューさんなら今のところは大丈夫です。止血も終わって、言われた通り切断された腕も腐らないようにしています』

 

「そうか…分かった。そのままセリューのことは頼む」

 

それだけいって通信を斬る。

安心はしたがもうあまり時間はかけられないな。

 

俺は仕方ないとばかりに風王結界(インビジブル・エア)を解除し、物干し竿を露にする。

あの技を出すのに、風は余分。寧ろ邪魔だ。

 

俺の手に武器が現れたことに銃の少女ーー確かマインだっけか?ーーはすこしばかり目を見開いて驚く様子を見せたが、シェーレの方は納得したとばかりに頷いた。

 

「刀だとは打ち合って分かっていましたが……流石にそこまで長いとは思っていませんでした」

 

「刀だと分かっただけでもすげぇな。素直に誉めてやる」

 

何時でも技を放てるように半身になって刀を構えておく。

長期戦になれば厄介。なら、相手も短期決戦に乗るように誘うしかない。

 

「先に言っといてやる。もうすぐ、援軍の部下がここに来る。そうなったら、お前たちに勝ち目はないぞ?」

 

「なら、その前にあんたを殺すだけよ!」

 

再び帝具を構える二人。

乗ってくれたことにホッとする。短期戦なら負けはしない

 

鋏を開いてシェーレが駆け出して来る。その後方でシェーレが射線に入らないように位置をとるマイン。

 

放たれるエネルギーの銃弾に、迫る両刃

 

俺はその両方を視界に置き、ただただその一瞬を待つ。

 

 

ここで決める!!

 

「『滾れ我が血潮』!!」

 

全力で水銀に魔力を込める。

それも壁のように薄くするのではなく、幾つもの柱を何本も重ねるようにし、通常以上に強化された水銀が展開された。

 

結果、威力を増した銃撃は水銀を削りながらも俺に届くことはなかった。

 

あとは目の前のこいつだけ……!!

 

「決めるっ…!!」

 

(エクスタス)!!」

 

目の前に凶刃が迫るなか、シェーレが何かを叫ぶ。

いったい何をと抱いた疑問は次の瞬間に解決した。

 

俺の視界が白く塗りつぶされ、とてつもない光が俺から視力を奪う。

 

 

一部の帝具に備わっているとされる帝具の奥の手。

セリューのコロでは、狂化がそれに当たる。

 

エクスタスの奥の手は目眩ましの閃光。

一見地味に聞こえるが、万物両断の名を持つエクスタスの一撃を当てるには持ってこいの奥の手な訳だ。

 

視界が眩み、必殺の一撃は避けられない。普通なら、両断され死を迎えるのだろう。

 

“普通なら”だ

 

 

「秘剣ーー」

 

だが、俺は見えずとも、相手の動きは捉えている。

俺が所有する十のスキルのうちの一つであり、最もランクの高いスキル

 

 

心眼(偽) Ex

 

 

所謂、虫の知らせと言うべきか。

俺の場合だと、これのお陰で英霊のスペックを生かせていると言っても過言ではないかもしれない。

 

そしてこのスキル、視覚が潰されてもある程度の戦闘は可能なのだ。

それが評価規格外のEx

笑うしかない

 

目を潰しても尚、自身を認識して刀を構える俺を見て、シェーレは何を思ったのだろうか。

焦り、驚き、そして少しだけ感じられた恐怖。

 

それが見えない向こうからよくわかった

 

「しま……」

 

「ーー燕返し」

 

放たれる三つの刃。

別世界から己の斬撃を引っ張ってくるという絶技

愚直に剣を鍛え、燕を斬るために一人の無名の剣豪が編み出した魔剣

 

回避は不可能。

 

目の前の光景に信じられないといった様子で目を見開くシェーレ。

 

次の瞬間、彼女の両脚と左腕が根本から斬り落とされた。

 

 

宙を舞う三肢

残った右腕でエクスタスを握りながら地に落ちた暗殺者(シェーレ)

 

斬られた部分からは止めどなく鮮血が溢れている。

 

俺は物干し竿に付いた返り血を軽く振るうことで払った

 

「シェェェェェェェェレェェェェェェェ!!!!」

 

その様子を見ていたのか、マインと呼ばれていた少女が名を叫ぶ。

残念ながら、まだ視力は戻っていない。

この状態で遠距離武器相手はスキルがあるとはいえ難しい。

さて、どうするか

 

そんな心配は聞こえてきた足音で取り消した

 

「セイさん! 援護を!」

 

「気を付けろ! 相手は銃の帝具だ!! 総員、銃で牽制しながら取り囲め!」

 

イエヤスの声が聞こえてきたであろう方角に指示を飛ばす。

部下の何人かがその指示を広げ、その通りに動く。その時だった

 

閉じた視界、瞼の向こうから強烈な光が放たれた。

 

「なっ……まだ動けたのかっ!?」

 

「マイン、今のうちに逃げてくださいっ」

 

他の隊員達が目を眩ませる中、そんな声が耳に入り、同時に駆け出す足音が聞こえた。

 

追おうにも、隊員たちは軒並み行動不能。俺も視力が戻っていないため無理だ

 

 

「逃げられたかっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後は迅速に行動を開始した。

 

まずは出血多量で死なれては困るため、足元で転がっているシェーレに止血と応急措置を施し、断裂した三肢の回収をイエヤスたちに命じて一人全力で本部に帰還。

 

直ぐにセリューに治癒魔術を施し、両断された腕を慎重に繋いでいく。その際、腕のなかにあった仕込み銃を綺麗に取り除いておいた。

口の部分は開かないと取り出せないし、魔術があるとはいえ、専門ではないため諦めるしかなかったことが悔やまれる。

 

そしてもう一人。シェーレについてだ。

 

殺しはしないといった手前、セリューの後で治療は行った。

セリューの腕を両断した張本人ではあるが、それも治り、逆に俺が切断したので回収させた三肢を綺麗に繋いでおいた。

麻酔効果のある薬品を仕込んだため、治療後も眠ったままだったが、遠慮なく本部の地下牢にいれておいた。

勿論、帝具も回収し宮殿の方に送った。あとは上の判断に任せよう。

 

 

そして、ナイトレイドとの戦闘があった翌日、当人が目を覚ましたと連絡が入ったため、俺は一人で地下牢を訪れた。

 

「ごくろうさん。あとはやっておくから、見回りにでもいってきてくれ」

 

「はっ! それでは、失礼します」

 

 

見張り番の隊員が出ていくのを確認し、俺は一番奥の牢屋に近づいた。

俺が作った照明でほんのりと明るい光が格子の間から漏れている。

足音で気づいたのか、牢屋の前にたつと向こうから話しかけてきた。

 

「警備隊長の人ですか?」

 

「長いだろうから、セイでいい。腕と脚の調子はどうだ?」

 

「えっと……治療してくれたのは警備……セイ君ですか?」

 

「そうだが……つーか、セイ君って。君づけは止めてくれよ」

 

はぁっ、とため息をつくと、その様子が可笑しかったのか、シェーレがクスクスと笑う。

 

「すいません。そっちの方があってある気がして」

 

「……まぁいいや。にしても、意外に話すんだな。てっきり黙ったままかと思ってたぞ」

 

牢屋の正面に胡座をかいて座り込む。

 

「仲間のことならともかく、普通に話すくらいはしますよ」

 

「…そうか。俺としてはそっちの方がありがたかったけど」

 

正直、俺が催眠術とか使えたらいいんだが、どうやら俺はそういう精神関係の魔術はかなり苦手なようで全く使えないと言ってもいい

 

「それにしても、凄いんですね。あの状態からここまで治るなんて」

 

そう言いつつ、彼女は己の肩と脚を確かめるように撫でた。

まぁ、接合とかそれなりの技術と道具、設備がいるからな。

 

「殺さないって約束してたからな。それに、美少女が四肢欠損したままとかあまり好ましいもんじゃねぇし」

 

「ふふ、お世辞がうまいんですね」

 

そういって彼女は笑う。

だが、俺にはそれが理解できない。

 

「……怖くないのか?」

 

「え?」

 

「このままいけば、貴女は間違いなく処刑だ。それも街中で見せしめとして。あの大臣のことだ。その処刑方法もかなり重いものになるはずだ」

 

なのに、なんで笑っていられるんだ

 

そう思わざるを得なかった

 

「……ナイトレイドに加わってから、そういう覚悟はしてましたから。いつかは報いを受けるかもしれないって」

 

「だからって…」

 

「まぁ確かに、少しは怖いとは思います。けど、それを受け入れられるくらいに、私は殺してきました」

 

そして彼女は続ける

 

「それに、そのくらいの覚悟がないと、国は変えられませんから」

 

「……やはり、革命軍と…」

 

革命軍と繋がっているという噂は本当だったのか

 

「あ、すいません。今の忘れてください」

 

「いや、無理ですから」

 

あと、天然はいってんのかなこの人

 

目の前であたふたとしている様子を眺めなからそんなことを考える。

 

「……革命なんてするべきじゃない。こんな腐った国でも、内側から変えられる。俺はそう思ってる。……まぁ、こんな話を貴女たちとしても平行線だろうけど」

 

そう呟いた俺は徐に立ち上がる。

いろいろと話せて有意義だった

 

「また後日、貴女の処遇が決まり次第ここに来る」

 

「ええ。それではまた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さて、今度はチョウリ様のとこだなっと

あと、セリューに関してですが、スタイリッシュによる強化は致しません。故に十王の裁きは使いません。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。