Fateで斬る   作:二修羅和尚

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本日一話目。



十七話

「宝石の補充完了っと」

 

手に持っていた宝石を机の脇に置いてあったポーチに入れると、ポーチの中で石と石が軽くぶつかり合う音が聞こえた。

 

ザンク戦の時のように、宝石を使用したときは毎回必ず補充はしている。戦闘中に足りないとかなったら目も当てられん。

 

しかし、本当によくこれだけ持ってるよな

 

机に置いてあるのは、普段、俺が身に付けているものだ。

何時も背中側の腰に着けているポーチに、腰の両側に吊り下げている水銀の入った大瓶が二つ。そして、俺の普段の主武装である手甲。

 

宝具は取り出そうと思えば何時でも何処でも取り出し、使用が可能であるため問題はない。

そして、もうひとつ。俺が新たに得た帝具、スペクテッド。

 

ポーチには常に五十を越える宝石を入れてある。これに加えて水銀の入った大瓶。軽量化の魔術掛けとかないとかなり重くなる。一般人が持てる重さじゃねえ、

 

腰のポーチなんか、俺の礼装とはいえ宝石だ。盗まれでもしたら大変なことだ。

経済状況的に全く問題はないが。

 

「さて、あとは……」

 

残すは毎日欠かさず行っている日課のみ。

 

俺は机の引き出しの鍵を開け、厳重に保管されたそれを机の上に取り出した。

出したのは縦横奥行きが十五㎝程の木製の箱。

 

だが木製と侮ることなかれ。

これには俺が魔術的な防御結界を施しているため、並みの金属よりも頑丈だ。

 

「『解錠』」

 

カチ、と中でなにかが外れたような小さい音が響く。

無理に開けようとするなら、俺特製の魔術トラップフルコースを堪能することになる。

 

それほど大事なものなのだ。これは。

 

開けた箱から出てきたのは拳大の大きさ程もある巨大なサファイア。

 

購入したのは帝都に来て少し経った頃だろうか? かなりの額を注ぎ込んだことは今でもよく覚えている。

 

この大きさでしかも、聞いた話じゃ曰く付き。純度も高かったのでいい触媒になると思ってのことだった。

 

原作staynightでは、心臓を一突きされもうほとんど死に体だった主人公をヒロインが自身の持つ大粒のルビーで存命させたのを覚えている。

 

なら、治癒の魔術を使える俺でも同じことができるはず。

 

そう考えて、購入当時から魔力を込め続けているため、もう二年近く毎日込めていることになるな。

原作のあれがどれ程のものだったかはわからないが、これでも十分な効果を発揮してくれる筈だ。

……願わくば、使う場面がないほうがいいんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え? タツミって子と会ったのか?」

 

「はい! 見回りの途中でバッタリ出くわしたぜ!」

 

「ちょっとイエヤス! 敬語使いなさいよ!」

 

本部で書類仕事をしていた所、見回りから帰ってきたセリュー、イエヤス、サヨの三人。

イエヤスとサヨはどこか嬉しそうな様子だったため理由を尋ねたところ、上のような返答が返ってきた。

 

「サヨ、今は別に構わないぞ。公的な場では絞めるけど」

 

「お、おう。気を付ける……ます」

 

「セイ君、恐ろしいことサラリと言うね」

 

俺の言葉にすこしばかり怯えるイエヤスを見て、セリューがそんなことを言った。

セリューの側にチョコンと立つコロも目を閉じてウンウン頷いていた。

そんなにか

 

「それで? 何か話したのか? 俺としては警備隊に誘って欲しいんだけど」

 

「誘ったんですけど……タツミ、あんまり乗り気じゃないみたいです。それに、今はする事があるって…」

 

「まぁあいつのことだから武者修行的なことしてんじゃないか? ……ないですか?」

 

「イエヤス。今は砕けていいって」

 

にしても、武者修行、ねぇ……

帝都の外で危険種でも狩っているのだろうか。それすなわち、単独で危険種を相手にできる実力者という意味なのだが

 

「確かお前たちって元々、軍に志望だったんだよな? 時期的に最近帝都に来たって訳じゃなさそうだし、軍の募集で溢れたのか?」

 

「……あいつのことだから、一兵卒からってのが嫌で実力を見てくれ、とか言ったんでしょうね…」

 

「それで拒否された、と……タツミなら有りそうだよな…」

 

話を聞いていると、タツミという少年は自信家なのだろうかと思えてくる。

まぁ、この二人が評価しているのは間違いない。うむ、ほんと、武者修行なんぞせずに警備隊に来てくれないだろうか。

 

「……一度話をしてみたいな。二人はまた会う約束とかしてないのか?」

 

俺がそういうと、何故だろうか。二人はジト~とした視線を自身達の間に立つ上司に向けた。

その本人、セリューは、あはは~と気まずそうに苦笑した。

そのしたでコロがやれやれと肩を竦めている。

 

「話をしようとは思ったんですけど……」

 

「迷子になってるって聞いて目的地を言ったときには、セリューさんが手を引いて走ってたんだ……」

 

ふむ。それで約束をすることもできなかった、と。

 

脳内でそのときの様子が見ていないのによくわかる。

一人の少年の手を取り、駆け出すセリューと、それを呆然とした表情で見つめるイエヤスとサヨ。

少年の顔がへのへのもへじなのはご愛敬かな。

 

「……セリュー」

 

「だ、だって、人助けだよ? 困ってるなら早く助けてあげないと……」

 

「セリュー」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

シュン、と項垂れるセリュー。そんなセリューの足を相棒であるコロがポンポンと叩いて慰める。

 

「まぁいいさ。帝都にいるならまた会う機会も有るだろう。急ぐ必要はない。果報は寝て待て、だ」

 

その時俺が直々に誘えばいい。

警備隊を軍よりも魅力的に見せ、信念やらなんやらを語れば賛同してくれるかもだ。

タツミという少年が入れば、警備隊の戦力になるのは明白だ。

実力者が増えれば色々と考えやすい。

 

ナイトレイドについても対策しやすい。

 

「んじゃ、この話は終わりだ。イエヤスとサヨは今日の見回りはもういいから、ここで書類仕事を頼む。あと、サヨは途中でマップの司令の補佐をしてくれ。やり方は分かるよな?」

 

「は、はい。一応一通りは扱えますけど……あの、私がやってもいいんですか?」

 

「問題ない。それにやってもらうのは補佐だ。もう一人俺の部下がいるから、とりあえずはそいつに従ってくれ。最終的には一人で任すかもだから仕事も覚えるように」

 

「わ、分かりました」

 

すこし緊張ぎみになるサヨ。

サヨは頭がいい。というよりも警備隊の中ではかなりキレる方だ。少なくともセリューよりは断然。

 

こりゃ育てりゃ警備隊きってのブレーンになってくれるかもだ。それだけに期待はでかい。

「サヨはいいな。俺も使って見たいぜ」

 

「お前は頭使うよりも体動かすほうだろうに。それに、先ずは帝都の道を覚えろ。方向音痴だったら話にならんぞ」

 

「うっ……分かってるんだけどなぁ……」

 

どうもそういうのは苦手で……とため息をつくイエヤス。

一度、エア達の手伝いがしたいということで買い物に行かせたんだが、帰ってきたのは翌日だった。

何でも、家と逆方向に進んで、結局帝都を半周することになったのだとか。

方向音痴にも程がある

 

 

「まぁ、落ち込まなくてもいい。その代わりと言っては何だが、お前の剣をすこしばかり改造してある。並みの剣相手なら簡単に両断できるはずだ」

 

「……マジで?」

 

「おう、マジマジ。試し切りしてみるか?」

 

俺の言葉に勢いよく首を縦に振るイエヤス。

周りに人が居ないことを確認して、警備隊の支給品である剣を持ってくると、丁度刀身の部分がはみ出るように机に乗せて抑える。

 

「うし、いいぞ」

 

「それじゃぁ……シッ!!」

 

鋭く息が吐き出されると同時に、上段から剣が振り下ろされる。

こうして近くで見て改めて思うが、イエヤスの剣は見るたびに上達しているのが分かる。今のも誉めてやりたいくらいの鋭い一閃だった

 

「お……おおぉっ!?」

 

結果は予想通り、イエヤスの剣は支給品である剣をバターか何かのように容易く両断する

 

「セイさん!これすげぇ!!大切にするぜ!」

 

「おう、喜んでもらえて何よりだ」

 

子どものようにはしゃぐーーまぁ、俺から見たら年下の子どもなのだがーーイエヤスの様子を見ているとついつい頬がゆるむ。まぁ、これだけ喜んでくれたなら良かったよ。

 

そんなことを考えていると、丁度服を引っ張られるような感覚。

見ると、セリューが何か言いたげな様子で、俺の服を摘まんでいた。

 

「私のは?」

 

「ない」

 

「一言で済まさないでよ!?」

 

まさかの即答に納得いかないと叫ぶセリュー。

どうやら、セリューなにか欲しいとのこと

 

「いや、だってお前、コロいるじゃん?」

 

「それとこれとは別問題なんだよ!」

 

そうなのか? と視線だけをセリューの足元、コロに向ける。

此方に気づいたコロは、キュウ? と首をかしげた。ちょっと可愛いです。

 

「ねぇ、セイ君ってばぁ!」

 

「あぁ、もう分かった分かった。なら今度人助けとか犯人逮捕とか成果だしたらくれてやるよ」

 

「本当? 約束だからね!」

 

わーい、とイエヤスと同じようにはしゃぐセリュー。

何故だろうか。セリューの方が年上なのにサヨの方が年上に見えてくる。

まぁ、子どもっぽい顔してるけど。

 

「さて、何をあげるか考えんとな……」

 

 


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