Fateで斬る   作:二修羅和尚

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十一話

「そらそこ! 足元注意だぞ!」

 

「あっ、グヘッ!?」

 

木剣を振るうイエヤス。俺はその剣筋を見切ると、意識していなかったであろう足に蹴りを入れる。

今ので三回目だ。

 

体勢を崩してツンのめるイエヤス。その間に俺はイエヤスの背後に回り込み、軽くその背中を押してやる。

呆気なく顔面から倒れこんだ。

 

「セ、セイさん容赦ねぇ……」

 

「アホか。俺が本気出したらお前なんか瞬殺だぞ」

 

ほら立て、とイエヤスに手を貸して起き上がらせる。

 

 

あの日、オーガが殺され、俺が隊長代理となってから数日が経過していた。

今日はそんな俺も久しぶりの休みである。

代理とは言っても、実際は隊長となんら変わりない。その為、俺は俺で結構やることがあったのだ。

まずは帝都中の警備隊集めての挨拶だったり、これからの方針を決めたり、あとは俺個人でやった警備隊の強化だ。

 

別に警備隊を鍛えていたわけではない。やったことといえば、俺が自宅にて着々と開発を進めていた魔導具を各詰所に配備しただけだ。それでも、時間はかかったがな

 

まずは詰所に一台、魔導ファックス。時臣さんが使ってたあれな。

これで隊員は本部まで来ずとも報告書を送ることが出来る。実に効率の良い道具だ。

そして、魔符と探知マップ。

これは俺の道具製作スキルを活かして作った自信作だ。

が、マップ自体は本部用しか作れなかったが。

 

マップは全部で4枚。全てつなげれば帝都の地図が出来上がる。そして、この魔符であるが、これは警備隊員に持たせることでGPSのような役割を果たしてくれる。

つまり、隊員の持つ魔符の位置情報が、探知マップに光点として表示されるのだ。

更に更に、何か異常事態が発生した場合、この魔符を破り捨てることで、探知マップ上の光点が変色するようになっているのだ! どうだ! すごいだろ!

 

そして、これもかかせないのが小型無線機である。もちろん、魔術仕様。道具製作スキル半端ねぇわ

 

ただ、これは他の隊員と連絡が取れるわけではなく、全ての無線機が本部へと繋がっているのだ。だから、何か連絡を他の隊員に入れる時は、一度本部を経由しなくちゃならん。常に一人は本部にいないと使えない。

それでも、警備隊の連携や連絡網が強化されることは間違いない。

あ、笛ももちろん大事だよ?

 

あとは、犯人捕縛用に作った捕縛縄。これは縄先端に追尾と捕縛の術式を加えたもので、対象を認識してから投げれば縄が続く限り犯人を追いかけ、捕縛しにかかる。

が、弱点もある。術式は先端部にしかないため、そこを切られればただの縄に成り下がる。

 

まぁでも、便利なことには変わりない。

 

でだ。ここまではさほど難しくなかったんだ。ここまでは。

 

そう、これだけ色々と増やした結果……使い方が分からないという隊員が続出したのだ。

現代日本的な感覚で作っていたため、全くもってそこら辺を考えていなかったので、仕方ないと言えば仕方ないが……よもや、これだけの作業に数日フルで使うとは思いもしなかったぜ。

 

 

そんな地獄に近い日々を乗り切り、ゆっくりと体を休めた俺は、久しぶりに、敷地内の道場へと赴いていた。

 

ここは、俺に仕えてくれている護衛の人達の訓練所でもある。偶に給仕役の人達が運動で使うこともあるが、基本は護衛の人達が使う道場だ。

 

誰かいたら暇だし相手でもしてやろうかと訪れてみたところ、いたのは一人で剣を振るうイエヤス。

俺がイエヤスの相手をして冒頭に戻る。

 

 

「でもまぁ、うちの隊の平均くらいはあると思うぞ?」

 

「……なんか、褒め方微妙じゃね?」

 

「だろうな」

 

実際、警備隊って質を数で補っている感じだしな。

 

「お、そういや聞きそびれてたけど、サヨはどうした?」

 

「サヨなら、今はまだ寝てんじゃねえかな?」

 

ちなみに、今はまだ早朝である。

 

「そうか。にしても、こんな朝早くから頑張ってんじゃねえか」

 

「まぁな! 今のままで満足してるわけじゃねぇし」

 

フフン、と得意げに笑ってみせるイエヤス。

こういう奴は嫌いじゃない。むしろ、好感さえ持てる。

 

俺としては警備隊に欲しい人材なんだが……

 

「それで? まだ軍とか決められねぇか?」

 

「……まぁな。正直、話聞いてがっかりしたのは確かなんだ。けど、俺たち三人はそこ目指してやってきたからどうにも……」

 

「…諦めがつかない?」

 

「……まぁ、そんな感じ」

 

どうすっかなー、と道場の地べたに大の字で寝転がるイエヤス。

あれから、サヨとはじっくり話はしているのだろうが、ずっと憧れていただけに、諦めるのは簡単にできそうにないか、

まだタツミとかいう少年も見つかってない。もしかしたら、既に帝都入りして軍に入ったがしれない。

 

どうにかならんもんかね……

 

 

「まぁ、悩んで悩んで悩むといいさ。それまでここにいても構わないからさ」

 

「マジで助かります」

 

イエヤスはまだもう少し続けるようなので、俺は先に道場を出る。

護衛の人達から話を聞いているが、イエヤスは今ではファルといい勝負をするくらいにはなっているようだ。

 

ファルは少女とは言っても、俺が鍛えた言わば一番弟子に近い存在だ。実力的に言えば警備隊でもギリギリ上位に入れるんじゃないか? と思えるくらい。

さっきは平均くらいとは言ったが、あれはまだ伸びる。調子づかせるよりはこうしたほうがいいだろう。

 

「……さて」

 

部屋に戻った俺は早速一枚の資料を手に取った。

ゆっくり休みたいのは山々なのだが、俺の肩書きはそうさせてはくれないみたいだ。ほんと、タイミングが悪いことで

 

「……こりゃ、すぐにでも動いた方がいいな…」

 

見下ろした書類の一番上。

そこにかかれていたのはここ最近帝都で現れるようになった辻斬り

 

『首斬りザンクについて』

 

「はぁっ。仕事だから仕方ないか……」

 


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