Fateで斬る   作:二修羅和尚

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よろしくです。あと、更新は亀


一話

「…どうやら、無事に転生はでき……さっぶっ!?」

 

頬を突き刺すような冷風、と言うか吹雪に思わず身を縮めて叫んでしまう。

え? 吹雪!? マジで訳が分からないんだけど!?

 

いきなりの環境に、思考が上手いこと働かない。パニック状態とは、こういうのを言うのだろうか。

 

「アカン、これこのままだったら死ぬ、絶対死ぬ…」

 

どこか、吹雪を凌げて温かくなれるところはないかと探そうとするも、まず視界が白で覆われているため、全く分からない。と言うか顔が痛い。

 

「クッソ、あの神とか言ってた野郎、わざとじゃないだろうな…」

 

俺を殺してこんなところへ転生させた自称神の金髪野郎の顔を思い出す。次会ったら一発殴る。

そんな決意を固めた俺ではあるが、まずこの状況を何とかしなくては何も始まらない。

 

だが、移動するだけでもかなり大変だし、消耗するのは目に見えている。

もらった特典とやらで何かないかと考える。

 

螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)の海魔で肉の壁…いや、それじゃキモすぎる。宝具系はダメだし、礼装でも試すか」

 

とにかく、この吹雪と寒さを何とかしないことには始まらない。

俺はいつの間にか腰のベルトの左右に吊り下げられていた少し大きめの瓶の蓋を外した。

 

「湧きたて、我が血潮」

 

俺の魔力が込められた液体のそれが、まるで意思を持ったかのように瓶から飛び出した。

銀色の光沢を放つそれは、この吹雪で視界の悪い俺にもしっかりと認識できる。

 

月霊髄液(ヴォーメルン・ハイドラグラム)

 

Fate/zeroにおいて、ランサーのマスターとして参加した時計塔のエリート講師、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトが最も自信を持つとされていた魔術礼装。

その正体は、自身の魔力を込めた呪装水銀であり、自動で攻撃、防御、索敵をこなす優秀な礼装だ。

 

原作では、相手との相性故に敗れたが、爆発の衝撃に耐えたり、銃火器を防ぐ展開速度だったりと、色々とすごいのだ。時臣と戦っていれば、さぞかし面白い勝負になっただろうと思うのは俺だけではないはず。

 

早速水銀を球状に展開して、吹雪を防ぐ。

 

今まで顔に打ち付けていた吹雪が嘘のように止んだため、これで一先ずは安心かな。

 

さて、ここらで状況把握だけでもしておくか。

 

ある日、起きたら目の前に自称神とかいう男がいて、Fateの特典を与えられ、名も知らぬ世界に送られた。この間、実に30秒…は言い過ぎだが、急展開すぎてあんまり覚えていないのが現状だ。

能力とかは一応全部把握できているようだから問題はないが、この状況が続くのは辛い。辛すぎる。

 

おまけに、どこの世界だかも分からない。ファンタジーみたく、魔物とかがうようよしてんのか、それとま、SFみたいにロボットがどんぱちやってんのか、はたまたそれらとは全く関係ないところなのか…

 

「…考えても仕方ない、か。この吹雪じゃ、当分動かそうにないしなぁ…」

 

水銀の一部を開いて外を見るが、明らかに勢いが増している。こりゃ、下手に動き回らない方がいいな。

 

「…寝るか」

 

水銀は自律モードに任せ、俺はその場に寝転んだ。ちなみに、下も水銀ではあるが、害とかはないので大丈夫だ。

 

冷たいのは…まぁ、これくらいの我慢はこれからも必要だと思うことにしよう。

 

できれば、目覚めた時には吹雪が止んでいることを祈って、俺は眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とか何とかやっているうちに転生してから既に四日が経過した。

 

あの日、目が覚めて外に出てみれば、吹雪は止んでいた。止んでいたのだが……辺り一面が雪原になっていたため、途方に暮れたのはよく覚えている。元々、どこに来たのかさえ分かっていないというのに、更に迷子だ。如何ともし難い。

 

月霊髄液は便利ではあるのだが、常時展開は魔力を消費しすぎるため、必要な時以外は腰の瓶に戻している。

尚、この瓶、どうやら軽量化の魔術がかかっているようだ。まぁ、これ左右合わせて20リットルはある。水銀の比重は水の13倍以上であるため、軽量化しないと総重量270キロというとんでもない重さになってしまう。持ち運びとかできるわけがない。

 

閑話休題

 

この四日間であったことといえば、道中でゲームに出てくるようなモンスターに何度か襲われたことくらいだろうか。

1度目は咄嗟のことで驚いたが、ちょうど月霊髄液の展開中だったため、問題なく初撃を防ぎ、薙ぎ払いで一撃。

流石、ケイネス先生が自信を持つことだけのことはある。

 

それからは辺りに気をくばるように移動してきた。

二度目は主に身体能力を確認すべく格闘戦。三度目は物干し竿でもたたかえるか。四度目は破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)で戦闘を行っていた。

 

ちなみに、俺が持つ特典だが、大雑把に説明すると、stay night、zeroから宝具を8つ、スキルをランクランダムで10、魔術礼装が1つ、水、風の属性、治癒魔術、宝石魔術の才、英霊並の身体能力と魔力である。

 

だが、俺は失念していた。いくら力があっても、いくら英霊並の体があっても……!!

 

 

 

 

 

生身である以上、空腹には耐えられない。

 

人間、水だけで一週間生きられるというが無理だね。

おまけに、この四日でそれなりに体力と精神力を消耗余計キツイ。

そんなわけで、只今の俺は雪原の上に這いつくばっていた。

 

「……そうだ、いいこと思いついたぞ……!」

 

そんな時、ある1つの解決策が思い浮かんだ。

楽して移動できる。そんな方法を、だ。

 

妄想幻像(サバーニーヤ)

 

意識を自身の内側に向け、8つの内の1つを発動させる。

 

妄想幻像(サバーニーヤ)

 

Fate/zeroにて召喚されたアサシン、ハサンの使用する対人宝具。

歴代ハサンの中でも、特異な能力を持ったハサンで、『百の貌のハサン』の名を持つ。

その正体は、現代日本でいう多重人格者であった。

 

これは、そんなハサンの能力を宝具化したもので、自身の持つ人格の数だけ分裂し、一個体として活動できる宝具だ。

ただし、魂の総量は決まっているため、分裂するほど、個体の力は弱くなるそうだが。

 

 

ちなみに、俺が使用すると制限がかかり、最大でも10体が限度だ。

 

さて、そんな俺の分体を1体、呼び出したのだが……

 

 

 

 

「…………」

「…………」

 

出てきた途端、俺と同じく雪原に突っ伏していた。

 

「……おいこら、何でんなとこで寝てんだよ。早く俺を運べよ」

 

「はっ、よくいうぜ。オリジン(おまえ)がその様で、分体である俺がまともに動けるわけねぇだろうが。んなことも考えられねぇのかよボケが」

 

え、何こいつ口悪すぎるんだけど?

 

もはや顔すら持ち上げることを諦めている分体を見て、俺は直様宝具の使用を止めた。

だがしかし、本格的にまずい。

 

ちょっと、体が怠くて眠いんだけど?

 

「せ、せめて魔除けの結界くらいは…」

 

眼前の雪に、簡素な魔法陣を刻み込む。これで、モンスターに襲われる可能性はグンと減る。

減るだけだから心配ではあるが。

 

 

「……少し、休むか…」

 

自然に瞼が重くなる。

視界が閉じたと同時に、俺の意識は暗闇の中に沈むのであった。

 

 

 


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