不思議なヤハタさん   作:センセンシャル!!

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五十二話 再誕

 目を覚まして最初に視界に入ったのは、機械的な建材で作られた天井だった。判然としない思考の中、それがアースラのものであることを理解する。

 オレは、船内の乗員室か何処かのベッドに横たわっていた。医務室でないということは、怪我をして運び込まれたとかではないのだろう。

 エール、ソワレ、ミステールの三人は既に手元にいない。……いや、エールのみはベッドの横に立てかけられるようにしてすぐ近くにいたか。

 

『あ、ミコトちゃん。気が付いた?』

「……オレはどうしてここにいる。何があった?」

『大したことじゃないよ。いや、普通に考えれば大したことなんだけど……』

 

 エールが説明してくれる。どうやらオレは戦いが終わった後、気が抜けたのか突然気を失ってしまったらしい。それも、エールとソワレの力で空に浮いている最中に。

 手から力が抜けてエールを取り落としたオレは、海に向けてまっさかさまに落下を始めた。もしそのまま海に落ちていたら、運が良くて医務室、悪ければ即死だっただろう。

 すぐに気が付いたフェイトによって、オレは助け出された。エールは恭也さんが回収してくれたそうだ。

 そうしてアースラに担ぎ込まれたオレは、ハラオウン提督の指示によって使われていない乗員室に運ばれ、今目を覚ますまで眠り続けていたということだ。

 

『皆、凄く心配したんだからね。あとでちゃんと謝るんだよ?』

「ああ、そうする。……オレはどのぐらい眠っていた?」

『1時間ぐらい、かな。ソワレちゃんは、ミコトちゃんが眠る邪魔をしないようにってはやてちゃんが連れてったよ。ミステールちゃんは、トゥーナちゃんの修復の続き』

「そうか。ようやく、終わるんだな……」

 

 魔導書の中にもぐらずとも修復を行えるようになった。それはつまり、「ナハトヴァール」を葬ることが出来た何よりの証だ。

 夜天の魔導書への改竄を複雑にする原因だった「ナハトヴァール」が消えたということは、修復はほどなく終わるだろう。それをもって、「夜天の魔導書復元プロジェクト」は完遂となる。

 無論、まだ安心することは出来ない。ミステールが全てのバグを取り除けるかという問題はあるし……「システムU-D」と「ナハトヴァール」を切り取った影響がどうなるか分からない。

 ミステールは「ごっそり行く」と言っていたから、恐らくは浸食をうけた魔導書の一部もかなり切り取ったはずだ。そこも完全に修復出来るかどうかは、怪しいところだ。

 

「分かった。オレも皆のところへ行こう。……看ていてくれてありがとう、エール」

『どういたしまして。ボクはミコトちゃんの相棒だもの、当然だろ?』

 

 そうだな。エールの柄を手に取りながら、オレは微笑んだ。微笑むことが、出来た。

 

「『"風の召喚体"エール、在りし姿に戻れ』」

 

 エールを基礎状態の鳥の羽根に戻してから、乗員室を後にした。

 

 

 

「あ、ミコトちゃん!」

 

 皆は医務室の前に集まっていた。あまり広い場所ではないのに大勢が集まっているため、人口密度が酷い事になっている。

 オレが来たことに最初に気付いたなのはが、涙目で駆け寄ってきて抱き着く。彼女にも心配をかけてしまったようだ。

 

「すまなかったな。どうやら気が抜けて眠ってしまったみたいだ。体に別状はない」

「うぅ、よかったよぉ。いきなり気絶しちゃうから、心配したんだよぉ……」

「本当だよっ。空を飛んでるときに気を抜いちゃいけないって、ミコトが言ったことなのに……」

 

 「非殺傷攻撃の危険性」を説明したときに例示したことだったな。確かに、当のオレがこの体たらくでは、説得力があったものではないな。

 フェイトも抱きしめ、「ちゃんとここにいる」と実感させる。……心配かけて、ごめんね。

 ソワレを抱っこしたはやてが、自分の両足でこちらに歩いてくる。もう麻痺は完全に解けたようで、これまでのリハビリのかいもあってちゃんと歩けるみたいだ。

 

「いきなりでそんなに足を酷使して、大丈夫なのか?」

「平気やよ。なるべく松葉杖に頼らんようにしてたから、足の筋肉もしっかりついたみたいや。さすがに走ったりとかは出来へんけど」

「そうか。……もう、平気なんだな」

 

 オレの悲願は達成された。はやての足は完治し、「コマンド」はその存在意義を全うしたと言っていいだろう。ここまで……本当に長い道のりだった。

 気を抜くと涙腺が緩みそうだ。だけどまだ完全には終わっていないし、ギャラリーが多すぎる。ここはぐっとこらえるところだ。

 

「トゥーナのことはミステールに任せるとして……「システムU-D」の件はどうなった?」

「ご安心を、お妃様。この通り、安定状態に持ち込むことが出来ました。暴走の心配はありません」

 

 医務室前の大集団に当たり前のように混ざっていたマテリアルズの二人。クロノの顔をしたシュテルが、抑揚のない声で淡々と告げる。

 「システムU-D」はディアーチェの後ろに隠れ、恥ずかしそうにこちらを見ていた。……彼の言う通り、非常に安定しているようだ。

 

「レヴィは?」

「退屈だから暴れてくると言って、トレーニングルームへ行きました。武装局員の方々がお相手をしてくれております」

「うちは託児所じゃないんだぞ、まったく……」

 

 シュテルのオリジナルであるクロノは、呆れたようにそう言った。オレ達の件からも分かっていたことだが、アースラスタッフはどうにも面倒見がいい傾向にあるようだ。

 ……あるいは、「システムU-D」戦・「ナハトヴァール」戦で見せた彼の活躍に、武装局員が触発されたと考えることも出来るか。そう考えておいた方が平和……平和か? まあ、なんでもいいか。

 

「ところで、その姿はどうにかならないのか、シュテル。自分と同じ顔がいるのは、正直落ち着かないんだが」

「躯体を変更すれば可能ですが……あまり気は進みませんね。あなたのデータは非常に優秀でした。今躯体を変更すると、私の戦闘力が著しく低下してしまいます」

「そういうことなら、無理にとは言わないが。……褒められているはずなのに喜べないって、妙に収まりが悪いもんだな」

 

 シュテルは姿を変える気がないようだ。事実、クロノの優秀さは証明されている。「参謀」たるシュテルが各方面に秀でたクロノをコピーするのは、非常に合理的ではあるのだ。

 レヴィについては……多分変える気はないんだろうな。あの筋肉を気に入っているようだし。戦闘の最中も徹頭徹尾楽しんでいた。今後のこととしては、無意味に戦闘を求めないでくれればいいが。

 そして、ディアーチェ……彼女も、はやての姿のままだ。だが彼女は、今の姿を気に入ってはいなかったはずなのだが。

 

「ディアーチェは、躯体を変えないのか?」

「我としては、そうしたいのも山々なんだが……」

「……ディアーチェ、姿、変えちゃうんですか……?」

「……というわけだ。こやつが納得するまでは、無理であろうな」

 

 そういうことなら仕方がない……のか? まあ、ディアーチェは何のかんの言いながら臣下の面倒見がいい奴だったな。制御下に置いた「システムU-D」を蔑ろには出来ないか。

 それにしても、「システムU-D」は随分とディアーチェに懐いているようだ。何をしたのか。

 

「……「エグザミア」を制御したことと、目覚めるまでそばにいたことで、王に気を許したようです。あとは、王が名を与えたことが最大の要因でしょう」

 

 シュテルがこっそりと耳打ちしてくる。名前……そういえば、いつまでも「システムU-D」では呼びにくくて仕方がないな。

 

「ユーリよ。いつまでも我の後ろに隠れておらず、挨拶をせぬか。この娘は、我が妃となる盟友であるぞ」

「誰がなるか。まだ諦めていなかったのか」

「当然であろう。我は王の中の王。手に入れると決めたからには、必ず手に入れてみせる。如何な障害があろうともだ」

 

 ため息が漏れる。大バカ色ボケ愚鈍無能王ではなくなったが、大バカ色ボケ愚鈍王ではあるようだ。本当に、どうしてこんな性格設定にした、開発者。

 「ユーリ」と呼ばれた彼女は、ディアーチェから半ば無理矢理前に押し出される。それによって彼女は、オレと正面から対面する形となった。

 彼女は……どうやら人見知りのようだ。あっという間に顔が真っ赤に染まり、しどろもどろになる。ここだけを見れば、とても「永久機関」であるなどとは思えない。

 

「……し、「システムU-D」駆動機関、ユーリ・エーベルヴァイン、です……」

 

 この名前は、戦闘の後にシュテルが思い出した一つの出来事がきっかけとなったそうだ。彼らが夜天の魔導書に沈められる、少し前の出来事だ。

 他の二人は覚えていなかったようだが、"理のマテリアル"であるシュテルのみが、かろうじて記憶にとどめていたその出来事。とある老人の言葉。

 

――ユーリを頼む。あの子を、どうか永劫の闇から解き放っておくれ。

 

 「エーベルヴァイン老」と呼ばれていたその人物の言葉を、彼は「システムU-D」のことを示していると推測した。

 「ユーリ・エーベルヴァイン」。それが、「システムU-D」――「砕け得ぬ闇」に与えられた名前だ。

 「紫天の書システム」は、永い時間をかけて、ようやく老人の言葉を成就することが出来たのだ。

 

「君には名乗っていなかったな。八幡ミコト、カタカナ三つでミコト。そこにいるはやての「相方」だ。あとは、このチームの「指揮官」を、何故か任されている」

「ど、どうもです……、……あ、あのっ」

 

 恥じらう彼女は、意を決してオレに自分の思うところを述べた。それだけのことでも、彼女には勇気が必要だったのだろう。

 

「ディアーチェ、取っちゃダメです!」

「こ、こらユーリ、何を言い出す!?」

「ああ……心配せずとも、オレはコレの伴侶になどなるつもりはない」

「ミコトォ!? 何故だ! 「砕け得ぬ闇」を制御したのに、何故我の好感度が上がっておらん!!?」

「それまでの行いが酷かったせいかと。自業自得ですね、大バカ色ボケ愚鈍王」

「ぬあああああ!?!?」

 

 今後はオレが相手をする必要もなかろう。ユーリが彼女のことを気に入ってくれている。だったら、彼女に任せればいいのだ。

 笑いが起こる。空気が弛緩している。オレ達が勝ち得た平穏が、今ここにある証だろう。

 

 医務室の扉が開かれる。中からトゥーナを先頭として、ミステールとシャマルも出て来る。修復作業が終わったのか。

 ヴォルケンリッター、それからはやてとフェイトとアルフが、トゥーナに駆け寄る。彼女は優しく微笑みながら、皆を迎えた。この光景のためにひた走ってきたのだから、オレとしても感無量だ。

 なのはは当たり前のように感涙し、のみならずガイまで号泣していた。……そういえば、「作品の世界線」でどういった結末を迎えるのか、詳しく聞いていなかった。彼の様子からして、これは「待望の結末」のようだ。

 まあ、いいさ。「あっち」がどうだろうが、この世界のトゥーナはこうして元気な姿を見せることが出来た。それだけで、いいのだ。

 ……が、それだけでは済まされないのだと、ミステールとシャマルの表情が物語る。

 

「良いニュースと悪いニュース、どちらから聞くことを望む?」

「まずは良いニュースを。覚悟を決める時間がほしい」

「分かった。……わらわが把握しておった全252か所の改竄点のうち、198か所を元の形に修復。残り54か所についても機能を失くすことによって、書への悪影響を排除することに成功。ほぼ完治、と言っていいじゃろう」

 

 "蒐集"の機能は元の"記録"へ、攻撃性を高めるためのインストールプログラムは完全停止。「ナハトヴァール」も消え、夜天の魔導書……いや、「闇の書」が秘めていた危険性は全て排除されたと言っていい。

 だが、「ほぼ」完治でしかない。やはり、書の一部を切り離した影響を無視することは出来なかった。

 

「夜天の魔導書の強力な自動修復機能が失われてしまった。ページ破損などの重大な障害を修復するには、外部からのメンテナンスが必要になる。以前のように破壊され尽くしても復活するなど、願うべくもない」

「最後の一点に関しては、元々システム……いや、ユーリの力によるものだろう。最初から考慮に入れていない。……だが、自動修復そのものが失われてしまったか」

 

 元々デバイスが持つ自動修復程度ならば残っているが、脱落したページを修復するほどの機能はなくなってしまったようだ。これはつまり、夜天の魔導書が機能停止する危険性が高まったことを示す。

 とはいえ、「注意すれば回避できる問題」ではある。今後は……今後も、トゥーナやはやてを危険にさらすような真似をしなければいいだけの話だ。そうそう起こり得ることでもない。

 次の問題は、もう少し厄介だ。

 

「守護騎士システムの保存機能に障害が発生しておる。現在稼働中の守護騎士が重大な損傷を受けて一旦姿を消してから再度生成された場合、記憶等がリセットされる可能性が高い」

「それは……少し、困るな。昔のシグナムとのあのやり取りをもう一度繰り返すのは、正直辛い」

 

 ああ、本当に辛い。それならいっそ、守護騎士の再起動はしたくないと思うほどに。

 オレの顔を見て、シャマルが悲しげに眉をひそめた。どうやら表情に出てしまっているようだ。

 ヴィータがオレに抱き着いてきて、言った。

 

「あたしは、それでいいと思う。はやてやミコトと過ごしてるあたしは、「今のあたし」だ。「次のあたし」がどうするかなんてのは、そいつが決めればいいんだ」

「ヴィータちゃん……、そうね。わたし達は、「今のわたし達」だもの。普通の人と同じになったって考えればいいのよ」

「……そうか。君達がそう言うなら、仕方ないな。だが、それなら大怪我などしてくれるなよ。刺々しかったころのシグナムに戻られたら、今更やりづらくてかなわない」

「そ、その件については触れないでください……」

 

 ザフィーラもまた、泰然として事実を受け入れている。……本当に強いな、オレ達の騎士は。

 ミステールは少し微笑んでから、表情を締めて「最後の問題点」を告げた。

 

「現状では……奥方が、「最後の夜天の主」ということになる。夜天の魔導書の「主選定」の機能が、完全に影も形もなくなってしまった」

「……それって、わたしがいなくなってしもうたら、トゥーナ達を扱える人が誰もおらんくなるってこと?」

「同時に、夜天の魔導書が機能を失うということでもあるか。……すぐに問題となることではないが……」

 

 いずれは必ず訪れることだ。オレ達人間は、長くても100年そこそこしか生きられない。トゥーナ達が存在してきた年月に比べれば、ごくごく短い期間だろう。

 それを過ぎれば、夜天の魔導書は起動不能に陥り停止する。二度と目覚めない眠りにつくことになる。……プレシアのときの出来事が、脳裏を駆けた。

 トゥーナは……やっぱり優しく微笑んでいた。ヴォルケンリッターと同じように、事実を受け入れている。

 

「私は……私達は、優しく強い主達のおそばにいられるだけで、幸せです。主達の生涯を、ともに歩ませていただけるならば……主達とともに逝かせてもらえるならば、私にとっては過分な幸福です」

「謙虚なものだな。だが、本当にそれでいいのか? 君達が「闇」に囚われていた年月を考えれば……」

「――時間ではないのですよ、我がもう一人の主」

 

 オレの言葉を途中で遮り、トゥーナは優しく告げる。オレの前まで歩み寄り、目線をオレに合わせ、抱き寄せられる。

 それは……オレがプレシアの件から引きずり続けていた疑問への、答えの一つだった。

 

「幸せは、時間に比例しない。たとえ私どもの生涯に比すればわずかな時間でしかなくとも……主達と過ごす日常は、黄金にも代えがたい価値がある。だから……十分なのですよ、我がもう一人の主」

「トゥーナ……」

 

 オレを納得させるための言葉ではない。本当に彼女は、それで十分だと、満足だと感じている。目線を合わせた瞳から、ダイレクトに感情が伝わるかのようだった。

 彼女の手を掴み、目を閉じる。心の奥底で、何かが解ける感じがした。

 

「……そうか」

「はい」

 

 彼女達の想いを受け止め、目を開ける。オレの心は決まった。

 トゥーナがオレの体を離し、立ち上がる。再びミステールと向き合った。

 

「全く、悪いニュースを運んでくれたものだ。「復元プロジェクトは終わっていない」ということなのだからな」

「……主?」

「これはオレの勝手な感傷からの行動だ。君達の覚悟がどうこうという話じゃない。「オレが納得するため」の行動だ」

 

 「最高の結果を目指す」。それが、オレが決めたことだったはずだ。だから今はまだ、「最高の結果の途中」でしかない。

 「最高の結果」と言うならば……やはり、夜天の魔導書が「完全復元」されて然るべきだろう。

 ミステールは、オレならばそう言うとでも思っていたのか、既に苦笑をしていた。

 

「次の目標は「欠落した機能の修復」だ。最優先は、守護騎士の保存機能の回復。ここからは無限書庫を使えない。頼んだぞ、ミステール」

「任されよ。もとよりこの身は「知の探究」を理念としておる。それが新たな知につながるならば、望むところじゃ」

「……まったく、君は諦めが悪いな。僕達はこれ以上付き合いきれないぞ。この件に関しては、こちらの目的は達成できたんだからな」

 

 呆れた調子のクロノ。何はともあれ、夜天の魔導書の危険性は排除されたのだ。彼らとの利害の一致は果たされた。ここから先は、彼らの協力を得られない。

 そんなことは最初から分かっている。だから「無限書庫を使えない」と言ったのだ。

 

「オレとミステールのライフワークのようなものだ。お前が気にする必要はない」

「やれやれ、面倒な趣味をお持ちのお嬢さんだ。ユーノに同情する」

「ちょ、クロノ!? 余計なことは言うなよ!?」

「む? なんだ、うぬは我の敵か? 敵なんだな? よかろう、相手になってやる! 身の程を知るがいい!」

「王、こんな場所で暴れるのはやめましょう。迷惑です」

 

 後ろから襟を締められ、ディアーチェは「ギュェ!?」と奇妙な悲鳴を上げた。

 そう……ただ、「最高の結果」を目指したいだけなのだ。皆が今の結果に納得し、オレ自身納得しようとも、目指すことを諦められない、ただそれだけ。

 だって、それが今日までオレを動かし続けた、最大の原動力なのだから。そう簡単に、諦められるかよ。

 

 そんな風に姦しく騒いでいると、空間モニターが投影され、エイミィの顔が大映しになった。

 

『クロノくーん、艦長が呼んでるよー。ミコトちゃんとはやてちゃんとトゥーナさんと、あと紫天の皆さんもだって。あれ? ユーノ君似の子は何処行ったの?』

「ああ、準備が出来たのか。レヴィはトレーニングルームだ。もうそろそろ帰って来てもいい頃だと思うが……」

「ただいまー! ここの兵隊さん、タフだねー! 楽しかったー!」

「兵隊じゃなくて武装局員だ。全員揃ったことだし、向かうとするよ。他の皆は、食堂辺りでくつろいでいてくれ。先に帰りたい人は、エイミィに言ってくれれば転送ポートを使えるから」

「はーい! 行ってらっしゃい、皆!」

 

 なのはに元気よく送り出され、オレ達はクロノの後をついて艦長室へと向かった。

 ……「リンディ茶」を出されなければいいが。心の中で、ひそかに戦慄した。

 

 

 

 

 

 アースラの艦長室は、相変わらずの「間違った和風」だった。とりあえず和のものを片っ端から詰め込んだような違和感。茶室をイメージしているつもりだろうが、茶室に盆栽棚はない。それは庭の方だ。

 そしてハラオウン提督、緑茶に砂糖を入れるな。緑茶はそうやって飲むものではない。苦味や渋み、そのなかにあるほのかな甘みを楽しむものだ。そのままで飲めないなら最初から飲むな。

 ……と、心の中で突っ込みを入れる。趣味趣向など個人のものだ。オレが口出しをすることではない。それがどれだけ滑稽であろうが、本人が納得しているならそれでいいのだろう。多分。

 

「うわっ、話には聞いとったけど、これは酷いわ……」

「あら、はやてさんはお砂糖いらない?」

「あはは、結構ですわ。ゲテモノ趣味はないんで」

 

 割とどストレートな意見を述べるはやて。ハラオウン提督は「おいしいのに……」と若干すねたご様子。

 まあこんなものは本題に入る前の、軽い会話のジャブだ。お互いに。

 

「まずは皆さま、「ナハトヴァール」の打倒、お疲れ様でした」

「うむ、苦しゅうない。ま、我が力を貸したのだから当然の結果だがな!」

 

 王様気質のディアーチェが意味もなく居丈高となる。事実として、彼女が「ナハトヴァール」を倒す大きな力とはなった。はやての砲撃制御、さらには合成魔法まで行使してくれた。

 だがそれはクロノ達の凍結封印、なのは達の砲撃、シグナム達の連携にレヴィの一撃があってのものだ。チームで戦ったからこその勝利と言えた。

 だからハラオウン提督は曖昧に笑うだけで、彼女の発言には特に触れなかった。

 

「まずは夜天の魔導書について。今回の件で夜天の魔導書の危険性は皆無となりました。遠からず、第一級捜索指定ロストロギアからは外れることになるでしょう」

「つまり、「危険物ではない」と認識されるということか。主の匿名性などは確保できているだろうな?」

「絶対、とは言い切れませんが、現状で知っているのは私達とグレアム提督達のみです。アースラスタッフは、さすがに勘付いているでしょうけど……」

 

 だろうな。それでも今のところ、アースラスタッフからシグナム達が排斥される様子はない。「明かせない理由」をちゃんと理解してくれているのだろう。さすがはハラオウン提督の目利きと言ったところか。

 大体、アースラに「アルカンシェル」を搭載したり、わざわざこの宙域で待機したりしているのだ。「ド級のロストロギアを相手にしています」と宣言しているようなものだろう。

 

「……正直、「アルカンシェル」を使わなくて済んでよかったわ。被害の面でもそうだけど、情報秘匿もやりにくくなってしまうところだったから」

「「アルカンシェル」はそれだけの超兵器ということか。使うだけで始末書決定といったところか?」

「それで済めばいい方ね。悪くて艦長の降格処分、最悪責任を取って辞職よ。そうなったら、あなた達をサポートできなくなってしまうでしょう」

 

 上手く言ったのだから失敗したときの話をしてもしょうがない。閑話休題。

 

「先ほどエイミィから報告を受けました。夜天の魔導書の危険性は除かれましたけど、完全修復には至らなかったそうですね」

「その通りだ。どこぞの大バカ色ボケ愚鈍王がやらかしてくれたおかげで、切り離すことになってしまった部分が悪さをしている」

「うっ!? そ、それは確かに我が悪かったが、何もそこまで言わずとも……」

「諦めるんだな。ミコトはこう見えて、結構しつこい」

 

 過去のやらかしで弄られ続けるクロノが、ディアーチェに若干の同情を示した。……真実を言えば、こいつがやらかさなければ上手く言ったかというと、必ずしもそうではないのだが。

 ユーリの力が弱まったときに「ナハトヴァール」が彼女を取り込んだことから分かる通り、条件次第では「ナハトヴァール」の力が上回ってしまうのだ。そして彼女は、あの時点では「ナハトヴァール」と繋がっていた。

 つまり、ユーリの制御に成功した直後に「ナハトヴァール」が彼女の力を取り込み、凶悪進化していた可能性もあるのだ。そうなっていたら……果たして勝てただろうか。

 とはいえ、やはり仮定の話だ。もっと上手く修復が完了していた可能性だってある。ディアーチェのアレは功績であり、やらかしでもあるのだ。

 さて、ハラオウン提督の言いたいことは理解出来た。

 

「我々の助力は、必要ですか?」

「いや、いい。別に差し迫った問題というわけでもないし、今後はミステールと二人でゆっくりやるさ」

「そうですか。……残念ね」

 

 苦笑。つまりは、助力を対価にオレ達の協力を取り付けようとしたのだ。具体的には、オレ達が管理局の傘下に入ることか。

 もっとも、ハラオウン提督としても「ダメで元々」だったようだ。今まで通り、彼女達の依頼を受ける関係性でも、別に問題はないのだ。

 

「あとは引き続き、主の身元につながる情報を断ち切ってくれれば、こちらから言うことは何もない。……信頼してるからな、リンディ提督」

「あら……うふふ。ミコトさんにそこまで言われてしまっては、頑張らないわけにはいかないわね」

 

 リンディ提督は柔らかく微笑む。お気に召したようで何よりだ。

 彼女は改めて、トゥーナと向き合う。ハラオウン家にとっては……夜天の魔導書自体が、「仇」なのだ。

 だがリンディ提督の顔に険はない。ただ、トゥーナの解放を喜んでいる笑みだ。

 

「……永い間、本当に苦労しましたね。今回のこと、心よりお慶び申し上げます」

「いえ……。あなたの御主人は、過去に私が暴走したために亡くなったと聞いた。罵詈雑言を浴びせられても受け入れるべきだと思っている」

「あなたのせいではありません。まして、防衛プログラムのせいでもない。……故人を悪く言うのも、しのびないですわ」

「……あなたは、本当に優しい人間なのだな。そして、強い。あなたに育てられた執務官殿が何故強いのか、少し分かった気がする」

 

 親を褒められ自分を褒められ、クロノは視線を外して頬をかいた。照れるな、キモい。

 これで本当に、オレ達に対する話は終了だ。次は、紫天の書組の処遇について。

 

「まさか今回の件で「紫天の書システム」や「システムU-D」まで解放されるとは考えていなかったため、あなた様方の身分証明等に関して、全く準備できていません。こちらの不手際をお許しください」

「よい。我も、まさかこうも簡単に外に出られるとは思っていなかった。うぬが予想出来ずとも仕方あるまい。面を上げよ」

 

 相変わらずの居丈高なしゃべり方に、同じ顔のはやてが不快そうな顔をする。無理もない。

 リンディ提督は丁寧な対応を続ける。

 

「それで私どもとしては、しばらくの間あなた様方をアースラの賓客として迎え、然る準備が出来た後にミッドチルダにおいでいただきたいと考えております」

「ふむ。我を讃えるその姿勢は褒めるが、ミッドチルダ……うぬらが住む世界か。我らがそこへ行く理由とは何だ?」

「私どもの住む「管理世界」は、現在「時空管理局」という組織が運営・保守・管理を行っております。私どもも、この組織の一員です。ミッドチルダは管理世界の中心に位置し、時空管理局の地上本部が存在します」

「つまり、首都であり王城が存在するということか。うぬは我に城を献上しようというのか?」

「いえ……私にそこまで権限はありません。私があなた様方にお願いしたいのは、管理世界での身分証明の対価として、時空管理局の活動にご協力いただくことです」

 

 「ふむ」とディアーチェは顎に手をやり考える。本当に考えているのかは分からない。はやてと同じ顔ではあるが、中身は大バカ色ボケ愚鈍王だからな。

 

「シュテル、どう考える」

「この時代のことがまだ分からないので、難しいところです。しかしそれを含めて、この提案を受けるのはありだと考えます」

「ほう、その心は?」

「「砕け得ぬ闇」を手中に収めた今、我々には次の行動目的が存在しません。それを決めるにも、あまりに世界のことを知らなさ過ぎる。ですから、世界を運営する組織に所属し、情報を得る必要があります」

 

 さすがは参謀、ちゃんと考えている。彼らからすれば、身分証明を得て自由に動き回るためには、管理局という組織は都合がいいのだ。

 管理局自体は規則だらけで身動きがとりづらいが、管理世界における身分証明手段としては最高に手堅いものだ。実態がプログラムであり身分を立証しづらい彼らにとって、それだけで所属するに足り得るだろう。

 

「だが、それは人の下につくということだろう。我は王だ。人を下につけることはあっても、人の下につくことなどあってはならん」

 

 ここでディアーチェの特性「王気質」が発動。単にマテリアルの王という役割を与えられているだけであって、王そのものではないのだから、気にするほどのことでもないと思うのだが。

 シュテルも意見を述べただけで、最終決定はディアーチェに任せるつもりのようだ。なお、レヴィは早々に話から脱落してお茶と格闘している。

 

「そうですか……。あなた様方のお力添えがあれば、ますます管理世界の平和を確固としたものに出来ると思ったのですが」

「ふん。うぬには悪いと思うが、我はそのようなものに興味はない。我が求めるは何物にも縛られぬ自由、そして未来の我が妃・ミコトのみよ」

「だからならんと言っている。あなたが本来は男性でも女性でもないことは知っているが、そういう問題ですらない。せめて性格設定をどうにかしてこい」

 

 彼女の性格がもうちょっとマシなら少しぐらい考えたかもしれないが、それでも人とプログラムだ。他がどうかは知らないが、オレにそういう趣味はない。

 にべもなくディアーチェを切り捨てると、今度は何故かはやてがドヤる。同性愛の趣味もないからな。

 残念ながらリンディ提督のラブコールは、どちらも切り捨てられたようだ。「残念です」と頭を下げる。

 ……ここで、一石が投じられた。ユーリ・エーベルヴァイン。

 

「私は……やって、みたいです」

「ユーリ? 何を言っている。我はやらぬと言ったぞ」

「でもっ……やってみたい、んです。私の、力が……破壊することしか出来なかった、私の力が、誰かのためになるなら……破壊だけじゃないって、言ってくれるなら……」

「ユーリ……」

 

 それは彼女の切なる願いだった。破壊の因果から解放され、成すべきことのなくなった彼女が、初めて見つけた「やりたいこと」。

 それが自分以外の誰かのために力を使うことだというのは、少しどうかと思うが……彼女の場合はそれぐらいでちょうどいいのかもしれない。

 今まで話に全く参加していなかったレヴィが便乗する。

 

「いーじゃん王様、やろうよ! この船の兵隊さん、僕と遊んでくれたし、結構好きだよ!」

「だから武装局員だ。管理局は軍隊じゃないんだよ……」

 

 彼については「暴れられれば何でもいい」んだろう。……マテリアルズを管理局に迎えるのは構わないが、コントロールは大変だと思うぞ。知ったことではないが。

 

「王、どうしますか。ちなみに私の意見は、先ほど申した通りです」

「……むぅ。臣下を大切にするのも王の定めだからな……、仕方あるまい」

「では……」

「だ、が! 我は人の下にはつかん。故に人の指示で動くこともない。管理局とやらに所属しようと、それは変わらん。例外は我が盟友たるミコトぐらいだと思え」

「分かりました。あなた様の寛大なご判断に、感謝致します」

 

 そのぐらいなら何とか出来るということだろうか。とにかくディアーチェは、マテリアルズとユーリが管理局に籍を置くことに決定した。

 ユーリは控えめに喜び、レヴィは分かっているのかいないのか、「ひゃっほう!」と騒いだ。

 ディアーチェがオレの方を向き、不敵に笑う。何だ?

 

「というわけで、今後は同僚となるわけだな。貴公の我に対する好感度をガンガン上げていくつもりだから、覚悟しておくのだぞ」

 

 ……? ……、ああ。

 

「勘違いしているところ悪いが、オレは別に管理局には所属していないぞ。どころか、管理世界に住んでいるわけでもない」

「………………は?」

 

 ディアーチェが呆ける。渋っていた割にはやけにあっさり決めたと思ったら、そういうことだったか。「オレと一緒に仕事が出来る」と思っていたようだ。

 そんな上手い話があるわけないだろう、阿呆め。

 

「先ほどのリンディ提督の「助力は必要か」という発言を聞いていなかったのか? あの時点で、オレと彼女達が別の勢力圏であることは明白だろう。違うか、シュテル」

「その通りです。まさか王がこんな簡単な事実に気付いていないとは、驚愕です」

「!?!? しゅ、シュテル貴様ぁ!? 分かってたなら言わんか、バカ者! ええい、やめだやめだ! この話はなかったことに……」

「ディアーチェ……ダメ、ですか……?」

 

 ユーリの泣き落とし(素)。ディアーチェに対するこうかはばつぐんだ。ディアーチェはたおれた(陥落した)。

 

「う・ぐ・ぐ……、……休暇は、好きなときに取らせてもらうぞ。我にはミコトの好感度を上げるという大事な使命があるのだからな!」

「お安い御用です。改めて王の寛大さに感謝の念を述べさせていただきます」

 

 そう言いながらリンディ提督は頭を下げ……その途中でチラリとオレの方を見て微笑んだ。目は語る。「こういう交渉のやり方もあるのよ」と。

 ……恐ろしい人だ。オレも、少しでも弱みを見せていたらこうなっていたのだろう。過去の自身の対応に、心底安堵を覚えるオレであった。

 

 こうして、紫天の書チームは一時アースラ預かりの身となった。書類の準備ができ次第、管理世界に住民登録されるそうだ。

 今後彼女達が管理局員として活動するなら、オレ達が受ける依頼とブッキングすることもあるだろう。彼女の求愛を受けるつもりはないが、アタックしたければそのときに勝手にすればいいのだ。

 まあ、大勢には関係のない些末事だ。オレにとって大事なのは……家族や友達と過ごす、オレ達の世界での日常なのだから。

 

 その後、オレは一旦食堂へ行き、待っていた皆と合流した。結局誰も帰らずに待っていたようだ。

 オレ達はアースラ組に別れを告げ、第97管理外世界・地球の日本国内、某県海鳴市へと帰ったのだった。

 

 

 

 

 

 家に帰りつく頃には既に5時を回っており、暗くなり始めていた。暑い砂漠から空調の効いたアースラ、冬の海鳴とジャンプしてきたもんだから、ちょっと気温差が辛い。

 

「みんな、おかえりなさい!」

「お疲れ様でした。晩御飯、用意出来てますよ」

 

 留守番をしていたアリシアとブランが出迎えてくれる。今日一日、オレ達を心配しながらも家を守ってくれた大事な家族達。

 何となく抱きしめたくなって、二人をギュッと抱きしめる。二人ともびっくりしていた。だけど、嬉しそうだった。

 家の中に入ると、いつの間にか姿が見えなくなっていたアリアとロッテ、さらにはギルおじさんまで待っていた。飾り付けをし、パーティの準備をしていたようだ。

 仕事を放置して何をしているのかと呆れる反面、オレ達全員を本当に大事にしてくれていることが伝わってきて、嬉しかった。……本当に、嬉しい。

 

「さあさあトゥーナ君、ここに座りなさい。今日の主役は君なのだからね」

「え、あ、はあ……。あの、本当にいいのですか?」

「当たり前でしょ、めでたい日なんだから。今日は主だとか従者だとか、固いことは言いっこなし」

「素直に喜んでくれた方がこっちも嬉しいのよ。はい、笑って笑って!」

 

 かつては憎み復讐を誓った魔導書に対して、笑顔で祝福を述べるギルおじさん達。オレ達は、ここまで成し遂げることが出来たのだ。

 だから、トゥーナが困惑しながらも受け入れて、はにかみながら笑い、そして皆が笑顔でいられるこの時間が、本当に嬉しくて。

 

 

 

『トゥーナ・トゥーリ、お誕生日おめでとう!』

 

 この日、夜天の魔導書"トゥーナ・トゥーリ"は、改めて生まれたのだ。




事後処理と日常への繋ぎの話。これにて、「闇の書事件」は完了です。お疲れ様でした。
実際のところ「事件」ではないんですよね。最初期にミコトが「復元プロジェクト」を立ち上げたおかげで、事件は一切発生せず、こうしてプロジェクトは一先ずの完了を迎えることが出来ました。
しかし完全復元は出来なかったので、今後も復元のための努力自体は続きます。とはいえ、今までと比べればずっとスローペースなものになるでしょう。もう誰かが傷付くことはないのだから。

はやてが歩けるようになっていることが割とさらっと流されていますが、そもそも足が動くようになり始めたのは銭湯で電気風呂に入ったときのことです。
そのときからリハビリを始め、彼女自身の魔法習得などの努力もあり、松葉杖なら問題なく、なしでも数分程度なら歩けるようになっていました。
なので、今回歩けたのは夜天の魔導書復元の象徴というよりは、彼女の努力の集大成でしょう。

紫天一家はアースラ預かりから管理局入局です。ある意味ミコト達のスケープゴート(ほんとひで) まあ、彼らに関してはそれ以外の道があんまりないんですけどね。
何せ原作ゲームの方で彼女らを連れて行くはずのフローリアン姉妹なんて影も形もないし、かと言って地球で受け入れるのも難しいでしょう。八神家パンク寸前ですし。
まあ、なんだかんだで逞しい四人ですし、何処でも生きていけるでしょ(無責任)
なお、ミコトが寝てる間に紫天組は召喚体についての説明は受けました。隠すだけ無駄と判断したようです。ミコトの側も、ソワレやミステールに疑問を持っていないことから、「ああ話したんだな」程度で認識しています。描写する機会がなかったのでここで補足しておきます。

残すところはエピローグのみ。1話で終わるかな……。

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